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勇者の試練

勇者の試練 第二十三話

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 ソファに座ったまま寝てしまった俺が目を開けると、ベッドに横になったままの瑠璃と目が合ってしまった。
 目が合った瞬間に瑠璃は顔を背けてしまったのだが、笑顔でも真顔でもない何とも表現がしにくい表情で俺の事を見つめていたのだ。じっと見つめあっていると、瑠璃は怒ったように顔を背けてしまった。

 固いソファで寝ると体が疲れてしまうというのがわかったし、瑠璃もお酒が抜けたみたいなので俺はいったん部屋に戻ってちゃんと布団で寝ようと思ったのだけれど、部屋から出ていこうとした俺の事を瑠璃は引き留めてきた。

「ねえ、そっちは外に出るドアだよ。トイレなら右側だけど」
「わかってるよ。瑠璃もお酒が抜けたみたいだし、ちゃんと寝ようと思って自分の部屋に帰るんだけど」
「お酒は、まだ抜けてないかも。今のまま放置されたら寝てるときに吐いちゃって死んじゃうかもしれないよ」
「そんな事はないでしょ。もう完全に抜けてるように見えるけど」
「どうだろうね。私はまだ酔ってるような気もするんだけどな。確かめるって意味でもこっちに来て私の横に寝なよ」

 そんな瑠璃を無視して俺は部屋を出ようとしたのだが、扉の前に突然現れた巨人によって俺は行く手を遮られてしまっていた。
 どうにかして逃げだそうとしたものの、俺と巨人の間には越えられない壁がいくつもあるようなものなので俺はあっさりと自分の負けを認めたのだ。

「ほら、そんなところに突っ立ってないで一緒に寝ようよ。小さい時は一緒に寝てたんだから、恥ずかしがってないでさっさとおいでって。怖いことなんて何もしないから、安心していいからね」
「その言い方は何となく信用できないんだけど。それよりも、二人で寝るには狭くないか?」
「それなら大丈夫。私は抱き枕があっても寝られる人だから」

 何が大丈夫なんだろうと言いたかったところではあるが、そこで何か言ってしまえば面倒なことになりそうだと思って自重してしまった。どうしてか瑠璃に対して強く出られない時があるのだが、それは俺の事をじっと見ている巨人のせいなのかもしれない。

 ソファに比べるとベッドの方が格段に寝やすいのだが、狭いベッドに二人寝るのは少し窮屈だった。今更気を使う必要もないのだけど、すぐ隣に妹が寝ているというのは何とも言えないものがあるものだ。
 瑠璃が完全に熟睡すると俺の事を見ていた巨人も消えてしまうようで、俺はこれでやっと安心して眠ることが出来ると思っていた。時計を見るとまだ三時間くらいは寝られそうだなと思いながらもなかなか寝付くことが出来なかった。

 時々寝返りを打つ瑠璃によってお腹や足に攻撃をされ続けていたのだ。
 瑠璃の攻撃は四回に一回くらいの割合で呼吸が出来ないほどの衝撃を受けてしまうのだが、攻撃をしている本人である瑠璃はそんな事もお構いなしに気持ちよさそうに眠っていた。
 瑠璃ってこんなに寝相が悪かったっけと思いながらも過去の記憶を遡っているのだが、俺と瑠璃が一緒に寝たのは瑠璃がまだ幼稚園児だったころにおばあちゃんのところに泊まりに行ったときが最後だったと思う。
 あの時も叩かれたような記憶はあるのだけど、今みたいにがっつりと殴られるという事は無かったと思う。それだけ瑠璃が成長しているという事なのかもしれないけど、こうなってしまうと将来瑠璃の旦那さんになる人は寝室を別にした方がいいんじゃないかと思ってしまう。その時はそっとアドバイスをさせてもらおう。

 ベッドが沈んでいるような気がして目を開けると瑠璃が俺の事を跨いでベッドから抜け出していた。その様子をジッと見るのも何なので俺は再び眠ろうと目を閉じたのだった。
 いったんトイレへと消えた瑠璃ではあったが、何を思ったのかそのまま冷蔵庫を開けて中に入っていたお酒をグラスに注いでいた。こんな時でも直飲みではなくグラスに注ぐところが瑠璃らしいと思ったけれど、今はお酒を飲むタイミングではないようにしか思えなかった。

 一本では物足りなかったのか、瑠璃はさらに冷蔵庫を開けてお酒を取り出していった。俺はそんな事を気にせずに眠ろうとしていたのだが、お酒をグラスに注ぐ音と時々聞こえる瑠璃の吐息が気になって眠れなくなってしまった。
 このまま俺も起きて瑠璃と一緒にお酒を飲んでしまおうかとも思ったことはあるが、そんな事をしては明日に響いてしまいそうなので自重することにした。もっとも、明日の予定なんてうまなちゃんか柘榴ちゃんが帰ってこなければ何も無いようなものなのだが。

 俺は瑠璃に背中を向けて寝ようとしているので目を開けても気付かれることはないと思うけれど、何となく用心して俺は瑠璃に起きていることを気付かれないようにするのであった。
 仮に俺が起きているという事を瑠璃が知ったところで俺に飲酒を強要したらり下世話な話を振ってきたりもしないだろう。それくらいには瑠璃の事を信用しているのだ。

 瑠璃がグラスを流しに置いているのが気配と音で感じられたのだ。
 朝まで飲むという暴挙には出なかったので一安心していたのだけれど、グラスを洗い終わってもこちらへ戻ってくる様子はなかった。誰かと話をしているという感じでもないし、瑠璃はいったい何をしているのだろう。
 寝るなら寝るでベッドに戻った方がいいと思っているのだが、瑠璃はなかなかベッドに戻ってくることはなかった。

 そんな事をぼんやりと考えていたと思ったのだが、俺はいつの間にか本当に眠っていたらしく、起きた時にはパンが焼けるいい匂いが部屋の中に充満していたのだ。
 お腹が鳴ってしまいそうなのを必死に抑えて体を起こすと、俺の体の上に乗ろうとしている瑠璃と目が合ってしまった。

「あ、おはよう。少しは眠れたみたいで良かったよ」

 何をしようとしていたのか聞けなかったが、特に瑠璃も焦っている様子はなかったので気にしないことにしよう。
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