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悪魔狩り

悪魔狩り 第二話

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 うまなちゃんから何か相談を受けることはないのだけれど、一部の生徒の間で俺の事が噂になっているのか一日に何人か俺の所へ相談をしに来る人がいるのだ。
 生徒だけではなく、教師や学校職員と言った大人まで相談に来ることもあったのだが、午彪さんと奈緒美さんも俺に相談をしに来るのはやめてもらいたいと思ってしまった。

「お兄さんがそこまで信用されるってのは予想外だったけど、今までの頑張りを見ていたらそれも納得だよね」
「俺は別にそこまで特別なことなんてしてないと思うんだが」
「お兄さんにそのつもりが無かったとしても、周りはそう見てるって事だよ。もしかしたら、お兄さんの前世で何か相談されるようなことがあったのかもね」

 イザーちゃんは前世や運命と言ったモノが好きらしく、たびたびそういった話を俺にしてくる。うまなちゃんもそういった話が好きなようだが、俺と同じであまり前世というものに興味は持っていないのだ。
 不思議なことに、瑠璃と愛華ちゃんは自分の前世が何なのか気になっているようでイザーちゃんと三人でそういった話をしていることがあるようだ。


 背の高い女子の集団がカフェにやってきた。
 学割メニューもあるので生徒が来るのはごくありふれた光景ではある。中には学割対象外の商品なんかもあるのだが、それを頼むと俺に相談をすることが出来るという噂が広がっているようだ。
 そんなモノをわざわざ頼まなくても話くらいならいくらでも聞くと言っているのだけれど、相談する側としても無償で話を聞いてもらうという事に後ろめたさがあるのか俺の話を聞いてくれる人は誰もいなかった。
 金を払ってまで相談をしたいのであればちゃんとした資格を持っている人に相談した方がいいと思うのだけれど、なぜか俺に話をした生徒の満足度は高いらしく予約なんて一件も入っていないのに予約の取れない相談室と呼ばれているそうだ。

「あの、みんなに聞かれたら恥ずかしいので、あっちでお願いできますか?」
「別にかまわないよ。イザーちゃんも一緒に話を聞くことになるんだけど、それでも大丈夫かな?」
「えっと、恥ずかしいけど大丈夫です。お願いします」

 三畳ほど大きさの部屋は外から中の様子をうかがうことが出来ない特別仕様になっている。
 何かやましいことをしているのではないかと疑われないために生徒と二人だけで入ることは避けているのだが、そんなに気を遣わなくても大丈夫だと言われているのは俺が信用されているからなのか俺が何もしないヘタレだと思われているのか疑問である。

 それでも、この部屋を使って相談を受けることはそれほど多くなく、たいていの相談は友達と一緒に聞いてもらうという事が問題解決までに必要な準備段階だったりもするのだ。
 自分がどんなことで悩んでいるかという事を友達に聞いてもらう事で解決への糸口が見つかる、そのきっかけをつかむための一歩として利用されているという面もあったりするのであった。

「君の相談は何かな。私とお兄さんで解決出来るといいんだけどね」

 男子生徒の時は俺が話を振って、女子生徒の時はイザーちゃんが話を振る。二人の間に出来た決まり事ではあったが、同性から話を始めるという事はそれなりの効果もあるようだ。

「私はバレーをやってるんですけど、去年の冬くらいから体重が増えてきて跳べなくなってきたんです。ダイエットも頑張ってはいるんですけど、どうしても体重がおちないんです。どうしたらいいでしょうか?」

 成長期に過度なダイエットは良くないという話は聞いたことがある。ただ、この生徒に関してはバレー部で運動もしているし、間食なんかは控えているという事なので今のままでも問題は無いようにも思える。
 と、思っていたのだが、相談室にあるお菓子を遠慮せずにパクパクと食べている姿を見てしまうと間食を控えているというのが本当なのか疑問に思ってしまった。

「わかる。その気持ちはよくわかるよ。私もダイエット頑張ってるのに全然痩せなかったときがあるからその気持ちがわかるよ。今もコツコツと頑張って入るんだけどさ、停滞期に入ったからなのかホルモンバランスが乱れているのか全然成果が出ないんだよね。あなたも頑張っているのはわかるけど、頑張ってるのに報われないって辛いよね」
「やっぱりそうですよね。努力してるのに報われないって辛いですよね。どうして上手くいかないんですかね」
「本当、人間の体って不便に出来てるよね」

 冷蔵庫から取り出したシュークリームを食べながらダイエットをしている彼女たちにかける言葉が見つからなかった。
 何か気の利いたことでも言えればそれでいいのだろうが、今の俺には彼女たちに何を言えばいいのかわからなかった。
 いや、何を言うべきなのかはわかっているけれど、その言葉を言ってしまっても良いのかという迷いがあるのだ。

 俺は結局のところ、二人に対して言いたいことを何も言えなかった。

 カフェなので甘いドリンクもたくさん用意している中で、二人が飲んでいたのはどこにでもあるような普通の緑茶だった。
 二人なりのせめてもの抵抗なのだろうが、抑えるべきところはそこではないように思えるのだ。
 もちろん、その事を二人に対して言ったりなんかはしない。そんな野暮なことは言うことなんて無いのだ。


 バレー部の彼女は何かすっきりしたのか晴れやかな顔で相談室から出ていった。
 俺とイザーちゃんは彼女を見送ると、残っていたシュークリームを一つずつ手に取っていた。

「あの子、間食を控えているって言ってたけど、普通にお菓子とかパクパク食べてたよね」
「うん、それは俺も思ってた。でも、イザーちゃんも普通に食べてたよね?」
「私は普通に食べるよ。だって、この世界の食べ物って何でもおいしいんだもん」
「でも、ダイエットしてるならあんまり食べ過ぎない方がいいと思うんだけど」
「だよね。私もそう思うよ」

 俺の言葉に同意したはずのイザーちゃんがシュークリームに続いてドーナツも食べ始めたことに対して何か言うべきなのかと悩んでいた。
 イザーちゃんは嬉しそうな顔でドーナツを見つめながら恐ろしいことを言い放った。

「あの子も私みたいに魔法で消費カロリーを増やせればいいのにね。加減を間違えると瞬きしただけで餓死しちゃうことになるんだけどね」
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