79 / 100
第七十九話 俺の好きな人と好きではない人
しおりを挟む
なぜ俺がこんな夜に神社にまで行かないといけないのだろうか。さすがに千雪ちゃん一人だけで行かせるわけにはいかないと思うのだけれど、一緒に行く相手は俺ではなく鬼仏院右近でもいいのではないかと思っていた。
「お兄さんが今考えている事を当てて見せましょうか。なんで俺がこんな時間に神社に行かないといけないんだろう。千雪を一人で行かせるのが心配なら俺じゃなくても右近君でもいいんじゃないか。そう思ってませんか?」
俺は千雪ちゃんのその言葉が当たっていたのにもかかわらず肯定する事は出来なかった。その事を肯定してしまうと俺が今の状況を嫌がっているという事がバレてしまうと思ったからだ。
「でも、お兄さんのその気持ちもわかりますよ。千雪だってこんな夜にお兄さんと一緒に神社に行くのなんて嫌ですもん。暗い時に行ったって何も楽しくないと思いますし、どうせ行くなら明るくなってからの方が良いと思うんですよね。だからと言ってこのまま朝までここに居るのも嫌ですし、さっさとお礼を伝えて帰りましょうよ。それとも、お礼を言った事にしてこのまま時間を潰して帰っちゃいます?」
「その考えは良いかも。今からその神社までどれくらいかかるのかわからないけどさ、適当に時間を潰して帰るのもありかもね」
「そうですよね。どうせ行ったって行かなくたってわからないと思いますよね。でも、お姉ちゃんってそういうのなぜかわかってしまうんじゃないかなって思うことがあるんですよ。何かそういう特別な力とかあったりするのかもしれないですね」
何か特別な力があるかもしれないという言葉を聞いて、俺の脳裏に浮かんだのはあの時に見た魔法陣とぬいぐるみだった。いまだにあれが何だったのか俺にはわからないけれど、何か俺達には理解出来ないような事をしていたのではないかという事だけは理解出来ていた。鬼仏院右近も口にこそ出さないけれど、鵜崎唯の事はそれなりに警戒しているところが見て取れる。その証拠になるかはわからないが、鵜崎唯の作った料理を食べる時は必ず俺が一口食べるまで待っているのだ。
「何か特別な力って、魔術とか?」
「魔術って、お兄さんは漫画とかゲームが好きすぎですよ。お姉ちゃんがそういうの使えたらお兄さんの気持ちを桜さんから自分の方へ向けるようにすると思いますよ。その方が楽だと思うし、お姉ちゃんも自分が好きな人が他の人の事ばかり考えてるって思わなくて済むと思いますからね。でも、なんでお兄さんってそんなに桜さんの事が好きでお姉ちゃんの事を好きじゃないんですか?」
「なんでって言われてもな、こればっかりは美味く説明することが出来ないと思うよ。自分でもどうしてそこまで唯菜ちゃんの事が好きなのかわかってないし」
「じゃあ、お姉ちゃんの事が好きじゃない理由はわかってるんですか?」
俺は思わず息をのんでしまったのだが、それは千雪ちゃんにとっても想定内だったようで彼女の表情は一切変わることが無かった。ガスランタンの淡い光にぼんやりと照らされているその表情は俺に何かを問いかけるようではなく、ただ俺の言葉を待っているという風に感じる取れたのだ。
どれくらいの間沈黙が続いたのかわからないが、俺の中ではその時間が永遠に続いてしまっているのではないかと感じていた。俺が何か言うまで絶対に何も言わないという意思を感じさせる強い眼差しに俺は何度も負けそうになったのだが、俺が鵜崎唯を好きになれない理由が魔法陣とぬいぐるみだなんて言って理化してもらえるとは思えない。もしかしたら、千雪ちゃんもその事を知っていて俺に共感してくれるのかもしれないけれど、そうではなく千雪ちゃんも鵜崎唯と同じ側の人間だったらどうなるのだろうという思いが少なからず俺の中にあった。その思いが、俺の判断を迷わせているのだ。
「お兄さんが見たその魔法陣とぬいぐるみって、どんな感じだったんですか?」
