31 / 100
第三十一話 俺と唯は秘密の場所で
しおりを挟む
親友には出来るだけ隠し事なんてしたくないと誰しも思うことはあるのだろうが、どんなに仲が良くて信頼している関係であったとしても相手に伝えることが出来ないという事もあるのだ。どうしてそんな事を隠しているんだろうという秘密もあれば、例え自分の命が奪われてしまうような状況でも言えない秘密もあるのだろう。俺には政虎に言えないが唯にだけ話している秘密があるのだ。愛華にも唯菜にも言っていない唯だけにしか行っていない秘密があるのだ。
大学からもバイト先のカフェからも徒歩で行くには少し遠い場所にあるファミレスで俺と唯は誰にも見つからないように二人だけの秘密の報告会を行っているのだ。
「そろそろ政虎も私の料理が無いとダメになってきたんじゃないかなって思うんだけど、右近君から見てどう思うかな?」
「結構いいところまで行ってると思うよ。先月も唯が作った春巻きの残りを全部食べたら政虎が少しムッとしてたからね。何も言葉には出してなかったけどさ、表情には完全に出てたよ。俺が帰った後で全部食べようと思ってとっておいたんだと思うけど、俺はそんなのは気にしないで食べちゃったからね」
「あの春巻きってあんまり上手に出来なかったんだけどさ、そんなに政虎は顔に出てたの?」
「俺が最後の一個を食べようとした時には手を伸ばしてきて邪魔しようとしてたからね」
それ以降の政虎は大皿に盛りつけるのを嫌がって個別に料理を出すようにお願いするようになっていた。ここまでくれば政虎はもう唯の料理を定期的に食べなければ心の平穏を取り戻せないところまで来ているだろう。どうして唯の料理が政虎にだけ中毒症状にも似たような感じになってしまうのか聞いてみたことがあるのだが、その辺は鵜崎家に伝わる秘伝が関係あるとかで詳しいことは教えてもらえなかった。
ただ、唯が作る料理を政虎は必ず幸せそうな顔で食べているので気にしなくてもいいのかなとは思っていた。
「政虎から聞いたけどさ、唯は定期的に政虎の家の掃除をする事になったんだってね。そこまでして変な風に思われたりしないのかな?」
「もう大丈夫だと思うよ。少しくらい変に思われたとしてもさ、政虎は私が善意でやってると思うだろうしね。右近君はそう言うことはしたりしてないのかな?」
「俺はそんな事はしてないね。やろうと思えばできるとは思うけどさ、男が男同士でそんな事をしようとするのって政虎的にも無しなんじゃないかなと思うんだよ。俺が逆の立場だったとしても、政虎に部屋の掃除をしてもらうのってなんか嫌だったりするしね。見られて困るようなモノなんて無いけどさ、あんまりいい気分ではないかもね」
「男の子同士だとそういうモノかもしれないね。政虎の部屋を掃除して見て思ったんだけどさ、政虎の部屋ってどこにもエッチなものって無いよね。本もDVDもどこにも見当たらないんだけど、政虎って性欲とかないのかな?」
「どうなんだろうな。そう言った話は今までしたことないけどさ、政虎だって男だし人並みにはそう言った性欲とかもあるんじゃないかな。それじゃなきゃ唯菜にずっと片思いとかしてないと思うしな」
「桜さんね。政虎は桜さんみたいな女の子らしいタイプの子が好きなんだもんね。私ももう少し女の子女の子してたら良かったのかなって思うよ。あ、これは桜さんの事を馬鹿にしてるわけではないからね」
唯や愛華と比べて唯菜が女の子っぽいというところはよくわかる。唯菜が二人と決定的に違うところは、唯と愛華は基本的に二人だけで行動して時々俺や政虎と一緒にいることがある程度なのだが、唯菜は男女問わずに交友関係も広く誰とでも仲良くなれたりするのだ。それに、政虎以外の人に対しては誰にでも笑顔で挨拶をしたりいろんな人の意見に賛同したりしている。唯も挨拶くらいはしているとは思うのだけれど、誰かと話す機会がほとんどない状況になっているのだ。学校ではあの政虎の事を好きなヤバい女として認識されてしまっているのでわざわざ話しかけるような人は俺や愛華くらいしかいないのが現状だ。
愛華は愛華で黙っていればモデルや女優なんじゃないかと思えるくらいに凛としているのだけれど、基本的に唯以外の事を人間だと認識していないようなところがあってあれだけ一緒に過ごしているはずの政虎の事もゴミか何かと勘違いしているのではないかと思うような言動を取ることが多いのだ。俺に対しても時々そんな感じの態度で接してくることもあるのだけれど、余程機嫌が悪い時でなければ普通に会話位は出来ているのだ。ただ、それだけ見た目が良い愛華を世間の男子が放っておくはずもなく、勇気のある者は恋人にはなれなくても友達くらいにはなろうとやってくるようなのだが、今のところソレに成功したものは誰一人としていないのだ。俺は唯と友達になったという事で愛華には知り合い以上友達未満として認識はされていると思う。
