30 / 64
離島編
第二話 離島の離島
しおりを挟む
漁業以外に目立った産業のないこの島に観光客がやってくることはまずないのだが、一部のマニアが極稀にやってくることがあるそうです。その目的はこの島に降り立って私が最初に気になった鳥居がたくさん並んでいる島だそうです。
忍さんの話によると、あの島はよくある女人禁制だったり立ち入り禁止区域だったりという事も無く自由に出入りする事が出来るのですが、島の近くにある無数の岩礁が船の侵入を拒むかのように乱立していてこの島にある漁船では近付くことも出来ないとのことです。泳いで渡るにしてもあの島の近くにはサメが多く生息しているのでかなり危険を伴うとのことでした。
「そんなわけで、鵜崎先生にはあの島で目撃されている女の人の幽霊の正体を見極めて欲しいんです」
「正体を見極めて欲しいって事は、その正体次第では祓って欲しいって解釈で良いのかな?」
「そうですと言いたいところなんですが、あの島にいる幽霊が僕のお母さんかばあちゃんだったらあっちの島からこの島に連れてきてもらいたいって思ってるんですよ」
「忍さんの家族かもしれないって思ってるみたいだけど、それには何か理由があるのかな?」
「僕が直接見たわけじゃないんですけど、漁の帰りにじいちゃんと近所のおじさんがあの島にいる幽霊を見たそうなんです。その姿は無くなる前のばあちゃんやお母さんに似ていたって事なんですよ。じいちゃんはそれ以来海が荒れていない時は毎日船に乗ってるんですけど、その時しか島の幽霊を目撃してないって言ってました。今も島の近くで漁をしていると思うんですけど、ばあちゃんかお母さんに会えてるんですかね?」
『私が見た幽霊って忍さんの家族の方だったんですかね。あんまり悪い印象は無かったですよ。遠くてよくわからなかったですけど、忍さんに似ているような気もしますね。表情とかっていうよりも、立っている姿が似てるって思いましたよ』
「忍さんのおじいさんが見た幽霊ってのは何時くらいの話なのかな?」
「じいちゃんは早朝に出かけて昼過ぎには帰ってくるので、その時間帯だと思いますよ。たぶん、鵜崎先生がこの島に着いた時間くらいじゃないかなって思います」
『それだと私が見た幽霊さんと同じかもしれないですね。同じ幽霊さんかはわかりませんけど、昼間にあらわれる幽霊さんがいるってのは間違いないです。まあ、私は一日中真白先生の側にいるんで昼間に幽霊が現れてもおかしくなって思いますけどね』
真白先生は私が見た幽霊さんの事を忍さんに伝えたのだが、真白先生の話が終わる前に忍さんはその大きな目からポロポロと涙を零れさせていた。忍さんは何度も何度も謝りながら涙を止めようとしているようなのだが、顔を上に向けてもゆっくりと深呼吸をして落ち着こうとしても忍さんの目から零れる涙が止まることは無かったのだった。
「ごめんなさい。鵜崎先生の教えてくれた女の人の特徴って、僕のお母さんが港で僕を見送ってくれていた時の姿と一緒なんです。中学生の時まで月に一度本島にある学校に通ってたんですけど、その時に見送ってくれていた姿が鵜崎先生の教えてくれた姿と一緒だったんですよ。その姿を知っているのは僕とじいちゃんだけだと思うのに、鵜崎先生は何で母さんが左手を腰に当てて右手を肩の高さで小さく左右に振ってるって知ってるんですか」
「そう言う風に見えてるって俺の助手が教えてくれているからかな。忍さんには正直に言うけど、俺は霊感はあるけど何でもかんでも見えるってわけじゃないんだよ。俺がハッキリ姿を見ることが出来るのはここに居るヒナミだけなんだ。ここに居るって言っても忍さんには見えないと思うけどね。でも、さっき言った女の幽霊の特徴を教えてくれたのは助手のヒナミであるし、そのヒナミが見た限りではあの島にいる幽霊から悪意や敵対心は感じないって話だよ」
