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第七十七話 蛍を見た後は廃神社に行く……らしい
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遠くからではあったが無数のホタルを観察することが出来た事もあって唯菜ちゃんは終始上機嫌であった。普段なら俺に話しかけてる来ることなんて無いはずなのに、今回は鬼仏院右近が近くにいるという事もあってかそれなりに会話を楽しむことが出来た。
「桜さんとたくさんお話が出来て良かったですね。お姉ちゃんはちょっと複雑そうな顔をしてましたけど、お兄さんが嬉しそうにしてたから良かったって言ってますよ。でも、桜さんとちょっと話したくらいでそんなに嬉しく思うんですか?」
「まあ、色々あるからね。ちょっとした事情があって俺から話しかけないようにしてるからさ、唯菜ちゃんから話しかけてもらえるのって嬉しかったりするんだよ」
「詳しくは聞かないですけど、蛍ってそんなに良いもんなんですかね。千雪は見慣れているからそんな風には思わないです」
「見慣れてるって、千雪ちゃんの家って自然に囲まれてる場所じゃないでしょ?」
「そうですよ。でも、見慣れてはいるんですよ。本気で探せばお兄さんの家の近くにもいるかもしれないですからね」
俺達が済んでいる場所は大学が近いという事もあって自然も多いのだけれど、さすがに蛍が済めるような環境ではないと思う。同じ市内の外れにある千雪ちゃんの実家だって自然に囲まれていたとしてもそこまでではないと思うのだが。いったいどこを探せば蛍がいるというのだろうか。
「あの、蛍も無事に見れたって事で、みんなでこの山の神社にお礼に行きたいって思うんだけど、みんな付き合ってくれるかな?」
おそらく、俺たちみんなの会話が途切れるのを鵜崎唯はずっと待っていたのだろう。蛍を見つけてから唯菜ちゃんはずっと嬉しそうに俺や右近に話しかけていたし、俺も千雪ちゃんと色々と話をしていたのだ。昼間にずっと二人で海にいたという事もあってなのか、俺はこの中だと千雪ちゃんが一番話しかけやすいように感じているのだ。
「え、この時間に神社って迷惑とかにならないの?」
「大丈夫だと思うよ。今から行こうと思ってる神社ってもう誰も管理してないし形だけの神社だからね。誰もすんでないから誰にも迷惑をかけたりなんてしないと思う」
「いやいや、誰も管理してないって廃神社って事?」
「そう思われても仕方ないと思うけど、この辺りには他に神社も無いからお礼を言っておきたいなって思ってるんだよね。怖いとか思う気持ちはあると思うんだけど、もう誰もいないから安心だよ」
俺は本気で鵜崎唯が言っていることの意味が理解出来なかった。誰もいない廃神社だから怖くないという事も理解出来ないのだが、誰もいない場所にお礼を言うというのも理解出来ない。誰もいないならお礼を言っても意味が無いと思うし、なんでそんな場所に行かないといけないのだろうという思いもあった。周りを見てみると、千雪ちゃん以外の三人も俺と同じように困惑しているようではあった。
「あのさ、あんまりこんな事は言いたくないんだけど、夜に廃神社に行くってのはあんまり良い事じゃないように思えるんだよね。なんか、夜にそういうところに行くのって肝試しとか遊び気分で行ってるって思われたりしないかな。蛍が見れたお礼をしたいっていう唯ちゃんの気持ちはわかるんだけどね、やっぱりそういう場所に夜中に行くのはどうなのかなって思うんだよね」
「俺も正直困惑してるよ。蛍が見れたのは嬉しいし凄いなって思った。でも、さすがにこの時間に神社に行くとかどうなんだろうって思うな。誰も管理してない場所って事は何かあるかもしれないし、危険な野生動物とか居たりしないかなって思うんだよね。何かあったとしても俺と政虎の二人でみんなを守るけどさ、こんな夜中に廃神社に行くってのはモラル的にも気分的にも良くないんじゃないかなっても思うんだ」
「私も二人と同じ意見かも。蛍が見れたのは嬉しかったし見てる間もいっぱい感謝してたよ。蛍が見れるところに連れてきてくれた唯ちゃんにも感謝してるし、もちろん蛍を見せてくれたこの自然にも感謝はしてる。でも、私はこの時間に廃神社にお礼に行くってのはちょっと怖いって思っちゃうかも。私は霊感とか無いし幽霊とか神様とか見た事ないんだけど、自分からそういう場所に行くってのは良くないんじゃないかなって思うの。みんなが行くっていうんだったら一緒に行くし、行かなかったとしても感謝の気持ちは忘れたりなんてしないよ。でも、やっぱりこの時間に廃神社に行くのは何か怖いかもって思っちゃうな」
三人の気持ちはよくわかる。俺も本音を言えばこんな夜に廃神社なんて行きたいなんて思わない。お礼を言いたくないという事ではなく、深夜に近いこの時間帯にそういう場所に行くのは良くないと思っているからだ。俺は別に普段から神様を崇拝しているというわけでもないのだが、肝試しみたいなことは出来るだけしたくないと思っている。怖いとかそういうのではなく、知らず知らずのうちに自覚のないまま迷惑をかけているという事をしたくないだけなのだ。鵜崎唯が行こうと思っている廃神社も誰かの思い出の場所だったりすると思うし、そんな場所に軽い気持ちで立ち入って良いものなのか考えてしまう。
「もしかして、お兄さんって心霊系とか苦手だったりするんですか?」
「別に苦手じゃないよ」
「そうですよね。お兄さんの家にそういう本とかもありますし、動画の履歴にも心霊系のやつがありますもんね。じゃあ、廃神社にお礼に行くのは千雪とお兄さんの二人にしましょうか。お姉ちゃんもそれだったら納得ですよね?」
「そうね。千雪ちゃんと政虎だったら大丈夫かも。みんなごめんね。でも、良かったら明日の日中にあらためてお礼に行きたいって思うんだけど、それでもいいかな?」
俺はこの二人の会話を聞いてさらに困惑しているのだが、俺以外の三人も俺と同様に鵜崎唯と千雪ちゃんが何を言っているのか理解出来ていないようだ。
俺が廃神社に行くという事はかろうじて理解する事も出来るのだけど、俺と千雪ちゃんだけで行くという事の意味が分からない。みんなで行くなら理解出来るし、みんなで行かないという事も理解出来る。だが、俺と千雪ちゃんの二人だけで行くという事が理解出来ないのだ。
「何ですか。変な目で千雪の事を見ないでくださいよ。お兄さんが一人で行きたいっていうんだったら千雪も帰りますけど、それでもいいんですか?」
「一人で行きたいとは言ってないよ。仮に、一人で行きたいと思ってたとしても神社の場所を知らないからね。たどり着けないと思う」
「それもそうですね。仕方ないから千雪がお兄さんに付き添ってあげますよ。お姉ちゃんはみんなを無事に旅館まで連れて行かなきゃいけないですしね」
「じゃあ、私はみんなを連れて帰るからね。千雪ちゃんは政虎の事をよろしく頼むよ」
「お姉ちゃんもみんなの事をちゃんと連れて帰ってね。お兄さんは大丈夫だと思うからね」
鵜崎唯と千雪ちゃんは俺達の疑問を無視するかのようにそれぞれの準備を始めていた。千雪ちゃんはなぜかそれまで使っていた懐中電灯を鬼仏院右近に渡すと俺の懐中電灯まで渡してしまった。
このままでは俺達は照明のないまま山道を歩くことになってしまうと思ったのだけれど、鵜崎唯は自分の背負っていたリュックからガスランタンを取り出すと器用に火を灯したのだ。当たりがほんのりと柔らかい灯りに包まれていたのだが、俺はその灯りを見て少しだけ気持ちが落ち着いてきたように思えた。
なぜ俺と千雪ちゃんの二人でお礼を言いに行かないといけないのだろうという思いはあるのだが、このまま今日は千雪ちゃんと一緒に過ごす一日になってもいいのではないかと思い始めていたのだった。
「桜さんとたくさんお話が出来て良かったですね。お姉ちゃんはちょっと複雑そうな顔をしてましたけど、お兄さんが嬉しそうにしてたから良かったって言ってますよ。でも、桜さんとちょっと話したくらいでそんなに嬉しく思うんですか?」
「まあ、色々あるからね。ちょっとした事情があって俺から話しかけないようにしてるからさ、唯菜ちゃんから話しかけてもらえるのって嬉しかったりするんだよ」
「詳しくは聞かないですけど、蛍ってそんなに良いもんなんですかね。千雪は見慣れているからそんな風には思わないです」
「見慣れてるって、千雪ちゃんの家って自然に囲まれてる場所じゃないでしょ?」
「そうですよ。でも、見慣れてはいるんですよ。本気で探せばお兄さんの家の近くにもいるかもしれないですからね」
俺達が済んでいる場所は大学が近いという事もあって自然も多いのだけれど、さすがに蛍が済めるような環境ではないと思う。同じ市内の外れにある千雪ちゃんの実家だって自然に囲まれていたとしてもそこまでではないと思うのだが。いったいどこを探せば蛍がいるというのだろうか。
「あの、蛍も無事に見れたって事で、みんなでこの山の神社にお礼に行きたいって思うんだけど、みんな付き合ってくれるかな?」
おそらく、俺たちみんなの会話が途切れるのを鵜崎唯はずっと待っていたのだろう。蛍を見つけてから唯菜ちゃんはずっと嬉しそうに俺や右近に話しかけていたし、俺も千雪ちゃんと色々と話をしていたのだ。昼間にずっと二人で海にいたという事もあってなのか、俺はこの中だと千雪ちゃんが一番話しかけやすいように感じているのだ。
「え、この時間に神社って迷惑とかにならないの?」
「大丈夫だと思うよ。今から行こうと思ってる神社ってもう誰も管理してないし形だけの神社だからね。誰もすんでないから誰にも迷惑をかけたりなんてしないと思う」
「いやいや、誰も管理してないって廃神社って事?」
「そう思われても仕方ないと思うけど、この辺りには他に神社も無いからお礼を言っておきたいなって思ってるんだよね。怖いとか思う気持ちはあると思うんだけど、もう誰もいないから安心だよ」
俺は本気で鵜崎唯が言っていることの意味が理解出来なかった。誰もいない廃神社だから怖くないという事も理解出来ないのだが、誰もいない場所にお礼を言うというのも理解出来ない。誰もいないならお礼を言っても意味が無いと思うし、なんでそんな場所に行かないといけないのだろうという思いもあった。周りを見てみると、千雪ちゃん以外の三人も俺と同じように困惑しているようではあった。
「あのさ、あんまりこんな事は言いたくないんだけど、夜に廃神社に行くってのはあんまり良い事じゃないように思えるんだよね。なんか、夜にそういうところに行くのって肝試しとか遊び気分で行ってるって思われたりしないかな。蛍が見れたお礼をしたいっていう唯ちゃんの気持ちはわかるんだけどね、やっぱりそういう場所に夜中に行くのはどうなのかなって思うんだよね」
「俺も正直困惑してるよ。蛍が見れたのは嬉しいし凄いなって思った。でも、さすがにこの時間に神社に行くとかどうなんだろうって思うな。誰も管理してない場所って事は何かあるかもしれないし、危険な野生動物とか居たりしないかなって思うんだよね。何かあったとしても俺と政虎の二人でみんなを守るけどさ、こんな夜中に廃神社に行くってのはモラル的にも気分的にも良くないんじゃないかなっても思うんだ」
「私も二人と同じ意見かも。蛍が見れたのは嬉しかったし見てる間もいっぱい感謝してたよ。蛍が見れるところに連れてきてくれた唯ちゃんにも感謝してるし、もちろん蛍を見せてくれたこの自然にも感謝はしてる。でも、私はこの時間に廃神社にお礼に行くってのはちょっと怖いって思っちゃうかも。私は霊感とか無いし幽霊とか神様とか見た事ないんだけど、自分からそういう場所に行くってのは良くないんじゃないかなって思うの。みんなが行くっていうんだったら一緒に行くし、行かなかったとしても感謝の気持ちは忘れたりなんてしないよ。でも、やっぱりこの時間に廃神社に行くのは何か怖いかもって思っちゃうな」
三人の気持ちはよくわかる。俺も本音を言えばこんな夜に廃神社なんて行きたいなんて思わない。お礼を言いたくないという事ではなく、深夜に近いこの時間帯にそういう場所に行くのは良くないと思っているからだ。俺は別に普段から神様を崇拝しているというわけでもないのだが、肝試しみたいなことは出来るだけしたくないと思っている。怖いとかそういうのではなく、知らず知らずのうちに自覚のないまま迷惑をかけているという事をしたくないだけなのだ。鵜崎唯が行こうと思っている廃神社も誰かの思い出の場所だったりすると思うし、そんな場所に軽い気持ちで立ち入って良いものなのか考えてしまう。
「もしかして、お兄さんって心霊系とか苦手だったりするんですか?」
「別に苦手じゃないよ」
「そうですよね。お兄さんの家にそういう本とかもありますし、動画の履歴にも心霊系のやつがありますもんね。じゃあ、廃神社にお礼に行くのは千雪とお兄さんの二人にしましょうか。お姉ちゃんもそれだったら納得ですよね?」
「そうね。千雪ちゃんと政虎だったら大丈夫かも。みんなごめんね。でも、良かったら明日の日中にあらためてお礼に行きたいって思うんだけど、それでもいいかな?」
俺はこの二人の会話を聞いてさらに困惑しているのだが、俺以外の三人も俺と同様に鵜崎唯と千雪ちゃんが何を言っているのか理解出来ていないようだ。
俺が廃神社に行くという事はかろうじて理解する事も出来るのだけど、俺と千雪ちゃんだけで行くという事の意味が分からない。みんなで行くなら理解出来るし、みんなで行かないという事も理解出来る。だが、俺と千雪ちゃんの二人だけで行くという事が理解出来ないのだ。
「何ですか。変な目で千雪の事を見ないでくださいよ。お兄さんが一人で行きたいっていうんだったら千雪も帰りますけど、それでもいいんですか?」
「一人で行きたいとは言ってないよ。仮に、一人で行きたいと思ってたとしても神社の場所を知らないからね。たどり着けないと思う」
「それもそうですね。仕方ないから千雪がお兄さんに付き添ってあげますよ。お姉ちゃんはみんなを無事に旅館まで連れて行かなきゃいけないですしね」
「じゃあ、私はみんなを連れて帰るからね。千雪ちゃんは政虎の事をよろしく頼むよ」
「お姉ちゃんもみんなの事をちゃんと連れて帰ってね。お兄さんは大丈夫だと思うからね」
鵜崎唯と千雪ちゃんは俺達の疑問を無視するかのようにそれぞれの準備を始めていた。千雪ちゃんはなぜかそれまで使っていた懐中電灯を鬼仏院右近に渡すと俺の懐中電灯まで渡してしまった。
このままでは俺達は照明のないまま山道を歩くことになってしまうと思ったのだけれど、鵜崎唯は自分の背負っていたリュックからガスランタンを取り出すと器用に火を灯したのだ。当たりがほんのりと柔らかい灯りに包まれていたのだが、俺はその灯りを見て少しだけ気持ちが落ち着いてきたように思えた。
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