上 下
64 / 111
王様リセマラ

王様リセマラ 第四話

しおりを挟む
 バラバラに飛び散った肉片を綺麗に片付けると、何事も無かったかのようにイザーちゃんが玉座に座って周りを見回していた。
 目も口もあけたままのお姫様はイザーちゃんと目が合うと声にならない悲鳴を上げてその場に座り込んでしまった。

「あなたお姫様でしょ。お漏らしなんてはしたないわよ」

 お姫様のスカートが一部変色しているのはそういう理由なのかと思ったが、お姫様はそんな事を気にするわけもなくイザーちゃんから離れようと体をのけ反らせていた。
 だが、腰が抜けているのかお姫様はその場から動くことは出来なかった。

「あなたも子供じゃないんだから自分の不始末くらいは自分で何とかしなさいよ。じゃあ、私たちが殺した人たちを連れてくるからそれまでに着替えも済ませておきなさいよ」
「ちょちょちょちょっと、意味が分からないんだけど。なんで、なんでなんでなんでなんで、なんでみんな殺されたの?」

「なんでって、あなたたちがお兄さんの事をバカにしたからでしょ」
「そうよ。お兄ちゃんの事バカにした罰よ」
「別にバカになんてしてないと思うけど」

「バカにしてないって事は、アレはあなたたちの素って事になるけど良いのかな?」
「そっちの方がタチが悪いと思うんだけど」
「そ、そそそそ、そういう意味じゃなくて、私たちは勇者様のお召し物が珍しいと思って興味を持っただけですし」

「そんな感じじゃなかったと思うけどな。ねえ、勇者の称号を与える儀式ってあんな一言で終わるようなものなの?」
「一言ではなかったと思うけど」
「そういう事を言ってるんじゃないってわかるよね?」

 みんなから詰められているお姫様を見ると少し気の毒に思えてきた。
 彼らからしてみれば俺みたいな良くわからない男とあまり長い時間関わりたくないと思ってしまうかもしれないな。立場が逆なら俺もそう思っていたかもしれない。
 でも、それでみんなの怒りを買ってしまうんだとしたら、考え方を改めた方が良いかもしれないな。

「お兄さんは私達には出来ない魔王を倒すって事が出来る勇者であることはわかってるよね?」
「はい、それはみんなわかってます」
「それをわかってるのに、あんな態度をとるなんてどうなのかな?」
「良くないと思います」
「それがわかってるならいいんだよ。でも、他の人達はその事をわかってなかったのかな?」
「そうだと思います」

 完全に答えを誘導しているようにしか思えないのだが、お姫様はイザーちゃんが動くたびに表情をこわばらせていた。
 何か一つでも選択を間違えると殺されてしまう。そんな緊張感がお姫様から感じられていた。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私たちはあなたをどうこうしようなんて思ってないから。ほら、お姉ちゃんだけは私達よりも少し年上だけどさ、あなたと私たちは年齢も近いと思うのよ。だから、あなたなら私たちの気持ちを理解してくれると思って生かしているのよ」

 お姫様はその言葉を聞いて小さく頷いていたが、その意味を理解することはないだろう。
 俺だってイザーちゃんが他の世界に行ったり来たりして人を連れてきて交換してるなんて信じられないのだ。この目で何度も見てるはずなのに、そんな事が本当に起こっているなんて信じられないのだ。

「そうだ、お姫様の名前を聞いてなかったわね。お名前を教えて貰っても良いかな?」
「私の名前ですか。私はポンピーノです」
「私の話をよく聞いてね。今から私はココにいた人たちを連れてくるんだけど、今までと同じように接してあげてね。あなたが少しでも変な言動をとってしまったら私はあなたの事も殺さないといけなくなっちゃうのよ。それだけは理解してほしいな。ポンピーノ、あなたはお利口さんだから私の言いたいことはわかるよね?」

 ポンピーノ姫はイザーちゃんの言葉を理解しているのかはわからないけど、怯えた表情のまま深く頷いていた。
 イザーちゃんはポンピーノ姫の手を引いてそのまま玉座の奥にある扉へと向かっていった。とても楽しそうなイザーちゃんとは対照的にポンピーノ姫は浮かない表情でややうつむき気味に歩いていた。


「イザーちゃんが連れてくる王様たちはみんなちゃんとしてる人たちだといいね」
「そうね。全員がちゃんとしてる可能性は低いかもしれないけれど、王様くらいはまともだといいわね」

「またおかしなことを言う人だったら私が撃ち殺してあげますよ」
「兄貴の事をバカにされるのは悔しいもんね」

 俺の事で怒ってくれるのは嬉しいことではあるけれど、他の世界から同じ人たちを連れてくることが出来るとは言えこんなに簡単に王様たちを殺してしまってもいいのだろうか。この世界だけではなく他の世界にも良くない影響を与えてしまうような気がするのだが、彼女たちにとってはそんな影響なんて気にする必要もない些細なコトだとでも言うのだろうか。


 俺たちが最初に入ってきた扉が開くと何事も無かったかのように貴族たちが入ってきていた。
 相変わらず俺の事を小バカにしたような態度をとっている人たちばかりなのだが、イザーちゃんが連れてきた人たちは先ほどまで生きていた人たちと何も変わっていないのかもしれない。

 このままだと、王様も貴族たちも誰一人として何も変わらないのかもしれないな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...