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おパンツ戦争
第73話 ナグリケーション
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地球への転送装置が正常に作動していないので宇宙のどこかに足止めされている工藤太郎は地球との時差が一定ではないことから工藤珠希に連絡が取れないのであった。
メールは送ることが出来るのだけれど、本当に届いているのか確認することが出来ないので不安な日々を過ごしていた。
食べ物と飲み物に困ることが無いのが不幸中の幸いなのだが、様々な星を渡り歩いた結果、まったく言葉が通じない相手とコミュニケーションをとることもあり、それらの経験は工藤太郎にとって今後の人生において糧になったと言えよう。
普通であれば少しずつ小さなことからお互いに気持ちを合わせて言葉を理解していくのだが、工藤太郎が現在滞在している星は言葉ではなく殴りあう事でコミュニケーションをとるというとんでもない状況であった。
骨折程度であれば数秒で治る不思議な惑星なのだが、命を失ったものを蘇らせることは出来ないのである。その点を考慮しても零楼館高校とどちらが優れているのか判断しづらいのであった。
そんな恐ろしい星も工藤太郎が世界の頂点に立つと殴り合い以外のコミュニケーション方法も少しずつではあるが浸透していったのであった。
殴り合いでは受け身に回っていた人も言葉を使えるようになったことで対等に話す場面が増えていった。その中には工藤太郎に対して好意を向けてくる人も男女問わず増え、とても大きなコミュニティーを形成しているのであった。
だが、その一方で伝統的なコミュニケーションを残すために工藤太郎の広めた言葉に対して嫌悪感を示すものも少なくはなかった。力では工藤太郎に勝てないという事は明確なので色々と策を講じてみるのだが、そのどれもが不発に終わり行動すればするほど工藤太郎の株が上がるという現象が起こっていた。
それでも、伝統文化を残したいという気持ちで工藤太郎に勝負を挑んではいたものの、全くいいところを見せることもなく次々と敗れていき、最終的には殴りあう事ではなく言葉で争うように変化していったのだ。
「俺たちは太郎さんには力では勝てない。だからといって、言葉でも勝てそうにない。どうしたら太郎さんに勝てるのか?」
「そもそも、本当に俺たちが太郎さんに勝てるのかわからない。車さんで轢き殺そうとした奴も失敗してたし、フグさんの毒で殺そうとした奴も失敗していた。どんな事をしても太郎さんを殺すことなんて出来ないのかもしれない」
「でも、さすがの太郎さんでも森の番人である熊さんには勝てないと思う。どうにかして太郎さんを熊さんのいる森に連れ出す必要がある。そのために誰か犠牲になる人はいないか?」
「一人二人の犠牲で太郎さんを連れ出すことは出来ないと思うし、残った俺たちのほとんどが命を懸けても森に連れて行くのは無理だと思う。太郎さんはきっと俺たちのいう事なんて聞いてくれない。敵対している俺たちの事を太郎さんは信用なんてしてくれないと思う」
「そんな事言って時間を無駄にするのは良くない。俺はみんなよりも勇敢だから俺が太郎さんに森に行って熊さんを退治するようにお願いしてみる。みんなは俺のこと応援してくれ」
工藤太郎が広めた言葉は彼の性格を投影してなのか固有名詞だけではなく一般名詞にも敬称を付けるという文化が根付いていた。言葉を覚えたての者はさんを使うだけだが、言葉の意味を理解しているものは他の敬称も使用するようになっていた。
のちの時代にこの星を訪れた者は殴り合いでコミュニケーションをとっていた者たちが丁寧な言葉遣いで接してくれることに意表をつかれていた。その理由がたった一人の地球人の影響だとは誰も信じる事は無かった。
伝統を愛し守りたいと思っている若者が勇気を振り絞って工藤太郎の前まで行くと、工藤太郎は真っすぐな視線を若者へ向けてきた。
全てを見透かすようなその瞳に若者は後ずさりしそうになったのを堪え、今まで生きてきた中で一番強い気持ちで工藤太郎に向かっていった。
「太郎さん、森の熊さんは危険だと思います。みんな危ないから危険で大変だと思います。どうにかして危険を無くしたいけど、俺たちは森の熊さんと戦うことが出来ない。太郎さんはどうにか出来ますか?」
「どうにか出来ると思うよ。その森がどこなのか教えて貰ってもいいかな?」
「ありがとうございます。太郎さんは強いから危なくないと思うけど、危険には気を付けてください」
若者は多少の罪悪感を抱きつつも工藤太郎を熊のいる危険な森へと案内していた。
この森が危険なことはこの世界に住んでいるモノなら誰でも理解しているので若者以外誰もついてこなかったのだが、そんな事を工藤太郎は気にすることもなく若者に対して労いの言葉をかけているのであった。
自分の使命に対して強い信念を持っている若者も工藤太郎の優しさに触れるたびに罪悪感が強くなっていき、森の番人である熊の巣が近くなると工藤太郎に対して引き返すようにお願いをするようになっていた。
「太郎さんごめんなさい。熊さんはとてもとても強い。凄く強い太郎さんでも熊さんに勝てるかわからない。だから、ここは一回帰って他の人も連れてきましょう」
「心配してくれるのはありがたいんだけど、俺は全然大丈夫だよ。それに、向こうはもうやる気満々って感じだからね」
若者は工藤太郎の視線の先を追うと、そこには四十尺に届きそうな大きさの熊が気配を殺してこちらの様子をうかがっているのが見えた。
この距離ではもう逃げることも出来ないと悟った若者は騙してしまった事に対する罪悪感からか、熊と工藤太郎の間に立って両手を大きく広げて威嚇をしていた。
だが、熊の視線は若者ではなく工藤太郎へと向けられていたのであった。
メールは送ることが出来るのだけれど、本当に届いているのか確認することが出来ないので不安な日々を過ごしていた。
食べ物と飲み物に困ることが無いのが不幸中の幸いなのだが、様々な星を渡り歩いた結果、まったく言葉が通じない相手とコミュニケーションをとることもあり、それらの経験は工藤太郎にとって今後の人生において糧になったと言えよう。
普通であれば少しずつ小さなことからお互いに気持ちを合わせて言葉を理解していくのだが、工藤太郎が現在滞在している星は言葉ではなく殴りあう事でコミュニケーションをとるというとんでもない状況であった。
骨折程度であれば数秒で治る不思議な惑星なのだが、命を失ったものを蘇らせることは出来ないのである。その点を考慮しても零楼館高校とどちらが優れているのか判断しづらいのであった。
そんな恐ろしい星も工藤太郎が世界の頂点に立つと殴り合い以外のコミュニケーション方法も少しずつではあるが浸透していったのであった。
殴り合いでは受け身に回っていた人も言葉を使えるようになったことで対等に話す場面が増えていった。その中には工藤太郎に対して好意を向けてくる人も男女問わず増え、とても大きなコミュニティーを形成しているのであった。
だが、その一方で伝統的なコミュニケーションを残すために工藤太郎の広めた言葉に対して嫌悪感を示すものも少なくはなかった。力では工藤太郎に勝てないという事は明確なので色々と策を講じてみるのだが、そのどれもが不発に終わり行動すればするほど工藤太郎の株が上がるという現象が起こっていた。
それでも、伝統文化を残したいという気持ちで工藤太郎に勝負を挑んではいたものの、全くいいところを見せることもなく次々と敗れていき、最終的には殴りあう事ではなく言葉で争うように変化していったのだ。
「俺たちは太郎さんには力では勝てない。だからといって、言葉でも勝てそうにない。どうしたら太郎さんに勝てるのか?」
「そもそも、本当に俺たちが太郎さんに勝てるのかわからない。車さんで轢き殺そうとした奴も失敗してたし、フグさんの毒で殺そうとした奴も失敗していた。どんな事をしても太郎さんを殺すことなんて出来ないのかもしれない」
「でも、さすがの太郎さんでも森の番人である熊さんには勝てないと思う。どうにかして太郎さんを熊さんのいる森に連れ出す必要がある。そのために誰か犠牲になる人はいないか?」
「一人二人の犠牲で太郎さんを連れ出すことは出来ないと思うし、残った俺たちのほとんどが命を懸けても森に連れて行くのは無理だと思う。太郎さんはきっと俺たちのいう事なんて聞いてくれない。敵対している俺たちの事を太郎さんは信用なんてしてくれないと思う」
「そんな事言って時間を無駄にするのは良くない。俺はみんなよりも勇敢だから俺が太郎さんに森に行って熊さんを退治するようにお願いしてみる。みんなは俺のこと応援してくれ」
工藤太郎が広めた言葉は彼の性格を投影してなのか固有名詞だけではなく一般名詞にも敬称を付けるという文化が根付いていた。言葉を覚えたての者はさんを使うだけだが、言葉の意味を理解しているものは他の敬称も使用するようになっていた。
のちの時代にこの星を訪れた者は殴り合いでコミュニケーションをとっていた者たちが丁寧な言葉遣いで接してくれることに意表をつかれていた。その理由がたった一人の地球人の影響だとは誰も信じる事は無かった。
伝統を愛し守りたいと思っている若者が勇気を振り絞って工藤太郎の前まで行くと、工藤太郎は真っすぐな視線を若者へ向けてきた。
全てを見透かすようなその瞳に若者は後ずさりしそうになったのを堪え、今まで生きてきた中で一番強い気持ちで工藤太郎に向かっていった。
「太郎さん、森の熊さんは危険だと思います。みんな危ないから危険で大変だと思います。どうにかして危険を無くしたいけど、俺たちは森の熊さんと戦うことが出来ない。太郎さんはどうにか出来ますか?」
「どうにか出来ると思うよ。その森がどこなのか教えて貰ってもいいかな?」
「ありがとうございます。太郎さんは強いから危なくないと思うけど、危険には気を付けてください」
若者は多少の罪悪感を抱きつつも工藤太郎を熊のいる危険な森へと案内していた。
この森が危険なことはこの世界に住んでいるモノなら誰でも理解しているので若者以外誰もついてこなかったのだが、そんな事を工藤太郎は気にすることもなく若者に対して労いの言葉をかけているのであった。
自分の使命に対して強い信念を持っている若者も工藤太郎の優しさに触れるたびに罪悪感が強くなっていき、森の番人である熊の巣が近くなると工藤太郎に対して引き返すようにお願いをするようになっていた。
「太郎さんごめんなさい。熊さんはとてもとても強い。凄く強い太郎さんでも熊さんに勝てるかわからない。だから、ここは一回帰って他の人も連れてきましょう」
「心配してくれるのはありがたいんだけど、俺は全然大丈夫だよ。それに、向こうはもうやる気満々って感じだからね」
若者は工藤太郎の視線の先を追うと、そこには四十尺に届きそうな大きさの熊が気配を殺してこちらの様子をうかがっているのが見えた。
この距離ではもう逃げることも出来ないと悟った若者は騙してしまった事に対する罪悪感からか、熊と工藤太郎の間に立って両手を大きく広げて威嚇をしていた。
だが、熊の視線は若者ではなく工藤太郎へと向けられていたのであった。
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