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引きこもりからの脱却
第四話 引っ越し前の晩餐
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仕事を始めたばかりで転職なんてどう思われてしまうのだろうと考えていたのだけれど、職場の人も両親も事情を話すと喜んでくれていた。
職員寮があるのでそこに住むことになったので引っ越しの準備をしていると妹の瑠璃が俺の部屋に入ってきて整理しきれていない荷物を見て呆れたような顔をしていた。
「必要なさそうな物ばっかり詰めて服とか全然手を付けてないじゃない。そんなゲームとか漫画とかいらないでしょ。寮なんて狭いワンルームなんだろうから着替えと洗面道具だけでいいんじゃないかな。足りなかったら向こうで買うくらいでいいと思うよ。新生活を送るって事なんだしそんな使いかけの物は置いていって新しいの買っちゃいなよ」
「それもそうだな。せっかくだし新しいものでも買うか。準備金も貰ったことだしソレで何か買うことにするよ。瑠璃も引っ越しすることだし、たまには兄妹で何かご飯でも食べに行くか?」
「別に食べに行くのは構わないけどさ、バカ兄貴ってお金持ってるの?」
「見てみろ。こんなに貰ったんだぞ」
俺は今まで生きてきてリアルの札束というモノを始めてみたことが嬉しかったし自慢しておきたかったので帯が付いた状態のまま瑠璃に見せていた。口を半開きにした瑠璃は一見すると怒っているようにも見えるような顔で俺と札束を交互に見ていたのだが、そのまま俺の手から札束をひったくって本物かどうか確認しているようだった。
「え、なんで、なんでこんなに。こんなに大金とかどういう事?」
「さあ、俺も詳しいことは聞いてないんでわからないけど、引っ越しの準備金で使いなさいって言って渡されたんだよ。多分、半年分の給料の前借みたいなことじゃないかな。高いテレビとか買ったら後で後悔するって感じかもな」
「はあ、よくわかんないけど、一日でアルバイト辞めた兄貴がすぐに逃げないように前渡ししたって事なのかもね。そんなお金だったら無駄遣いしない方がいいでしょ。焼肉とか別に奢ってくれなくていいし」
ご飯を食べに行こうと誘ったのは俺だけど、俺としては焼肉なんて豪華な食事ではなく家族でよく行っている食堂に行くつもりだったんだがな。そんな事を言い出しにくい雰囲気になってしまったけど、少しくらいなら贅沢してみてもいいかもしれないな。
「じゃあ、焼き鳥屋に行ってみることにするか。ほら、お前が二十歳になったときに焼鳥屋に行ってみたいって言ってただろ。大学の友達と一緒に行ったことあるかもしれないけど、俺は行ったことないからさ」
「そうだね。焼き鳥屋だったらそんなに高くつかないだろうし良いかもね。兄貴と一緒にどこかに出かける日が来るとは夢にも思わなかったよ。小学生の時は家族で出かけたりもしてたのにね」
俺が引きこもっていた時も瑠璃は気軽に俺の部屋にやってきて話しかけてくれたりしていた。俺の漫画が読みたいとかゲームを一緒にしたいとか学校の先生になりたいから俺に勉強を教えたいとかそんな理由だったと思う。そのおかげで俺は部屋に引きこもっている間も孤独に打ちひしがれることもなく過ごせたのかもしれない。
そんな瑠璃も夢を叶えてこの春から教師になるというのだから俺としても嬉しい。瑠璃は勉強を教えるのも上手だし人付き合いも上手いから生徒から嫌われたりしないだろう。無駄に強い正義感が悪い方向に向かなければいいなと思うことくらいしか懸念点は無いと思う。兄としての贔屓目が多少あるかもしれないが、瑠璃はきっといい先生になってくれると信じている。
「そう言えば、日用品とかはこっちで買わないで引っ越し先で買った方がいいと思うよ。そういうのも意外と荷物になりそうでしょ」
「確かに。そう言われてみたらそうかもしれないな。瑠璃も引っ越し先で新しく買いそろえるのか?」
「全部ってわけでもないけどね。私は兄貴と違ってそんな大金前払いでもらってないから家から持っていくものもあるよ。兄貴が使わなくなったジャージとかあったら部屋着にするつもりだし」
「なんで俺の持ってくつもりなんだよ。自分のがあるだろ」
「私のはあるけど、兄貴のって外で使ってないでしょ。ほら、私のは体育とかで使ってるからさ。なんか、部屋着なのに外で着てたのとか嫌じゃない。兄貴はずっと家から出てないんだからその点だけは安心なのよ」
瑠璃の言いたいことは何となく理解は出来るけれど、そんな理由で俺のジャージを持っていこうとするのはいかがなものだろうか。
「あと、防犯のために兄貴が使ってたパンツも何枚か貰ってくから」
「パンツ?」
「そう、パンツ。ほら、洗濯物とかで女の一人暮らしってバレることがあるらしいじゃない。そうならないように兄貴のパンツを何枚か貰っていきたいんだけど、結構使ってるやつでいいからちょうだいよ」
「いや、さすがにそんなことしなくてもいいと思うんだけど」
「ほら、これ見てよ。ここね」
瑠璃の持っているスマホには簡単に出来る防犯として男性のパンツや衣類を一緒に洗濯して干すというモノが書かれていた。それは納得出来る話ではあるが、俺の物じゃなくてもいいような気がしていた。父さんのでもいいのではないかと思っていたけれど、瑠璃は俺のタンスを勝手に漁って何枚か袋に詰めていた。
「別に変な意味じゃないからね。私が犯罪被害に遭わないために必要な措置なのよ」
違うかもしれないけれど、俺は少しだけ下着泥棒に遭った人の気持ちが理解出来たと思う。
「じゃあ、着替えてくるからね。焼き鳥楽しみにしてるよ」
職員寮があるのでそこに住むことになったので引っ越しの準備をしていると妹の瑠璃が俺の部屋に入ってきて整理しきれていない荷物を見て呆れたような顔をしていた。
「必要なさそうな物ばっかり詰めて服とか全然手を付けてないじゃない。そんなゲームとか漫画とかいらないでしょ。寮なんて狭いワンルームなんだろうから着替えと洗面道具だけでいいんじゃないかな。足りなかったら向こうで買うくらいでいいと思うよ。新生活を送るって事なんだしそんな使いかけの物は置いていって新しいの買っちゃいなよ」
「それもそうだな。せっかくだし新しいものでも買うか。準備金も貰ったことだしソレで何か買うことにするよ。瑠璃も引っ越しすることだし、たまには兄妹で何かご飯でも食べに行くか?」
「別に食べに行くのは構わないけどさ、バカ兄貴ってお金持ってるの?」
「見てみろ。こんなに貰ったんだぞ」
俺は今まで生きてきてリアルの札束というモノを始めてみたことが嬉しかったし自慢しておきたかったので帯が付いた状態のまま瑠璃に見せていた。口を半開きにした瑠璃は一見すると怒っているようにも見えるような顔で俺と札束を交互に見ていたのだが、そのまま俺の手から札束をひったくって本物かどうか確認しているようだった。
「え、なんで、なんでこんなに。こんなに大金とかどういう事?」
「さあ、俺も詳しいことは聞いてないんでわからないけど、引っ越しの準備金で使いなさいって言って渡されたんだよ。多分、半年分の給料の前借みたいなことじゃないかな。高いテレビとか買ったら後で後悔するって感じかもな」
「はあ、よくわかんないけど、一日でアルバイト辞めた兄貴がすぐに逃げないように前渡ししたって事なのかもね。そんなお金だったら無駄遣いしない方がいいでしょ。焼肉とか別に奢ってくれなくていいし」
ご飯を食べに行こうと誘ったのは俺だけど、俺としては焼肉なんて豪華な食事ではなく家族でよく行っている食堂に行くつもりだったんだがな。そんな事を言い出しにくい雰囲気になってしまったけど、少しくらいなら贅沢してみてもいいかもしれないな。
「じゃあ、焼き鳥屋に行ってみることにするか。ほら、お前が二十歳になったときに焼鳥屋に行ってみたいって言ってただろ。大学の友達と一緒に行ったことあるかもしれないけど、俺は行ったことないからさ」
「そうだね。焼き鳥屋だったらそんなに高くつかないだろうし良いかもね。兄貴と一緒にどこかに出かける日が来るとは夢にも思わなかったよ。小学生の時は家族で出かけたりもしてたのにね」
俺が引きこもっていた時も瑠璃は気軽に俺の部屋にやってきて話しかけてくれたりしていた。俺の漫画が読みたいとかゲームを一緒にしたいとか学校の先生になりたいから俺に勉強を教えたいとかそんな理由だったと思う。そのおかげで俺は部屋に引きこもっている間も孤独に打ちひしがれることもなく過ごせたのかもしれない。
そんな瑠璃も夢を叶えてこの春から教師になるというのだから俺としても嬉しい。瑠璃は勉強を教えるのも上手だし人付き合いも上手いから生徒から嫌われたりしないだろう。無駄に強い正義感が悪い方向に向かなければいいなと思うことくらいしか懸念点は無いと思う。兄としての贔屓目が多少あるかもしれないが、瑠璃はきっといい先生になってくれると信じている。
「そう言えば、日用品とかはこっちで買わないで引っ越し先で買った方がいいと思うよ。そういうのも意外と荷物になりそうでしょ」
「確かに。そう言われてみたらそうかもしれないな。瑠璃も引っ越し先で新しく買いそろえるのか?」
「全部ってわけでもないけどね。私は兄貴と違ってそんな大金前払いでもらってないから家から持っていくものもあるよ。兄貴が使わなくなったジャージとかあったら部屋着にするつもりだし」
「なんで俺の持ってくつもりなんだよ。自分のがあるだろ」
「私のはあるけど、兄貴のって外で使ってないでしょ。ほら、私のは体育とかで使ってるからさ。なんか、部屋着なのに外で着てたのとか嫌じゃない。兄貴はずっと家から出てないんだからその点だけは安心なのよ」
瑠璃の言いたいことは何となく理解は出来るけれど、そんな理由で俺のジャージを持っていこうとするのはいかがなものだろうか。
「あと、防犯のために兄貴が使ってたパンツも何枚か貰ってくから」
「パンツ?」
「そう、パンツ。ほら、洗濯物とかで女の一人暮らしってバレることがあるらしいじゃない。そうならないように兄貴のパンツを何枚か貰っていきたいんだけど、結構使ってるやつでいいからちょうだいよ」
「いや、さすがにそんなことしなくてもいいと思うんだけど」
「ほら、これ見てよ。ここね」
瑠璃の持っているスマホには簡単に出来る防犯として男性のパンツや衣類を一緒に洗濯して干すというモノが書かれていた。それは納得出来る話ではあるが、俺の物じゃなくてもいいような気がしていた。父さんのでもいいのではないかと思っていたけれど、瑠璃は俺のタンスを勝手に漁って何枚か袋に詰めていた。
「別に変な意味じゃないからね。私が犯罪被害に遭わないために必要な措置なのよ」
違うかもしれないけれど、俺は少しだけ下着泥棒に遭った人の気持ちが理解出来たと思う。
「じゃあ、着替えてくるからね。焼き鳥楽しみにしてるよ」
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