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誘拐事件

誘拐事件 第六話

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 うまなちゃんを誘拐した犯人のうち二人は愛華ちゃんの手で射殺されていた。
 残った一人もひどく混乱しているようなのだが、この状況で冷静でいろという方がおかしいのかもしれない。仮に、俺がこいつの立場だったとしたら、二人のように殺されても不思議ではないと思っているだろう。
 この死体をどうするのかわからないが、この場を今すぐにでも離れたいという思いはイザーちゃんには届いていないようだった。

「君たちがうまなちゃんを誘拐した目的って、お金だけなのかな?」

 イザーちゃんの質問に対して男は何度も首を縦に振っていた。

「じゃあ、お金が取れたらうまなちゃんを殺そうとはしなかったって事なのかな?」

 男は一瞬だけ間を開けて首を縦に振っていた。
 先ほどと違ってすぐに首を縦に振らなかったという事は、何か別の目的があったという風に答えているようにも思える。イザーちゃんもそう思ったようで、男の顔を掴むとそのまま椅子ごと持ち上げてしまった。

「ねえ、隠し事はしないでほしいんだけど。どうせ調べたらわかることなんだけどさ、君の口からちゃんと本当の事を言ってくれた方が助かるんだよね。私の質問にちゃんと答えてくれなかったら、次は持ち上げるだけじゃすまないかもしれないよ」

 いつの間にか男は椅子に手足を縛り付けられていた。縛り付けたのがいつだったのかわからないけど、イザーちゃんの倍は体重がありそうな男を片手で持ち上げることが出来るという事に驚いてしまった。
 不思議なことにうまなちゃんが怖いとは感じなかった。

「もう一度聞くけど、君たちはうまなちゃんを誘拐して何をしようとしてたのかな?」
「か、金持ちの娘なんで身代金をたっぷりいただこうって話をしてました。俺らのボスがついでにあんたらの事も攫って海外の変態に高値で売りつけようって計画だったんです」
「そんな事だろうと思ったよ。君たちのボスって、普通の人間なのかな?」
「ちょっと質問の意味が分からないんだが」

 男は間を開けずに答えていた。
 確かに、自分たちのボスが普通の人間なのかという質問にどう答えればいいのだろう。誘拐や人身売買の計画を立てるような人を普通の人間と言っていいのか悩むかもしれない。
 善良な一般市民ではないという事は間違いないと思うが、普通の人間かと聞かれると普通の人間とも言えるし普通の人間ではないとも言えるような気がする。

「普通の人間よりは悪い人間だと思います」
「質問の仕方が悪かったかもしれないな。君のボスは、自分の事を神や悪魔の生まれ変わりって言ってたりしたことはないかな?」
「それはないです」

 男は今までの質問の中で一番はっきりと答えていた。あまりにも自信満々に答えていたのでその理由が気になった俺は二人の話に割り込んでしまった。

「どうしてそんなに自信をもって言えるの?」
「俺らのボスは何とかって神様を信仰しているからな。自分の事を神の右腕と言ってるけど、自分が神様になれるなんて思ってないぞ。ましてや、あんた達みたいな悪魔とは縁遠いと思う」

 いきなり銃をぶっ放す女の子や片手で男を持ち上げるような女の子は悪魔だと言われても仕方ない。俺が向こう側の立場だったらそう思ってしまいそうだ。
 それくらい二人の行動は常軌を逸している。
 ただ、誘拐する方も悪魔と言っていいのではないかと思った。

「私たちが悪魔なわけないでしょ。こんなに可愛い女の子が悪魔なわけないよね」
「イザーちゃんも愛華ちゃんもちょっと意外な行動をとってるけど、普通の女の子だと思うよ」

 俺も少しだけ二人が悪魔なんじゃないかと思っていた。
 目の前に転がっている二人の死体に片手で軽々と男を持ち上げるなんて普通の人間ではないだろう。それこそ、悪魔が乗り移っていると言われてもおかしくない。

 何か言おうとしている男に向かってイザーちゃんが手を伸ばすと、男は口を固く閉じて何も言わないという意志を見せてきた。

「君たちのボスに確認したいことがあるんだけど、どこに行ったら会えるのかな?」
「さすがにそれは言えない。ボスの居場所なんて教えたら俺だけじゃなく俺の家族もみんなヤバいことになると思う。それだけは勘弁してくれ」
「教えてくれないんだったら、君もココで死んじゃうって事だね」

 イザーちゃんがゆっくりと男に近付いていき、その右手を男の首にかけると同時に何とも耳障りな音が聞こえてきた。
 耳ではなく頭に直接響くようで不快な音が消えると、男の頭はあり得ないくらい前に倒れておでこが胸につきそうになっていた。

 その時、誰かがドアを開けて中に入ってきた。
 コツコツとヒールの音を響かせながら俺の後ろに立つと、そのまま俺に抱き着くようにもたれかかって腕を俺の腰に回してきた。

「やっぱりイザーさんはみんな殺しちゃったんだね。これから大変なことになるかもよ」
「やっぱりってどういう事よ。それに、こっちの二人を殺したのは私じゃなくて愛華だから」
「私は別にみんな殺したことに対してとやかく言うつもりはないですよ。兄貴はどうするのが正解だと思う?」

 俺に抱き着いてきたのは妹の瑠璃だった。
 甘い匂いで気付いてはいたが、声を聴くまでは俺も殺されてしまうのではないかという恐怖を感じていたのだ。

「どうしたらいいんだろうね。死んだ人を生き返らせることなんて出来ないし」
「さすがに死んだ人を生き返らせることは出来ないよ。でも、生きてる人と交換しちゃえばいいんだよね」
「それが一番早いかもね。そのついでにこの邪魔で重い手甲を置いてこようかな」

 二人の言っていることが理解出来ていない俺は黙って二人を見ているだけであった。
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