30 / 111
誘拐事件
誘拐事件 第六話
しおりを挟む
うまなちゃんを誘拐した犯人のうち二人は愛華ちゃんの手で射殺されていた。
残った一人もひどく混乱しているようなのだが、この状況で冷静でいろという方がおかしいのかもしれない。仮に、俺がこいつの立場だったとしたら、二人のように殺されても不思議ではないと思っているだろう。
この死体をどうするのかわからないが、この場を今すぐにでも離れたいという思いはイザーちゃんには届いていないようだった。
「君たちがうまなちゃんを誘拐した目的って、お金だけなのかな?」
イザーちゃんの質問に対して男は何度も首を縦に振っていた。
「じゃあ、お金が取れたらうまなちゃんを殺そうとはしなかったって事なのかな?」
男は一瞬だけ間を開けて首を縦に振っていた。
先ほどと違ってすぐに首を縦に振らなかったという事は、何か別の目的があったという風に答えているようにも思える。イザーちゃんもそう思ったようで、男の顔を掴むとそのまま椅子ごと持ち上げてしまった。
「ねえ、隠し事はしないでほしいんだけど。どうせ調べたらわかることなんだけどさ、君の口からちゃんと本当の事を言ってくれた方が助かるんだよね。私の質問にちゃんと答えてくれなかったら、次は持ち上げるだけじゃすまないかもしれないよ」
いつの間にか男は椅子に手足を縛り付けられていた。縛り付けたのがいつだったのかわからないけど、イザーちゃんの倍は体重がありそうな男を片手で持ち上げることが出来るという事に驚いてしまった。
不思議なことにうまなちゃんが怖いとは感じなかった。
「もう一度聞くけど、君たちはうまなちゃんを誘拐して何をしようとしてたのかな?」
「か、金持ちの娘なんで身代金をたっぷりいただこうって話をしてました。俺らのボスがついでにあんたらの事も攫って海外の変態に高値で売りつけようって計画だったんです」
「そんな事だろうと思ったよ。君たちのボスって、普通の人間なのかな?」
「ちょっと質問の意味が分からないんだが」
男は間を開けずに答えていた。
確かに、自分たちのボスが普通の人間なのかという質問にどう答えればいいのだろう。誘拐や人身売買の計画を立てるような人を普通の人間と言っていいのか悩むかもしれない。
善良な一般市民ではないという事は間違いないと思うが、普通の人間かと聞かれると普通の人間とも言えるし普通の人間ではないとも言えるような気がする。
「普通の人間よりは悪い人間だと思います」
「質問の仕方が悪かったかもしれないな。君のボスは、自分の事を神や悪魔の生まれ変わりって言ってたりしたことはないかな?」
「それはないです」
男は今までの質問の中で一番はっきりと答えていた。あまりにも自信満々に答えていたのでその理由が気になった俺は二人の話に割り込んでしまった。
「どうしてそんなに自信をもって言えるの?」
「俺らのボスは何とかって神様を信仰しているからな。自分の事を神の右腕と言ってるけど、自分が神様になれるなんて思ってないぞ。ましてや、あんた達みたいな悪魔とは縁遠いと思う」
いきなり銃をぶっ放す女の子や片手で男を持ち上げるような女の子は悪魔だと言われても仕方ない。俺が向こう側の立場だったらそう思ってしまいそうだ。
それくらい二人の行動は常軌を逸している。
ただ、誘拐する方も悪魔と言っていいのではないかと思った。
「私たちが悪魔なわけないでしょ。こんなに可愛い女の子が悪魔なわけないよね」
「イザーちゃんも愛華ちゃんもちょっと意外な行動をとってるけど、普通の女の子だと思うよ」
俺も少しだけ二人が悪魔なんじゃないかと思っていた。
目の前に転がっている二人の死体に片手で軽々と男を持ち上げるなんて普通の人間ではないだろう。それこそ、悪魔が乗り移っていると言われてもおかしくない。
何か言おうとしている男に向かってイザーちゃんが手を伸ばすと、男は口を固く閉じて何も言わないという意志を見せてきた。
「君たちのボスに確認したいことがあるんだけど、どこに行ったら会えるのかな?」
「さすがにそれは言えない。ボスの居場所なんて教えたら俺だけじゃなく俺の家族もみんなヤバいことになると思う。それだけは勘弁してくれ」
「教えてくれないんだったら、君もココで死んじゃうって事だね」
イザーちゃんがゆっくりと男に近付いていき、その右手を男の首にかけると同時に何とも耳障りな音が聞こえてきた。
耳ではなく頭に直接響くようで不快な音が消えると、男の頭はあり得ないくらい前に倒れておでこが胸につきそうになっていた。
その時、誰かがドアを開けて中に入ってきた。
コツコツとヒールの音を響かせながら俺の後ろに立つと、そのまま俺に抱き着くようにもたれかかって腕を俺の腰に回してきた。
「やっぱりイザーさんはみんな殺しちゃったんだね。これから大変なことになるかもよ」
「やっぱりってどういう事よ。それに、こっちの二人を殺したのは私じゃなくて愛華だから」
「私は別にみんな殺したことに対してとやかく言うつもりはないですよ。兄貴はどうするのが正解だと思う?」
俺に抱き着いてきたのは妹の瑠璃だった。
甘い匂いで気付いてはいたが、声を聴くまでは俺も殺されてしまうのではないかという恐怖を感じていたのだ。
「どうしたらいいんだろうね。死んだ人を生き返らせることなんて出来ないし」
「さすがに死んだ人を生き返らせることは出来ないよ。でも、生きてる人と交換しちゃえばいいんだよね」
「それが一番早いかもね。そのついでにこの邪魔で重い手甲を置いてこようかな」
二人の言っていることが理解出来ていない俺は黙って二人を見ているだけであった。
残った一人もひどく混乱しているようなのだが、この状況で冷静でいろという方がおかしいのかもしれない。仮に、俺がこいつの立場だったとしたら、二人のように殺されても不思議ではないと思っているだろう。
この死体をどうするのかわからないが、この場を今すぐにでも離れたいという思いはイザーちゃんには届いていないようだった。
「君たちがうまなちゃんを誘拐した目的って、お金だけなのかな?」
イザーちゃんの質問に対して男は何度も首を縦に振っていた。
「じゃあ、お金が取れたらうまなちゃんを殺そうとはしなかったって事なのかな?」
男は一瞬だけ間を開けて首を縦に振っていた。
先ほどと違ってすぐに首を縦に振らなかったという事は、何か別の目的があったという風に答えているようにも思える。イザーちゃんもそう思ったようで、男の顔を掴むとそのまま椅子ごと持ち上げてしまった。
「ねえ、隠し事はしないでほしいんだけど。どうせ調べたらわかることなんだけどさ、君の口からちゃんと本当の事を言ってくれた方が助かるんだよね。私の質問にちゃんと答えてくれなかったら、次は持ち上げるだけじゃすまないかもしれないよ」
いつの間にか男は椅子に手足を縛り付けられていた。縛り付けたのがいつだったのかわからないけど、イザーちゃんの倍は体重がありそうな男を片手で持ち上げることが出来るという事に驚いてしまった。
不思議なことにうまなちゃんが怖いとは感じなかった。
「もう一度聞くけど、君たちはうまなちゃんを誘拐して何をしようとしてたのかな?」
「か、金持ちの娘なんで身代金をたっぷりいただこうって話をしてました。俺らのボスがついでにあんたらの事も攫って海外の変態に高値で売りつけようって計画だったんです」
「そんな事だろうと思ったよ。君たちのボスって、普通の人間なのかな?」
「ちょっと質問の意味が分からないんだが」
男は間を開けずに答えていた。
確かに、自分たちのボスが普通の人間なのかという質問にどう答えればいいのだろう。誘拐や人身売買の計画を立てるような人を普通の人間と言っていいのか悩むかもしれない。
善良な一般市民ではないという事は間違いないと思うが、普通の人間かと聞かれると普通の人間とも言えるし普通の人間ではないとも言えるような気がする。
「普通の人間よりは悪い人間だと思います」
「質問の仕方が悪かったかもしれないな。君のボスは、自分の事を神や悪魔の生まれ変わりって言ってたりしたことはないかな?」
「それはないです」
男は今までの質問の中で一番はっきりと答えていた。あまりにも自信満々に答えていたのでその理由が気になった俺は二人の話に割り込んでしまった。
「どうしてそんなに自信をもって言えるの?」
「俺らのボスは何とかって神様を信仰しているからな。自分の事を神の右腕と言ってるけど、自分が神様になれるなんて思ってないぞ。ましてや、あんた達みたいな悪魔とは縁遠いと思う」
いきなり銃をぶっ放す女の子や片手で男を持ち上げるような女の子は悪魔だと言われても仕方ない。俺が向こう側の立場だったらそう思ってしまいそうだ。
それくらい二人の行動は常軌を逸している。
ただ、誘拐する方も悪魔と言っていいのではないかと思った。
「私たちが悪魔なわけないでしょ。こんなに可愛い女の子が悪魔なわけないよね」
「イザーちゃんも愛華ちゃんもちょっと意外な行動をとってるけど、普通の女の子だと思うよ」
俺も少しだけ二人が悪魔なんじゃないかと思っていた。
目の前に転がっている二人の死体に片手で軽々と男を持ち上げるなんて普通の人間ではないだろう。それこそ、悪魔が乗り移っていると言われてもおかしくない。
何か言おうとしている男に向かってイザーちゃんが手を伸ばすと、男は口を固く閉じて何も言わないという意志を見せてきた。
「君たちのボスに確認したいことがあるんだけど、どこに行ったら会えるのかな?」
「さすがにそれは言えない。ボスの居場所なんて教えたら俺だけじゃなく俺の家族もみんなヤバいことになると思う。それだけは勘弁してくれ」
「教えてくれないんだったら、君もココで死んじゃうって事だね」
イザーちゃんがゆっくりと男に近付いていき、その右手を男の首にかけると同時に何とも耳障りな音が聞こえてきた。
耳ではなく頭に直接響くようで不快な音が消えると、男の頭はあり得ないくらい前に倒れておでこが胸につきそうになっていた。
その時、誰かがドアを開けて中に入ってきた。
コツコツとヒールの音を響かせながら俺の後ろに立つと、そのまま俺に抱き着くようにもたれかかって腕を俺の腰に回してきた。
「やっぱりイザーさんはみんな殺しちゃったんだね。これから大変なことになるかもよ」
「やっぱりってどういう事よ。それに、こっちの二人を殺したのは私じゃなくて愛華だから」
「私は別にみんな殺したことに対してとやかく言うつもりはないですよ。兄貴はどうするのが正解だと思う?」
俺に抱き着いてきたのは妹の瑠璃だった。
甘い匂いで気付いてはいたが、声を聴くまでは俺も殺されてしまうのではないかという恐怖を感じていたのだ。
「どうしたらいいんだろうね。死んだ人を生き返らせることなんて出来ないし」
「さすがに死んだ人を生き返らせることは出来ないよ。でも、生きてる人と交換しちゃえばいいんだよね」
「それが一番早いかもね。そのついでにこの邪魔で重い手甲を置いてこようかな」
二人の言っていることが理解出来ていない俺は黙って二人を見ているだけであった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~
下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。
一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。
かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。
芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。
乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。
その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる