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勇者の試練
勇者の試練 第二十六話
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うまなちゃんを助けに行くためには勇者の試練をクリアすることが第一条件だとは思うが柘榴ちゃんはあれから三日経っても試練に挑む準備すらしてくれないのだ。
愛華ちゃんも瑠璃もこの国を出てうまなちゃんを助けに向かっているという情報は入ってきているのに、柘榴ちゃんは一向に勇者の試練に向かうつもりはないようだった。
「そろそろ試練を受けに行った方がいいんじゃないかな?」
「私もそうした方がいいと思うんだけど、今はまだ行かない方がいいと思うよ。私は言っても平気だと思うけど、お兄ちゃんは毒ガスに耐性もないだろうしもう少し待って毒ガスが無毒化するまで待った方がいいんじゃないかな」
「毒ガスってどういう事?」
「どういう事って、試練の洞窟の扉の向こうに毒を発生させる魔法陣を描いただけだよ。あの扉は誰も開けることが出来ないって事だし、換気も出来ないからみんな死んじゃってるんじゃないかな」
「そんなのって、反則じゃないの?」
「反則ではないんじゃないかな。三人以上で挑むのは禁止ってなってるくらいで他に禁止事項は無かったと思うよ。もしかしたら、あの中に毒耐性を持っている人がいるかもしれないし、あの階層事態に無毒化をするシステムがあるかもしれないからね。そうだったとしても、あと三日は毒が有効でも無効になっていても中に入ることはおススメできないかな」
「もしかして、それって俺の事を一週間足止めさせるためにやったんじゃないよね?」
「そんなことしないよ。ただ、新しい魔法を覚えたので使ってみたくなったってだけの話だよ」
柘榴ちゃんはきっと何一つ嘘なんてついていないんだろう。どれも本心から出ている言葉なんだと思う。
でも、本心だとしても毒で敵を一掃させようと考えるのはやりすぎではないかと思ってしまう。効率的な方法だと言えばそうだと思うのだけど、あまりにも非人道的行為が過ぎるのではないだろうか。毒を使うなんて許される行為ではないと思う。
「お兄ちゃんの気持ちはわかるけど、私もあんまり無駄なことはしたくないんだよね。私が普段戦闘で使ってる魔法って一瞬ですべてを終わらせちゃうことが多いからあんまりよくないんじゃないかなって思ってるんだ。私だけ戦ってるって実感が全くないのも寂しいなって思う理由の一つだったりするんだよ」
「それって、毒を使っても実感なんて無いんじゃないの?」
「そう言われてみたらそうかもしれないね。目の前で相手が苦しむ姿を見てない分だけこっちの方が実感ないかも。なんでそんな事に気が付かなかったんだろうね。おかしいな」
柘榴ちゃんが気付いていなかったというのは本当なのだろうか。今まで一切嘘をついていない柘榴ちゃんがここに来て嘘をついているという可能性もあるのではないかと考えてしまうが、顔を見ている感じでは柘榴ちゃんは嘘をついているとは思えないのだ。
嘘を見抜くことが出来る能力があればこんなに悩むこともないのだろうが、その能力があったとしても俺は使わないような気もしている。嘘がわかったとしたら、俺は周りの人がついてしまっている嘘の多さに気が変になってしまうんじゃないかと考えてしまった。
柘榴ちゃんのように嘘を全くつかない人が何人もいるとは思えないし、他人のウソを見抜いたところで何も良いことなんて無いだろう。
「柘榴ちゃんって、自分が相手を倒したって実感が欲しいって事なの?」
「そういう気持ちはありますけど、自分の手で誰かを殺すってのは出来れば感じたくないですね。どんなに悪い人が相手だとしても、私は自分の手で命を奪うという事は怖いです」
「そうは言うけど、柘榴ちゃんは今まで魔法でたくさんの人や魔物を殺してきたわけだし、今だって毒で多くの敵を殺してるんじゃないかな?」
「それはお兄ちゃんの言う通りなんだけど、私は見てるだけだったり罠を設置しているだけなんで、命を奪っているって実感は全くないです。自分が殺している相手の映像を見ても、私がやったんだって思えないんですよね。お兄ちゃんはそんな私が嫌いですか?」
「嫌いなわけないよ。今までだって何度も助けてもらったことはあるし、色々と考えるきっかけを作ってくれたのは柘榴ちゃんだしね。柘榴ちゃんは俺の恩人の一人であることには間違いないよ」
「そうじゃないです。私の事を一人の女として好きかどうか教えてください。嫌いじゃないって言う答えでも嬉しいですけど、私が聞きたいことはお兄ちゃんもわかってますよね?」
下から俺を見上げている柘榴ちゃんの視線はどこかじっとりとした印象がある。まだまだ子供だとは思うのだけど、その視線のおくり方はとても子供には見えなかった。いつも大人っぽい印象の柘榴ちゃんではあったが、それとは別に子供とは思えない妖艶さを見せつけていたのだ。
こんな時に好きだの嫌いだのと言ってしまうと危険な気もしているが、俺は柘榴ちゃんが送ってくる視線に耐えられなくなってしまっていた。
「俺は柘榴ちゃんの事が好きだよ。でも、その好きは恋愛感情の好きとかではない。俺と柘榴ちゃんの年齢は結構離れているし、そういう目で見ようなんて思えないんだ。ごめんね」
