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引きこもりからの脱却
第十七話 奈緒美の死
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急に現れた鳥居に驚いていたのは俺だけのようだ。
イザーちゃんも愛華ちゃんも奈緒美さんもそこに鳥居が現れるのは当然だとでも思っているのか驚きもせずに落ち着いていた。
何の説明もないまま俺は鳥居のすぐ近くまで移動させられたのだが、三人とも俺から視線を外さずにじっと見つめてきていた。三人に見つめられるというのに多少のテレはあったものの、俺は三人の事よりも鳥居の事の方が気になってしまっていた。
「やっぱりお兄さんがいると安定するんだね」
「そうですね。真琴さんがいることで向こうの世界との接続が安定しているようですね。これだけ安定しているんだったらイザーさんの探している人が見つかるかもしれないですね」
「そうだといいんだけど、あんまり長い時間繋いじゃうと向こうのやつらにも見つかっちゃう可能性もあるんだよね。面倒な奴に見つからないことを祈らないとね」
二人の会話を聞いていても何のことなのか俺にはさっぱり理解出来ていない。目の前に現れた鳥居が何なのかもわかっていないし、触れることが出来ているので現実に存在しているという事だけは確かなのだ。
ただ、鳥居に触れてみた感触は今まで味わったことが無いような独特なものであった。
見た感じでは固そうなのに触れてみると意外と柔らかくまるで動物と触れ合っているようにも思えたのだ。そんなはずはないのに、鳥居に触れている間は鼓動のようなものを感じていたのである。
「あ、ヤバいかも。向こうで何かがお兄さんを見つけたっぽい。私の後ろに来てもらってもいいかな」
「そうね。今はイザーちゃんの言うとおりにしてもらった方がいいかも。真琴ちゃんはなるべくイザーちゃんのそばから離れないでね」
俺は奈緒美さんに押されながらイザーちゃんの後ろに回り込むように移動したのだが、こんなに真剣な表情をしているイザーちゃんを見たのは初めてのように思えた。
それだけ何か危険なことが起こるという事なのだろうか。
静まり返った空間に響くのは時計の秒針の音だけなのだが、規則的に聞こえてくるカチッカチっという音に紛れるように床を叩くような音も微かに聞こえていた。
その音が聞こえる感覚が短くなってきたのと同時に鳥居の奥から獣のような臭いがしているように思えた。
俺の目の前にいるイザーちゃんからは甘くフルーティーな香りがしているのにもかかわらず、それを貫くような獣臭が少しずつ強くなってきていた。
「みんな、私より前に出たらダメだからね。奈緒美もすぐにこっちにきて」
「うん、今すぐ行く」
イザーちゃんに向かって動き出そうとしていた奈緒美さんだったが、奈緒美さんがこちらを向いて動こうとした時に鳥居の中から何者かの手が伸びてきていた。
奈緒美さんが動くよりも早く謎の手が奈緒美さんの頭を掴むと、それを合図にしたかのように鳥居の中から次々と手が伸びてきて奈緒美さんの腕や足や腰や肩を掴んでいた。
その腕は奈緒美さんが気付いた時には全身を掴んだ状態になっており、そのまま奈緒美さんの体をねじ切るようにそれぞれの手が奈緒美さんの体をバラバラに引きちぎっていたのだった。
いったいどういう原理なのかわからないが、俺は奈緒美さんに向かって鳥居の中から伸びてきた手が体を掴んでバラバラにしている様子がスローモーションのように見えていた。強烈な体験や死の間際に立たされると時間がゆっくりと流れていくという話は聞いたことがあるのだけれど、目の前で奈緒美さんが無理やりバラバラに引き裂かれるという行為も強烈なストレスと感じてしまったという事なのかもしれない。
奈緒美さんを掴んでいた手が奈緒美さんの事を離したと思うとそのまま愛華ちゃんに向かって伸びていった。
俺は体を動かすことも声を出すことも瞬きをすることも出来ないような状態ではあったのだが、俺の目の前にいたはずのイザーちゃんが愛華ちゃんと鳥居の間に割って入るとそのまま伸びてきた腕をつかんで奈緒美さんがされたことをそのままやり返していた。
「愛華もお兄さんの所まで行って。今ならまだ間に合うから早く」
俺は愛華ちゃんを守ろうと思って腕を伸ばそうとしたのだけど、相変わらず俺の体はピクリとも動こうとはしなかった。自分の意志に反して体は動こうとしなかったのだ。
「大丈夫。私とイザーちゃんは何があっても真琴さんを守りますから。何が起こっているのかちゃんと見ていてくださいね」
情けないことに俺はそんな事を言われても自分が前に出ることも出来なかった。
引きこもっている間に色々と知識を身につけたとは思っていたし、そんな知識を役に立てられるような緊急事態になっていると思う。俺は今まで何度も何度も頭の中で命の危機を乗り切るためのシミュレートを繰り返していたはずなのだが、いざその状況に陥ると動くことも喋ることも出来なくなってしまっていた。
自分よりも年下の女の子に守ってもらうなんて人間失格だとしか思えないけど、そう思っていても俺は動くことすら出来ずにいたのだ。
「大丈夫だよ。そんなに心配しなくてもこの程度なら問題ないからね。愛華は終了プログラムの準備をお願いね」
イザーちゃんはいつもよりも明るい笑顔を俺に向けながらいつの間にか手にしていた手斧で鳥居の中から伸びてきた腕を一本一本切り落としていた。
切り落とされた腕は煙のように消えていたのだが、奈緒美さんの体もいつの間にか綺麗になくなっていたのだ。
イザーちゃんも愛華ちゃんも奈緒美さんもそこに鳥居が現れるのは当然だとでも思っているのか驚きもせずに落ち着いていた。
何の説明もないまま俺は鳥居のすぐ近くまで移動させられたのだが、三人とも俺から視線を外さずにじっと見つめてきていた。三人に見つめられるというのに多少のテレはあったものの、俺は三人の事よりも鳥居の事の方が気になってしまっていた。
「やっぱりお兄さんがいると安定するんだね」
「そうですね。真琴さんがいることで向こうの世界との接続が安定しているようですね。これだけ安定しているんだったらイザーさんの探している人が見つかるかもしれないですね」
「そうだといいんだけど、あんまり長い時間繋いじゃうと向こうのやつらにも見つかっちゃう可能性もあるんだよね。面倒な奴に見つからないことを祈らないとね」
二人の会話を聞いていても何のことなのか俺にはさっぱり理解出来ていない。目の前に現れた鳥居が何なのかもわかっていないし、触れることが出来ているので現実に存在しているという事だけは確かなのだ。
ただ、鳥居に触れてみた感触は今まで味わったことが無いような独特なものであった。
見た感じでは固そうなのに触れてみると意外と柔らかくまるで動物と触れ合っているようにも思えたのだ。そんなはずはないのに、鳥居に触れている間は鼓動のようなものを感じていたのである。
「あ、ヤバいかも。向こうで何かがお兄さんを見つけたっぽい。私の後ろに来てもらってもいいかな」
「そうね。今はイザーちゃんの言うとおりにしてもらった方がいいかも。真琴ちゃんはなるべくイザーちゃんのそばから離れないでね」
俺は奈緒美さんに押されながらイザーちゃんの後ろに回り込むように移動したのだが、こんなに真剣な表情をしているイザーちゃんを見たのは初めてのように思えた。
それだけ何か危険なことが起こるという事なのだろうか。
静まり返った空間に響くのは時計の秒針の音だけなのだが、規則的に聞こえてくるカチッカチっという音に紛れるように床を叩くような音も微かに聞こえていた。
その音が聞こえる感覚が短くなってきたのと同時に鳥居の奥から獣のような臭いがしているように思えた。
俺の目の前にいるイザーちゃんからは甘くフルーティーな香りがしているのにもかかわらず、それを貫くような獣臭が少しずつ強くなってきていた。
「みんな、私より前に出たらダメだからね。奈緒美もすぐにこっちにきて」
「うん、今すぐ行く」
イザーちゃんに向かって動き出そうとしていた奈緒美さんだったが、奈緒美さんがこちらを向いて動こうとした時に鳥居の中から何者かの手が伸びてきていた。
奈緒美さんが動くよりも早く謎の手が奈緒美さんの頭を掴むと、それを合図にしたかのように鳥居の中から次々と手が伸びてきて奈緒美さんの腕や足や腰や肩を掴んでいた。
その腕は奈緒美さんが気付いた時には全身を掴んだ状態になっており、そのまま奈緒美さんの体をねじ切るようにそれぞれの手が奈緒美さんの体をバラバラに引きちぎっていたのだった。
いったいどういう原理なのかわからないが、俺は奈緒美さんに向かって鳥居の中から伸びてきた手が体を掴んでバラバラにしている様子がスローモーションのように見えていた。強烈な体験や死の間際に立たされると時間がゆっくりと流れていくという話は聞いたことがあるのだけれど、目の前で奈緒美さんが無理やりバラバラに引き裂かれるという行為も強烈なストレスと感じてしまったという事なのかもしれない。
奈緒美さんを掴んでいた手が奈緒美さんの事を離したと思うとそのまま愛華ちゃんに向かって伸びていった。
俺は体を動かすことも声を出すことも瞬きをすることも出来ないような状態ではあったのだが、俺の目の前にいたはずのイザーちゃんが愛華ちゃんと鳥居の間に割って入るとそのまま伸びてきた腕をつかんで奈緒美さんがされたことをそのままやり返していた。
「愛華もお兄さんの所まで行って。今ならまだ間に合うから早く」
俺は愛華ちゃんを守ろうと思って腕を伸ばそうとしたのだけど、相変わらず俺の体はピクリとも動こうとはしなかった。自分の意志に反して体は動こうとしなかったのだ。
「大丈夫。私とイザーちゃんは何があっても真琴さんを守りますから。何が起こっているのかちゃんと見ていてくださいね」
情けないことに俺はそんな事を言われても自分が前に出ることも出来なかった。
引きこもっている間に色々と知識を身につけたとは思っていたし、そんな知識を役に立てられるような緊急事態になっていると思う。俺は今まで何度も何度も頭の中で命の危機を乗り切るためのシミュレートを繰り返していたはずなのだが、いざその状況に陥ると動くことも喋ることも出来なくなってしまっていた。
自分よりも年下の女の子に守ってもらうなんて人間失格だとしか思えないけど、そう思っていても俺は動くことすら出来ずにいたのだ。
「大丈夫だよ。そんなに心配しなくてもこの程度なら問題ないからね。愛華は終了プログラムの準備をお願いね」
イザーちゃんはいつもよりも明るい笑顔を俺に向けながらいつの間にか手にしていた手斧で鳥居の中から伸びてきた腕を一本一本切り落としていた。
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