「唯菜は政虎の事なんて何とも思ってないんだよな。バイトの時にも何回か政虎の話題を振って見たことがあるんだけどさ、その度に無言になって何とも言えない時間を過ごすことになっちゃうんだよね。今の感じだとどうあっても政虎と唯菜がどうこうする未来は見えないんだけどさ、万が一何かがあって唯菜の気持ちが変わったりしたらどうするの?」
「え、どうするって言われても何もしないよ。私が何かしなくても桜さんが政虎と仲良くなりそうになったら誰かが邪魔してくれると思うからね。だいぶ前にあった桜さんを好きになった常連の人みたいに誰かに余計な事を言われてその気になっちゃう人がまた出ちゃうかもしれないからね」
「そうなるかもしれないな。でも、そんなに都合よく勘違いする人なんてもういないと思うけどな。あの人だって最初は唯菜を見てるだけで満足してたと思うんだけど、人間って色々と欲深くなってしまうもんだろうしな」
「そうかもしれないね。でも、私達はそんなに欲深くならないでじっくりと待つことにしないとね。あんまり焦っても良いことなんてないんだからね」
俺は空になったグラスを二つ持ってドリンクバーへと向かうことにした。真っすぐにドリンクバーへは向かわずに店内を軽く見まわしてみたのだけれど、運のいい事に俺の知っている人は誰もこの店には来ていなかったようだ。
「もう一つ話したいことがあるんだけどさ、今日って右近君はバイトじゃないよね?」
「ああ、今日は休みだよ。唯はどこか行きたい場所でもあるの?」
「うん、ちょっとだけ飲みたい気分なんで、お酒でもいいかな?」
「少しくらいだったら大丈夫だよ。お互いにそんなに飲める方じゃないと思うけどね」
「そうなのよね。でも、お酒に酔ってしまったら人に言えないような話も出来るような気がしてるのよね」
大学からもバイト先のカフェからも徒歩で行くには少し遠い場所にあるファミレスで俺と唯は誰にも見つからないように二人だけの秘密の報告会を行っているのだ。
「そろそろ政虎も私の料理が無いとダメになってきたんじゃないかなって思うんだけど、右近君から見てどう思うかな?」
「結構いいところまで行ってると思うよ。先月も唯が作った春巻きの残りを全部食べたら政虎が少しムッとしてたからね。何も言葉には出してなかったけどさ、表情には完全に出てたよ。俺が帰った後で全部食べようと思ってとっておいたんだと思うけど、俺はそんなのは気にしないで食べちゃったからね」
「あの春巻きってあんまり上手に出来なかったんだけどさ、そんなに政虎は顔に出てたの?」
「俺が最後の一個を食べようとした時には手を伸ばしてきて邪魔しようとしてたからね」
それ以降の政虎は大皿に盛りつけるのを嫌がって個別に料理を出すようにお願いするようになっていた。ここまでくれば政虎はもう唯の料理を定期的に食べなければ心の平穏を取り戻せないところまで来ているだろう。どうして唯の料理が政虎にだけ中毒症状にも似たような感じになってしまうのか聞いてみたことがあるのだが、その辺は鵜崎家に伝わる秘伝が関係あるとかで詳しいことは教えてもらえなかった。
ただ、唯が作る料理を政虎は必ず幸せそうな顔で食べているので気にしなくてもいいのかなとは思っていた。
「政虎から聞いたけどさ、唯は定期的に政虎の家の掃除をする事になったんだってね。そこまでして変な風に思われたりしないのかな?」
「もう大丈夫だと思うよ。少しくらい変に思われたとしてもさ、政虎は私が善意でやってると思うだろうしね。右近君はそう言うことはしたりしてないのかな?」
「俺はそんな事はしてないね。やろうと思えばできるとは思うけどさ、男が男同士でそんな事をしようとするのって政虎的にも無しなんじゃないかなと思うんだよ。俺が逆の立場だったとしても、政虎に部屋の掃除をしてもらうのってなんか嫌だったりするしね。見られて困るようなモノなんて無いけどさ、あんまりいい気分ではないかもね」
「男の子同士だとそういうモノかもしれないね。政虎の部屋を掃除して見て思ったんだけどさ、政虎の部屋ってどこにもエッチなものって無いよね。本もDVDもどこにも見当たらないんだけど、政虎って性欲とかないのかな?」
