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離島編
第五話 真白先生にだけ聞こえる声
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真白先生と忍さんは用意されたボートに乗って鳥島へと向かうことになっていた。漁船が近付けるギリギリまで手漕ぎボートを牽引してもらってはいるのだけれど、船着き場まではまだまだ距離があるように見える。
「鵜崎先生はボートの漕ぎ方とかわからないって言ってたから僕が漕ぎますけど、次に来る時は鵜崎先生が漕いでくださいね。僕はあんまり上手にオールを動かせないんで時間かかっちゃうと思いますし」
「近くまで行けばロープを伝ってボートも寄せられると聞いてるからそこまでは頑張ってよ。ほら、伝八さんも島の人達も応援しているよ」
漁船には心配そうに見守っている伝八さんの他にも何人かの島民の方がいた。初めて島に来た時には誰もいない廃墟の島なのかとも思っていたけれど、こうしてみるとそれなりに人は住んでいるようです。漁船には伝八さんを含めて三人が乗っているんですけど、伝八さん以外の二人は私たちの事を見守りつつも釣竿を伸ばしているので釣りが目的で漁船に乗ってきたのかもしれないですよ。
そんな事は少しも気にしない真白先生と忍さんですが、ボートが鳥島の桟橋に近付くと真白先生は先端にフックのついた物干しざおを使って海底に沈んでいるロープを手繰り寄せていました。桟橋に繋がっているロープを真白先生が引っ張っている間に忍さんもボートを加速させていくのですが、タイミングがばっちりだったのかあっという間にボートは桟橋に寄っていったのです。サメなんかはボートに近付いてくる気配も無かったんですけど、少し深いところからサメが私たちの様子をうかがっているのはずっと見えていたんです。その事は誰にも言わなかったですけど、結構な時間サメと目が合っていたんだと思います。
忍さんはボートが流されないように桟橋に出ている杭に固定しているのですが、その固定方法が甘かったのか伝八さんから大きな声でダメ出しをされていました。その声の大きさに釣りをしていた二人も驚いていたようですけど、それ以上に忍さんが驚いていたようです。私もちょっと驚きはしたんですけど、真白先生はそんな事に関心が無いのかさっさと鳥居に向かって歩いて行ってしまいました。
この小さな島にいったい何基の鳥居があるのか数えないとわからないのですが、真白先生は無数にある鳥居の中に目当ての鳥居があるかの如くすたすたと先へと進んでいってしまいました。いつもなら私に話しかけてくれるような場面だと思うのですが、今日に限っては黙々と鳥居の間を潜り抜けていっているだけなのでした。
「鵜崎先生。ちょっと待ってくださいよ。そんなに急いでどうしたんですか?」
ボートが流されないようにしっかりと固定している間に真白先生が歩いて行ったので忍さんは慌てて追いかけてきているのですが、ちょっとした上り坂になっているためなのかその動きに精彩さはありませんでした。
「何か気になるものでもあるんですか。そんなに急いでいっても何も無くなったりなんてしないですって」
「ごめんごめん。そういう意味じゃなくてさ、この島が近付いてきた時から話し声が聞こえていたんだよね。忍さんにもヒナミにもその声は聞こえていなかったようなんだけど、俺にだけ聞こえるってのもおかしいなって思ったんだよね。それでさ、その声ってこの島にある鳥居のところから聞こえてきたんじゃないかなって思ったんだ」
「その声って、やっぱり女の人でした?」
「いや、男性でも女性でもないよ。合成した音声みたいな感じかな。人の声とも違う機械的な声だったよ」
『私にも聞こえない声が真白先生にだけ届いてたって事ですよね。それって、幽霊じゃない声の可能性もあるって事ですか?』
真白先生は私の事をじっと見たかと思うと、静かに目を閉じて首を二回ほど左右に振っていた。忍さんは私の声も聞こえないし姿も見えないので混乱させないようにそうしたんだと思うけど、真白先生がそのリアクションを取った時に忍さんも私と同じような事を聞いていたのだ。
「人間の声ではないと思うけど、幽霊の声とも違うような気がするんだよな。前に聞いた事のある神様の声ってのとも違うし、本当に合成した機械音声みたいな感じだったよ。でも、よく聞く合成音声とも違う感じがしたんだけどね。何となくこの地方の訛りが入っているような感じだったんだけど」
「その声って、僕の事を呼んでたりしますか?」
「いや、忍さんを呼ぶって感じじゃなくて僕やヒナミを呼んでいるような感じだったかも。よそ者に頼みがある。よそ者に頼みがある。みたいなことと俺には意味の分からない言葉の繰り返しだったからね」
「そうですか。でも、僕の母さんもばあちゃんも島の外の人の事をよそ者なんて言い方はしてないですよ。じいちゃんも他の人もよそ者なんて言うことは無いですし。亀島に人が住むようになったのだって昭和になってからって聞いてますからね。意外とあの島って歴史も浅いんですよ」
「そんなに最近だとしたら、鳥居がたくさんあるのも何かしらの意味があるって事なのかな?」
「さあ、それは誰もわからないみたいです。じいちゃんも他の人もみんな鳥居がなんでこんなにたくさんあるのか知らないって言ってました。亀島に移住してきたときにはすでに鳥島にたくさんの鳥居があったみたいです。そもそも、これだけの鳥居を作れるだけの資源も重機も亀島にはないですからね」
『この鳥居ってそんなに昔からあったって事なんですね。でも、一体誰が何のためにこんなにたくさんの鳥居を作ったんでしょうね。作っただけでも凄いと思いますけど、こんなに綺麗に建てるのも難しそうですよね』
私の疑問は真白先生も同じように思っていたようで忍さんにその事を尋ねていたけれど、忍さんがその質問に答えられるはずも無かった。忍さんが教えてくれたことが本当だとしたら、亀島に戻って話を聞いたとしても私達が欲しい答えなんて返ってくることも無いだろう。でも、何かしらの意見は聞きたいと思っていたのだった。
「鵜崎先生はボートの漕ぎ方とかわからないって言ってたから僕が漕ぎますけど、次に来る時は鵜崎先生が漕いでくださいね。僕はあんまり上手にオールを動かせないんで時間かかっちゃうと思いますし」
「近くまで行けばロープを伝ってボートも寄せられると聞いてるからそこまでは頑張ってよ。ほら、伝八さんも島の人達も応援しているよ」
漁船には心配そうに見守っている伝八さんの他にも何人かの島民の方がいた。初めて島に来た時には誰もいない廃墟の島なのかとも思っていたけれど、こうしてみるとそれなりに人は住んでいるようです。漁船には伝八さんを含めて三人が乗っているんですけど、伝八さん以外の二人は私たちの事を見守りつつも釣竿を伸ばしているので釣りが目的で漁船に乗ってきたのかもしれないですよ。
そんな事は少しも気にしない真白先生と忍さんですが、ボートが鳥島の桟橋に近付くと真白先生は先端にフックのついた物干しざおを使って海底に沈んでいるロープを手繰り寄せていました。桟橋に繋がっているロープを真白先生が引っ張っている間に忍さんもボートを加速させていくのですが、タイミングがばっちりだったのかあっという間にボートは桟橋に寄っていったのです。サメなんかはボートに近付いてくる気配も無かったんですけど、少し深いところからサメが私たちの様子をうかがっているのはずっと見えていたんです。その事は誰にも言わなかったですけど、結構な時間サメと目が合っていたんだと思います。
忍さんはボートが流されないように桟橋に出ている杭に固定しているのですが、その固定方法が甘かったのか伝八さんから大きな声でダメ出しをされていました。その声の大きさに釣りをしていた二人も驚いていたようですけど、それ以上に忍さんが驚いていたようです。私もちょっと驚きはしたんですけど、真白先生はそんな事に関心が無いのかさっさと鳥居に向かって歩いて行ってしまいました。
この小さな島にいったい何基の鳥居があるのか数えないとわからないのですが、真白先生は無数にある鳥居の中に目当ての鳥居があるかの如くすたすたと先へと進んでいってしまいました。いつもなら私に話しかけてくれるような場面だと思うのですが、今日に限っては黙々と鳥居の間を潜り抜けていっているだけなのでした。
「鵜崎先生。ちょっと待ってくださいよ。そんなに急いでどうしたんですか?」
ボートが流されないようにしっかりと固定している間に真白先生が歩いて行ったので忍さんは慌てて追いかけてきているのですが、ちょっとした上り坂になっているためなのかその動きに精彩さはありませんでした。
「何か気になるものでもあるんですか。そんなに急いでいっても何も無くなったりなんてしないですって」
「ごめんごめん。そういう意味じゃなくてさ、この島が近付いてきた時から話し声が聞こえていたんだよね。忍さんにもヒナミにもその声は聞こえていなかったようなんだけど、俺にだけ聞こえるってのもおかしいなって思ったんだよね。それでさ、その声ってこの島にある鳥居のところから聞こえてきたんじゃないかなって思ったんだ」
「その声って、やっぱり女の人でした?」
「いや、男性でも女性でもないよ。合成した音声みたいな感じかな。人の声とも違う機械的な声だったよ」
『私にも聞こえない声が真白先生にだけ届いてたって事ですよね。それって、幽霊じゃない声の可能性もあるって事ですか?』
真白先生は私の事をじっと見たかと思うと、静かに目を閉じて首を二回ほど左右に振っていた。忍さんは私の声も聞こえないし姿も見えないので混乱させないようにそうしたんだと思うけど、真白先生がそのリアクションを取った時に忍さんも私と同じような事を聞いていたのだ。
「人間の声ではないと思うけど、幽霊の声とも違うような気がするんだよな。前に聞いた事のある神様の声ってのとも違うし、本当に合成した機械音声みたいな感じだったよ。でも、よく聞く合成音声とも違う感じがしたんだけどね。何となくこの地方の訛りが入っているような感じだったんだけど」
「その声って、僕の事を呼んでたりしますか?」
「いや、忍さんを呼ぶって感じじゃなくて僕やヒナミを呼んでいるような感じだったかも。よそ者に頼みがある。よそ者に頼みがある。みたいなことと俺には意味の分からない言葉の繰り返しだったからね」
「そうですか。でも、僕の母さんもばあちゃんも島の外の人の事をよそ者なんて言い方はしてないですよ。じいちゃんも他の人もよそ者なんて言うことは無いですし。亀島に人が住むようになったのだって昭和になってからって聞いてますからね。意外とあの島って歴史も浅いんですよ」
「そんなに最近だとしたら、鳥居がたくさんあるのも何かしらの意味があるって事なのかな?」
「さあ、それは誰もわからないみたいです。じいちゃんも他の人もみんな鳥居がなんでこんなにたくさんあるのか知らないって言ってました。亀島に移住してきたときにはすでに鳥島にたくさんの鳥居があったみたいです。そもそも、これだけの鳥居を作れるだけの資源も重機も亀島にはないですからね」
『この鳥居ってそんなに昔からあったって事なんですね。でも、一体誰が何のためにこんなにたくさんの鳥居を作ったんでしょうね。作っただけでも凄いと思いますけど、こんなに綺麗に建てるのも難しそうですよね』
私の疑問は真白先生も同じように思っていたようで忍さんにその事を尋ねていたけれど、忍さんがその質問に答えられるはずも無かった。忍さんが教えてくれたことが本当だとしたら、亀島に戻って話を聞いたとしても私達が欲しい答えなんて返ってくることも無いだろう。でも、何かしらの意見は聞きたいと思っていたのだった。
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