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第34話 うまな対少女

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 もうすぐ正午を迎え昼休みが近付いてきたタイミングで昨日と同じ光る物体が工藤珠希の教室のすぐ横にやってきた。眩しいことには変わりないのだけれど、昨日よりは幾分光量をおさえているようで目を細めれば物体の輪郭が何となく見えるようになっていた。
 音もなく扉が開くと中から小さな少女が出てきて工藤珠希のもとへと真っすぐに向かってきた。
 何が目的なのかはわからないままやって来る少女に対して無防備になってしまう工藤珠希ではあったが、その二人の間に栗宮院うまなが割って入ったのを見た少女は今までと異なる反応を見せていた。

「え、なんでお前がここにいるの?」
「なんでって、私はここの生徒だからな。生徒が教室にいるのは当たり前だろ」
「そういう事を聞いてるんじゃなくて、お前は昨日ワシに殺されたよな。なんで首の骨を粉々に砕いたのに元に戻ってるの?」
「殺されたのは事実だけどさ、殺されっぱなしで終わるはずないでしょ。私を誰だと思ってるのかな?」
「お前が誰かなんてワシは知らんし。大体、首の骨を粉々に砕かれて生きているなんておかしいだろ。殺されたのも事実って言ってるけどさ、殺されたなら大人しく死んでおけよ」
「そんな事無理でしょ。この学校にはポンちゃんがいるから死んだまま放置されることなんて無いし」
「ポンちゃんって誰だよ。そいつを殺せばお前も死ぬって事か?」
「そうなるとは思うけど、ポンちゃんに手を出すのだけはやめた方がいいぞ。前にポンちゃんを殺そうとした奴は謎の死を遂げたからな。死ぬだけだったら良かったと思うけど、ポンちゃんが飽きるまで蘇生と死を延々と繰り返されていたからな。普通に死んだ方がいいって思ったんじゃないかな」
「そんな事をされる前にワシの手で殺してしまえば済むだろ。ワシの力を知ってるお前ならそれが可能だってわかっているだろ」

「まあ、あんたが強いってのは認めるよ。たぶん、私なんかより全然強いんだって思うけど、ポンちゃんには勝てないと思うな。あんたが百人いてもポンちゃん一人の方が強いんじゃないかな」
「そんなに強いんだったらワシのセンサーに引っかかるとは思うのだが、この近くにそんなに強いやつはいないと思うぞ。少なくとも、お前より力のあるやつは三人くらいしかいないと思うのだが、そのどれもがお前とあまり大差ないように感じるんだが」
「能ある鷹は爪を隠す。ってやつだな。そうそう、次にお前と会ったら聞こうと思ってたんだけど、お前はいったい何しにここに来たんだ?」

「手短に話すとだな、ワシらの住む星はあと二百億年ほどで消滅してしまうのだ。その時に困らぬように移住する先を探して宇宙中を飛び回っていたところ、ワシらの星よりも環境の良さそうなこの星を見つけたというわけだ。この星は澄んだ空気に綺麗な水、何よりも資源が豊富な恵まれた環境にあるのだ。問題があるとすれば、貴様らのような野蛮な生物が我が物顔でのさばっているという事だけだな。すなわち、貴様らのような蛮族を滅ぼすことでこの星はワシらにとって終の棲家となりえるのだ」
「いや、それは無理だって。あんたが凄く強いってのはわかったけど、あんたたちが移住してくるなんて絶対に無理な話だよ」
「ほう、そこまで強く断言するとは何か秘密がありそうだな。その秘密はワシを納得させることが出来るモノなのだろうな」

 どこまでも強気な少女とは裏腹に、栗宮院うまなだけではなく他の生徒たちも皆少女の言っていることは無理な話だと思っていた。
 二百億年後に滅びる星から移住先を探しにやってきたという事なのだが、二百億年後というのはこの地球に残されている寿命よりもはるかに長いのである。その事を誰が伝えるかで揉めていたのだが、工藤珠希が適任なのではないかと言う話に落ち着いてしまった。

「お前はこの世界を支配するものだな。他の物とは明らかに違う力を感じるぞ」
「ボクはそんなんじゃないです。どこにでもいるごく普通の女の子です」
「どこにでもいるごく普通の女の子は自分の事をボクなんて言わないと思うのだが。そんな事よりも、あの者が見せる自信の正体はいったい何なのだ。ワシに聞かせてくれ」
「自身の正体と言うか、この星の寿命の話なんだけど、二百億年よりも早くこの地球は無くなるって話みたいです。ボクが実際に調べたとかじゃなくて学んだことなんだけど、五十億年くらいで太陽に飲み込まれてしまうって話です」
「そんなはずはないだろ。こんなに素晴らしい星が五十億年足らずで消滅するとでもいうのか。まだまだ生まれたばかりのヒヨコみたいなこの星がそんなに早く無くなってしまうなんておかしいだろ」
「おかしいって言われても、そういった研究結果が出てるみたいですから。それに、五十億年とか遠い未来過ぎてボクたちには関係ないって思うよ」

 少女は胸ポケットから小型の端末を取り出すと何かを一生懸命に打ち込んでいた。
 小さい少女が持っても小さく見える端末だったので大きな大人が持てば消しゴムを持っているような感じに見えるのではないかと思った工藤珠希は思わず吹き出してしまった。
 無意識に吹き出してしまっていたこともあって慌てて口元をおさえる工藤珠希ではあったが、少女は端末に気をとられて工藤珠希が何をしたのか見えていなかったようだ。

「こんなに素晴らしい星があと四十数億年で消滅してしまうなんてありえない。このままではワシらが移住する先が見つからないではないか。いったいどうすればいいんだ」

 動揺している少女を前に皆どう振舞えばいいのか考えてはいた。
 ただ、それに対する結論が出る事は無く、気付いた時には昼休みが終わろうとしていたのであった。
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