【R18】除霊の代金は体で支払ってもらうので気にしないでください

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
3 / 64
アイドル編

第三話 ヒナミと劇場

しおりを挟む
 実際に目にした劇場は建物自体は大きいのにステージはそこまで大きくないように思えた。少なくとも、ステージ上二十人が同時に立ってダンスをするのは無理なように思えたのだ。
『ここであの踊りを踊ってたんですね。私もちょっと立ってみてもいいですか?』
「他の人の邪魔にならないんだったらいいんじゃないかな。他の人は無意識にでもヒナミに触れちゃうと悪寒が走っちゃうからね」
『あんまり驚かせないようにしないとですね。それにしても、ここに立って見ると真白先生の事が小さく見えますよ。私より大きい真白先生をこうやって見下ろすことが出来るのは面白いですね』
「そう言うもんなのかね。そう言えば、ヒナミって宙に浮いたりできないの?」
『そんなこと出来ないですよ。中には空を飛んでる幽霊もいますけど、私は真白先生の側からあまり離れることが出来ないですからね。空を飛べるようになっても近くを漂うくらいだと思います。この劇場にもそう言った人はたくさんいるみたいですけど』
「たくさんいるのか。喋ってもらえないと俺にはわからないからな。その中には何か悪意をもった存在っていそうかな?」
 悪意を持った幽霊は近付いただけでわかるものなのだ。近付いただけで敵意をむき出しにして襲い掛かって来るんだよね。でも、真白先生が近くにいると怯えた子犬みたいに吠えて威嚇するだけで危害は加えてこないんだけど、真白先生が言うには鵜崎の力が抑止力になっているんだって。私も幽霊なんだけど、真白先生の事を怖いって思ったことないんだけどな。
『真白先生に対してもここにいる人達に対しても悪意を持ってる幽霊はいないみたいですよ。ただ賑やかな場所に惹かれてやって来てるって感じみたいですね』
「賑やかな場所だと他にも色々とありそうなのにな。なんでここにだけ六人も集まってるんだろう」
『真白先生って本当に幽霊は見えないんですね。ここに居るのって舞台にあがってた六人だけじゃないですよ。今見える範囲だけでも二十人くらいいますし、他の部屋にも何人かいますから。少なく見積もっても三十人以上入ると思いますよ』
「そんなにいるのか。一人ひとり説得するのは難しそうだな。みんな何か目的があったりするのかな?」
 ここにいる人達の目的を聞こうにも私と目を合わせてくれないんで会話が出来ない。向こうもこっちの存在には気付いていると思うのだけれど、幽霊のくせに恥ずかしがり屋な感じで私の質問を聞こうともしないのだ。
 会話さえ出来れば何か解決の糸口が見つかるかもしれないのだけれど、それすらできないのではどうすることも出来ない。こんなに近くにいて話しかけてるのにみんな私の事なんて見ないでずっと舞台を見ているのだ。
『ダメです。私の事を無視してみんなずっと舞台を見てるんですよ。会話をしようにも私の事なんて全く気にしてない様子です』
「ここに居る二十人くらいの幽霊がヒナミの事を無視してステージを見てるって事か。ちなみになんだけど、ヒナミがステージに立った時はその幽霊たちはどんな感じだった?」
『なんかじっと見られてるって感じでした。今はみんな一点を見つめてる感じですけど、私が舞台に立つとみんな私の事を目で追ってるって感じでしたよ』
「そう言うことか。じゃあ、後でヒナミにはアイドルたちと混じってステージで踊ってもらう事にしようかな。あれだけ見てたんだからダンスは大丈夫でしょ?」
『大丈夫じゃないですよ。見てるだけで踊れるようになることなんて無いですから』
 舞台に立って真白先生を見下ろすのは少し気持ちいいなって思えたけれど、その舞台でみんなに見られながら踊る事なんて私には出来そうもない。踊りを覚えたところで間違えてしまいそうだし、失敗してしまった時になんて言われるかと思うと怖くて足が震えてしまう。
 真白先生は私の事を見れる人なんて他にいないから気にするなと言っているのだけれど、ここに居る幽霊たちは私の事をもちろん見ることが出来ているし、私が舞台に立っているだけでも他の場所から幽霊がどんどん入ってきているのだ。最初は二十人くらいだった幽霊たちも今では五十人近くまで増えていると思う。増えたみんなも私の事をじっと見ているんだけど、見ているだけで何もしてこないというのはちょっとだけ嫌な感じであった。
『ここに立ってるだけで人が増えてるんですけど。五十人くらいいますよ』
「ステージにヒナミが立っているだけでそうなるって事は、ここに集まっている幽霊はアイドルを見に来ているって事かもな。そのままちょっと踊ってみてもらっていいか?」
『無理ですよ。この状況で踊るなんて嫌です。もう下りていいですか?』
 私が少しでも動くと下にいる幽霊たちも目でそれを追ってくるのだが、真白先生が話している時だけはみんなの視線が私にではなく真白先生に向いていた。その時の表情は前に何度か見た悪霊に近いような感じにはなっているのだけれど、その悪意を向けられている真白先生は全く気にしていない様子であった。
 幽霊の攻撃なんて気付かなければなんてことは無いって真白先生は言っているのだが、それはある程度の耐性がある真白先生だから言えることであって、普通の人だったらこれだけの悪意を向けられると立っている事すら出来ないのではないかなって思う。実際にそう言った場面も何度か見ていたけれど、真白先生はそんな人が隣にいても幽霊の悪意になんて気付くことが無かったのだった。見えないものは存在しないものだと真白先生は言う。でも、私にはそれらの事は全て見えている。幽霊である私と人間である真白先生は住んでいる世界が違うという事を思い知らされる出来事に感じてしまうな。
「何となく解決策見えてきたし、いったん依頼人のところに戻ろうか。ここの人達にも協力してもらいたいこともあるしな」
 真白先生はここに居る幽霊たちをどうにかする案が浮かんだみたいで嬉しそうな顔をしていた。アイドル事務所の劇場という事もあって働いている人も綺麗な人が多かったのだけれど、それも真白先生のやる気を増すきっかけになってるんだろうな。
 いつもよりも軽い足取りでここから出ようとする真白先生と、真白先生に当たらないように避けて迷惑そうにしている幽霊たちの対比は面白く見えてしまっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

噺拾い

かぼちゃ
ホラー
本作品はフィクションです。

お客様が不在の為お荷物を持ち帰りました。

鞠目
ホラー
さくら急便のある営業所に、奇妙な配達員にいたずらをされたという不可思議な問い合わせが届く。 最初はいたずら電話と思われていたこの案件だが、同じような問い合わせが複数人から発生し、どうやらいたずら電話ではないことがわかる。 迷惑行為をしているのは運送会社の人間なのか、それとも部外者か? 詳細がわからない状況の中、消息を断つ者が増えていく…… 3月24日完結予定 毎日16時ごろに更新します お越しをお待ちしております

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...