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勇者の試練
勇者の試練 第十話
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暗闇、永遠に続く階段、休憩所。
本当に試練なのかと言いたくなるような感じの試練が続いていたので四階もそんなものだろうと思っていたのだが、階段を降りた先にあった扉を開けるとそこには数えきれないくらいの魔物たちが俺たちを待ち構えていた。
魔物の奥から革靴の音を響かせながら見覚えのある男が近付いてきた。
「良くここまでたどり着けましたね。影男の手から逃れて暗夜道を抜けることが出来たものは過去にもおりましたが、あの階段の秘密を見抜いたものは今まで誰もいませんでしたよ。それだけでも凄いことだというのに、あなたはイスマールのトラップすら見抜いてしまいましたね。ただのお荷物かと思っていましたが、案外あなたもやる男だったのですね」
愛華ちゃんは何のためらいもなく男に向けて引き金を引いたのだが、弾丸が男に届くよりも早く何体もの魔物が肉の壁となって男を守っていた。
「そんなにカッカすると体にも心にも良くないですよ。あなたはもうすでに十分すぎるほど発育しているようですが、中身はまだまだ子供のようですね。大人はそんなに簡単に引き金を引いたりしないものですよ。なぜって、その引き金を引く責任を理解しているからですね」
相変わらず引き金を引き続ける愛華ちゃんではあったが、魔物たちが次々と壁になって男を守っているので愛華ちゃんの弾丸が男に届くことはなかった。何度同じ場所を撃ち続けていても、男のもとへ弾丸は届かなかった。
魔物たちは俺たちと男の間に割って入り、いつの間にか男の姿は魔物によって完全に隠されてしまっていた。
「ここまで来たことに敬意をはらってはおくが、残念なことにこれ以上先に進むことは出来ないのだよ。どんなに君たちが頑張ろうが、ココは魔物を無限に生み出すことが出来る特別な階層だからね。ココを見つけた時の喜びは凄いものではあったけれど、君たちのような強い人がここにやって来ることになったことの方が私は嬉しいのですよ。どんなに君たちが頑張ったところで、魔物を生み出す速さには勝てるわけがないのだがね」
「真琴さん、私の後ろに隠れてください」
自分の後ろに隠れろと愛華ちゃんは言いながら俺の手を引いていた。
俺はその言葉に逆らうようなことはせず、なるべく体が小さくなるように愛華ちゃんの後ろに隠れていた。
愛華ちゃんは持っていた銃を右手から左手に持ち替えるために背中を通していたのだけれど、右手に持っていた拳銃が左にて渡された時には見間違えてしまったかと思うような小さなオモチャの銃に変わっていた。
「絶対に向こうを見ないでくださいね。真琴さんが向こうに行っちゃったら私では助けることが出来ないですから」
愛華ちゃんが魔物たちに向かって引き金を引いたのだが、今まで聞いていた破裂音とは違う金属同士がこすれあっているような耳障りな音がしていた。
見るなと言われているので何が起こっているのかわからないけれど、あれほど強烈だった魔物の臭いも消えて静かになっているように思えた。
いったい何があったのだろうか。
今すぐにでも向こうを見てみたいという思いはあるけれど、やはり俺は愛華ちゃんに見るなと言われたことを守って向こうを見ることはなかった。
「もう大丈夫だと思いますよ。このフロアにあるという魔物を発生させる装置も無事には嗅いで来たみたいですよ。今となってはどれがその魔物発生装置なのかわからないですけどね」
許可を貰えたので愛華ちゃんの肩越しに向こうを覗いてみたところ、さっきまで数えきれないくらいいた魔物は全ていなくなっていた。
それと同時に、このフロアにあったと思われる物が全て中央に集まっていた。強力な力で引き寄せられてしまったかのようで、全てが一点に向かって集まっているように見えていた。
「あの物が集まってる場所があるじゃないですか。あそこに胡麻よりも小さいブラックホールを発生させたんです。時間にしてほんの一瞬だったんですけど、一瞬の間に魔物も部屋にあった物も全部あの中央に引き寄せられたんですよ。私が耐えられるのなんて千分の一秒にも満たない時間だったんですけど、その時間でも十分効果が有ってよかったですよ」
「そんなことまで出来るんだ。でも、せっかくならもっと大きいのを長い時間出しておけばよかったのにね」
愛華ちゃんは無知な俺を責めるでも軽蔑するでもなく慈愛に満ちた優しい眼差しを向けてくれた。
俺は何も知らなかったのだが、胡麻くらいの大きさだったとしてもそこに存在してしまうとこの惑星自体も引き寄せられてしまう危険性が高いらしい。
「イザーさんが一緒にいてくれたらもう少し上手に扱えたと思うんですけど、私だけだったらこれが限界だったんですよ。今後使う機会はないと思いますけど、もしも使う機会があれば真琴さんにも協力してもらうかもしれないですね」
「協力って何すればいいの?」
