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第五十三話 メンタル強者のナンパ男
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政虎からうわさでは聞いていたのだが、愛華がナンパされている現場を目撃してしまった。実際にあるという話は聞いていたのだけれど、こうして目撃してしまうとどんな感じで話をしているのだろうという気持ちになってしまう。
俺は二人に気付かれないように物陰からこっそりと様子をうかがうことにした。
「君みたいな綺麗な人は今まで見た事なかったんだけど、どうしたら君みたいな綺麗な女性と仲良くすることが出来るのかな。おっと、いきなり答えは言わないでくれよ。僕は君が何を考えているのか当ててみたいからね。そうだね、君は今、僕に話しかけられて嬉しいって思ってるでしょ。当たってるかな?」
「…………」
俺が二人に気付いてから十分近く経っているとは思うのだけれど、あの男の人はずっと愛華に話しかけているのだ。話しかけられている愛華は全く相手にせず最近発売したばかりのグミの袋を眺めているようだ。そんなものを見ているくらいなら異動でもすればいいのにと思っているのだけれど、愛華は全くその場所から動こうとはしなかったのだ。
「そのグミって最近出たばっかりのやつだよね。俺もちょっと気になってたんだ。もしよかったらでいいんだけど、四つくらい分けてもらえないかな?」
「……」
愛華はずっと無視をし続けているのだけれど、どんなに無視されても話しかけ続けているあの男のメンタルはいったいどうなっているのだろうと思ってしまった。いや、あれほど話しかけられているというのに一切反応していない愛華のメンタルもどうなっているのか気になってきてしまった。この二人がこのまま同じことを続けていったとしてどういう結末を迎えてしまうのだろうかと思ってしまった。
とりあえず、バイトの時間までまだ余裕があるのでもう少しだけ見ていこうと思ったのだが、俺のスマホに愛華からメッセージが着ている事に気付いてしまったのだ。五分ほど前に届いていたメッセージに書かれていたのは愛華からくるとは思えないようなメッセージだったのだ。
「ごめん、待たせた?」
俺はなるべく自然な感じで待ち合わせをしていた風を装ってみたのだが、愛華は俺の事を一瞬チラッと見ただけで何のリアクションも返してこなかった。
男は俺と愛華の事を交互に見て何かを考えているようなのだが、愛華が何の反応も見せないことから俺の事もナンパ野郎の一人だと思い込んでしまったようである。なぜか俺に対して高圧的に出てきた男は愛華に相手にされなかったという鬱憤を晴らすかのように俺に対して面倒な感じの絡み方をしてきたのだった。
「お前が一体誰なのか知らないけどな、この子は俺が先に声をかけてるんだよ。お前みたいなイケメンはどこか他へでも行けよ」
「……」
「な、なんだよ。そんな目で俺を睨んだって無駄だからな。お前はどこか他所へ行け」
俺も愛華の真似をしてみたのだけれど思いのほか上手くいかなかったようだ。愛華のように終始真顔で相手をしないというのは案外難しく、俺は目の前でナンパ男が動くたびに面白くなってしまって吹き出しそうになっていたのだ。
これを黙って見ていられる愛華は物凄い女なんじゃないかとあらためて思い知らされたのだ。
「あ、右近。遅かったな。あまりにも遅いからもう帰ろうかと思っていたところだ。お前が人を待たせることなんて滅多にないので何かあったかと思って心配してたんだぞ」
今までずっと沈黙を貫いてきた愛華が急に喋り出したことで驚いてしまったのだが、それに関してはナンパ男も俺と同じように驚いていた。もしかしたら、俺よりも驚いていたのかもしれないけれど、こんな感じの愛華を今まで一度も見た事が無かった俺はビックリしていまだに心臓がいつもよりも早くリズムを刻んでいるのであった。
「どうした、私の顔に何かついているのか?」
