2 / 64
アイドル編
第二話 アイドルとヒナミ
しおりを挟む
あれから真白先生は撮影されていたアイドルのライブ映像を何度も何度も繰り返し見ていた。事務所にいる間はもちろん、家に帰ってからもその映像が常に流されているので局は完璧に覚えてしまったし、サビの部分だけだったら振り付けもマスターしたんじゃないかって覚える。
「ヒナミはこの曲が一番気に入ってるの?」
『そんな事ないですよ。何回もこの曲を聞いてるから耳に残ってるだけなんです』
「その割にはサビの部分になると一緒に踊ってるみたいだけど」
『不思議なんですけど、この曲はなぜか踊りたくなっちゃうんですよ。他の曲とそんなに違わないって思うんですけど、なんでかこの曲だけ耳に残るんですよね』
「人には好き嫌いってのもあるからね。それにしてもさ、幽霊って足が無いって思ってたのにヒナミはしっかりとした綺麗な足があるんだな。幽霊に言う言葉じゃないと思うけど、とても健康的で綺麗な足だよな」
『ちょっとやめてくださいよ。変な目で見ないでくださいって。でも、幽霊に足が無いって思い込んでるのはなんでなんでしょうね。私が先生のお手伝いをしてから見た幽霊も足が無い人なんってほとんどいなかったですよ』
「その辺はよくわからないけど、普通の人と違う部分があるってのが恐怖を感じさせるためのエッセンスなのかもな」
『べつに幽霊だからって怖いわけじゃないんですけどね。真白先生は私の事を怖いって思ったことありますか?」』
「今はそう感じないけど、ヒナミの事が幽霊だってわかった時は少し怖かったよ。でも、それと同時に俺にも幽霊が見えるんだって思うと嬉しかったな。いまだにこうして肉眼で見えるのはヒナミだけなんだけどね」
『じゃあ、街中で幽霊とすれ違ったりしても姿は見えないって事なんですね。買い物とか行くときにも結構見かけますけど、真白先生って気付いてなかったんですね』
「声は聞こえるんだけどな。それと、こうして映像に残ってると俺にも見えるんだよ。他の人にも見えてるのかわからないけどさ。ずっと見てるライブ映像を見て何か感じることはあるかい?」
『何か感じることって言われましても。アイドルってこんなに踊りながら歌うのって大変なんだなって思うくらいですかね。ぶつかりそうなくらいステージに立ってるのに凄いなって思いますよ』
「ヒナミだったらそんな風に踊れる自信あるかな?」
『無理ですよ。みんなと同じ動きだったらまだ覚えられると思いますけど、隣の人と全然違う踊りだからどっちを覚えればいいのかわからなくなっちゃいそうですし。間違えたら隣の人とぶつかっちゃいますよね』
「そうなんだよな。そこが凄いところなんだよな。でもさ、こんなに凄いダンスなのに全然話題になってないってのも変だと思わないか。テレビで見る他のアイドルよりも凄いダンスだって思うんだけど」
『そうですよね。こんな風に踊れるのって凄いことだと思いますよ。私も一回生で見てみたいなって思いますもん』
偏見かもしれないけれど、アイドルというのは可愛ければ歌も踊りもそこそこ上手にこなせればいいものだと思っていた。何曲か見ていて感じたのだが、このアイドルたちは歌はそこまで上手とは言えないけれど踊りは一流と言っていいんじゃないかなって思えている。あんなに狭いステージに乗り切れないほどの人数で激しい踊りを踊っているのに隣の人の邪魔になるような動きは一切ないのだ。それどころか、メインの四人以外は別の動きをしているのに全く違和感がない。凄いものを見ているというのはわかるのだけれど、それにしては観客席の盛り上がりが少ないような気もしていた。
「この曲と他の曲の違いってわかるかな?」
『専門的なことはわからないですけど、この曲だけ何か踊りたくなっちゃうような気がしますよ。他の曲も見てて楽しいなとは思うんですけど、この曲だけ何か特別なものを感じてしまいます。真白先生も踊ろうって思うんですか?』
「俺は踊ろうなんて思わないよ。そもそもダンスとか出来ないしな。他には何か感じる事ないかな?」
『そうですね。こんなに多くの人で踊るんだったらもう少し広い舞台にした方が良いんじゃないかなって思いますよ。みんな上手なんでぶつかったりはしてないですけど、ちょっとでも間違えたらぶつかりそうな気がしてますもん』
「そうなんだよな。そこが気になるんだよな。でもさ、普通に考えてあの激しい踊りをあの大きさのステージであれだけの人数でやろうと思うわけがないんだよ。俺とヒナミはこの映像を見ても変だって思わなかったかもしれないけどさ、このライブの資料を見てみるとおかしい事に気付くと思うんだよ。ほら、ここを見てごらん」
