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第48話 過大評価
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二人に気圧されて真っすぐに前を見ることが出来なくなった工藤珠希は少しずつ視線を落としていって、今ではテーブルの上に置かれている紅茶から目を離すことが出来なくなっていた。
口に運んだ紅茶は緊張のためか全く味も香りも感じることが無く、二人からの視線を避けるために何度もカップを手に持っては戻すという事を繰り返していた。
「あんまり深く考えてくれなくても大丈夫だよ。珠希ちゃんが私たちに協力してくれるって言ってくれるだけで私たちは救われるんだからね。実際に行動してくれるのは今の珠希ちゃんじゃなくて、遠い未来の珠希ちゃんになるってだけの話だから」
「俺たちも珠希ちゃんに頼るだけじゃないし、珠希ちゃんが困っている時には力になりたいって思ってるからな。うまなちゃんたちもいるし太郎だっているんだから珠希ちゃんが早々困ることも無いと思うけど、どうしようもなくなった時には俺たちがついてるから安心してくれよな」
「ボクが君たちのために何か出来るというのであれば協力したいとは思うんだけど、ただの人間でしかないボクに出来ることなんてあるのかわからないよ。ボクよりも太郎やイザーちゃんたちの方が全然役に立つと思うんだけど、なんで二人はそこまで僕にこだわるのかな?」
「なんでって、君が工藤珠希だからだよ。それ以上に重要なことなんて無いと思うけど」
「それは説明になってないと思うんだけど」
「俺たちだってよくわかってないんだよ。カムショットが工藤珠希なら信用出来るって言ってただけだからな」
自分の知らないところで自分の価値が高く評価されている。高校に入学してからそう感じることが多くなった工藤珠希は自分が物語の主人公なのではないかと思い始めていたのだけれど、すぐにそんな事は無いと思いとどまっていた。自分の事をそこまで特別な人間だと思えないし、過大評価に過ぎないと思っているからだ。
それでも、本当に自分が特別なんじゃないかと思う事は今まで何度もあったというのは事実であるし、自分がこの目で見ているのにもかかわらず本当に現実で起こっていたのかと思うようなことも経験してきているのだ。どうして自分がそんな事を経験することが出来るのだろうかと考えたところ、それらの物事に関わっているのは自分だけではなく工藤太郎が関係している場合が非常に多いことに気が付いた。
「もしかして、ボクがそんな風に思われるのって太郎が関係していたりするのかな?」
工藤珠希がボソッと呟いた言葉にクリームパイもクリーキーも強く反応を示していたのだが、表情はあっという間に元の感じに戻っていた。ほんの一瞬でも反応していたことが気になった工藤珠希は二人に対して工藤太郎の話題を必要以上に多く出してみることにしたのだ。
「ボクなんかよりも太郎に協力してもらった方がいいと思うよ。今だって太郎が君たちの星で活躍してるみたいだし、そのまま君たちの星に残ってもらってどうにかしてもらったらいいんじゃないかな?」
「いや、さすがにそれは太郎ちゃんがかわいそうでしょ。自分と縁もゆかりも無いような星で死ぬまでずっと働かされるとかどんな罰よりも重いと思うよ」
「俺もそれは良くないと思うな。珠希ちゃんが俺たちの星にずっといてくれるって言いだしたとしても、それは思いとどまった方がいいんじゃないかっていうと思う」
「それだったら、イザーちゃんと太郎が今みたいに協力して、そこにうまなちゃんが力を貸したらもっと良くなるんじゃないかな?」
「まあ、よくなるとは思うよ。でも、それは一時的なものであって問題を解決する要因にはなりえないんじゃないかな。イザーちゃんもうまなちゃんも太郎ちゃんも凄い人だってのはわかっているし、イザーちゃんと太郎ちゃんが今みたいに協力してくれてるってのも奇跡に近いことだとは思う。思うけど、やっぱりそれも新しい問題が見つかるだけだと思うんだよね」
「俺としてはその二人に頼りすぎるのは良くないと思うんだ。あまりにも強い力を短期間に集中して利用するのは負担が大きすぎるだろ。今でもギリギリだと思うのに、これ以上負担をかけたらこの星よりも先に俺たちの星が爆発して無くなっちゃうかもしれなんだからな。そうなってしまったら本末転倒だろ」
何も出来ない自分よりも工藤太郎とイザーに任せていた方がいいと思って言ったことなのだが、物事はそう単純に解決するという事ではないようだ。
「イザーちゃんは俺らにとっての英雄でもあるからな。それに、太郎ちゃんはイザーちゃんと同じくらい強いって言うんだったら何も言うことないよな。珠希ちゃんの家族だって言うんだし、俺たちにとっても家族みたいなもんだ」
「家族みたいなもんってのは言い過ぎだと思うけど、私たちもそれくらい珠希ちゃんのことを信用してるってことだからね。私たちの星を救ってくれる可能性もあるんだし、帰ってきたら仲良くしてもらいたいわね。イザーちゃんたちって、明日には帰ってくるんだっけ?」
「週末には帰ってくるって話なんだけど、機械のトラブルがあるみたいで太郎は少し遅れて帰ってくるかもしれないんだって。イザーちゃんは転送装置が多少壊れてても自力で何とかなるみたいなんだけど、太郎はそういうわけにもいかないんで完全に直るまで少し待つことになるかもって言ってたよ」
「それだったら、来週には会えるって事だよね。ちょっと楽しみかも」
「俺も楽しみだな。本当に俺よりも強いのか確かめてやらないとな」
口に運んだ紅茶は緊張のためか全く味も香りも感じることが無く、二人からの視線を避けるために何度もカップを手に持っては戻すという事を繰り返していた。
「あんまり深く考えてくれなくても大丈夫だよ。珠希ちゃんが私たちに協力してくれるって言ってくれるだけで私たちは救われるんだからね。実際に行動してくれるのは今の珠希ちゃんじゃなくて、遠い未来の珠希ちゃんになるってだけの話だから」
「俺たちも珠希ちゃんに頼るだけじゃないし、珠希ちゃんが困っている時には力になりたいって思ってるからな。うまなちゃんたちもいるし太郎だっているんだから珠希ちゃんが早々困ることも無いと思うけど、どうしようもなくなった時には俺たちがついてるから安心してくれよな」
「ボクが君たちのために何か出来るというのであれば協力したいとは思うんだけど、ただの人間でしかないボクに出来ることなんてあるのかわからないよ。ボクよりも太郎やイザーちゃんたちの方が全然役に立つと思うんだけど、なんで二人はそこまで僕にこだわるのかな?」
「なんでって、君が工藤珠希だからだよ。それ以上に重要なことなんて無いと思うけど」
「それは説明になってないと思うんだけど」
「俺たちだってよくわかってないんだよ。カムショットが工藤珠希なら信用出来るって言ってただけだからな」
自分の知らないところで自分の価値が高く評価されている。高校に入学してからそう感じることが多くなった工藤珠希は自分が物語の主人公なのではないかと思い始めていたのだけれど、すぐにそんな事は無いと思いとどまっていた。自分の事をそこまで特別な人間だと思えないし、過大評価に過ぎないと思っているからだ。
それでも、本当に自分が特別なんじゃないかと思う事は今まで何度もあったというのは事実であるし、自分がこの目で見ているのにもかかわらず本当に現実で起こっていたのかと思うようなことも経験してきているのだ。どうして自分がそんな事を経験することが出来るのだろうかと考えたところ、それらの物事に関わっているのは自分だけではなく工藤太郎が関係している場合が非常に多いことに気が付いた。
「もしかして、ボクがそんな風に思われるのって太郎が関係していたりするのかな?」
工藤珠希がボソッと呟いた言葉にクリームパイもクリーキーも強く反応を示していたのだが、表情はあっという間に元の感じに戻っていた。ほんの一瞬でも反応していたことが気になった工藤珠希は二人に対して工藤太郎の話題を必要以上に多く出してみることにしたのだ。
「ボクなんかよりも太郎に協力してもらった方がいいと思うよ。今だって太郎が君たちの星で活躍してるみたいだし、そのまま君たちの星に残ってもらってどうにかしてもらったらいいんじゃないかな?」
「いや、さすがにそれは太郎ちゃんがかわいそうでしょ。自分と縁もゆかりも無いような星で死ぬまでずっと働かされるとかどんな罰よりも重いと思うよ」
「俺もそれは良くないと思うな。珠希ちゃんが俺たちの星にずっといてくれるって言いだしたとしても、それは思いとどまった方がいいんじゃないかっていうと思う」
「それだったら、イザーちゃんと太郎が今みたいに協力して、そこにうまなちゃんが力を貸したらもっと良くなるんじゃないかな?」
「まあ、よくなるとは思うよ。でも、それは一時的なものであって問題を解決する要因にはなりえないんじゃないかな。イザーちゃんもうまなちゃんも太郎ちゃんも凄い人だってのはわかっているし、イザーちゃんと太郎ちゃんが今みたいに協力してくれてるってのも奇跡に近いことだとは思う。思うけど、やっぱりそれも新しい問題が見つかるだけだと思うんだよね」
「俺としてはその二人に頼りすぎるのは良くないと思うんだ。あまりにも強い力を短期間に集中して利用するのは負担が大きすぎるだろ。今でもギリギリだと思うのに、これ以上負担をかけたらこの星よりも先に俺たちの星が爆発して無くなっちゃうかもしれなんだからな。そうなってしまったら本末転倒だろ」
何も出来ない自分よりも工藤太郎とイザーに任せていた方がいいと思って言ったことなのだが、物事はそう単純に解決するという事ではないようだ。
「イザーちゃんは俺らにとっての英雄でもあるからな。それに、太郎ちゃんはイザーちゃんと同じくらい強いって言うんだったら何も言うことないよな。珠希ちゃんの家族だって言うんだし、俺たちにとっても家族みたいなもんだ」
「家族みたいなもんってのは言い過ぎだと思うけど、私たちもそれくらい珠希ちゃんのことを信用してるってことだからね。私たちの星を救ってくれる可能性もあるんだし、帰ってきたら仲良くしてもらいたいわね。イザーちゃんたちって、明日には帰ってくるんだっけ?」
「週末には帰ってくるって話なんだけど、機械のトラブルがあるみたいで太郎は少し遅れて帰ってくるかもしれないんだって。イザーちゃんは転送装置が多少壊れてても自力で何とかなるみたいなんだけど、太郎はそういうわけにもいかないんで完全に直るまで少し待つことになるかもって言ってたよ」
「それだったら、来週には会えるって事だよね。ちょっと楽しみかも」
「俺も楽しみだな。本当に俺よりも強いのか確かめてやらないとな」
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