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勇者の試練
勇者の試練 第十八話
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扉の奥に倒れていたのは何となくではあるが見覚えのある男の人だった。
その男の隣におとなしく正座をしている巨人が何だか可愛らしく見えてきたのだけれど、瑠璃は巨人に対して怒りを抑えきれないようだった。
「君が強いってのは私が一番よく知っているんだけどさ、その強さをそのまま出しちゃダメでしょ。君の強さをもってすればここにいた魔物全部が襲ってきても問題ないと思うんだけど、君は魔物を全部全部ぜ~んぶ倒しちゃったよね。それは悪いことではないんだ、むしろいいことで正しいことだとは思うんだけどさ、ここはその辺も空気を読んで私とお兄ちゃんがもっと一緒に居られるように気を使ってくれても良かったんじゃないかな。君だったら私のためにそういう事も考えて行動してくれるとは思ってたんだけど、それって私の買いかぶり過ぎだったって事になっちゃうのかもね。でも、君が魔物を倒したい魔物を全部自分の手で倒したいここにいる魔物は全部倒したいって思う気持ちは私が君に出会ってからずっと教えてたことだから仕方ないよね。私の教え方が短絡的過ぎたってのも原因だとはわかってるんだけどさ、それでももう少し私の気持ちを考えて行動するように頭を使ってくれても良かったんだと思うよ。これは私が君に期待しているからこそ抱いてしまっている感情なんだって君はわかってくれていると思うけど、今の君だったら私がこんな風に伝えなくても考えてくれるって信じてはいたんだよね。でも、君は頭もいいんだから今回の事で学んでくれたと思うし、さっきまでの君とは違う成長した君でいてくれると思うんだ。だから、私は君が今よりももっともっともっと凄い人に慣れるって信じているんだからね。君が成長してくれた私もお兄ちゃんも嬉しいんだからね」
先ほどまで暴れまわっていたとは思えないくらい大人しくなった巨人はうつむいたまま瑠璃の影の中へと消えていった。あんなに強かった巨人も飼い主である瑠璃には強く出られないという事なのだろう。飼い主という表現が正しいのかはわからないが、間違っていないとは思う。
「兄貴はこの人が誰か知ってるの?」
「たぶん、野城君だと思う。愛華ちゃんと一緒に行ったところも一番最後に出てきたのが野城君だったよ。その時も今みたいに話をする前に死んじゃってたんだけど、服装とか一緒だから間違いないんじゃないかな」
「言われてみれば野城君にも見えるけど、なんで彼もこの世界にいるの?」
「さあ、それは俺もわからないよ。何か理由はあると思うんだけど、イザーちゃんも教えてくれないからね」
巨人に話をしていた時はお兄ちゃん呼びだったのに俺と話すときは兄貴に戻っているんだなと思ったけど、それをこの場で指摘するのはお互いにとって良くないような気がして俺は口をつぐんでいた。
あらためて倒れている野城君を見て見ることにしよう。
野城君は巨人の手によって叩き潰されてしまったのか、顔も腕も原型をとどめていない状態になっているので他人かもしれないという思いも少なからずあった。だが、ポケットに入っていた生徒手帳にはしっかりと野城君の学生証が入っていたのだ。
「どうしよう。私は教師なのに教え子を殺してしまった。何と言ってお詫びすればいいんだろう」
「そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。ほら、野城君も俺たちを殺そうと魔物をけしかけてきたんだし正当防衛だよ」
「状況的にはそうなるかもしれないけど、私はこの状況を野城君のご両親になんて説明したらいいんだろう。私が殺されそうになったから殺しちゃいました。なんて言えないよね。ねえ、お兄ちゃん、瑠璃はいったいどうしたらいいの?」
いつも元気で明るい瑠璃も今の状況を考えすぎてしまっているみたいで今にも泣きだしてしまいそうだった。
さっきまで兄貴呼びだったのに今はまたお兄ちゃんになっているのも瑠璃が弱っている証拠なのだろう。小さい時もこんなに弱っている姿を見たことはなかったので新鮮な気持ちになっていたが、野城君の死体を前にそんな事を考えてしまうのは不謹慎かもしれない。
「殺してしまった事実は変わらないけど、イザーちゃんに頼んで野城君の代わりを見つけてきてもらうのが一番早くて確実なんじゃないかな。イザーちゃんが今どこにいるのかを知る必要があるけどね」
「イザーさんの居場所がわかればいいんだったら、連盟の占い師の人にイザーさんの居場所を聞けばいいって事だよね。それなら大丈夫かも」
イザーちゃんにお願いしたところで野城君を生き返らせることが出来るというわけではない。
あくまで、この世界で死んだ野城君と他の世界で生きている野城君を交換するだけの話なのだ。
どこかの世界ではさっきまで生きていた野城君がいきなり死体に変わってしまうという事である。野城君がどのような人間関係を築いていたのかも気になるのだが。
「私が失敗しても兄貴はいつも助けてくれるよね。私が池に落ちた時も助けてくれたし、ケーキが小さいって文句を言った時もすぐに交換してくれたよね。小さいことかもしれないけど、その一つ一つが私の財産になってるんだよ。だから、ほんの少しずつでも兄貴にお返しが出来たらいいなって思ってるよ」
俺と瑠璃の記憶に違いがあるのは仕方ないと思うけど、池に落ちた瑠璃を俺が助けに行ったという事らしい。たが、俺は今も昔も変わらず泳げないので自分の命を犠牲にしてまで助けるかと言われると、助けたりなんてしないと思う。
他にも記憶にない話が色々と出ているのだけれど、俺はそんなに記憶力も良くないから覚えていないことにしておこうかな。
その男の隣におとなしく正座をしている巨人が何だか可愛らしく見えてきたのだけれど、瑠璃は巨人に対して怒りを抑えきれないようだった。
「君が強いってのは私が一番よく知っているんだけどさ、その強さをそのまま出しちゃダメでしょ。君の強さをもってすればここにいた魔物全部が襲ってきても問題ないと思うんだけど、君は魔物を全部全部ぜ~んぶ倒しちゃったよね。それは悪いことではないんだ、むしろいいことで正しいことだとは思うんだけどさ、ここはその辺も空気を読んで私とお兄ちゃんがもっと一緒に居られるように気を使ってくれても良かったんじゃないかな。君だったら私のためにそういう事も考えて行動してくれるとは思ってたんだけど、それって私の買いかぶり過ぎだったって事になっちゃうのかもね。でも、君が魔物を倒したい魔物を全部自分の手で倒したいここにいる魔物は全部倒したいって思う気持ちは私が君に出会ってからずっと教えてたことだから仕方ないよね。私の教え方が短絡的過ぎたってのも原因だとはわかってるんだけどさ、それでももう少し私の気持ちを考えて行動するように頭を使ってくれても良かったんだと思うよ。これは私が君に期待しているからこそ抱いてしまっている感情なんだって君はわかってくれていると思うけど、今の君だったら私がこんな風に伝えなくても考えてくれるって信じてはいたんだよね。でも、君は頭もいいんだから今回の事で学んでくれたと思うし、さっきまでの君とは違う成長した君でいてくれると思うんだ。だから、私は君が今よりももっともっともっと凄い人に慣れるって信じているんだからね。君が成長してくれた私もお兄ちゃんも嬉しいんだからね」
先ほどまで暴れまわっていたとは思えないくらい大人しくなった巨人はうつむいたまま瑠璃の影の中へと消えていった。あんなに強かった巨人も飼い主である瑠璃には強く出られないという事なのだろう。飼い主という表現が正しいのかはわからないが、間違っていないとは思う。
「兄貴はこの人が誰か知ってるの?」
「たぶん、野城君だと思う。愛華ちゃんと一緒に行ったところも一番最後に出てきたのが野城君だったよ。その時も今みたいに話をする前に死んじゃってたんだけど、服装とか一緒だから間違いないんじゃないかな」
「言われてみれば野城君にも見えるけど、なんで彼もこの世界にいるの?」
「さあ、それは俺もわからないよ。何か理由はあると思うんだけど、イザーちゃんも教えてくれないからね」
巨人に話をしていた時はお兄ちゃん呼びだったのに俺と話すときは兄貴に戻っているんだなと思ったけど、それをこの場で指摘するのはお互いにとって良くないような気がして俺は口をつぐんでいた。
あらためて倒れている野城君を見て見ることにしよう。
野城君は巨人の手によって叩き潰されてしまったのか、顔も腕も原型をとどめていない状態になっているので他人かもしれないという思いも少なからずあった。だが、ポケットに入っていた生徒手帳にはしっかりと野城君の学生証が入っていたのだ。
「どうしよう。私は教師なのに教え子を殺してしまった。何と言ってお詫びすればいいんだろう」
「そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。ほら、野城君も俺たちを殺そうと魔物をけしかけてきたんだし正当防衛だよ」
「状況的にはそうなるかもしれないけど、私はこの状況を野城君のご両親になんて説明したらいいんだろう。私が殺されそうになったから殺しちゃいました。なんて言えないよね。ねえ、お兄ちゃん、瑠璃はいったいどうしたらいいの?」
いつも元気で明るい瑠璃も今の状況を考えすぎてしまっているみたいで今にも泣きだしてしまいそうだった。
さっきまで兄貴呼びだったのに今はまたお兄ちゃんになっているのも瑠璃が弱っている証拠なのだろう。小さい時もこんなに弱っている姿を見たことはなかったので新鮮な気持ちになっていたが、野城君の死体を前にそんな事を考えてしまうのは不謹慎かもしれない。
「殺してしまった事実は変わらないけど、イザーちゃんに頼んで野城君の代わりを見つけてきてもらうのが一番早くて確実なんじゃないかな。イザーちゃんが今どこにいるのかを知る必要があるけどね」
「イザーさんの居場所がわかればいいんだったら、連盟の占い師の人にイザーさんの居場所を聞けばいいって事だよね。それなら大丈夫かも」
イザーちゃんにお願いしたところで野城君を生き返らせることが出来るというわけではない。
あくまで、この世界で死んだ野城君と他の世界で生きている野城君を交換するだけの話なのだ。
どこかの世界ではさっきまで生きていた野城君がいきなり死体に変わってしまうという事である。野城君がどのような人間関係を築いていたのかも気になるのだが。
「私が失敗しても兄貴はいつも助けてくれるよね。私が池に落ちた時も助けてくれたし、ケーキが小さいって文句を言った時もすぐに交換してくれたよね。小さいことかもしれないけど、その一つ一つが私の財産になってるんだよ。だから、ほんの少しずつでも兄貴にお返しが出来たらいいなって思ってるよ」
俺と瑠璃の記憶に違いがあるのは仕方ないと思うけど、池に落ちた瑠璃を俺が助けに行ったという事らしい。たが、俺は今も昔も変わらず泳げないので自分の命を犠牲にしてまで助けるかと言われると、助けたりなんてしないと思う。
他にも記憶にない話が色々と出ているのだけれど、俺はそんなに記憶力も良くないから覚えていないことにしておこうかな。
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