真白先生が見せてくれた資料にはこの曲の説明が書かれているのだけれど、それによるとこの曲はメインの四人が舞台に立って披露することになっている。メインの四人だけだと寂しいと思ってバックダンサーを入れたのかと思っていたのだけれど、この曲にだけそう言った記載はされていなかった。他の曲にはメインが数名とバックダンサー数名といった風に構成もされているのだけれど、この曲に限ってはメインの四人だけで披露するという事になっているのである。
『メインの四人だけって書いてあるんですけど、どう見ても十人くらいいますよね?』
「そうなんだよな。俺にもメインの子たち以外に踊ってる人がいるのは分かるんだけどさ、十人ってのは多すぎないか?」
『でも、数えてみたら十人くらいいますよ。この曲の最初っから見てみてもいいですか?』
「ああ、それは構わないよ。じゃあ、この曲の最初から流すんでしっかり見ててくれよ」
真白先生はこの曲の最初から映してくれたのだ。メインの四人の子がステージに立つと観客はまばらに拍手をして歓声もそれなりにあがっていたのだけれど、踊りが始まると他の曲のように掛け声もかけていたのだ。
そして、歌が始まると四人はそれぞれ自分の場所で踊りを始めていったのだが、それと同時に周りを囲むように人も増えていたのだ。全く気付かなかったのだが、踊りが始まるとメインの人達以外にも舞台に立っている人が増えていたのであった。
『あれ、いつの間に人が増えたんですかね?』
私は全く気付かなかったのだが、どこかのタイミングで舞台で踊っている人が増えていたのである。
「さあ、それがわからないんだよな。この映像は編集もされていないステージ全体を映したモノなんだけど、いつの間にか踊っている人が増えているんだよ。全く違和感もないんだけど、ヒナミにも違和感ってなかった?」
『四人だけだってのも真白先生に言われるまで覚えてなかったくらいですよ。ずっと十人で踊ってるんだと思ってましたけど、真白先生の説明を聞くと四人だったってのがわかりましたし、最初も四人だけだったんだってわかりましたから。でも、この曲はずっと十人くらいで踊ってるもんだって思ってましたよ。なんでだろう?』
曲の最初に戻してもらってもそこに映っているのはメインで踊っている四人だけなのである。それなのに、気付いた時には十人くらいに増えているのだ。
なんでそうなっているのか、私にはさっぱり理解出来なかった。
「ヒナミはこの曲が一番気に入ってるの?」
『そんな事ないですよ。何回もこの曲を聞いてるから耳に残ってるだけなんです』
「その割にはサビの部分になると一緒に踊ってるみたいだけど」
『不思議なんですけど、この曲はなぜか踊りたくなっちゃうんですよ。他の曲とそんなに違わないって思うんですけど、なんでかこの曲だけ耳に残るんですよね』
「人には好き嫌いってのもあるからね。それにしてもさ、幽霊って足が無いって思ってたのにヒナミはしっかりとした綺麗な足があるんだな。幽霊に言う言葉じゃないと思うけど、とても健康的で綺麗な足だよな」
『ちょっとやめてくださいよ。変な目で見ないでくださいって。でも、幽霊に足が無いって思い込んでるのはなんでなんでしょうね。私が先生のお手伝いをしてから見た幽霊も足が無い人なんってほとんどいなかったですよ』
「その辺はよくわからないけど、普通の人と違う部分があるってのが恐怖を感じさせるためのエッセンスなのかもな」
『べつに幽霊だからって怖いわけじゃないんですけどね。真白先生は私の事を怖いって思ったことありますか?」』
「今はそう感じないけど、ヒナミの事が幽霊だってわかった時は少し怖かったよ。でも、それと同時に俺にも幽霊が見えるんだって思うと嬉しかったな。いまだにこうして肉眼で見えるのはヒナミだけなんだけどね」
『じゃあ、街中で幽霊とすれ違ったりしても姿は見えないって事なんですね。買い物とか行くときにも結構見かけますけど、真白先生って気付いてなかったんですね』
「声は聞こえるんだけどな。それと、こうして映像に残ってると俺にも見えるんだよ。他の人にも見えてるのかわからないけどさ。ずっと見てるライブ映像を見て何か感じることはあるかい?」
『何か感じることって言われましても。アイドルってこんなに踊りながら歌うのって大変なんだなって思うくらいですかね。ぶつかりそうなくらいステージに立ってるのに凄いなって思いますよ』
「ヒナミだったらそんな風に踊れる自信あるかな?」
『無理ですよ。みんなと同じ動きだったらまだ覚えられると思いますけど、隣の人と全然違う踊りだからどっちを覚えればいいのかわからなくなっちゃいそうですし。間違えたら隣の人とぶつかっちゃいますよね』
「そうなんだよな。そこが凄いところなんだよな。でもさ、こんなに凄いダンスなのに全然話題になってないってのも変だと思わないか。テレビで見る他のアイドルよりも凄いダンスだって思うんだけど」
『そうですよね。こんな風に踊れるのって凄いことだと思いますよ。私も一回生で見てみたいなって思いますもん』
偏見かもしれないけれど、アイドルというのは可愛ければ歌も踊りもそこそこ上手にこなせればいいものだと思っていた。何曲か見ていて感じたのだが、このアイドルたちは歌はそこまで上手とは言えないけれど踊りは一流と言っていいんじゃないかなって思えている。あんなに狭いステージに乗り切れないほどの人数で激しい踊りを踊っているのに隣の人の邪魔になるような動きは一切ないのだ。それどころか、メインの四人以外は別の動きをしているのに全く違和感がない。凄いものを見ているというのはわかるのだけれど、それにしては観客席の盛り上がりが少ないような気もしていた。
「この曲と他の曲の違いってわかるかな?」
『専門的なことはわからないですけど、この曲だけ何か踊りたくなっちゃうような気がしますよ。他の曲も見てて楽しいなとは思うんですけど、この曲だけ何か特別なものを感じてしまいます。真白先生も踊ろうって思うんですか?』
「俺は踊ろうなんて思わないよ。そもそもダンスとか出来ないしな。他には何か感じる事ないかな?」
『そうですね。こんなに多くの人で踊るんだったらもう少し広い舞台にした方が良いんじゃないかなって思いますよ。みんな上手なんでぶつかったりはしてないですけど、ちょっとでも間違えたらぶつかりそうな気がしてますもん』
「そうなんだよな。そこが気になるんだよな。でもさ、普通に考えてあの激しい踊りをあの大きさのステージであれだけの人数でやろうと思うわけがないんだよ。俺とヒナミはこの映像を見ても変だって思わなかったかもしれないけどさ、このライブの資料を見てみるとおかしい事に気付くと思うんだよ。ほら、ここを見てごらん」
真白先生が見せてくれた資料にはこの曲の説明が書かれているのだけれど、それによるとこの曲はメインの四人が舞台に立って披露することになっている。メインの四人だけだと寂しいと思ってバックダンサーを入れたのかと思っていたのだけれど、この曲にだけそう言った記載はされていなかった。他の曲にはメインが数名とバックダンサー数名といった風に構成もされているのだけれど、この曲に限ってはメインの四人だけで披露するという事になっているのである。
『メインの四人だけって書いてあるんですけど、どう見ても十人くらいいますよね?』
「そうなんだよな。俺にもメインの子たち以外に踊ってる人がいるのは分かるんだけどさ、十人ってのは多すぎないか?」
『でも、数えてみたら十人くらいいますよ。この曲の最初っから見てみてもいいですか?』
「ああ、それは構わないよ。じゃあ、この曲の最初から流すんでしっかり見ててくれよ」
真白先生はこの曲の最初から映してくれたのだ。メインの四人の子がステージに立つと観客はまばらに拍手をして歓声もそれなりにあがっていたのだけれど、踊りが始まると他の曲のように掛け声もかけていたのだ。
そして、歌が始まると四人はそれぞれ自分の場所で踊りを始めていったのだが、それと同時に周りを囲むように人も増えていたのだ。全く気付かなかったのだが、踊りが始まるとメインの人達以外にも舞台に立っている人が増えていたのであった。
『あれ、いつの間に人が増えたんですかね?』
私は全く気付かなかったのだが、どこかのタイミングで舞台で踊っている人が増えていたのである。
「さあ、それがわからないんだよな。この映像は編集もされていないステージ全体を映したモノなんだけど、いつの間にか踊っている人が増えているんだよ。全く違和感もないんだけど、ヒナミにも違和感ってなかった?」
『四人だけだってのも真白先生に言われるまで覚えてなかったくらいですよ。ずっと十人で踊ってるんだと思ってましたけど、真白先生の説明を聞くと四人だったってのがわかりましたし、最初も四人だけだったんだってわかりましたから。でも、この曲はずっと十人くらいで踊ってるもんだって思ってましたよ。なんでだろう?』
曲の最初に戻してもらってもそこに映っているのはメインで踊っている四人だけなのである。それなのに、気付いた時には十人くらいに増えているのだ。
なんでそうなっているのか、私にはさっぱり理解出来なかった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ill〜怪異特務課事件簿〜
錦木
ホラー
現実の常識が通用しない『怪異』絡みの事件を扱う「怪異特務課」。
ミステリアスで冷徹な捜査官・名護、真面目である事情により怪異と深くつながる体質となってしまった捜査官・戸草。
とある秘密を共有する二人は協力して怪奇事件の捜査を行う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる