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勇者の試練

勇者の試練 第六話

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 立派な扉を開けると下へと降りる階段が現れた。
 下のフロアが見えないのは照明が少ないからというだけではなく、階段がどこまでも続いているという事なのかもしれない。先ほど拾った光る石を投げてもその石が止まることなく延々と階段を転がっていたのだ。

「どこまでこの階段は続いているんですかね。ここまで長いのは不親切だと思いますよね」
「そうだね。俺もどこまで続くのか不安になっちゃうよ」

 銃に邪魔されずに普通に会話を出来ることにすら喜びを感じていたが、どこまで続くかわからないこの階段は精神衛生上も良くないと思う。俺はまだ大丈夫なのだが、女の子である愛華ちゃんはいつまでも階段を降り続けるのは疲れてしまうんじゃないかな。

「歩きっぱなしで疲れてないかな?」
「全然疲れてないですよ。でも、終わりが見えないのってちょっと嫌ですよね。さっき真琴さんが投げた石もどこまで行ったのかわからないですし、ちょっと試したいことがあるのでやっちゃっていいですか?」
「どんな事でも試してみるといいんじゃないかな。それで道が切り開けるなら嬉しいし」

「ちょっと待っててくださいね。今用意するんで少しだけ離れてもらっていいですか」

 少しだけ離れろと言われたので離れようとは思うのだけど、さっきみたいな影に襲われたらいやなので愛華ちゃんからはそこまで離れないようにしてみた。
 周りを気にしている俺ではあったが、さっきの影と同じ奴が襲ってきても気付くことが出来る自信はない。そんな場合は愛華ちゃんが先に気付いてくれるとは思うんだけど、俺も男として何とか自分で対処しなくてはいけないとは考えている。
 考えているだけではあるが。

 左手で持っている銃を背中を通すようにして右手で持ち変えると、先ほどまで拳銃だったはずなのに右手に持っているのは愛華ちゃんの腕よりも大きなバズーカになっていた。
 いったいどんな原理でそうなったのかわからないが、俺はそれに対して質問をすることはやめた。きっと聞いても理解なんて出来ないと思うし、理解出来ないのなら最初からそういうものだったと思っていた方がいいと思う。

「ちょっと音がうるさいかもしれないですけど、気にしないでくださいね」

 すぐ隣でバズーカ砲をぶっぱなる女の子がいるのに気にしないことなんて出来るのだろうか。ほとんどの人は気になってしまうと思うけれど、俺は気にしないことにした。
 なぜなら、愛華ちゃんが気にするなといったから気にしないことにするのだ。もしも、どうしても銃が変化する理由を知りたいと思うのであれば、自分の命を懸けて質問をしてみるのもいいかもしれない。
 俺として、その質問の答えを知ることと命を懸けることは釣り合っているとは思えないだけの話なのだ。

 愛華ちゃんは下でも上でもなく正面に向かって一発バズーカを撃った。
 すぐ近くでの事だったので衝撃で俺はよろけてしまって階段に座り込んでしまったが、何とかそれ以上バランスを崩すようなことはなく下に落ちてしまうことはなかった。

 愛華ちゃんの撃ったロケット弾はそのまま真っすぐ向かっていたが、途中で軌道を変えるとそのままくねくねと曲がりながら何かに衝突をして爆発していた。
 さすがに距離があるので着弾した時の音は聞こえても爆風は届いていなかったが、着弾したすぐ後に階段の終わりが見えてきた。

 すぐ近くの地面には俺が落とした光る石も落ちていたのだけれど、拾った後で上を見てみると階段はわずか十五段しかないという事に気付かされた。
 あれだけ長い時間階段を降りていたと思ったこともあり、あれだけ長い時間階段にいたのは俺の気のせいであったのかと考えてしまっていた。

「こういうトラップがあるのもいやらしいですよね。何も気づかなかったら延々と階段を降りる羽目に遭ってたかもしれないですよね。それにしても、この階段が地下二階なのか階段を降りたフロアが地下二階なのかわからないですよね」
「そう言われるとそうかもしれないね。あれだけ長い階段がただの階段だったら怒っちゃうかもしれないよ」
「真琴さんが怒るって言うのは珍しいですよね。ちょっと見たいかも」

 そんな冗談を言い合っているといつの間にか突き当りにぶち当たってしまった。
 階段を降りてから一本道だったので迷うことはないはずなのだが、俺と愛華ちゃんは不思議なことに道を間違えてしまったのだ。

「ここまで他に通路とかなかったよね?」
「無かったと思いますよ。壁に隠し扉があった場合は別ですけど、そんなに怪しいって思うようなところはなかったと思うんですよね。ちょっと離れてこの不審な壁に一発ぶち込んでみますか」

 愛華ちゃんは俺と一緒に壁から離れると、先ほども使ったバズーカ砲を取り出して壁に向かって一発打ち込んでいたのだ。
 先ほどと違ってすぐ近くの壁に当たったので音だけではなく衝撃も俺に届いていたのだった。

 耳の奥がキンキンした状態でゆっくりと目を開けて壁を見てみると、そこには崩れかかった壁に隠されるように下へと降りる階段があった。

「本当にあるとは思いませんでしたよ。ちょっとした気晴らしのつもりで撃っちゃったんですけどね」
「気晴らしで見つけられたならよかったよね」

 気晴らしでバズーカをぶっ放すのはどうなのだろうと思ったけれど、あまりにも強い衝撃が俺の全身を襲ってきたことを思い出すと、怖くて怖くて何も言えなくなってしまっていた。

「じゃあ、次の階に行ってみようね。今度はちゃんと床が見えるくらいの深さだよ」
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