「そうですね。私が吸い込まれないように手を握ってくれてください。それだけで耐えられる気がしてますから」
ソレくらいだったら俺でも出来るとは思うけど、引き寄せられたもので出来た山を見ていると俺も一緒に引き寄せられてしまうのではないかと思ってしまった。
それでも、愛華ちゃんが出来るというのであれば可能なのだろうな。
本当に試練なのかと言いたくなるような感じの試練が続いていたので四階もそんなものだろうと思っていたのだが、階段を降りた先にあった扉を開けるとそこには数えきれないくらいの魔物たちが俺たちを待ち構えていた。
魔物の奥から革靴の音を響かせながら見覚えのある男が近付いてきた。
「良くここまでたどり着けましたね。影男の手から逃れて暗夜道を抜けることが出来たものは過去にもおりましたが、あの階段の秘密を見抜いたものは今まで誰もいませんでしたよ。それだけでも凄いことだというのに、あなたはイスマールのトラップすら見抜いてしまいましたね。ただのお荷物かと思っていましたが、案外あなたもやる男だったのですね」
愛華ちゃんは何のためらいもなく男に向けて引き金を引いたのだが、弾丸が男に届くよりも早く何体もの魔物が肉の壁となって男を守っていた。
「そんなにカッカすると体にも心にも良くないですよ。あなたはもうすでに十分すぎるほど発育しているようですが、中身はまだまだ子供のようですね。大人はそんなに簡単に引き金を引いたりしないものですよ。なぜって、その引き金を引く責任を理解しているからですね」
相変わらず引き金を引き続ける愛華ちゃんではあったが、魔物たちが次々と壁になって男を守っているので愛華ちゃんの弾丸が男に届くことはなかった。何度同じ場所を撃ち続けていても、男のもとへ弾丸は届かなかった。
魔物たちは俺たちと男の間に割って入り、いつの間にか男の姿は魔物によって完全に隠されてしまっていた。
「ここまで来たことに敬意をはらってはおくが、残念なことにこれ以上先に進むことは出来ないのだよ。どんなに君たちが頑張ろうが、ココは魔物を無限に生み出すことが出来る特別な階層だからね。ココを見つけた時の喜びは凄いものではあったけれど、君たちのような強い人がここにやって来ることになったことの方が私は嬉しいのですよ。どんなに君たちが頑張ったところで、魔物を生み出す速さには勝てるわけがないのだがね」
「真琴さん、私の後ろに隠れてください」
自分の後ろに隠れろと愛華ちゃんは言いながら俺の手を引いていた。
俺はその言葉に逆らうようなことはせず、なるべく体が小さくなるように愛華ちゃんの後ろに隠れていた。
愛華ちゃんは持っていた銃を右手から左手に持ち替えるために背中を通していたのだけれど、右手に持っていた拳銃が左にて渡された時には見間違えてしまったかと思うような小さなオモチャの銃に変わっていた。
「絶対に向こうを見ないでくださいね。真琴さんが向こうに行っちゃったら私では助けることが出来ないですから」
愛華ちゃんが魔物たちに向かって引き金を引いたのだが、今まで聞いていた破裂音とは違う金属同士がこすれあっているような耳障りな音がしていた。
見るなと言われているので何が起こっているのかわからないけれど、あれほど強烈だった魔物の臭いも消えて静かになっているように思えた。
いったい何があったのだろうか。
今すぐにでも向こうを見てみたいという思いはあるけれど、やはり俺は愛華ちゃんに見るなと言われたことを守って向こうを見ることはなかった。
「もう大丈夫だと思いますよ。このフロアにあるという魔物を発生させる装置も無事には嗅いで来たみたいですよ。今となってはどれがその魔物発生装置なのかわからないですけどね」
許可を貰えたので愛華ちゃんの肩越しに向こうを覗いてみたところ、さっきまで数えきれないくらいいた魔物は全ていなくなっていた。
それと同時に、このフロアにあったと思われる物が全て中央に集まっていた。強力な力で引き寄せられてしまったかのようで、全てが一点に向かって集まっているように見えていた。
「あの物が集まってる場所があるじゃないですか。あそこに胡麻よりも小さいブラックホールを発生させたんです。時間にしてほんの一瞬だったんですけど、一瞬の間に魔物も部屋にあった物も全部あの中央に引き寄せられたんですよ。私が耐えられるのなんて千分の一秒にも満たない時間だったんですけど、その時間でも十分効果が有ってよかったですよ」
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「協力って何すればいいの?」
「そうですね。私が吸い込まれないように手を握ってくれてください。それだけで耐えられる気がしてますから」
ソレくらいだったら俺でも出来るとは思うけど、引き寄せられたもので出来た山を見ていると俺も一緒に引き寄せられてしまうのではないかと思ってしまった。
それでも、愛華ちゃんが出来るというのであれば可能なのだろうな。
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