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第四十七話 鵜崎千雪は俺の部屋に馴染んでしまう

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 俺の部屋にある本棚から何の躊躇もなく漫画を持っていった鵜崎千雪であるが、彼女が手に取ったのは一冊ではなく十冊にも及んでいた。あれだけの量の漫画を鵜崎唯が迎えに来るまでの間に読み終わるはずはないのだけれど、一体どういうつもりなのだろうか。
「そんなにたくさん漫画を持ってきても読み切れないんじゃない?」
「大丈夫だと思いますよ。読み終わらなかったら借りていきますし。別にいいですよね?」
「結構前に読み終わったやつだからいいけどさ、どうせだったら最後までもっていっても良いよ」
「うーん、最後までもっていきたいとは思うんですけどさすがに重いと思うんですよ。それに、全部持っていったら千雪は寝る間も惜しんで呼んでしまうんじゃないかって考えます。なので、また今度遊びに来た時に続きを読むことにしますよ。その時はお姉ちゃんに美味しいご飯を作ってもらっちゃいますから」
 俺は冷蔵庫に入っているりんごジュースとお茶のどちらをあけて飲むか迷っていた。自分一人で飲むんだったらどっちでもいいとは思うのだけれど、鵜崎千雪にも分けてあげるのだとしたらりんごジュースの方が良いのかなと思っている。さっきもジュースを飲んでいたと思うのできっとお茶よりもりんごジュースの方が喜ばれるんだろうな。
「あ、飲み物だったらお茶が良いです。お姉ちゃんから貰ったお菓子があったんでお兄さんも一緒に食べましょうよ。甘いのって嫌いじゃないですよね?」
「嫌いではないけど、お茶で良いの?」
「はい、今はお茶が良いです」
 俺としてはどちらでも良かったのでアレだが、中学生だからと言って何でもかんでも子供っぽく考えない方が良いのかなとも思ってしまった。
 お菓子を持ってきていると言っていたけれど、鵜崎千雪がもっている大きさの鞄であればそこまで量も無いと思うので俺の家にあるお菓子も出してしまおうかな。いつか誰かが来た時用に多少のストックはあるのだけれど、お茶に合わせるんだったら甘いものの方が良いのかもしれないな。
「別にお茶だけでも良かったんですけど、ありがとうございます。お兄さんって普段からドーナツとか食べるんですか?」
「家にいる時はあまりお菓子とか食べないかな。みんなが遊びに来た時に一緒に食べるくらいなんだよね」
「へえ、そうなんですね。実はお兄さんってお姉ちゃんたちが遊びに来るのを楽しみに待ってたりするんですか?」
「そう言うわけではないけどさ、いつもみんな何か持ってきてくれたりするし、そのお礼って感じかも」
「意外ですね。お兄さんってお姉ちゃんたちが遊びに来るの迷惑なのかなって思ってたんですけど、本当は少し楽しみにしてたんですね。今日も千雪と二人でご飯を食べに行ってくれたし、実は口にしてるほど一人が好きってわけでもないんじゃないですか。本当はみんなと仲良くしたいって思ってたりします?」
「まあ、俺も絶対に一人が良いってわけじゃないからな。一人の時が好きってのはあるけどさ、右近たちと遊んでるのが楽しいって思う事だってあるよ。唯の作ってくれるご飯はいつも美味しいし右近はなんだかんだ言って俺が嫌がることは絶対にしないしな」
「あの、愛華ちゃんはどうなんですか。お兄さん的にどう思ってるんですか?」
「どう思ってるって言われてもな。みんなが思ってるよりも面白い女だとは思うよ。外見と口の悪さで誤解されているところもあると思うけどさ、やっぱり面白い女だと思うな。うん、話してたり行動を見ていると面白い女だと思う」
「お兄さんから見て愛華ちゃんって美人だとか綺麗だって思わないって事ですか?」
「最初は思ってたけど、今はそういうのよりもやっぱり面白い女だなっていうのが一番かな」
