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第四十四話 私と千雪

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 いとこなだけあって唯ちゃんと千雪は似ているところもあると思う。それでも、みんなが言っているほどそっくりだとは思えなかった。パッと見の雰囲気は確かに似ているところもあると思うのだけれど笑い方や困っている時の仕草なんかは結構違っていると思う。
 唯ちゃんと違って千雪は八方美人なところもあるので年上の学生や教授なんかにも好かれているようだ。どこからかそのような話が出ていて今では千雪はゼミ以外の授業にも参加するようになっていた。高校卒業までの単位をすべて取得しているからとはいえ、そんな事を認めても良いのかと思っていたんだけれど、学校側と本人がそれでもいいと思っているんだったら私がどうこう言う話でもないのだろう。
「千雪は最近中学校に行ってるのか?」
「うん、週に二回くらいはレポートを提出しに行ってるよ。メールで送れば済むんじゃないかって思って提案してみたんだけどね、直接届けて軽く面談もしなくちゃいけないって事になってるんだ。その面談の時に大学の先生も何人かいるから中学校に行く理由ってなんなんだろうって思うよ」
 千雪は面倒くさそうに言ってはいるけれど、その表情からは少しだけ嬉しいという感情が溢れているように見えた。唯ちゃんが柊政虎に料理を褒められた時みたいに千雪も親指をぎゅっと握りこんでいたのでそう思ったのだけれど、そう言った癖というものはいとこ同士でも似てしまうものなのだろうか。
「友達とかとは遊んだりしないの?」
「千雪は中学校に友達とかいないから遊んだりしないよ。愛華ちゃんだってお姉ちゃんと右近君とお兄さんくらいしか友達いないんでしょ。他の人と遊んだりってしてるの?」
「遊んだりはしてないけど、千雪ちゃんくらいの年齢だったらクラスの友達と遊んだりって事もあるんじゃないかな」
「普通の学校だったらそうかもしれないけどね、千雪のクラスって千雪一人のために新しく作られたって言ってたよ。千雪一人のために担任の先生と副担任の先生三人が授業してくれたりしてたんだけどね、入学して一週間くらいで高校の先生も教えてくれるようになったんだ。それでね、今では授業じゃなくて千雪のレポートとか論文を見て何か言われたり面談したりって授業になってるんだ。千雪のためじゃなくて先生たちのためにやってるんじゃないかなって思ってるんだけど、千雪が先生たちの役に立ってるんだったらいいのかなって思ってるよ」
「自分だけしかいないクラスって変な感じがするな」
「愛華ちゃんはそう思うかもしれないけど千雪はそう感じないんだ。小学校の時もそうだったんだけど、一緒にいてもみんなとは違う場所にいるような気がしてたよ。近くにいるクラスメイトよりも教科書とかから聞こえてくる声の方が印象的だったからね。団体行動が苦手だから行事とかもあんまり参加してなかったし、高学年になった時には時々お姉ちゃんと電話で話している時以外はほとんど誰とも喋ってなかったと思うよ。お姉ちゃんにも言ってないんだけど、千雪はお姉ちゃん以外の人ってあんまり好きじゃないんだよね。千雪の事を自分の思い通りに変えようとしてきたりするから好きじゃなかったのかも」
「唯ちゃんは他人に何かを強制したりするような子じゃないんもんね。柊政虎には色々と言ったりもしてるけど、それ以外では思いやりのあるいい子だもんな。でもさ、なんで千雪はそんな事を私に教えてくれるんだ?」
「だって、愛華ちゃんは千雪の言った事を誰にも言わないだろうし、言うような相手も右近君とお兄さんくらいしかいないんだろうからね。仮にね、愛華ちゃんが千雪のママたちに千雪が言った事を教えたとしてもママたちは何も思わないと思うんだ。自分たちが正しいって思いこんでる人達に部外者が何を言ったってその言葉は何の意味も無いんだからね。夏休みになったら実家に戻らないといけないって思うと今から気が重いよ。愛華ちゃんも実家に帰るの?」
「二週間くらいは帰省すると思うよ。でも、帰省しているのに家族旅行に付き合わされるから帰ってるって感じはしないかもな。今年はアメリカに行くとか言ってたけど、それって帰省してるって言っていいのかな?」
「愛華ちゃんの家って変わってるかも。千雪の家も変わってると思うけど、愛華ちゃんの家も変わってるよね。旅行に行ってたら友達と遊んだりできないんじゃない?」
「私は地元に友達なんていないから問題無いよ。小さい時から家族以外と外で遊んだ経験って無いかもしれないな。それで両親が旅行に行こうって言いだしたのかもしれないけど」
「もしかして、愛華ちゃんも千雪と一緒で友達がいないって事なのか。でも、なんで千雪とはこうして遊んでくれたりしてるの?」
「なんでって言われてもな。千雪が唯ちゃんのいとこだからってのもあるけど、それを抜きにしても千雪は他の人よりも話しやすいってのがあるのかもな」
 唯ちゃんは特別なので話しやすいという事に疑問は無いのだ。
 千雪はそんな唯ちゃんに似ているという事もあって話しやすいし、時々聞くことが出来る唯ちゃんの話を聞きたいという思うもあったりするのだ。
 鬼仏院右近は色々と境遇が似ていたり、お互いに対して恋愛感情を絶対に抱くことが無いという安心感から普通に話すことが出来るのだと思う。下心が全くない状態の相手とは身構えることなく接することが出来ると思うのだが、私と鬼仏院右近に関してはその状況がぴったりと当てはまってると言えるのだ。
 柊政虎に関しても恋愛感情がお互いに無いという点では鬼仏院右近と同じなのだが、こいつに関しては鬼仏院右近と違って人間扱いをしなくても問題が無いと思っている。ありえない話ではあるのだけれど、私の事を好きになったりしないように思っている事をオブラートに包む必要も無いくらい自由に言い合うことが出来る。何故か柊政虎も私と同じような事を思っているようで私に対して好かれようとかそう言った事を一切感じさせない言動が多いのだ。私は昔から人から向けられる好意というものがあまり好きではなかったのだけれど、柊政虎は今までであった人の中で唯一私に好意を向けてこない男であると言ってもおかしくない。そんな男に対して恋愛感情を抱くことなんてありえないのだけれど、私の親友である唯ちゃんがこいつの事を好きだという事も恋愛感情を抱くことが無いという理由の一つなんだろう。あと、単純に見た目が好みでないというのもあるのだけどね。
「千雪ちゃんなら知ってるかもしれないけどさ、お姉ちゃんってなんでお兄さんの事が好きなんだろう?」
「さあ、そればっかりは私も理解出来ないんだよ」
 柊政虎の良いところや好きなところなんて私には全く理解出来ないのだけれど、それはそれでいいと思っている。私には理解出来なくても唯ちゃんが理解出来るのであれば何も問題はないんだからね。
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