「どうなんだろうな。そう言った話は今までしたことないけどさ、政虎だって男だし人並みにはそう言った性欲とかもあるんじゃないかな。それじゃなきゃ唯菜にずっと片思いとかしてないと思うしな」
「桜さんね。政虎は桜さんみたいな女の子らしいタイプの子が好きなんだもんね。私ももう少し女の子女の子してたら良かったのかなって思うよ。あ、これは桜さんの事を馬鹿にしてるわけではないからね」
唯や愛華と比べて唯菜が女の子っぽいというところはよくわかる。唯菜が二人と決定的に違うところは、唯と愛華は基本的に二人だけで行動して時々俺や政虎と一緒にいることがある程度なのだが、唯菜は男女問わずに交友関係も広く誰とでも仲良くなれたりするのだ。それに、政虎以外の人に対しては誰にでも笑顔で挨拶をしたりいろんな人の意見に賛同したりしている。唯も挨拶くらいはしているとは思うのだけれど、誰かと話す機会がほとんどない状況になっているのだ。学校ではあの政虎の事を好きなヤバい女として認識されてしまっているのでわざわざ話しかけるような人は俺や愛華くらいしかいないのが現状だ。
愛華は愛華で黙っていればモデルや女優なんじゃないかと思えるくらいに凛としているのだけれど、基本的に唯以外の事を人間だと認識していないようなところがあってあれだけ一緒に過ごしているはずの政虎の事もゴミか何かと勘違いしているのではないかと思うような言動を取ることが多いのだ。俺に対しても時々そんな感じの態度で接してくることもあるのだけれど、余程機嫌が悪い時でなければ普通に会話位は出来ているのだ。ただ、それだけ見た目が良い愛華を世間の男子が放っておくはずもなく、勇気のある者は恋人にはなれなくても友達くらいにはなろうとやってくるようなのだが、今のところソレに成功したものは誰一人としていないのだ。俺は唯と友達になったという事で愛華には知り合い以上友達未満として認識はされていると思う。
「唯菜は政虎の事なんて何とも思ってないんだよな。バイトの時にも何回か政虎の話題を振って見たことがあるんだけどさ、その度に無言になって何とも言えない時間を過ごすことになっちゃうんだよね。今の感じだとどうあっても政虎と唯菜がどうこうする未来は見えないんだけどさ、万が一何かがあって唯菜の気持ちが変わったりしたらどうするの?」
「え、どうするって言われても何もしないよ。私が何かしなくても桜さんが政虎と仲良くなりそうになったら誰かが邪魔してくれると思うからね。だいぶ前にあった桜さんを好きになった常連の人みたいに誰かに余計な事を言われてその気になっちゃう人がまた出ちゃうかもしれないからね」
「そうなるかもしれないな。でも、そんなに都合よく勘違いする人なんてもういないと思うけどな。あの人だって最初は唯菜を見てるだけで満足してたと思うんだけど、人間って色々と欲深くなってしまうもんだろうしな」
「そうかもしれないね。でも、私達はそんなに欲深くならないでじっくりと待つことにしないとね。あんまり焦っても良いことなんてないんだからね」
俺は空になったグラスを二つ持ってドリンクバーへと向かうことにした。真っすぐにドリンクバーへは向かわずに店内を軽く見まわしてみたのだけれど、運のいい事に俺の知っている人は誰もこの店には来ていなかったようだ。
「もう一つ話したいことがあるんだけどさ、今日って右近君はバイトじゃないよね?」
「ああ、今日は休みだよ。唯はどこか行きたい場所でもあるの?」
「うん、ちょっとだけ飲みたい気分なんで、お酒でもいいかな?」
「少しくらいだったら大丈夫だよ。お互いにそんなに飲める方じゃないと思うけどね」
「そうなのよね。でも、お酒に酔ってしまったら人に言えないような話も出来るような気がしてるのよね」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
萬倶楽部のお話(仮)
きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。
それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。
そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。
そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる