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第四十一話 中学生とランチデートをするなんて思わなかった

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 唯のいとこである鵜崎千雪とご飯を食べる約束をしたのは良いのだけれど、どうして俺はこんな約束をしてしまったのだろうと後悔していた。約束をしたのは間違いないのだけれど、俺はさっきまで集まっていたみんなで一緒に食べるものだとばかり思っていた。だが、俺の思いもむなしく二人だけの食事となってしまったのだ。
「お姉ちゃんから聞いたんですけど、右近君って告白されたら誰とでも付き合うって本当ですか?」
「うーん、本当だと言いたいところだけど、そうでもないんだよね。俺の中で付き合えない条件というものがいくつかあってさ、その条件に一つでも当てはまる人とは付き合えないんだよ」
「ちなみになんですけど、千雪はその条件に当てはまってたりしますか?」
「うん、バッチリ当てはまってるよ。これ以上に無いくらい当てはまってるからね」
「そうなんだ。でも、千雪はお兄さん……政虎君の事は好きじゃないですよ」
「残念、その条件以外にも未成年ってのがあるんだよ。千雪ちゃんは未成年だから俺は付き合えないな。それ以前に、大学生と中学生って倫理的にもアウトだと思うよ」
「それは私も思いますよ。でも、お姉ちゃんに聞いたんですけど、右近君は大学一年生の時から彼女いたって事ですよね。その時って彼女は未成年だったんじゃないですか?」
「それはそうなんだけどさ、その時って俺も未成年だったからね。未成年同士だと恋愛しても問題ないと思うんだ。でも、今の俺の年齢じゃ高校生以下はマズいと思うんだ」
「まあ、それはそうだと思うんですけど、お姉ちゃんとは付き合おうって思ったことは無いんですか?」
「ないね。そもそも俺から誰かと付き合おうって思ったこと自体ないからね。そういう意味では俺は常に受け身なんだよ。自分から告白なんて出来ない草食系ってやつだと思うよ」
「草食系なのに恋人が途切れないって、その発言を聞いたら怒る人たくさんいると思いますよ。何でそんなに右近君ってモテるんですかね。顔が良くて背も高くて優しいってのはわかるんですけど、それだけでそんなにモテるとは思えないんですよ。何か自分で他人より優れているのってなんだと思います?」
「そう言われると答えにくいんだけどさ、俺の親が金持ちってのはあるかもね。親が金持ちなだけで俺自身がそうってわけではないけどさ、実家が金持ちってのはモテる要素かもね。あと、他の人より多少は勉強出来るってのもあるかもね。唯とか愛華も勉強は出来る方だと思うけどさ、俺はその二人と比べても勉強は出来る方だと思うよ。それも大きいんじゃないかと思うね」
「あの、その言い方だとお兄さんはあまり勉強が出来ないんじゃないかって思っちゃうんですけど、そんなにお兄さんって勉強出来ないんですか?」
 俺達に比べると政虎はそんなに勉強が得意と言うわけではない。でも、だからと言って勉強が出来ないというわけでもないんだよな。あいつも普通に成績は良い方だと思うし、家庭教師のバイトをしていたこともあるくらいだしな。先生にもある程度は信頼されていると思うので全く勉強が出来ないという事もないのだろうけど、何か秀でているという感じでもないんだよな。でも、俺達と違ったところで機転が一番利くのは政虎だと思う。いつだったか唯菜がストーカー被害に遭っていた時もそれを助けることが出来たのは政虎の功績みたいなところもあるしな。なんだかんだ言って最後に頼りになるのは政虎みたいな人間なのかもしれないな。
「別にあいつも頭が悪いって事ではないんだよ。勉強以外のところで妙に機転が利くことも多いしな。そういう話は唯から聞いてたりしないの?」
「あんまり聞いた事ないですね。お姉ちゃんから聞いてるのはお兄さんとののろけ話ばっかりですよ。いつもご飯を美味しく食べてくれるとか、みんなでどこどこへいっただとか、今日みたいにお兄さんの部屋に集まって遊んだとかそんな話ばっかり聞いてましたからね。あ、右近君の話題も少しは出てましたよ。でも、なんでお姉ちゃんはあそこまでお兄さんの事を好きなですかね。右近君はその辺って何か聞いてたりしますか?」
「いや、それは聞いてないけどさ、千雪ちゃんも政虎と一緒に過ごしている時間が増えればそれに気付くかもしれないね。その前に唯から政虎の事を教えてもらって好きになったりして」
「さすがにそれは無いと思いますよ。私はお姉ちゃんが好きな人を好きになったりなんてしないですから。それに、お兄さんは私の事をチビとか貧乳って思ってそうですもん。そんな失礼な人の事なんて好きにならないと思いますよ」
 でもな、確かに千雪ちゃんは唯に比べると全体的に小さくまとまっているんだよな。今の千雪ちゃんを見ていると唯の小学生時代ってこんな感じだったんだろうなって思うんだよな。いとこ同士とは聞いているけど実の姉妹みたいにそっくりだと思うんだよな。胸以外は本当に似ている二人だと思うんだよな。
「あの、右近君もお兄さんと一緒で失礼なこと考えてませんでした?」
「いや、そんなことは無いと思うけど」
「本当ですかね。右近君もお兄さんと一緒で千雪の事を見る時に一回胸元で視線を止めてたような気がするんですけど、本当に失礼なこと考えてたりしないですか?」
「うん、本当に考えてないよ。そんな失礼なこと考えたりなんてしないって」
「失礼なことって、千雪は胸元で視線がとまったって言っただけなんですけど、それがどうして失礼なことになるって思うですかね。ちょっと詳しく聞かないといけないかもしれないですね」
 何となく嫌な空気になりそうになったのだが、素晴らしいタイミングで俺達の頼んだ料理がやってきたのだ。俺は運んできてくれた店員さんに礼を言って料理を並べてもらったのだけれど、いつもの感じよりも気持ちを込めて店員さんに礼を言えたと思う。
 美味しそうな料理を目の前にして千雪ちゃんも少しは落ち着いてくれたようなのだけれど、時々ほんの少しだけ俺の事を睨んでくるようなそぶりを見せてきていた事には気付かない振りをしておくことにしよう。それも大人の対応ってやつなのだ。
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