「そう言うわけじゃないけど」
「そうか、それならいいんだ。ただな、お前に見つめられると笑ってしまいそうになるな。お前で笑いたくないんでそんなに見つめないで貰えるかな」
「ああ、ごめん」
自分でも今のは謝るのが正解なのかと考えてしまったのだが、ここはとりあえず俺が悪くないとしても謝っておくべきだろう。謝った方が良い相手と謝らなくても平気な相手を見極めるコツなんかがあれば今すぐにでも教えてもらいたいものであるが、そんなコツを知ったとしても俺はとりあえず謝ってしまうような気がする。ただ、相手が政虎の時は変に謝ったりせずにちゃんとどうしてそうなったのか言い合うような気はしていた。
「お前は今日もバイトだって言ってたと思うが、それまでの時間は何をしたいかな?」
「何をしたいと言われてもな、そんなに時間もあるわけじゃないし軽く暇つぶしでも出来たらいいなって思ってたよ」
「軽く暇つぶしか。それだったら、政虎と千雪が何かしているみたいんでその様子を見に行ってみるか?」
「政虎と千雪の二人なのか?」
「そうみたいだぞ。唯ちゃんは映画が見たいとかで二人とは別行動しているみたいだな」
「へえ、唯が誰かほかの女と政虎が二人でいるのに邪魔しないってのは珍しいな」
「そんなに珍しくはないと思うぞ。私もあいつと二人で何かしている時がたまにあるからな。授業以外でも二人で何かする時はたまにあるんだよ。でもな、あいつと二人でいても楽しくないんだよな。唯ちゃんやお前はあいつと楽しく過ごせて凄いなと思ってるからな」
一見褒められているように聞こえはするのだけれど、愛華は政虎に関係することで相手を褒めることは無い。なぜかわからないけれど、絶対に政虎関係の話題で愛華からポジティブな話題が出ることは無いのだ。
「あれ、さっきまで愛華の事をナンパしていた男の人ってどっか行ったのかな?」
「ナンパってなんだ。お前はいったい何のことを言っているんだ?」
「さっきまで愛華に話しかけてた男の人がいただろ。いつの間に消えたのかなって思ってさ」
「本当にお前は何を言っているんだ。ここにはさっきから私とお前しかいないだろ。近くにいるのが丸見えだって言うのに物陰に隠れて私の事を見ていたお前の姿にひいていたんだからな。頼んでもいないのに急にかくれんぼが始まったみたいでちょっとうざかったぞ」
「いやいやいや、さっきから熱心に愛華に話しかけていた男の人がいたじゃないか。何度無視されてもめげずに話しかけててさ、あんなに無視されても話しかけられるなんて凄いなって思って見てたからね。ちょっと面白いなって思っててさ、悪いとは思ったけど動画も撮ったんだよ。あんなに話しかけられているのに無視するなんて凄いなって思って思わず撮っちまった」
「お前はそんな見た目で盗撮までするのか。まあ、お前ならぎりぎり許されるかもしれないのが何とも言えないところではあるな。それで、その動画には私に話しかけているという男も映っているんだな。どんな男なのか見せてみろ」
俺はついさっき撮ったばかりの動画を愛華と一緒に見ていたのだけれど、そこに映っているのは愛華一人だった。何度か愛華はカメラ目線になってはいたのだけれど、俺が見ていたはずの男の姿はどこにも映っていなかった。姿が映っていないからなのか声も入っていないのだが、時々通っている車の音がしっかり入っているのでマイクが壊れているという事でもないようだ。
「あのな、そんなに私の事を撮りたいんだったら一言言ってくれ。撮らせてやるかはその時の気分次第だが、そういう盗撮みたいな真似はやめた方が良いと思うぞ。お前だって罪を犯せば罰せられるんだからな。あんまり変なことはしない方が良いと思うぞ」
愛華の言っている言事は何一つ間違ってはいないと思う。だが、俺は間違いなく愛華に話しかけている男の姿を見ていたし声も聴いていたのだ。それなのに、愛華はそんな奴はいないというし証拠の映像にも映ってはいないのだ。
俺は釈然としない気持ちのままバイトに向かうことになるのだろうけど、さっきの男が何者だったのか答えがわからないまま時間が過ぎている事になるんだろうなと考えてしまっていた。
ただ、明日になればそんな事も忘れてしまっているのではないかと思ってはいるのであった。
俺は二人に気付かれないように物陰からこっそりと様子をうかがうことにした。
「君みたいな綺麗な人は今まで見た事なかったんだけど、どうしたら君みたいな綺麗な女性と仲良くすることが出来るのかな。おっと、いきなり答えは言わないでくれよ。僕は君が何を考えているのか当ててみたいからね。そうだね、君は今、僕に話しかけられて嬉しいって思ってるでしょ。当たってるかな?」
「…………」
俺が二人に気付いてから十分近く経っているとは思うのだけれど、あの男の人はずっと愛華に話しかけているのだ。話しかけられている愛華は全く相手にせず最近発売したばかりのグミの袋を眺めているようだ。そんなものを見ているくらいなら異動でもすればいいのにと思っているのだけれど、愛華は全くその場所から動こうとはしなかったのだ。
「そのグミって最近出たばっかりのやつだよね。俺もちょっと気になってたんだ。もしよかったらでいいんだけど、四つくらい分けてもらえないかな?」
「……」
愛華はずっと無視をし続けているのだけれど、どんなに無視されても話しかけ続けているあの男のメンタルはいったいどうなっているのだろうと思ってしまった。いや、あれほど話しかけられているというのに一切反応していない愛華のメンタルもどうなっているのか気になってきてしまった。この二人がこのまま同じことを続けていったとしてどういう結末を迎えてしまうのだろうかと思ってしまった。
とりあえず、バイトの時間までまだ余裕があるのでもう少しだけ見ていこうと思ったのだが、俺のスマホに愛華からメッセージが着ている事に気付いてしまったのだ。五分ほど前に届いていたメッセージに書かれていたのは愛華からくるとは思えないようなメッセージだったのだ。
「ごめん、待たせた?」
俺はなるべく自然な感じで待ち合わせをしていた風を装ってみたのだが、愛華は俺の事を一瞬チラッと見ただけで何のリアクションも返してこなかった。
男は俺と愛華の事を交互に見て何かを考えているようなのだが、愛華が何の反応も見せないことから俺の事もナンパ野郎の一人だと思い込んでしまったようである。なぜか俺に対して高圧的に出てきた男は愛華に相手にされなかったという鬱憤を晴らすかのように俺に対して面倒な感じの絡み方をしてきたのだった。
「お前が一体誰なのか知らないけどな、この子は俺が先に声をかけてるんだよ。お前みたいなイケメンはどこか他へでも行けよ」
「……」
「な、なんだよ。そんな目で俺を睨んだって無駄だからな。お前はどこか他所へ行け」
俺も愛華の真似をしてみたのだけれど思いのほか上手くいかなかったようだ。愛華のように終始真顔で相手をしないというのは案外難しく、俺は目の前でナンパ男が動くたびに面白くなってしまって吹き出しそうになっていたのだ。
これを黙って見ていられる愛華は物凄い女なんじゃないかとあらためて思い知らされたのだ。
「あ、右近。遅かったな。あまりにも遅いからもう帰ろうかと思っていたところだ。お前が人を待たせることなんて滅多にないので何かあったかと思って心配してたんだぞ」
今までずっと沈黙を貫いてきた愛華が急に喋り出したことで驚いてしまったのだが、それに関してはナンパ男も俺と同じように驚いていた。もしかしたら、俺よりも驚いていたのかもしれないけれど、こんな感じの愛華を今まで一度も見た事が無かった俺はビックリしていまだに心臓がいつもよりも早くリズムを刻んでいるのであった。
「どうした、私の顔に何かついているのか?」
「そう言うわけじゃないけど」
「そうか、それならいいんだ。ただな、お前に見つめられると笑ってしまいそうになるな。お前で笑いたくないんでそんなに見つめないで貰えるかな」
「ああ、ごめん」
自分でも今のは謝るのが正解なのかと考えてしまったのだが、ここはとりあえず俺が悪くないとしても謝っておくべきだろう。謝った方が良い相手と謝らなくても平気な相手を見極めるコツなんかがあれば今すぐにでも教えてもらいたいものであるが、そんなコツを知ったとしても俺はとりあえず謝ってしまうような気がする。ただ、相手が政虎の時は変に謝ったりせずにちゃんとどうしてそうなったのか言い合うような気はしていた。
「お前は今日もバイトだって言ってたと思うが、それまでの時間は何をしたいかな?」
「何をしたいと言われてもな、そんなに時間もあるわけじゃないし軽く暇つぶしでも出来たらいいなって思ってたよ」
「軽く暇つぶしか。それだったら、政虎と千雪が何かしているみたいんでその様子を見に行ってみるか?」
「政虎と千雪の二人なのか?」
「そうみたいだぞ。唯ちゃんは映画が見たいとかで二人とは別行動しているみたいだな」
「へえ、唯が誰かほかの女と政虎が二人でいるのに邪魔しないってのは珍しいな」
「そんなに珍しくはないと思うぞ。私もあいつと二人で何かしている時がたまにあるからな。授業以外でも二人で何かする時はたまにあるんだよ。でもな、あいつと二人でいても楽しくないんだよな。唯ちゃんやお前はあいつと楽しく過ごせて凄いなと思ってるからな」
一見褒められているように聞こえはするのだけれど、愛華は政虎に関係することで相手を褒めることは無い。なぜかわからないけれど、絶対に政虎関係の話題で愛華からポジティブな話題が出ることは無いのだ。
「あれ、さっきまで愛華の事をナンパしていた男の人ってどっか行ったのかな?」
「ナンパってなんだ。お前はいったい何のことを言っているんだ?」
「さっきまで愛華に話しかけてた男の人がいただろ。いつの間に消えたのかなって思ってさ」
「本当にお前は何を言っているんだ。ここにはさっきから私とお前しかいないだろ。近くにいるのが丸見えだって言うのに物陰に隠れて私の事を見ていたお前の姿にひいていたんだからな。頼んでもいないのに急にかくれんぼが始まったみたいでちょっとうざかったぞ」
「いやいやいや、さっきから熱心に愛華に話しかけていた男の人がいたじゃないか。何度無視されてもめげずに話しかけててさ、あんなに無視されても話しかけられるなんて凄いなって思って見てたからね。ちょっと面白いなって思っててさ、悪いとは思ったけど動画も撮ったんだよ。あんなに話しかけられているのに無視するなんて凄いなって思って思わず撮っちまった」
「お前はそんな見た目で盗撮までするのか。まあ、お前ならぎりぎり許されるかもしれないのが何とも言えないところではあるな。それで、その動画には私に話しかけているという男も映っているんだな。どんな男なのか見せてみろ」
俺はついさっき撮ったばかりの動画を愛華と一緒に見ていたのだけれど、そこに映っているのは愛華一人だった。何度か愛華はカメラ目線になってはいたのだけれど、俺が見ていたはずの男の姿はどこにも映っていなかった。姿が映っていないからなのか声も入っていないのだが、時々通っている車の音がしっかり入っているのでマイクが壊れているという事でもないようだ。
「あのな、そんなに私の事を撮りたいんだったら一言言ってくれ。撮らせてやるかはその時の気分次第だが、そういう盗撮みたいな真似はやめた方が良いと思うぞ。お前だって罪を犯せば罰せられるんだからな。あんまり変なことはしない方が良いと思うぞ」
愛華の言っている言事は何一つ間違ってはいないと思う。だが、俺は間違いなく愛華に話しかけている男の姿を見ていたし声も聴いていたのだ。それなのに、愛華はそんな奴はいないというし証拠の映像にも映ってはいないのだ。
俺は釈然としない気持ちのままバイトに向かうことになるのだろうけど、さっきの男が何者だったのか答えがわからないまま時間が過ぎている事になるんだろうなと考えてしまっていた。
ただ、明日になればそんな事も忘れてしまっているのではないかと思ってはいるのであった。
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