千雪ちゃんは俺の言った事を肯定も否定もせず淡々と状況を理解してくれようとしていた。俺は魔法陣を見たのが一瞬だったのでどのような感じだったのかまでは思い出せなかったのだが、千雪ちゃんの言葉の一つ一つを聞いてそんな感じだったような気がしてきた。
「それって、本当に魔法陣だったんですかね。千雪はその状況を見てないのでわかりませんけど、それって何のための魔法陣だったんですかね。右近君とかお兄さんを呪うとかそういう感じでもないでしょうし。もしかしたら、お兄さんの健康を祈願するための儀式だったのかもしれないですよ。そう考えると、魔法陣があるのにお兄さんを部屋に誘ったって事の説明も付くと思いますからね」
「そう言われるとそうかもしれないって思うけどさ、奏だったら説明くらいしてくれてもいいんじゃないかなって思うんだよね。たとえそれが本当の事じゃなくても俺達が怖がらないような理由を言ってくれればいいと思うんだよな」
「俺達って、もしかして右近君もお姉ちゃんの事を怖がってたりするの?」
「たぶんな。さすがにあの状況で魔法陣を見たら右近でもひいちゃうんだと思うよ。あの時以来右近から鵜崎唯の話題が極端に出なくなったからな。一緒にいる時は普通に話してるのとかも見るんだけどさ、鵜崎唯がいない時ってあんまり話題に出なくなってるんだよな」
そもそも、俺と一緒にいる時に鬼仏院右近が誰か他の女の話をする子なんて滅多にないのだ。俺から質問をしたら答えてはくれるけれど、基本的に鬼仏院右近が俺に女の話をする事は無い。それでも、あの魔法陣を見るまでは鵜崎唯や髑髏沼愛華の話題を良く出していたような気もするんだよな。
あの魔法陣を見た時にどう思ったのか寝る前にでも聞いてみようかなと思うのだけれど、その事で俺の知らなかった事実を知る可能性もあるわけで、やっぱり聞かない方が良いのかもしれないという思いが少しずつ強くなってはいるのであった。
「お兄さんが今考えている事を当てて見せましょうか。なんで俺がこんな時間に神社に行かないといけないんだろう。千雪を一人で行かせるのが心配なら俺じゃなくても右近君でもいいんじゃないか。そう思ってませんか?」
俺は千雪ちゃんのその言葉が当たっていたのにもかかわらず肯定する事は出来なかった。その事を肯定してしまうと俺が今の状況を嫌がっているという事がバレてしまうと思ったからだ。
「でも、お兄さんのその気持ちもわかりますよ。千雪だってこんな夜にお兄さんと一緒に神社に行くのなんて嫌ですもん。暗い時に行ったって何も楽しくないと思いますし、どうせ行くなら明るくなってからの方が良いと思うんですよね。だからと言ってこのまま朝までここに居るのも嫌ですし、さっさとお礼を伝えて帰りましょうよ。それとも、お礼を言った事にしてこのまま時間を潰して帰っちゃいます?」
「その考えは良いかも。今からその神社までどれくらいかかるのかわからないけどさ、適当に時間を潰して帰るのもありかもね」
「そうですよね。どうせ行ったって行かなくたってわからないと思いますよね。でも、お姉ちゃんってそういうのなぜかわかってしまうんじゃないかなって思うことがあるんですよ。何かそういう特別な力とかあったりするのかもしれないですね」
何か特別な力があるかもしれないという言葉を聞いて、俺の脳裏に浮かんだのはあの時に見た魔法陣とぬいぐるみだった。いまだにあれが何だったのか俺にはわからないけれど、何か俺達には理解出来ないような事をしていたのではないかという事だけは理解出来ていた。鬼仏院右近も口にこそ出さないけれど、鵜崎唯の事はそれなりに警戒しているところが見て取れる。その証拠になるかはわからないが、鵜崎唯の作った料理を食べる時は必ず俺が一口食べるまで待っているのだ。
「何か特別な力って、魔術とか?」
「魔術って、お兄さんは漫画とかゲームが好きすぎですよ。お姉ちゃんがそういうの使えたらお兄さんの気持ちを桜さんから自分の方へ向けるようにすると思いますよ。その方が楽だと思うし、お姉ちゃんも自分が好きな人が他の人の事ばかり考えてるって思わなくて済むと思いますからね。でも、なんでお兄さんってそんなに桜さんの事が好きでお姉ちゃんの事を好きじゃないんですか?」