「お兄ちゃんはズルいね。年齢の事なんて私がどうにもできないってわかってるのに、本当にズルいな」
悲しそうな顔をしている柘榴ちゃんを見るのは俺も心が苦しくなってしまう。でも、そんな事で気持ちを変えることなんて出来ない。大人と子供には越えてはいけない一線があると思っている。
「でも、年齢が問題だとしたら、私だけじゃなくてうまなちゃんも愛華もダメだって事になるから許してあげますよ。特別に、許します」
愛華ちゃんも瑠璃もこの国を出てうまなちゃんを助けに向かっているという情報は入ってきているのに、柘榴ちゃんは一向に勇者の試練に向かうつもりはないようだった。
「そろそろ試練を受けに行った方がいいんじゃないかな?」
「私もそうした方がいいと思うんだけど、今はまだ行かない方がいいと思うよ。私は言っても平気だと思うけど、お兄ちゃんは毒ガスに耐性もないだろうしもう少し待って毒ガスが無毒化するまで待った方がいいんじゃないかな」
「毒ガスってどういう事?」
「どういう事って、試練の洞窟の扉の向こうに毒を発生させる魔法陣を描いただけだよ。あの扉は誰も開けることが出来ないって事だし、換気も出来ないからみんな死んじゃってるんじゃないかな」
「そんなのって、反則じゃないの?」
「反則ではないんじゃないかな。三人以上で挑むのは禁止ってなってるくらいで他に禁止事項は無かったと思うよ。もしかしたら、あの中に毒耐性を持っている人がいるかもしれないし、あの階層事態に無毒化をするシステムがあるかもしれないからね。そうだったとしても、あと三日は毒が有効でも無効になっていても中に入ることはおススメできないかな」
「もしかして、それって俺の事を一週間足止めさせるためにやったんじゃないよね?」
「そんなことしないよ。ただ、新しい魔法を覚えたので使ってみたくなったってだけの話だよ」
柘榴ちゃんはきっと何一つ嘘なんてついていないんだろう。どれも本心から出ている言葉なんだと思う。
でも、本心だとしても毒で敵を一掃させようと考えるのはやりすぎではないかと思ってしまう。効率的な方法だと言えばそうだと思うのだけど、あまりにも非人道的行為が過ぎるのではないだろうか。毒を使うなんて許される行為ではないと思う。
「お兄ちゃんの気持ちはわかるけど、私もあんまり無駄なことはしたくないんだよね。私が普段戦闘で使ってる魔法って一瞬ですべてを終わらせちゃうことが多いからあんまりよくないんじゃないかなって思ってるんだ。私だけ戦ってるって実感が全くないのも寂しいなって思う理由の一つだったりするんだよ」
「それって、毒を使っても実感なんて無いんじゃないの?」
「そう言われてみたらそうかもしれないね。目の前で相手が苦しむ姿を見てない分だけこっちの方が実感ないかも。なんでそんな事に気が付かなかったんだろうね。おかしいな」
柘榴ちゃんが気付いていなかったというのは本当なのだろうか。今まで一切嘘をついていない柘榴ちゃんがここに来て嘘をついているという可能性もあるのではないかと考えてしまうが、顔を見ている感じでは柘榴ちゃんは嘘をついているとは思えないのだ。
嘘を見抜くことが出来る能力があればこんなに悩むこともないのだろうが、その能力があったとしても俺は使わないような気もしている。嘘がわかったとしたら、俺は周りの人がついてしまっている嘘の多さに気が変になってしまうんじゃないかと考えてしまった。
柘榴ちゃんのように嘘を全くつかない人が何人もいるとは思えないし、他人のウソを見抜いたところで何も良いことなんて無いだろう。
「柘榴ちゃんって、自分が相手を倒したって実感が欲しいって事なの?」
「そういう気持ちはありますけど、自分の手で誰かを殺すってのは出来れば感じたくないですね。どんなに悪い人が相手だとしても、私は自分の手で命を奪うという事は怖いです」
「そうは言うけど、柘榴ちゃんは今まで魔法でたくさんの人や魔物を殺してきたわけだし、今だって毒で多くの敵を殺してるんじゃないかな?」
「それはお兄ちゃんの言う通りなんだけど、私は見てるだけだったり罠を設置しているだけなんで、命を奪っているって実感は全くないです。自分が殺している相手の映像を見ても、私がやったんだって思えないんですよね。お兄ちゃんはそんな私が嫌いですか?」
「嫌いなわけないよ。今までだって何度も助けてもらったことはあるし、色々と考えるきっかけを作ってくれたのは柘榴ちゃんだしね。柘榴ちゃんは俺の恩人の一人であることには間違いないよ」
「そうじゃないです。私の事を一人の女として好きかどうか教えてください。嫌いじゃないって言う答えでも嬉しいですけど、私が聞きたいことはお兄ちゃんもわかってますよね?」
下から俺を見上げている柘榴ちゃんの視線はどこかじっとりとした印象がある。まだまだ子供だとは思うのだけど、その視線のおくり方はとても子供には見えなかった。いつも大人っぽい印象の柘榴ちゃんではあったが、それとは別に子供とは思えない妖艶さを見せつけていたのだ。
こんな時に好きだの嫌いだのと言ってしまうと危険な気もしているが、俺は柘榴ちゃんが送ってくる視線に耐えられなくなってしまっていた。
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