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離島編
第三話 鳥島にいる幽霊
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その後も忍さんは真白先生にお義母さんの思い出話をしているのだけれど、その話を聞けば聞くほどあの島にいる幽霊と特徴が一致しているように思えていた。実際に姿を見ていたのはそこまで長くないし、やっている事と言えばこちらに向かって手を振っていただけなのだが、その動作の一つ一つをとっても忍さんが教えてくれているお母さんの姿と重なっているように思えてならないのだ。
「今日は珍しくカツオが獲れたぞ。漁協で藁焼きにしてきたから今日の夜はこれをご馳走してやれ」
「じいちゃんおかえり。鵜崎先生ならもう来てるよ」
「なに、それを早く言えって。どうもこんな遠い島までお越しいただいてありがとうございます。私は忍の祖父の伝八です」
忍さんのお爺さんはちょっと言葉遣いが怖くて見た目もがっしりしていて威圧感があるのだけれど、真白先生がいることがわかると人の良さそうなおじさんになっていた。私がイメージしていたおじいさんというよりも、お父さんみたいだなと思ってしまうくらいに若々しい見た目をしていた。
「鵜崎先生が島に着いたって事はちゃんと島田さんのおばあちゃんに言ってあったけど、聞いてなかったの?」
「島田さんとこのばあちゃんは昼寝してて何も言ってくれなかったぞ。てっきり夕方の便でやってくるのかと思ってたわ。で、鳥島の事は話したのか?」
「うん。鵜崎先生が島に着いた時に鳥島にいるお母さんを見たって言ってたよ」
「そうか。やっぱりあれはばあさんじゃなくて美穂子だったのか。ちなみに、鵜崎先生が見た美穂子は何か持ってましたか?」
『私が見た時は何も持ってなかったと思うんですけど、ピンク色っぽいハンカチみたいな布を左手で持ってたような気がします。ハンカチにしては大きかったと思うんですけど、ピンクの何かは持ってたような気がしてきました。何か持ってたかって聞かれなかったら思い出せなかったと思いますけどね』
「ハッキリとは覚えてないんで何となくですけど、ピンク色のハンカチみたいな布を左手で持ってたそうです。ハンカチにしては大きいように感じたそうなんで、ハンカチではなくバンダナとか風呂敷の可能性もあると思いますが」
「なるほど。ピンクの風呂敷ですか。それだと美穂子ではなくばあさんの可能性もあるって事になるのか。もう一つ気になるので聞くんですが、鵜崎先生が言ってる感じだと自分が見たのではなく誰かから聞いたような感じに聞こえるんですが、他の人に聞いたって事ですか?」
「他の人というか、私の助手ですね。伝八さんにも見えてないようですが、ここに私の助手のヒナミがいるんです。ヒナミは私に変わって幽霊の姿を見て教えてくれるんですよ。そのヒナミが見たのが先ほど申し上げた幽霊の特徴という事になりますね。ちなみになんですが、私に見える幽霊は今のところヒナミだけなんですよ」
『それって、私が真白先生にとって特別な存在って事ですよね』
「幽霊が助手をやってるというのは意外ですね。でも、そう言う風に幽霊が接してくれるというのがわかると、ばあさんや美穂子も私たちのために何かしてくれるんじゃないかと期待しちゃいますね」
鳥島にいる幽霊が忍さん達の家族である可能性が高くなっていてそばに居たいという気持ちは痛いほどよくわかる。よくわかるのだけれど、幽霊が近くにいるという事は生きている人間にとっていい事ばかりではないのだ。むしろ、良くないことの方が多いと思う。良くない事の最たる例は、幽霊がこの世界に存在するためには生きている人の協力が必要なのであって、その協力とは生きている人の生命力を少しずつ頂戴するという事なのだ。血縁が近ければ近いほど貰える生命力が多くなるのだけれど、それは忍さん達の残りの寿命を縮めてしまうという事にも繋がってしまうのだ。
それともう一つの理由が、どんな形であれ幽霊が一つの場所に留まることによってその場所自体が霊場になりやすく、他の幽霊の事も霊場に集めてしまうことになりかねないのだ。その事が続いてしまうと幽霊の常駐している劇場のように余計な幽霊を集めてしまって生きている人が何となくその場所を避けるようになってしまうのである。そうなってしまうと強制的に幽霊を排除無いし除霊して旅立たせる必要が出てきてしまう。
そんな事がないように、長くても一年以内にはその場から旅立ってもらう必要もあったりするのだ。大切な人が亡くなって寂しいという気持ちは私も理解出来ると思うけど、必要以上にその場に留めようとする事だけは避けた方が良いとも思ってしまうのだ。
真白先生はその事を二人にもわかりやすく丁寧に説明してくれていた。あの島にいる幽霊が忍さんのお母さんなのかおばあちゃんなのか私にはわからないけど、この島に連れてきて何かをするくらいなら大丈夫なのではないかとも思ってしまう。ただ、そんな事一度でもしてしまうと少しくらい伸ばしてもいいじゃないかと思い、それがズルズルと伸びていって取り返しのつかないことになりかねないのだ。
「そう言うわけで、鳥島にいる幽霊を連れてくることは可能かもしれませんが、この家に長い間引き留めるという事はおススメしませんよ」
「それは私も忍もわかってはいます。成仏して向こうの世界に言って欲しいという気持ちはあるんですが、もう少しだけこっちの世界で一緒に過ごしたいという思いもあるんです。特に、美穂子はまだ忍が小さかった時に亡くなってしまったんで、忍にお義母さんの優しさを教えてあげたいとは思うんですよね」
伝八さんも忍さんも涙を我慢することも無く大粒の涙をこぼしながらも真っすぐに真白先生の事を見つめていた。
その瞳には固い意志が宿っているのがわかるのだけれど、実際に家族が幽霊となって戻ってきてくれて、短い時間でちゃんとお別れをすることが出来るのだろうか。強い気持ちを持っていても実際にその時になってしまうと、お別れをするのが辛くなるんじゃないだろうか。人間も幽霊もお別れをする事が一番つらいという事をよくわかっているはずなのに、その時になるまではその事をすっかり忘れてしまうんだよな。
「今日は珍しくカツオが獲れたぞ。漁協で藁焼きにしてきたから今日の夜はこれをご馳走してやれ」
「じいちゃんおかえり。鵜崎先生ならもう来てるよ」
「なに、それを早く言えって。どうもこんな遠い島までお越しいただいてありがとうございます。私は忍の祖父の伝八です」
忍さんのお爺さんはちょっと言葉遣いが怖くて見た目もがっしりしていて威圧感があるのだけれど、真白先生がいることがわかると人の良さそうなおじさんになっていた。私がイメージしていたおじいさんというよりも、お父さんみたいだなと思ってしまうくらいに若々しい見た目をしていた。
「鵜崎先生が島に着いたって事はちゃんと島田さんのおばあちゃんに言ってあったけど、聞いてなかったの?」
「島田さんとこのばあちゃんは昼寝してて何も言ってくれなかったぞ。てっきり夕方の便でやってくるのかと思ってたわ。で、鳥島の事は話したのか?」
「うん。鵜崎先生が島に着いた時に鳥島にいるお母さんを見たって言ってたよ」
「そうか。やっぱりあれはばあさんじゃなくて美穂子だったのか。ちなみに、鵜崎先生が見た美穂子は何か持ってましたか?」
『私が見た時は何も持ってなかったと思うんですけど、ピンク色っぽいハンカチみたいな布を左手で持ってたような気がします。ハンカチにしては大きかったと思うんですけど、ピンクの何かは持ってたような気がしてきました。何か持ってたかって聞かれなかったら思い出せなかったと思いますけどね』
「ハッキリとは覚えてないんで何となくですけど、ピンク色のハンカチみたいな布を左手で持ってたそうです。ハンカチにしては大きいように感じたそうなんで、ハンカチではなくバンダナとか風呂敷の可能性もあると思いますが」
「なるほど。ピンクの風呂敷ですか。それだと美穂子ではなくばあさんの可能性もあるって事になるのか。もう一つ気になるので聞くんですが、鵜崎先生が言ってる感じだと自分が見たのではなく誰かから聞いたような感じに聞こえるんですが、他の人に聞いたって事ですか?」
「他の人というか、私の助手ですね。伝八さんにも見えてないようですが、ここに私の助手のヒナミがいるんです。ヒナミは私に変わって幽霊の姿を見て教えてくれるんですよ。そのヒナミが見たのが先ほど申し上げた幽霊の特徴という事になりますね。ちなみになんですが、私に見える幽霊は今のところヒナミだけなんですよ」
『それって、私が真白先生にとって特別な存在って事ですよね』
「幽霊が助手をやってるというのは意外ですね。でも、そう言う風に幽霊が接してくれるというのがわかると、ばあさんや美穂子も私たちのために何かしてくれるんじゃないかと期待しちゃいますね」
鳥島にいる幽霊が忍さん達の家族である可能性が高くなっていてそばに居たいという気持ちは痛いほどよくわかる。よくわかるのだけれど、幽霊が近くにいるという事は生きている人間にとっていい事ばかりではないのだ。むしろ、良くないことの方が多いと思う。良くない事の最たる例は、幽霊がこの世界に存在するためには生きている人の協力が必要なのであって、その協力とは生きている人の生命力を少しずつ頂戴するという事なのだ。血縁が近ければ近いほど貰える生命力が多くなるのだけれど、それは忍さん達の残りの寿命を縮めてしまうという事にも繋がってしまうのだ。
それともう一つの理由が、どんな形であれ幽霊が一つの場所に留まることによってその場所自体が霊場になりやすく、他の幽霊の事も霊場に集めてしまうことになりかねないのだ。その事が続いてしまうと幽霊の常駐している劇場のように余計な幽霊を集めてしまって生きている人が何となくその場所を避けるようになってしまうのである。そうなってしまうと強制的に幽霊を排除無いし除霊して旅立たせる必要が出てきてしまう。
そんな事がないように、長くても一年以内にはその場から旅立ってもらう必要もあったりするのだ。大切な人が亡くなって寂しいという気持ちは私も理解出来ると思うけど、必要以上にその場に留めようとする事だけは避けた方が良いとも思ってしまうのだ。
真白先生はその事を二人にもわかりやすく丁寧に説明してくれていた。あの島にいる幽霊が忍さんのお母さんなのかおばあちゃんなのか私にはわからないけど、この島に連れてきて何かをするくらいなら大丈夫なのではないかとも思ってしまう。ただ、そんな事一度でもしてしまうと少しくらい伸ばしてもいいじゃないかと思い、それがズルズルと伸びていって取り返しのつかないことになりかねないのだ。
「そう言うわけで、鳥島にいる幽霊を連れてくることは可能かもしれませんが、この家に長い間引き留めるという事はおススメしませんよ」
「それは私も忍もわかってはいます。成仏して向こうの世界に言って欲しいという気持ちはあるんですが、もう少しだけこっちの世界で一緒に過ごしたいという思いもあるんです。特に、美穂子はまだ忍が小さかった時に亡くなってしまったんで、忍にお義母さんの優しさを教えてあげたいとは思うんですよね」
伝八さんも忍さんも涙を我慢することも無く大粒の涙をこぼしながらも真っすぐに真白先生の事を見つめていた。
その瞳には固い意志が宿っているのがわかるのだけれど、実際に家族が幽霊となって戻ってきてくれて、短い時間でちゃんとお別れをすることが出来るのだろうか。強い気持ちを持っていても実際にその時になってしまうと、お別れをするのが辛くなるんじゃないだろうか。人間も幽霊もお別れをする事が一番つらいという事をよくわかっているはずなのに、その時になるまではその事をすっかり忘れてしまうんだよな。
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