「なんでって言われてもな、こればっかりは美味く説明することが出来ないと思うよ。自分でもどうしてそこまで唯菜ちゃんの事が好きなのかわかってないし」
「じゃあ、お姉ちゃんの事が好きじゃない理由はわかってるんですか?」
俺は思わず息をのんでしまったのだが、それは千雪ちゃんにとっても想定内だったようで彼女の表情は一切変わることが無かった。ガスランタンの淡い光にぼんやりと照らされているその表情は俺に何かを問いかけるようではなく、ただ俺の言葉を待っているという風に感じる取れたのだ。
どれくらいの間沈黙が続いたのかわからないが、俺の中ではその時間が永遠に続いてしまっているのではないかと感じていた。俺が何か言うまで絶対に何も言わないという意思を感じさせる強い眼差しに俺は何度も負けそうになったのだが、俺が鵜崎唯を好きになれない理由が魔法陣とぬいぐるみだなんて言って理化してもらえるとは思えない。もしかしたら、千雪ちゃんもその事を知っていて俺に共感してくれるのかもしれないけれど、そうではなく千雪ちゃんも鵜崎唯と同じ側の人間だったらどうなるのだろうという思いが少なからず俺の中にあった。その思いが、俺の判断を迷わせているのだ。
「お兄さんが見たその魔法陣とぬいぐるみって、どんな感じだったんですか?」
千雪ちゃんは俺の言った事を肯定も否定もせず淡々と状況を理解してくれようとしていた。俺は魔法陣を見たのが一瞬だったのでどのような感じだったのかまでは思い出せなかったのだが、千雪ちゃんの言葉の一つ一つを聞いてそんな感じだったような気がしてきた。
「それって、本当に魔法陣だったんですかね。千雪はその状況を見てないのでわかりませんけど、それって何のための魔法陣だったんですかね。右近君とかお兄さんを呪うとかそういう感じでもないでしょうし。もしかしたら、お兄さんの健康を祈願するための儀式だったのかもしれないですよ。そう考えると、魔法陣があるのにお兄さんを部屋に誘ったって事の説明も付くと思いますからね」
「そう言われるとそうかもしれないって思うけどさ、奏だったら説明くらいしてくれてもいいんじゃないかなって思うんだよね。たとえそれが本当の事じゃなくても俺達が怖がらないような理由を言ってくれればいいと思うんだよな」
「俺達って、もしかして右近君もお姉ちゃんの事を怖がってたりするの?」
「たぶんな。さすがにあの状況で魔法陣を見たら右近でもひいちゃうんだと思うよ。あの時以来右近から鵜崎唯の話題が極端に出なくなったからな。一緒にいる時は普通に話してるのとかも見るんだけどさ、鵜崎唯がいない時ってあんまり話題に出なくなってるんだよな」
そもそも、俺と一緒にいる時に鬼仏院右近が誰か他の女の話をする子なんて滅多にないのだ。俺から質問をしたら答えてはくれるけれど、基本的に鬼仏院右近が俺に女の話をする事は無い。それでも、あの魔法陣を見るまでは鵜崎唯や髑髏沼愛華の話題を良く出していたような気もするんだよな。
あの魔法陣を見た時にどう思ったのか寝る前にでも聞いてみようかなと思うのだけれど、その事で俺の知らなかった事実を知る可能性もあるわけで、やっぱり聞かない方が良いのかもしれないという思いが少しずつ強くなってはいるのであった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
萬倶楽部のお話(仮)
きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。
それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。
そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。
そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる