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第26話 異世界での生活

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 中華まんと中華まんじゅうが違う食べ物だと言われても、工藤珠希には何が違うのかさっぱりわからない。中華まんは中華まんじゅうの略なのではないかと思うのだけど、太郎に言わせるとそうではないという事らしい。
 北海道の一部地域では中華まんじゅうと呼ばれるお菓子が存在していて、それをヒントに中華風たい焼きを作り上げたという事なのだ。
 ここでいう中華まんじゅうとは、どら焼きのような生地にこし餡を入れて三日月形に折りたたんだ和菓子の事で、中華まんじゅうなのに和菓子だというのも気になる所ではあるが、バスに乗る前に和菓子が食べたいと思っていた工藤珠希の願いを叶えていたという事にもなったのである。

「つまり、中華風たい焼きってのは、その北海道のお菓子がヒントになってるって事なんだよね?」
「そういう事になるね。俺も本物の中華まんじゅうは食べたことが無いんだけど、北海道の一部地域だとコンビニとかスーパーでも普通に売られているみたいだね。あんまり馴染みはないけど、こしあんで作った大きなどら焼きを半分に折って三日月形にしたって思えばいいみたいだよ」
「なるほどね。でも、そんなのは言われないとわからないことだよね。中華風たい焼きって名前じゃない方がわかりやすいと思うんだけど」
「その辺はおじさんの匙加減だからね。コレで中華風たい焼きの謎も解けたことだし、珠希ちゃんが気になってることってもう他にないかな?」

 気になっていることはいくらでもある。
 左手が無くなった原因もそうだけど、そっちの世界ではどんなことをして過ごしているのか。仲が良くなった女性はいるのか。イザーが全然通話に参加してこないようだが、今はいったい何をしているのだろうか。
 聞きたいことはいくらでもあるはずなのに、あまりしつこくしてしまうと太郎に嫌われてしまうのではないかと考えてしまうので聞きたくても聞きづらいのだ。

「気になってることはあるけど、今って太郎は魔王を倒した後で宴会に参加してたりするんだよね?」
「そうだよ。さっきまでよくわからない料理を食べながらいろんな人と話をしていたよ。こっちの世界も変わった人はいるけれど、そっちと違ってすぐに決闘を申し込まれたりするね。騎士団団長とか傭兵団団長とか何とか団の団長と戦うことが多いかも」
「それって、危なくないの?」
「普通にしてれば負けないと思うから大丈夫だよ。強いって言ってもこっちの世界の人基準だからね。一対一で魔王を倒せないような人を相手に俺が負けるはずもないんだけどさ」
「そんな物騒な宴会ってちょっと怖いかも。太郎みたいに何でも出来る人だったらいいと思うけど、私だったら端っこで小さくなって目立たないようにしてるかも」
「俺も目立ちたくはないんだけどさ、本当に魔王を倒したのかって絡まれて戦うことになったりするんだよね。あとは、姫にふさわしい男かとか言われて迷惑してたりするんだよね」

「え、ちょっと待って。姫にふさわしいってどういう事?」
「俺も良くわからないんだけど、魔王を倒したら副賞的な感じでお姫様と結婚出来るって話らしいよ。魔王を倒した男が俺だからって理由らしいんだけど、そんなこと言われても困るだけだよね」
「って事は、太郎がその国の王様になる可能性があるって事?」
「無い無い、無いって。俺はこの世界に残るつもりなんて無いし、王様にだってなるつもりはないよ。それに、お姫様と結婚したいなんて思わないからね。どう考えても、俺にそんな生活は向いてないでしょ」

 魔王を倒した勇者であれば一国の姫をもらい受ける。なんて話はあるのだろうが、太郎はそんな事に一切興味を示さなかった。
 この世界に住む強者と拳を交えるのは自分が強くなるための手段としてしか考えておらず、騎士団団長や近衛兵兵長などと戦って勝ったからと言って姫と結婚したいとは思ってもいないのである。そもそも、太郎は年齢的には高校一年生なので結婚自体出来ないのだ。
 違う世界に行ったのであればそちらの法律が適用されるのかもしれないが、工藤太郎は一時的にそちらの世界に行っているだけであって、一生その世界で暮らしていくというつもりはさらさらないのだ。

「魔王を倒した勇者様であればお姫様と結婚するのも当然かもね。って事は、太郎はこっちに戻ってこないでそっちで暮らしていくって事?」
「そんなわけないでしょ。俺がこの世界に来た理由なんて課題を終わらせるためだけだからね。イザーちゃんが来てくれてだいぶ助かったって思ってるんだけど、イザーちゃんにどうやってお礼を伝えればいいんだろうね。珠希ちゃんは何かいいアイデアあったりするかな?」
「普通に言葉でいいんじゃないかな。イザーちゃんだったら物とかよりも気持ちを伝えた方が喜ぶとは思うんだよね。ボクもいつか太郎に感謝される日が来るといいんだけどね」
「やっぱりそれが一番だよね。でも、言葉だけだと俺の気持ちがおさまらないので、そっちに戻ったら中華風たい焼きを買ってさ、こっちでもお世話になってるイザーちゃんにプレゼントしちゃおうかな。その時は珠希ちゃんも買いに行くのに付き合ってね」

「別にいいけど。ボクにも何か奢ってくれていいんだからね」
「珠希ちゃんにもお世話になってるからね。何か欲しいものがあったら買ってあげるよ」

 イザーのために買いに行くというのだから、自分のモノも買ってもらうという提案は断られてしまうと思っていた工藤珠希は少し驚いていた。感謝することはあっても感謝されることがあるとは思ってもいなかった。
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