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第六十五話 俺はどこにいても一人にはなれないようだ

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 政虎には悪いけれど、俺は少しだけ別行動をさせてもらうことにする。別に皆といるのが嫌とかそう言うわけではなく、俺が近くにいると政虎は女子と話そうとせずに俺に全て丸投げしようとするからだ。少しくらいはみんなと距離を縮めておかないと海水浴に行った時に苦労すると思うんだよな。
 政虎は唯菜の事が好きなのに自分から話しかけたりなんてしないし、唯菜も政虎に話しかけようとはしないのだけどそれは俺にはどうしようも出来ないんだよな。政虎に頑張ってもらうしかないのだ。
 と言っても、あの状況で政虎を一人にしてきても自分からあいつが話しかけに行くとは思えないし、愛華か千雪が政虎の方へ近付いて話しかけるだけで終わりそうなんだよな。俺にはその行動の意味が理解出来ないのだけれど、政虎の近くに唯菜がいる時は唯は政虎と積極的に話そうとはしないんだよな。政虎が唯菜の事を好きだという事を知っているから遠慮しているとは思うのだけれど、政虎が唯菜に全く相手にされていないという事を知っている唯は積極的に話しかけに行ってもおかしくはない。むしろ、唯菜よりも自分の方が政虎の事を好きなんだからというアピールをたくさんしてもおかしくはない状況だと思う。それなのに、唯は政虎の側に唯菜がいる時にはあまり話しかけようとはしないのだ。
 みんなが水着を選び終わるまでにどれくらい時間がかかるのかわからないし、適当に歩いているのも限界はあると思うので一人では立ち寄らない場所にちょっと行ってみようかなと思う。政虎も唯も愛華も行かないような場所に行けば万が一にも誰かが追いかけてきた時にも遭遇しないだろうと思ったからだ。

「あ、右近君だ。休みの日に一人でいるなんて珍しいね」
「やあ、聡美ちゃんじゃないか。俺はいつものみんなと買い物に来てるんだけど、聡美ちゃんも今日はみんなで買い物に来たのかな?」
「そうなんだよ。夏休みに三人でどこか行こうって話をしててね、これからそれに合わせた服を買おうかなって思って見に来るんだ。いつものみんなって、愛華ちゃんとか千雪ちゃんとかと一緒って事?」
「そうだよ。俺の友達ってあいつらしかいないからね」
 聡美ちゃんはゼミは違うけどいくつか同じ講義を受けているのだ。愛華は学校内でも有名な方だし俺達が一緒にいることはみんなよく知っているのだけれど、同じ授業を受けている千雪の事を知っているのは意外だった。千雪もある意味有名で目立つところはあるのだけれど、俺が名前を出す前から一緒にいるという事を理解しているのは意外だった。今日は珍しく唯菜が一緒だという事を知らないので名前は出ないと思うのだけど、唯菜も一緒だという事を知ったらいつも以上に質問攻めにされてしまうんだろうな。ただ、やはりと言うべきか彼女たちの中でも唯と政虎の名前を出すのは憚られるのだろう。俺は政虎と唯の方が一緒にいる時間も長いし気心もしれていると思うのだけれど、唯と政虎が俺と仲が良いという事を認めたくない人達はそれなりに多いのだ。聡美ちゃんもその一人ではあるのだ。
「右近君たちって本当に仲が良いよね。でも、右近君と愛華ちゃんが一緒にいるのって凄く絵になるもんな。あんまり学校で一緒にいるところを見かけないけど、たまに見かけると写真とか撮りたくなっちゃうもんね」
「俺と愛華ってあんまり一緒にいないからね。俺よりも政虎の方が愛華と一緒にいる時間が長いと思うよ。そういう意味では俺よりも政虎の方が愛華と仲が良いともうけどね」
「ええ、そんな事ないと思うよ。こんないい方したら悪口に聞こえるかもしれないけど、政虎君って愛華ちゃんに対して結構酷いこと言ってると思うんだよね。愛華ちゃんも政虎君に言い返してはいるけどさ、それにしても政虎君の言い方は良くないなって思う事があるよ。たまに右近君にも酷いこと言ってるの聞くけど、右近君ってそういうの気になったりしないのかな?」
「あんまり気にならないかな。政虎はああ見えて色々と考えてたりするからね。俺を良くしようと思って言ってくれてることもあると思うから気にしてはいないよ。聡美ちゃんとかは政虎と話をしたことが無いからわからな千思うけど、あいつはわりといいやつだからね」
「そうなんだ。政虎君ってそんな感じなんだね。右近君が言うんだったらそうなのかなって思うけどさ、やっぱり私は政虎君の事をそんな風に思えないかも。一年生の時から色々と見てきてるってのもあるんだけど、唯菜ちゃんとの話とか聞いたら少し怖く思えちゃうんだよね。政虎君は悪くないってわかってはいるんだけど、唯菜ちゃんとか周りの人の話を聞いていると何か裏があるんじゃないかなって思っちゃうんだよね。ごめんね」
「大丈夫。政虎の事を知らない人はそう思うんだろうなってのはわかってるからさ。政虎の事を理解して欲しいなんて思ったりはしないけど、あんまり怖がらないでいてもらえると俺としては嬉しいけどね。でも、政虎が女子に嫌われるような事をしてるってのは俺も理解してるつもりだけどね」
 俺と唯以外に政虎の良さを理解してくれる人はいないんだろうな。愛華は当然のように政虎の事を信用なんてしていないし、千雪も行動を見ていると政虎の事はオモチャとして扱っているような印象も受けてしまう。政虎は気にしてないみたいではあるけれど、千雪は心のどこかで政虎を格下に見ているように感じるところがあるのだ。もしかしたら、千雪は大好きな唯が政虎に惚れているという事に対して嫉妬しているだけなのかもしれないけど、頭の良い千雪がそんな感情如きでそんな態度に出るものなのかと思うところはあった。
「じゃあ、俺はそろそろみんなのところに戻ろうかな。聡美ちゃんと千枝ちゃんと理子ちゃんも仲良く楽しんでね」
「え、二人の名前も知ってるんだ。学部も違うからちょっと意外かも。でも、千枝も理子も右近君に名前を覚えてもらってて良かったね」
「まあ、千枝は前に右近君と付き合ってたことあるから当然だけどさ、私の名前も知ってるのって意外だったかも」
「ちょっと、千枝が右近君と付き合ってたんて聞いてないんだけど。あとでちゃんと詳しく教えてね」
「わかったから、じゃあ、右近君またね。理子も右近君と付き合ってたとかないよね?」
「うん、まだ付き合ってないよ。でも、名前を知っててくれたのって嬉しいかも。何の関りも無いのに知っててくれるのって嬉しいんだね」
 俺は楽しそうにしている三人に手を振って政虎の待っているあのベンチまで戻ろうかな。普通に戻っても面白くないと思うし、何か変わったモノでも買っていってみようかな。出来れば、何かちゃんと使えそうなものが良いな。
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