『ちょっと待ってください。私は真白先生の助手だったんですか。そんな話初めて知りましたよ。そりゃ助手っぽいことは良くしてるなとか思ってましたけど、そんな風にハッキリ言われるとは思ってもみませんでした。でも、真白先生の助手ってのは悪くない立場ですよね。他の幽霊たちから羨ましがられるかもしれないですよ』
真白先生は私が見えない人と話をしている時には私の事を無視しちゃうところがあるのだけれど、今回に限っては私の事を完全に無視をする事も無く少しだけこっちを向いてくれたりもしていた。私に話しかけてくることは無いけれど、私の事をちゃんと意識してくれているという事だけでも嬉しかったりするのだ。
「ヒナミさんって幽霊なんですよね。鵜崎先生は幽霊が近くにいて怖くないんですか?」
「怖くはないね。幽霊が怖かったらこの仕事なんて出いないからね。忍さんは幽霊が怖いのかな?」
「そりゃ、普通に幽霊は怖いですよ。自分の力でどうにもできない相手だと思いますからね。どうにか出来るような相手だったとしても、幽霊って考えるとちょっと怖いですね。でも、お母さんとかばあちゃんが幽霊になって会いに来てくれてるんだとしたら、怖いっていうよりも嬉しいって気持ちの方が強いかもしれないですね」
忍さんは真白先生に笑顔を向けていたのだけれど、その瞳にはまだ零れ落ちそうな涙が留まっているのであった。
忍さんの話によると、あの島はよくある女人禁制だったり立ち入り禁止区域だったりという事も無く自由に出入りする事が出来るのですが、島の近くにある無数の岩礁が船の侵入を拒むかのように乱立していてこの島にある漁船では近付くことも出来ないとのことです。泳いで渡るにしてもあの島の近くにはサメが多く生息しているのでかなり危険を伴うとのことでした。
「そんなわけで、鵜崎先生にはあの島で目撃されている女の人の幽霊の正体を見極めて欲しいんです」
「正体を見極めて欲しいって事は、その正体次第では祓って欲しいって解釈で良いのかな?」
「そうですと言いたいところなんですが、あの島にいる幽霊が僕のお母さんかばあちゃんだったらあっちの島からこの島に連れてきてもらいたいって思ってるんですよ」
「忍さんの家族かもしれないって思ってるみたいだけど、それには何か理由があるのかな?」
「僕が直接見たわけじゃないんですけど、漁の帰りにじいちゃんと近所のおじさんがあの島にいる幽霊を見たそうなんです。その姿は無くなる前のばあちゃんやお母さんに似ていたって事なんですよ。じいちゃんはそれ以来海が荒れていない時は毎日船に乗ってるんですけど、その時しか島の幽霊を目撃してないって言ってました。今も島の近くで漁をしていると思うんですけど、ばあちゃんかお母さんに会えてるんですかね?」
『私が見た幽霊って忍さんの家族の方だったんですかね。あんまり悪い印象は無かったですよ。遠くてよくわからなかったですけど、忍さんに似ているような気もしますね。表情とかっていうよりも、立っている姿が似てるって思いましたよ』
「忍さんのおじいさんが見た幽霊ってのは何時くらいの話なのかな?」
「じいちゃんは早朝に出かけて昼過ぎには帰ってくるので、その時間帯だと思いますよ。たぶん、鵜崎先生がこの島に着いた時間くらいじゃないかなって思います」
『それだと私が見た幽霊さんと同じかもしれないですね。同じ幽霊さんかはわかりませんけど、昼間にあらわれる幽霊さんがいるってのは間違いないです。まあ、私は一日中真白先生の側にいるんで昼間に幽霊が現れてもおかしくなって思いますけどね』
真白先生は私が見た幽霊さんの事を忍さんに伝えたのだが、真白先生の話が終わる前に忍さんはその大きな目からポロポロと涙を零れさせていた。忍さんは何度も何度も謝りながら涙を止めようとしているようなのだが、顔を上に向けてもゆっくりと深呼吸をして落ち着こうとしても忍さんの目から零れる涙が止まることは無かったのだった。
「ごめんなさい。鵜崎先生の教えてくれた女の人の特徴って、僕のお母さんが港で僕を見送ってくれていた時の姿と一緒なんです。中学生の時まで月に一度本島にある学校に通ってたんですけど、その時に見送ってくれていた姿が鵜崎先生の教えてくれた姿と一緒だったんですよ。その姿を知っているのは僕とじいちゃんだけだと思うのに、鵜崎先生は何で母さんが左手を腰に当てて右手を肩の高さで小さく左右に振ってるって知ってるんですか」
「そう言う風に見えてるって俺の助手が教えてくれているからかな。忍さんには正直に言うけど、俺は霊感はあるけど何でもかんでも見えるってわけじゃないんだよ。俺がハッキリ姿を見ることが出来るのはここに居るヒナミだけなんだ。ここに居るって言っても忍さんには見えないと思うけどね。でも、さっき言った女の幽霊の特徴を教えてくれたのは助手のヒナミであるし、そのヒナミが見た限りではあの島にいる幽霊から悪意や敵対心は感じないって話だよ」
『ちょっと待ってください。私は真白先生の助手だったんですか。そんな話初めて知りましたよ。そりゃ助手っぽいことは良くしてるなとか思ってましたけど、そんな風にハッキリ言われるとは思ってもみませんでした。でも、真白先生の助手ってのは悪くない立場ですよね。他の幽霊たちから羨ましがられるかもしれないですよ』
真白先生は私が見えない人と話をしている時には私の事を無視しちゃうところがあるのだけれど、今回に限っては私の事を完全に無視をする事も無く少しだけこっちを向いてくれたりもしていた。私に話しかけてくることは無いけれど、私の事をちゃんと意識してくれているという事だけでも嬉しかったりするのだ。
「ヒナミさんって幽霊なんですよね。鵜崎先生は幽霊が近くにいて怖くないんですか?」
「怖くはないね。幽霊が怖かったらこの仕事なんて出いないからね。忍さんは幽霊が怖いのかな?」
「そりゃ、普通に幽霊は怖いですよ。自分の力でどうにもできない相手だと思いますからね。どうにか出来るような相手だったとしても、幽霊って考えるとちょっと怖いですね。でも、お母さんとかばあちゃんが幽霊になって会いに来てくれてるんだとしたら、怖いっていうよりも嬉しいって気持ちの方が強いかもしれないですね」
忍さんは真白先生に笑顔を向けていたのだけれど、その瞳にはまだ零れ落ちそうな涙が留まっているのであった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。
鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。
最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。
迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく……
3月24日完結予定
毎日16時ごろに更新します
お越しをお待ちしております
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

特別。
月芝
ホラー
正義のヒーローに変身して悪と戦う。
一流のスポーツ選手となって活躍する。
ゲームのような異世界で勇者となって魔王と闘う。
すごい発明をして大金持ちになる。
歴史に名を刻むほどの偉人となる。
現実という物語の中で、主人公になる。
自分はみんなとはちがう。
この世に生まれたからには、何かを成し遂げたい。
自分が生きた証が欲しい。
特別な存在になりたい。
特別な存在でありたい。
特別な存在だったらいいな。
そんな願望、誰だって少しは持っているだろう?
でも、もしも本当に自分が世界にとっての「特別」だとしたら……
自宅の地下であるモノを見つけてしまったことを境にして、日常が変貌していく。まるでオセロのように白が黒に、黒が白へと裏返る。
次々と明らかになっていく真実。
特別なボクの心はいつまで耐えられるのだろうか……
伝奇ホラー作品。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる