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第19話 公園での一コマ
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バスを降りた工藤珠希は嬉しそうに腕を振りながら歩いていた。
そのすぐ後ろを栗宮院うまなが歩いているのだが、何となくその足取りは重いモノであった。
工藤珠希と一緒にいることは楽しいことしかないと思うのだけど、何となく今日に限っては自分のふがいなさにばかり目が行ってしまう気がしていた。
そのどれもが工藤珠希に嫌われるようなことではないという事がせめてもの救いなのだが、栗宮院うまなにとっては何とも言えない妙な気持ちになってしまっていたのだった。
住宅街をしばらく歩くと大きな公園にたどり着いた。
公園では小さな子供たちが楽しそうに遊んでいるのが見えていて、工藤珠希もここで遊んでいたのかなと想像を膨らませていた。
公園のすぐ横にはベンチが備え付けられている停留所もあって、その行先は栗宮院うまなにとってとても馴染みの深い場所になっていた。
「ここからバスに乗っていくと学校まで行けるんだよ。私がバスに乗って学校に行くときに使ってる停留所なんだ。普段は自転車で行くからあんまりバスは使わないんだけど、うまなちゃんはこの辺の人じゃないからバスに乗っていった方が安心だと思うんだよね」
「歩いて帰れる距離だと思うけど、バスで帰った方が迷わなくて良さそうだね」
次のバスが来るまでしばらく時間があることを確認した二人は近くの公園でたい焼きを食べることにした。袋の上からでもまだたい焼きが温かいことは伝わってきた。
公園のベンチに腰を下ろした二人は間にたい焼きとお茶を置いて今日の事を振り返っていた。
「海でデートって海水浴ってイメージだったんだけど、海を見るってのも楽しかったよ。大きい船には驚いたけど、みんな楽しそうにしてたよね」
「そうだね。何か騒いでいる人たちもいたけど、中にいた人たちはみんな楽しそうだったね。うまなちゃんはあんな感じの船って乗ったことあるの?」
「船じたいあんまり乗ったことないよ。遊覧船とかだったら乗ったことあるけどね。遊覧船も大きいなって思った記憶があるんだけど、今日見た船と比べると全然大きさが違うなって思った」
「ボクも遊覧船くらいしか乗ったことないんだよね。最後に乗ったのは中学生の時に修学旅行で行った洞爺湖のやつかも。雨が降ってて怖かったって思いでしかないんだけどね」
「修学旅行って楽しそうだけど、天気が悪かったらそうでもないのかな?」
「雨だったけど良い思い出もあるんだよ。うまなちゃんにもわかる話だと、太郎が荷物をいっぱい持ってくれたとか、太郎が美味しいお店を見つけてくれたとか、太郎がバスと電車の案内をしてくれたとか」
「太郎ちゃんって何でも出来るもんね。イザーちゃんが行くまで異世界で何も出来ていないって思ってたんだけど、あの世界の事を理解した後はイザーちゃんに先行して魔王討伐もしてたもんね。もしかして、太郎ちゃんって順応速度が異常に早いって事なのかな」
「それはあるかもしれないね。初めて会ったボクの親戚ともすぐに仲良くなってたし、どんな場所でも地図を見たらどこでも行ける感じだもんな。あっちの世界の文字が読めなくて苦労したみたいだけど、イザーちゃんに教えて貰ったらすぐに理解出来たって言ってたくらいだし」
「え、ちょっと待って。イザーちゃんに教えて貰っただけであっちの文字を理解出来たって事なの?」
「そうみたいだよ。話してる言葉は何となくわかってたから文字も何となくで読めてたって言ってたけど、イザーちゃんに聞いたら大丈夫になったって言ってたもん。日本語みたいに漢字と平仮名と片仮名みたいに複雑じゃなくて良かったって笑ってたんだ」
栗宮院うまなはまったく言葉が通じない相手だったとしてもサキュバスの力を使えば会話は出来るようになるし文字だって自分が理解出来るモノに翻訳することが出来る。それは色々な世界や多くの人種と関わるサキュバスに備わっている力なので苦労したことはなかったのだが、その力が無い状態で異世界に行くことになってしまったら何も出来ずに死んでしまうのではないかと想像してしまう。
何の力もない普通の人間である工藤太郎が零楼館高校に入学することが出来てスポーツ分野でも活躍しているというのは少し出来過ぎているのではないかと思っていた節もあったのだが、イザーが助けに行くまでの工藤太郎の行動を思い返してみると納得出来る部分も大いにあった。
言葉も通じない世界に放り出されて何も頼るものが無い状況。その状況を打破するための材料も何もないのにもかかわらず、工藤太郎は己の力だけでその事態を乗り越えようとしていたのだ。
もしもイザーが助けに行かなかったとしたら、工藤太郎はどうなっていたのだろうか。なんて考えてみたものの、食料と飲み水さえ確保出来れば何とかなってしまうのではないかと思えてきた。
栗宮院うまながそう思った理由の一つに、言葉がまったく通じず文字も読めない世界なのにもかかわらず、イザーと合流した時には現地の住人とコミュニケーションをとっていたのを思い出したからだ。
「太郎ちゃんだったらイザーちゃんがいなくても何とかなったのかなって思っちゃうね」
「そうかもね。太郎が言ってたんだけど、イザーちゃんが助けに来てくれたおかげで予想よりも早く魔王を倒すことが出来たんだって。太郎みたいに普通の人間でも頑張ればなんとかなるって事だし、人間の可能性って凄いよね。あ、もちろんサキュバスも凄いって思ってるよ」
人間の可能性は確かに無限大だと栗宮院うまなも理解はしている。
だが、無限大とは言ったものの自然と制限はかかっているのが普通なのだ。
工藤太郎の力の秘密を知りたいと思ったこともあった栗宮院うまなではあったが、あまり深く関わってしまうと知らなくても良いことを知って自分がダメになってしまうのではないかと思ってしまった。
「バスが来る前にたい焼き食べようか。中華風たい焼きは半分こにするとして、うまなちゃんはあんとクリームならどっちがいい?」
「私はどっちも好きだから珠希ちゃんが選んでいいよ」
「うーん、どっちも捨てがたいね。決められないからこっちも半分にしようか。その方がいいかもしれないね」
そのすぐ後ろを栗宮院うまなが歩いているのだが、何となくその足取りは重いモノであった。
工藤珠希と一緒にいることは楽しいことしかないと思うのだけど、何となく今日に限っては自分のふがいなさにばかり目が行ってしまう気がしていた。
そのどれもが工藤珠希に嫌われるようなことではないという事がせめてもの救いなのだが、栗宮院うまなにとっては何とも言えない妙な気持ちになってしまっていたのだった。
住宅街をしばらく歩くと大きな公園にたどり着いた。
公園では小さな子供たちが楽しそうに遊んでいるのが見えていて、工藤珠希もここで遊んでいたのかなと想像を膨らませていた。
公園のすぐ横にはベンチが備え付けられている停留所もあって、その行先は栗宮院うまなにとってとても馴染みの深い場所になっていた。
「ここからバスに乗っていくと学校まで行けるんだよ。私がバスに乗って学校に行くときに使ってる停留所なんだ。普段は自転車で行くからあんまりバスは使わないんだけど、うまなちゃんはこの辺の人じゃないからバスに乗っていった方が安心だと思うんだよね」
「歩いて帰れる距離だと思うけど、バスで帰った方が迷わなくて良さそうだね」
次のバスが来るまでしばらく時間があることを確認した二人は近くの公園でたい焼きを食べることにした。袋の上からでもまだたい焼きが温かいことは伝わってきた。
公園のベンチに腰を下ろした二人は間にたい焼きとお茶を置いて今日の事を振り返っていた。
「海でデートって海水浴ってイメージだったんだけど、海を見るってのも楽しかったよ。大きい船には驚いたけど、みんな楽しそうにしてたよね」
「そうだね。何か騒いでいる人たちもいたけど、中にいた人たちはみんな楽しそうだったね。うまなちゃんはあんな感じの船って乗ったことあるの?」
「船じたいあんまり乗ったことないよ。遊覧船とかだったら乗ったことあるけどね。遊覧船も大きいなって思った記憶があるんだけど、今日見た船と比べると全然大きさが違うなって思った」
「ボクも遊覧船くらいしか乗ったことないんだよね。最後に乗ったのは中学生の時に修学旅行で行った洞爺湖のやつかも。雨が降ってて怖かったって思いでしかないんだけどね」
「修学旅行って楽しそうだけど、天気が悪かったらそうでもないのかな?」
「雨だったけど良い思い出もあるんだよ。うまなちゃんにもわかる話だと、太郎が荷物をいっぱい持ってくれたとか、太郎が美味しいお店を見つけてくれたとか、太郎がバスと電車の案内をしてくれたとか」
「太郎ちゃんって何でも出来るもんね。イザーちゃんが行くまで異世界で何も出来ていないって思ってたんだけど、あの世界の事を理解した後はイザーちゃんに先行して魔王討伐もしてたもんね。もしかして、太郎ちゃんって順応速度が異常に早いって事なのかな」
「それはあるかもしれないね。初めて会ったボクの親戚ともすぐに仲良くなってたし、どんな場所でも地図を見たらどこでも行ける感じだもんな。あっちの世界の文字が読めなくて苦労したみたいだけど、イザーちゃんに教えて貰ったらすぐに理解出来たって言ってたくらいだし」
「え、ちょっと待って。イザーちゃんに教えて貰っただけであっちの文字を理解出来たって事なの?」
「そうみたいだよ。話してる言葉は何となくわかってたから文字も何となくで読めてたって言ってたけど、イザーちゃんに聞いたら大丈夫になったって言ってたもん。日本語みたいに漢字と平仮名と片仮名みたいに複雑じゃなくて良かったって笑ってたんだ」
栗宮院うまなはまったく言葉が通じない相手だったとしてもサキュバスの力を使えば会話は出来るようになるし文字だって自分が理解出来るモノに翻訳することが出来る。それは色々な世界や多くの人種と関わるサキュバスに備わっている力なので苦労したことはなかったのだが、その力が無い状態で異世界に行くことになってしまったら何も出来ずに死んでしまうのではないかと想像してしまう。
何の力もない普通の人間である工藤太郎が零楼館高校に入学することが出来てスポーツ分野でも活躍しているというのは少し出来過ぎているのではないかと思っていた節もあったのだが、イザーが助けに行くまでの工藤太郎の行動を思い返してみると納得出来る部分も大いにあった。
言葉も通じない世界に放り出されて何も頼るものが無い状況。その状況を打破するための材料も何もないのにもかかわらず、工藤太郎は己の力だけでその事態を乗り越えようとしていたのだ。
もしもイザーが助けに行かなかったとしたら、工藤太郎はどうなっていたのだろうか。なんて考えてみたものの、食料と飲み水さえ確保出来れば何とかなってしまうのではないかと思えてきた。
栗宮院うまながそう思った理由の一つに、言葉がまったく通じず文字も読めない世界なのにもかかわらず、イザーと合流した時には現地の住人とコミュニケーションをとっていたのを思い出したからだ。
「太郎ちゃんだったらイザーちゃんがいなくても何とかなったのかなって思っちゃうね」
「そうかもね。太郎が言ってたんだけど、イザーちゃんが助けに来てくれたおかげで予想よりも早く魔王を倒すことが出来たんだって。太郎みたいに普通の人間でも頑張ればなんとかなるって事だし、人間の可能性って凄いよね。あ、もちろんサキュバスも凄いって思ってるよ」
人間の可能性は確かに無限大だと栗宮院うまなも理解はしている。
だが、無限大とは言ったものの自然と制限はかかっているのが普通なのだ。
工藤太郎の力の秘密を知りたいと思ったこともあった栗宮院うまなではあったが、あまり深く関わってしまうと知らなくても良いことを知って自分がダメになってしまうのではないかと思ってしまった。
「バスが来る前にたい焼き食べようか。中華風たい焼きは半分こにするとして、うまなちゃんはあんとクリームならどっちがいい?」
「私はどっちも好きだから珠希ちゃんが選んでいいよ」
「うーん、どっちも捨てがたいね。決められないからこっちも半分にしようか。その方がいいかもしれないね」
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