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離島編
第七話 鳥居に囲まれた女性
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静寂に包まれているこの島の中心はまるで何かに囲まれているように感じているのですけど、鳥居がある以外は何も無く忍さんが動かなければ何も音が聞こえないのでした。
空を見上げると、いくつかの雲が風に流されてゆっくりと動いているのがわかるので全くの無風というわけではないと思うのですが、私には風の音も聞こえないし忍さんを見ても風が当たっているという様子は見られませんでした。
「何か変わったモノでもあったのかな?」
真白先生が急に話しかけてきたので驚いたのですが、普段であれば真白先生が近付いてきた事がわかるので不思議な感覚でした。近付いてきたことがわかるというよりも、私と真白先生は何か見えない力で繋がっているんです。それが今は感じられなくなったというのが正確なんでしょうか。
それに、私と真白先生は同じ空間にいないといけないという制約があるのでこの島の中心が隔離されている世界ではないという事は確かなのですが、話しかけられるまで真白先生の存在を感じることが出来なかったという事はここが普通の場所ではないという証拠になっているのだと思います。
「今までの鳥居と比べて随分と小さい鳥居だけど、これって何か意味がありそうだよね。大きさもそうだけど、何かを守るように並んでいるように見えるんだよね」
「僕もそう思ったんですけど、何も無いんですよね。この鳥居もくぐって大丈夫ですかね?」
そう言いながら忍さんはしゃがみこんで鳥居を覗き込んでいたのですが、急に体勢を崩して後ろ向きに転んでしまいました。何かに怯えているというような感じではなかったので体勢を崩しただけなのかなとも思いましたが、真白先生が近付いて同じように鳥居の中を覗き込んでも何も無かったのか首をかしげているだけでした。
「み、見ましたよね?」
「何か見えたの?」
「え、鵜崎先生には見えてないんですか?」
「見えてるのは空と海だけだと思うけど」
「いやいや、鳥居の中に女の人がいるじゃないですか。こっちを見て笑ってますよね」
「女の人なんて見えないけど。もしかして、忍さんにだけ見えてるのかな?」
真白先生は私に向かって鳥居を覗き込むように目配せをしてきたのでそれに従ったのですが、確かに鳥居の奥には青っぽい服を着た女性が立っているのです。女性は真白先生の方を向いているので表情まではわかりませんが、鳥居の大きさと比べても普通の人ではないという事だけはわかります。
『鳥居の中に誰かいますよ。真白先生の方を向いているのでどんな人かはわかりませんが、青っぽい服を着ている女性だと思います』
「忍さんが見えているのって、青っぽい服を着た女性なのかな?」
「そうだと、思います。見てて大丈夫ですかね?」
『大丈夫だと思いますよ。何かしてくる感じとかないですし、悪意も感じないですから』
一瞬だけこっちを見た女性の表情はどこか寂し気で私に何かを訴えかけてきているようでもあった。ほんの一瞬だけこちらを見ていたのだけれど、その後は真白先生の方をじっと見ているので私からは表情をこれ以上確認することも出来なかった。
「女性の他には誰もいないって事でいいのかな?」
『女性だけですね。他には誰もいないと思います』
「いないです。女の人だけです。でも、手招きしてるんですけど、行って大丈夫ですかね?」
「どうだろう。大丈夫かどうかの確信がとれないんで慎重に行動した方が良いと思うんだ。ヒナミはどう思う?」
正直に言うと、私は判断することが出来なかった。あの女性からは全く悪意のようなものを感じることも無かったので安心な気もしているのだけれど、あの鳥居がそう言ったモノを押さえているだけのようにも感じていたのだ。
『私にはわかりません。悪意みたいなものは感じないので大丈夫なような気もするんですけど、あの鳥居に囲まれている場所は良くない力を抑えているようにも見えるんです。あんまり近付かない方が良いような気もしてます』
「そうか。忍さんは女性から悪意とか敵対心といったものは感じてるかな?」
「わからないです。うまく言葉に出来ないですけど、悪い人ではないような気はしてます。ちょっとだけ近付いてみてもいいんじゃないかなって思います」
忍さんは四つん這いになって鳥居に近付いていった。そのまま恐る恐る鳥居をくぐると、あの中にいる女性と何かを話しているようだった。何を話しているのだろうと思って近付いてみたのだけれど、不思議なことに二人の会話は全く聞こえてこなかった。何かを話しているという事は確かなのだが、私にはその会話を聞くことが出来なかったのだった。
「真白先生って、幽霊は見えないけど幽霊を見えるようにすることが出来るって本当ですか?」
青い女性と話を終えた忍さんが言った言葉は何度も聞いた事のある言葉であった。その言葉を聞いた後は必ず私は見たくない光景を目の当たりにすることになるのだけれど、今回は男の子同士なんで大丈夫でしょう。
「僕も見えるようになりたいんですけど、いいですか?」
「良いですかって言われてもね。そう言うことを言われても困っちゃうな」
そうですよね。そんな事言われても困るだけですよ。それに、真白先生だってそう言うつもりじゃないと思いますからね。
「やっぱり駄目ですか。僕は男の子っぽいから魅力ないですもんね。やっぱり、鵜崎先生は女の子っぽい可愛らしい感じの方が好きだったりしますか?」
「そう言うわけじゃないけど、忍さんはまだ子供だからさ。さすがに未成年の子にはちょっと、……ね」
ん、男の子っぽいって、忍さんは男の子じゃないって事ですか?
「僕は子供じゃないですよ。ちゃんと学校も卒業してますし、じいちゃんの手伝いだってしてるんで大人だと思います。だから、幽霊を見えるようにしてもらいたいんですよ」
「そう言われてもね。良くないと思うんだ」
「そんな事言わないでくださいよ。ねえ、ダメですか?」
あれ、あの上目遣いでお願いする感じは男の子っぽくないですよ。いや、それ以前に未成年の子供にあんな事しちゃダメですよね。
最初はなんでこんな遠い島にやってきたのかわかりませんでした。真白先生はちょっとした旅行も兼ねての仕事だって言ってたんですけど、もしかしたら真白先生の目当てって忍さんだったりしないですよね。
資料と一緒に添えられていた写真を見ている時に真白先生の手が一瞬止まったように感じてたんですけど、一目惚れってやつではないですよね。
忍さんが女の子だったという事実は抜きにして、どう見ても忍さんは真白先生の妹の紗雪さんと同じくらいの年齢に見えますよ。それって、絶対に手を出しちゃダメだと思うんですけど、思いとどまってください。
『ダメですよ。真白先生。ちゃんと相手の事を考えてください。忍さんはダメですって』
私の声が真白先生の届いたかどうかはわかりませんが、忍さんは真白先生に抱き着いたまま顔を見上げているのでした。
空を見上げると、いくつかの雲が風に流されてゆっくりと動いているのがわかるので全くの無風というわけではないと思うのですが、私には風の音も聞こえないし忍さんを見ても風が当たっているという様子は見られませんでした。
「何か変わったモノでもあったのかな?」
真白先生が急に話しかけてきたので驚いたのですが、普段であれば真白先生が近付いてきた事がわかるので不思議な感覚でした。近付いてきたことがわかるというよりも、私と真白先生は何か見えない力で繋がっているんです。それが今は感じられなくなったというのが正確なんでしょうか。
それに、私と真白先生は同じ空間にいないといけないという制約があるのでこの島の中心が隔離されている世界ではないという事は確かなのですが、話しかけられるまで真白先生の存在を感じることが出来なかったという事はここが普通の場所ではないという証拠になっているのだと思います。
「今までの鳥居と比べて随分と小さい鳥居だけど、これって何か意味がありそうだよね。大きさもそうだけど、何かを守るように並んでいるように見えるんだよね」
「僕もそう思ったんですけど、何も無いんですよね。この鳥居もくぐって大丈夫ですかね?」
そう言いながら忍さんはしゃがみこんで鳥居を覗き込んでいたのですが、急に体勢を崩して後ろ向きに転んでしまいました。何かに怯えているというような感じではなかったので体勢を崩しただけなのかなとも思いましたが、真白先生が近付いて同じように鳥居の中を覗き込んでも何も無かったのか首をかしげているだけでした。
「み、見ましたよね?」
「何か見えたの?」
「え、鵜崎先生には見えてないんですか?」
「見えてるのは空と海だけだと思うけど」
「いやいや、鳥居の中に女の人がいるじゃないですか。こっちを見て笑ってますよね」
「女の人なんて見えないけど。もしかして、忍さんにだけ見えてるのかな?」
真白先生は私に向かって鳥居を覗き込むように目配せをしてきたのでそれに従ったのですが、確かに鳥居の奥には青っぽい服を着た女性が立っているのです。女性は真白先生の方を向いているので表情まではわかりませんが、鳥居の大きさと比べても普通の人ではないという事だけはわかります。
『鳥居の中に誰かいますよ。真白先生の方を向いているのでどんな人かはわかりませんが、青っぽい服を着ている女性だと思います』
「忍さんが見えているのって、青っぽい服を着た女性なのかな?」
「そうだと、思います。見てて大丈夫ですかね?」
『大丈夫だと思いますよ。何かしてくる感じとかないですし、悪意も感じないですから』
一瞬だけこっちを見た女性の表情はどこか寂し気で私に何かを訴えかけてきているようでもあった。ほんの一瞬だけこちらを見ていたのだけれど、その後は真白先生の方をじっと見ているので私からは表情をこれ以上確認することも出来なかった。
「女性の他には誰もいないって事でいいのかな?」
『女性だけですね。他には誰もいないと思います』
「いないです。女の人だけです。でも、手招きしてるんですけど、行って大丈夫ですかね?」
「どうだろう。大丈夫かどうかの確信がとれないんで慎重に行動した方が良いと思うんだ。ヒナミはどう思う?」
正直に言うと、私は判断することが出来なかった。あの女性からは全く悪意のようなものを感じることも無かったので安心な気もしているのだけれど、あの鳥居がそう言ったモノを押さえているだけのようにも感じていたのだ。
『私にはわかりません。悪意みたいなものは感じないので大丈夫なような気もするんですけど、あの鳥居に囲まれている場所は良くない力を抑えているようにも見えるんです。あんまり近付かない方が良いような気もしてます』
「そうか。忍さんは女性から悪意とか敵対心といったものは感じてるかな?」
「わからないです。うまく言葉に出来ないですけど、悪い人ではないような気はしてます。ちょっとだけ近付いてみてもいいんじゃないかなって思います」
忍さんは四つん這いになって鳥居に近付いていった。そのまま恐る恐る鳥居をくぐると、あの中にいる女性と何かを話しているようだった。何を話しているのだろうと思って近付いてみたのだけれど、不思議なことに二人の会話は全く聞こえてこなかった。何かを話しているという事は確かなのだが、私にはその会話を聞くことが出来なかったのだった。
「真白先生って、幽霊は見えないけど幽霊を見えるようにすることが出来るって本当ですか?」
青い女性と話を終えた忍さんが言った言葉は何度も聞いた事のある言葉であった。その言葉を聞いた後は必ず私は見たくない光景を目の当たりにすることになるのだけれど、今回は男の子同士なんで大丈夫でしょう。
「僕も見えるようになりたいんですけど、いいですか?」
「良いですかって言われてもね。そう言うことを言われても困っちゃうな」
そうですよね。そんな事言われても困るだけですよ。それに、真白先生だってそう言うつもりじゃないと思いますからね。
「やっぱり駄目ですか。僕は男の子っぽいから魅力ないですもんね。やっぱり、鵜崎先生は女の子っぽい可愛らしい感じの方が好きだったりしますか?」
「そう言うわけじゃないけど、忍さんはまだ子供だからさ。さすがに未成年の子にはちょっと、……ね」
ん、男の子っぽいって、忍さんは男の子じゃないって事ですか?
「僕は子供じゃないですよ。ちゃんと学校も卒業してますし、じいちゃんの手伝いだってしてるんで大人だと思います。だから、幽霊を見えるようにしてもらいたいんですよ」
「そう言われてもね。良くないと思うんだ」
「そんな事言わないでくださいよ。ねえ、ダメですか?」
あれ、あの上目遣いでお願いする感じは男の子っぽくないですよ。いや、それ以前に未成年の子供にあんな事しちゃダメですよね。
最初はなんでこんな遠い島にやってきたのかわかりませんでした。真白先生はちょっとした旅行も兼ねての仕事だって言ってたんですけど、もしかしたら真白先生の目当てって忍さんだったりしないですよね。
資料と一緒に添えられていた写真を見ている時に真白先生の手が一瞬止まったように感じてたんですけど、一目惚れってやつではないですよね。
忍さんが女の子だったという事実は抜きにして、どう見ても忍さんは真白先生の妹の紗雪さんと同じくらいの年齢に見えますよ。それって、絶対に手を出しちゃダメだと思うんですけど、思いとどまってください。
『ダメですよ。真白先生。ちゃんと相手の事を考えてください。忍さんはダメですって』
私の声が真白先生の届いたかどうかはわかりませんが、忍さんは真白先生に抱き着いたまま顔を見上げているのでした。
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