上 下
35 / 111
誘拐事件

誘拐事件 第十一話

しおりを挟む
 何事も無かったかのようにイザーちゃんが戻ってきたことで三人の間に緊張が走ったのだが、そのすぐ後に入ってきたうまなちゃんの姿を見た瞬間に三人の目から自然と涙がこぼれ落ちていた。

 その姿を見た俺たちは軽く戸惑ってしまったのだが、一番戸惑っていたのはうまなちゃんだろう。
 三人の男はうまなちゃんに向かって深々と頭を下げるとそのまま泣き続けていた。

 大の男がここまで泣きじゃくっている姿を見るのは初めての事だったが、俺だけではなくイザーちゃんも瑠璃もドン引きしていたし、愛華ちゃんに至っては三人に銃口を向けていた。

「え、これってどういう状況?」

 うまなちゃんの疑問は当然の物だと思うけれど、それに答えることが出来る人は俺たちの中には誰もいなかった。
 この三人の男たちにしかわからない何かがあるのだろう。先ほど話していた金色の天使と銀色の悪魔というものに関係しているのかもしれない。

「金色の天使と銀色の悪魔が同時に存在するという事は、ココはやはり私たちの知らない世界なのだな」
「それは間違いないと思います。ですが、我々の知っている金色の天使と少し違うような気もするのですが」
「そのようなことは気にする必要はない。我々の前に金色の天使がいるという事実が重要なのだ」

 俺は何となく話を聞いていたのでそういう事なのかと理解出来て来たのだが、うまなちゃんたちはこの男の人達が何の話をしているのか理解出来ていないだろう。
 イザーちゃんの事を恐れていた理由とうまなちゃんを見て泣き出した理由を俺が理解している範囲で説明すると、瑠璃はイザーちゃんをからかい愛華ちゃんはうまなちゃんの事を尊敬のまなざしで見つめていた。
 うまなちゃんはただただ困っているだけであった。


「私は別に悪魔ってほどでもないと思うよ。君たちの世界で私に似ている人が銀色の悪魔って呼ばれているのかもしれないけど、私は別に悪魔的なコトとかしてないし」

 この人たちを殺したり殺そうとしたのは悪魔的なことではないのかと言いそうになってしまったが、そんな事を言ってしまえば俺が酷い目に遭いそうな予感がしてのでグッとその言葉を飲み込んだ。
 何かを察したイザーちゃんは俺の事を軽くにらんできたけれど、すぐにいつもの笑顔に戻っていた。その笑顔の裏にとても怖いものが隠れているように思えたのは先ほどの恐ろしい姿を見てしまったからかもしれない。

「でも、イザーさんは悪魔的所業を繰り返しているような気がするんですよね。私も午彪さんと奈緒美さんと協力してそれらを無かったことにしてきましたし」
「そういう余計なことは今言わなくてもいいの。ほら、このおじさんたちも私の事を怖がってるでしょ。愛華が余計なことを言うからだよ」
「ごめんなさいね。この人はあなたたちが知ってる銀色の悪魔さんとは違って少し優しい人ですからね。そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ」

 男たちはイザーちゃんの事を怖がっているようなのだが、それ以上に愛華ちゃんの事も怖がっているように見える。愛華ちゃんは気付いていないようなのだが、愛華ちゃんが近付いてきた時に男たちはどこからか取り出したナイフを力強く握っていたのだ。

「二人とも、この人たちを怖がらせたらダメだよ。私を誘拐した人と違う人だってことだし、あんまり意地悪しちゃダメでしょ。ほら、二人とも謝りなさい」

 五人の間に割って入ったうまなちゃんはイザーちゃんと愛華ちゃんに軽く説教を始めていた。イザーちゃんも愛華ちゃんも調子に乗り過ぎたことを謝ってから男たちとの距離をあけていた。

「ねえ、あの人たちってさっきの誘拐犯と性格が違い過ぎない?」
「別人なんだからそうなると思いますよ。イザーさんの事を悪魔って呼んでたのは面白いなって思ったんですけど、あんなふうに人を殺せる人は悪魔と呼ばれても仕方ないですよね」
「それを言うんだったら、愛華だって悪魔だと思うけどね。普通の人は誘拐犯を見つけてもいきなり射殺したりしないし。人質であるうまなちゃんの安全を確保してからにした方がいいと思ったな。もしかして、久々に人を撃てるという事で舞い上がっちゃったのかな」
「それはイザーさんの話ですよね。ご自身がそうだったので私もそうだと思いたいって事ですよね。私は人数の不利を解消するためにやったことですけど、イザーさんのやったことは完全に不必要な行動でしたよね」

 俺はイザーちゃんと愛華ちゃんは仲が良いと思っていた。
 うまなちゃんを助けに行くと決めた時も協力し合っているだと思ったけれど、今にして思うと二手に分かれたのも一緒に居たくなかったからという事なのだろうか。
 そんな事はないと信じたいのだが、こうして二人で言い争っている姿を見ると、その信じたいという気持ちが少しずつ失われているように思えていた。

「ストップ。喧嘩はそこまでにしてね。銀色の悪魔も桃色の処刑人も落ち着いてね」

 瑠璃がイザーちゃんと愛華ちゃんの隣に立って二人の腰にそっと手を回していた。
 三人の男たちは突然やってきた瑠璃に驚いたのかうまなちゃんの影に隠れるようにしてこちらの様子をうかがっているのだが、三人の男が見ているのはイザーちゃんでも愛華ちゃんでも俺でもなく、瑠璃をじっと見つめているのであった。

 銀色の悪魔に桃色の処刑人。
 また新しい二つ名が出てきたけれど、こうなると瑠璃が向こうの世界で何と呼ばれているのかが気になってしまう。

 銀色の悪魔も桃色の処刑人も俺と同じように気になっているようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

処理中です...