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 店長の俺が異世界に旅立ってしまった事でカフェの営業をどうすればいいのだろうという問題があったのだ。
 栗宮院家で話し合った結果、物事が片付いたタイミングでカフェと異世界を繋いでしまえばいいという事になってしまった。
 そんなことが出来るのかと思ったのだが、ある特定の条件を決めてそれを厳守すれば不可能ではないという答えに導かれたようだ。

 愛華ちゃんの話によると、隔日間隔で向こうの世界とこちらの世界を順番にカフェに繋げることでお互いの世界に干渉しなくなるという事だ。
 どちらかの世界に繋がっているときは繋がっていない世界のカフェに入ることは出来ず、休業という形をとることになるのだ。元々不定期で急に休んでいたような感じだったので定休日が出来ることは利用する側にとってもわかりやすいと評判になっていた。

 隔日で休みといっても珠希ちゃんとしてはこちらとあちらで連続営業している事になるので休みがないのではないかとも思われたのだが、俺たちが今いるこの世界には面識のない店に入るという人があまりいないので開店休業状態ではあったようだ。

 そんな中、ポンピーノ姫が相談したいことがあると言ってカフェにやってきたのだ。
 お姫様なのに護衛もつけず一人でふらっとやってきたのだが、以前から自由に出歩いていたという事が役に立っているのかもしれない。

「イザーさんの能力って死んだ人をどこかに連れていって生き返らせるって事なんですか?」
「さすがのイザーちゃんでも死んだ人を生き返らせることは出来ないと思うよ。生き返らせるのではなく、他の世界線にいる同じ人を連れてくるってのが正解かな」

 ポンピーノ姫は俺の説明を聞いても理解出来ていないようなのだが、目の前で何度も見ている俺もイザーちゃんがやっていることを全然理解出来ていないので仕方ない。今俺たちがいる世界にとてもよく似た別の世界があるという事も信じられないことだし、イザーちゃんがそこを自由に行き来しているという事も理解出来ない。
 何となく理屈はわかっているのだけど、それを信じ切ることなんて出来ていないのだ。

「店長もお姫様も難しく考えすぎなんですよ。お姫様はこの世界しか知らないので理解出来ないのもわかりますけど、店長はココの世界で三か所目になるんですからそろそろ理解してもいい頃合いだと思うんですけどね。あ、一番最初の世界で勇者だったのは記憶に残ってないんでしたっけ、これは聞かなかったことにしてください」
「真琴さんって別の世界でも勇者だったって事なんですか。他の世界がどんなところなのか全く想像もつかないですけど、いろんな世界で勇者に認定されるなんて真の勇者として祀られるべきですよ」

 俺の知らないところで勇者として認められているというのは嬉しいことなのかもしれないけれど、俺自身としては全く自覚が無いことなので少し複雑な気持ちになっていた。この世界で魔王を倒すことが出来るだけで勇者として認められるのも変な話だと思うし、勇者として何をすればいいのかというのも不明なのだ。

「勇者ってもっと怪物みたいな人を想像していたんですけど、真琴さんって全然そんな感じではないですよね。むしろ、真琴さんのお仲間の方がやってることが怪物時見ていると思うんですけどね。あ、珠希さんは私たちと違う見た目でちょっと動物っぽくて可愛らしいと思いますよ。真琴さんの他のお仲間は皆さん恐ろしい力を持ってるので、ちょっと怖いですけどね」
「ねえ店長。お姫様がボクの事を可愛いって言ってくれましたよ。こんなに可愛らしいお姫様に可愛いって言われてしまったボクはどれだけ可愛いんでしょうね。店長もボクの事を可愛いって思ってくれますか?」

 珠希ちゃんは耳と尻尾を元気よく動かして俺に褒められるのを待っている。見た目を気にしなければ完全に人間にしか見えない行動をとる珠希ちゃんだが、今みたいに何か感情が入ると途端に動物っぽくなるところは可愛いと思っている。でも、そんな事を言ってしまうと会うたびに可愛いところを言わされそうなので何も言わないでおくのが正解だろう。
 俺が可愛いというのを待っている珠希ちゃんが少しずつ怒ってきているのがわかるのだけど、なぜかポンピーノ姫も少しずつ不機嫌になっていっている。
 それは何故なのだろう。

「もういいです。店長に可愛いって言ってもらうのは諦めました。ボクは別に可愛いのが売りじゃないんで気にしないですもんね」

 感情がリンクしている珠希ちゃんの耳と尻尾はさっきまでの元気の良さをどこへやったのかわからなくなってしまうくらい落ち込んでいるのがまるわかりだった。そこまで気にするようなことでもないだろうと俺は思うのだが、ポンピーノ姫も俺が可愛いと言わなかったことが不満なようだ。

「どこの世界も男性は愛情表現が下手なんですよね。以前のお父様も真琴さんみたいに可愛いって言わない人でしたからね。私もお母様も可愛いって直接言われていたことが無いと思いますもん。今のお父様はイザーさんに脳を弄られたんじゃないかって思うくらいに感情を言葉に出す人になってますけど、それがお父様はお父様本人だけど別の世界のお父様だから私の知っているお父様とは別人って事なんですよね?」
「本人で間違いはないけど別人って事になるね。よくわからない話になるけど、別の世界にいたシュヴァンツ・フォン・アルシュロッホ九世って事で間違いないんだよ」
「あそこまで性格が変わると別人であってほしいって思っちゃいますけどね。もしかしたら、私の本当のお父様も今のお父様みたいに感情を表に出す可能性があったって事なんでしょうか?」

 その可能性はあるのかもしれないけど、全く同じ世界で全く同じ暮らしをしている二人なのに性格が全く変わってしまう事もあるみたいなので答えるのは難しい。
 全く同じ人だとしても、一方では民を救う英雄であり、もう一方では民を苦しめる悪魔のような人間である可能性だってあるのだ。きっかけなんて些細なものかもしれないが、想像も出来ないような大きな変化もあり得るという事なのである。

「お姫様はボクと違ってこの世界に必要とされている人なんだから気にすることはないと思うよ。王様だけじゃなくお城にいる人たちはみんなこの世界にいた人たちじゃなくなってるんだし、最後の一人として意地を見せてくれたらいいんじゃないかな。何か困ったことがあったらボクがいつでも話を聞いてあげるからね」
「ありがとうございます。お父様だけではなくみんなも別の世界の人と入れ替わってるって事なんですね。そう考えると、みんながあんなに変わってしまった理由も納得できるというものです。死体をもてあそばれたわけではないという事を思えばみんなが入れ替わったという事の方がマシかもしれないですよね。慣れるまで時間はかかっちゃうかもしれないですけど、私もどこかの世界の人と入れ替えられないように頑張ります」

 頑張るようなことでもないとは思うのだけど、イザーちゃんの機嫌を損ねないように気を付けるのは大切かもしれない。

「ボクも何で選ばれたのかわからないんですけど、お姫様は大丈夫なんじゃないかと思いますよ。野生の勘ってやつですけどね」
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