 鬼仏院右近や鵜崎唯からも言われるのだけれど、俺はたぶん髑髏沼愛華の事を女性ではなくただの人間としか認識していないのだと思う。最初はこんなに美人が近くにいるんだという感想もあったのだけれど、何回か話してみてこの女は美人とかよりも面白さの方が際立っていると思ってしまった。それからはもう美人とかではなく何か面白いことをしてくれるのではないか、俺に面白いことを言ってくるのではないかと思うようになってしまった。
 たぶん、俺が思っていたよりも世間では髑髏沼愛華が美人だと認識されている事は間違いない。髑髏沼愛華がナンパされている場面に何度も遭遇しているという事もあるし、俺がそんなに頻繁に目撃しているという事はそれ以上にナンパされているという事なのだろう。俺の知らないところで鬼仏院右近も新しい彼女を作っているし、美男美女というカテゴリーの人達には俺にはわからない苦労もあるんだろうな。たぶん、鵜崎唯も普通にしていればモテているとは思うのだけれど、いつでもどこでも誰にでも俺に対する気持ちをアピールしているので誰かからハッキリとした好意を向けられることなんてないんだろうな。
 それにしても、なんで鵜崎唯は俺の事なんか好きになったんだろう。誰がどう考えても俺みたいな男よりも鬼仏院右近を好きになった方が良いと思うのだけれど、なんでなんだろうな。その辺を鵜崎千雪に聞いてみたら意外とすんなり理由が判明するのかもしれないな。
「なあ、鵜崎唯ってなんで俺の事なんか好きになったのか理由ってきてたりする?」
「さあ、理由なんて教えてもらったことは無いですね。お姉ちゃんからお兄さんの話はよく聞かされてますけど、好きになったきっかけとかは聞いた事ないです。お兄さんって好きな人がいるからお姉ちゃんと付き合えないって言ってるみたいですけど、自分が好きになった人よりも自分の事を好きになってくれた人と付き合う方が千雪は良いと思うんですけどね。お兄さんみたいな人を好きになる人なんてきっとお姉ちゃんくらいしかいないと思いますよ。お兄さんが好きな人って右近君の事が好きだって聞いてますし、諦めちゃった方が良いんじゃないかなって思うんですけど」
「それは俺もわかってるけどさ、千雪は自分が好きな人が近くにいるのに諦めることが出来たりするのかな?」
「どうなんですかね。千雪はまだ誰かを好きになったことってないのでわからないです。あと、やっぱりお兄さんから呼び捨てにされるのはなんか嫌なんで呼び捨てじゃなくてちゃんを付けてもらっていいですか。その方が適度に距離を保てるような気もするんで」
「あ、はい。わかりました」
 中学生が特別機が変わりやすいのか、それとも鵜崎千雪自身がそうなのかわからないが、俺は呼び捨てで呼んではいけないという事になってしまったようだ。ちゃん付けと言うのは呼び捨てよりも何となく抵抗があるのだけれど、そう呼べと言われてしまったら呼ぶしかないのだろう。あまり乗り気ではないけれど、そういう風に言われたんだったら素直に従う方が良いんだろうな。
「やっぱりシャワーだけでも借りたらダメですかね。お姉ちゃんはもう少し時間かかるって言ってますし、家に帰ってからシャワー浴びると寝る時間少なくなっちゃうんで」
 俺は何と言われようとシャワーを貸すことだけは断るのだ。別にシャワーを使われたところで何も思ったりなんてしないのだけれど、何となく鵜崎唯に悪いような気がしているのだ。
 鵜崎唯に依然聞かれた、誰かにお風呂を貸したりするのかという言葉がどうも脳にこびりついて離れないのだ。
 その理由はわからないのだけれど、なぜか俺は他人にお風呂を貸してはいけないという思いになっていたのだ。
「千雪の睡眠時間は少なくなってしまうんですけど、今日は我慢しますよ。あと、今度桜さんと遊ぶ時にお兄さんの事を少しだけ良く伝えときますね。千雪的にはお姉ちゃんに悪いって思う事もありますけど、やっぱりお姉ちゃんにはお兄さんよりもいい人が見つかると思いますからね。お兄さんは悪い人ではないと思いますけど、お姉ちゃんにはもっと別の人がお似合いなんじゃないかなって思ったりもしますからね。あ、今千雪が言ったことはお姉ちゃんには言わないでくださいね」
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