上 下
31 / 111
誘拐事件

誘拐事件 第七話

しおりを挟む
 イザーちゃんは転がっている死体を重ねてその上に黒い布をかけていた。
 また何か怪しげな儀式でも行うのだろうと思って見ていたのだが、布をかけただけで満足したのか俺の横来ると瑠璃に向かって指示を出していた。

「もう、イザーさんは人使いが荒いんだから。今の私がやってもうまくいくとは限らないんだからね」
「それはわかってるよ。たとえ失敗するのがわかっていたとしてもお姉ちゃんにお願いするしかないんだからね」
「あんまり期待しないでよ」

 瑠璃が天井に向かって何かをつかむように手を伸ばしていた。
 いつの間にかイザーちゃんが俺の手を握っていたのだが、少しずつ握る力が強くなっていった。

「お姉ちゃんの魔法が成功するか失敗するかはお兄さんの応援にかかってるんだからね。黙って見てるだけじゃなくて、心を込めて応援してあげてね」
「応援するって、いったい何に対して応援すればいいの?」
「頑張れとかお姉ちゃんなら出来るとかそんな感じでいいと思うよ。お兄さんがお姉ちゃんを応援することに意味があるんだからね」

 言われたことは素直に実行する。疑問に思ったことがあったとしても、この状況を俺よりも理解しているイザーちゃんのいう事なら素直に受け止める。
 それが、大人の対応というやつだ。

 いつまで応援をすればいいのかわからないのでずっとずっと瑠璃の事を応援していたのだが、いつの間にか黒い布が地面に敷かれていた。さっきまであった三人の死体が無くなったのか、黒い布の下には何もない状態になっていた。

「兄貴、そんなに頑張れって言われたらちょっと恥ずかしいよ。集中出来なくてちょっと時間かかっちゃったけど、何とか成功はしたよ。兄貴の応援が無ければもう少し早く出来たかもしれなかったけどね」
「そうなのか。なんかごめん」

「そんなことないでしょ。お姉ちゃんはいつもより気合が入っているように見えたけどね。お兄さんに応援されて嬉しいって思ってたくせに」
「ちょっと、変なこと言わないでよ。私が兄貴に応援してもらったからって嬉しいって思うわけないでしょ。言いがかりは良くないよ」
「言いがかりじゃないと思うんだけどな」

 二人が言い争っているのを横目に見ながら、俺はあの布の舌がどうなっているのか気になって布をめくろうと二人から離れていた。
 黒い布の目の前まで来た俺は手を伸ばして布をめくって見ようとした瞬間、俺の手をイザーちゃんが掴んでいて瑠璃は俺と布の間に割って入って俺が前に進めないように押してきたのだ。

「今はまだ布に触れちゃダメだよ。お兄さんなら大丈夫かもしれないとは思うけど、万が一って事もあるからね」
「兄貴はいつも注意力が足りないから気を付けてよね。もう少しで戻ってくると思うから、それまでは我慢して」

 自分よりも小さい女子二人の手で俺は完全に動きを封じられていた。前に進むことも後ろに下がることも横に避けることも出来ない、不思議な力によって完全に動きを封じられているのである。

「もう少しだけ待ってね。お姉ちゃんが頑張ってくれたから成功するはずだよ」
「大丈夫。私は出来ることをやったから。兄貴も私の事を応援してくれたし、きっと大丈夫なはず」

 二人は俺を押さえながらも視線は布の方に向いていた。
 俺も二人と同じように布を見ようとしていたのだが、瑠璃が俺の顎を上に押し上げてきていたので視線が天井に向かってしまっていたのだ。
 無機質な天井には照明がいくつか吊るされているのだが、その照明が一つだけ大きく揺れていた。他の照明はピクリとも動いていないのに一つだけが大きく揺れている。

「もう大丈夫かも。お姉ちゃんもよく頑張ったね」
「ありがとう。イザーさんの協力と兄貴の応援があったからかも」

 何が成功なのか気になっている俺ではあったが、相変わらず瑠璃の手で顎を押されているので天井以外を見ることが出来ないでいた。
 相変わらず一つだけ照明が大きく揺れていたのだけれど、瑠璃の力が少しだけ弱まったと同時に照明の揺れも収まっていた。

「もうお兄さんが見ても平気だと思うよ」
「そうだね。ここまでくればもう一息だもんね」

「お姉ちゃんの力もだいぶ戻ってきた感じかな?」
「どうだろう。その辺はよくわかってないんだよね。イザーさんから見てどうかな?」
「あの時と比べたら全然頼りないって思うけど、凄く成長していると思うよ。一人で何でもやっていた時よりも気持ちは楽になってたりするでしょ?」

「そうかもしれない。ココに来るまでは漠然とした何かから兄貴を守らないといけないって思ってたんだけど、イザーさんに色々と教えて貰ってからどうすればいいのかわかったからね。目的も理由も何もわからない状態だとどうしていいのか正直分からなかったんだよ」
「今は私もお兄さんを守ってるからお姉ちゃんの負担もその分少なくなってるしね」

 俺は確かに瑠璃に色々と助けてもらっていた。
 いじめを苦にして死のうと思ったことも何度かあったけど、そのたびに瑠璃が俺の事を支えてくれていた。妹に頼るなんて兄としてダメだとは思うのだが、あの時の俺は瑠璃だけにしか頼ることが出来なかったのだ。両親も俺の事を見守ってくれてはいたけれど、誰よりも親身になって俺を支えてくれたのは、間違いなく瑠璃だったのだ。

「あの、さすがにずっと顎を押されてるのは苦しいんだけど。そろそろ外してもらってもいいかな?」
「ごめん、夢中になって忘れてた」

 瑠璃の手から解放された俺は深く息を吸って、ゆっくりと深呼吸をしていた。

 あの布がどうなったのか気になって見てみたところ、最初に見たときと同じように布の中に三人がいるように見えていた。
 ただ、少しだけ気になったのは、その布がもぞもぞと動いていたという事だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します

カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。 そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。 それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。 これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。 更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。 ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。 しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い…… これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

処理中です...