29 / 100
第二十九話 洗濯機の中身とぬいぐるみ
しおりを挟む
どこを見てもチリ一つ落ちていないこの部屋に住んでいると俺の部屋の掃除の仕方に文句を言いたくなるのも納得できた。俺だって一応こまめに掃除はしているのだけれど、ここまで綺麗に掃除をちゃんと継続して行えと言われたら面倒になって手を抜いてしまいそうだと思うのだが、鵜崎唯の部屋は掃除にも一切手を抜いている様子は見られなかった。
トイレを借りた時も思っていたのだが、どうやったらここまで綺麗な状態を保つことが出来るのだろう。普通に暮らしていたらもう少し汚れていても良さそうな気もするのだけれど、どこを見ても隙なんて見当たらないのだ。まるで、ついさっき清掃業者の手が入ったのではないかと思えるくらいに綺麗な状態である。
あまりにも綺麗な状態なので俺は汚してはいけないのかと思って座って用を足してしまった。普段だったら立ったまま用を足しているのだけれど、ここまで綺麗だとほんの少しでも汚してはいけないのではないかと思えて自然とそう言った行動をとってしまったのだろう。
何となくではあるが、俺はトイレを使った流れでお風呂場も覗いてしまったのだが、お風呂場もトイレ同様まるで新品なんじゃないかと思うくらいに綺麗な状態になっているのだ。換気扇が回っているのに床や壁が少し濡れているのだが、たぶんこれは朝起きてから鵜崎唯がシャワーを浴びた証拠なのだと思う。ほんのりといい匂いがしているような気もしたのだけれど、これ以上詮索すると本当に変態になってしまうのではないかと思って今すぐにでも部屋に戻ろうと思っていた。
だが、俺はお風呂の目の前にある洗濯機の蓋が空いている事に気付いてしまったのだ。いや、最初から気付いてはいたのだけれど、さすがに洗濯機の中を見るのは間違った行動だという事はわかっている。わかってはいるのだけれど、なぜか洗濯機の中が気になって仕方なくなってしまっていた。先程鵜崎唯が言った余計な一言が無ければ洗濯機の中なんて見ようとは思わないのだけれど、思わず覗いてしまいそうになっているのだ。
「そんなにキョロキョロして怪しいな。お前は洗濯機の中を本当に覗こうとしているのか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど」
「じゃあなんでトイレを使うだけでそんなに時間がかかってるんだよ。それにさ、チラッと風呂の中も見てたよな。お前ってそういう趣味もあるのか?」
「そう言う趣味もってどういう意味だよ。別にちょっと見たくらいだし。俺の部屋を唯が掃除してくれた時も思ってたんだけどさ、なんでここまで綺麗な状態を保ってられるんだろうって考えてたんだよ。俺だって普通に掃除はしてるけどさ、ここまで綺麗な状態を保つなんて凄いなって感心してたんだよ。この部屋を見るまでは俺の部屋と比べてどうなんだろうなって思うことはあったけどさ、これだけ綺麗な部屋に住んでるんだったら俺の部屋でも気になったりするんだろうなって思っただけだよ」
「私も唯ちゃんの部屋にくるたびに綺麗にしてるなって思うけどさ、あんたらだってわりと綺麗な状態で部屋を使っているとは思うよ。ただ、それ以上に唯ちゃんの部屋が綺麗だってだけだしな」
髑髏沼愛華がぼそっと言った、あんたらの部屋ってのは俺と鬼仏院右近の部屋の事だろう。あまり人を入れたがらない鬼仏院右近の部屋に髑髏沼愛華が入ったことがあるというのは少し意外ではあったけれど、鬼仏院右近と髑髏沼愛華の関係を理解すればソレもおかしいことではないのかもしれないな。
「ん、急に黙ってどうしたんだ。もしかして、私の部屋の事を想像でもしていたのか。言っておくが私の部屋もそれなりに綺麗ではあるからな」
「だろうな。ご飯を食べてる時とか鞄の使い方とかを見ているとやっぱり愛ってきっちりしてる性格だと思うもんな。そんな性格なんだから部屋も綺麗だって思うよ」
「ねえ、洗濯機の中の下着を見たいんだったらさ、バスタオルをどけてくれたら見えると思うよ。洗濯ネットから出して見てもいいけどさ、ちゃんとネットの中に入れておいてね」
「そんな事しないって」
俺は急に鵜崎唯に話しかけられて焦ってしまった。悪いことはしてないしこれからもする予定なんて無いのだけれど、何となく居心地の悪い気がしていた。今の流れだと洗濯機の中を確認した方が良いのではないかと思うのだけれど、さすがにそんな事をしていいわけもないというのはわかっていた。
ただ、鵜崎唯が時々送ってくる優しい視線とは対照的に髑髏沼愛華の鋭い視線の両方は洗濯機の中に関する思いの違いなのだろう。鵜崎唯がそこまでして見せたい理由とは何なのだろうと思っても俺には答えなんてわかるはずも無いし、どちらかと言えば髑髏沼愛華の考えている方がわかるような気もしていた。
当然俺は洗濯機の中を見ることも無く先ほど座っていた位置へと戻って座り直したのだが、いつの間にか俺の座っていた場所に手のひらで隠せそうな大きさのぬいぐるみが置いてあった。
鵜崎唯の部屋でぬいぐるみと言うと、以前見た魔法陣の中心に置いてあったぬいぐるみを思い出すのだけれど、このぬいぐるみはあの時のぬいぐるみと比べてもかなり小さいものだと思う。近くで見たわけではないのでハッキリとはわからないけれど、このぬいぐるみの十倍くらいの大きさはあったような気がしていた。
何となくそのぬいぐるみを持ってみると、今まで触ったことがあるぬいぐるみと手触りが何か違うように感じた。柔らかいことには変わりないのだけれど、何となく弾力もある不思議な握り心地であった。タグなんかも付いていないことから鵜崎唯が趣味で作ったものなのだろうと思って見ていると、何となくではあるが俺に似ているような印象を持ってしまった。髪型も目の色も違ってはいるのだけれど、俺に似ているように思えてしまったのだ。
「そのぬいぐるみが気になるのか?」
「気になるというか、さっきまでここにあったっけ?」
「あったんじゃないか。私も覚えてはいないけど、誰もぬいぐるみなんて移動させてないからあったんだろうな」
髑髏沼愛華はこういう事をするような人間ではないし、鵜崎唯だってずっと料理を作ってくれている。こんな事をしそうなのは鬼仏院右近なのだが、あいつは鵜崎唯の家に来ていないのでそんなことが出来るはずがない。
となると、最初からここに置いてあったことにはなるのだけれど、今まで気付かなかったことなんてありあえるのだろうか。ただ、実際にそんな事が起こってしまっているのだからありえるんだろうなとは思うしかないのだった。
「お昼ご飯できたよ。今日はスープパスタにしてみたんだけど大丈夫かな?」
鵜崎唯の作ってくれたスープパスタの良い匂いに脳を刺激された俺はぬいぐるみの事なんてどうでもいいのではないかと思ってしまった。
それくらい、鵜崎唯の料理は俺の身も心も支配してしまうものである。なぜか、俺は鵜崎唯の料理にはいつどんな時でも抗うことが出来ないのだった。
トイレを借りた時も思っていたのだが、どうやったらここまで綺麗な状態を保つことが出来るのだろう。普通に暮らしていたらもう少し汚れていても良さそうな気もするのだけれど、どこを見ても隙なんて見当たらないのだ。まるで、ついさっき清掃業者の手が入ったのではないかと思えるくらいに綺麗な状態である。
あまりにも綺麗な状態なので俺は汚してはいけないのかと思って座って用を足してしまった。普段だったら立ったまま用を足しているのだけれど、ここまで綺麗だとほんの少しでも汚してはいけないのではないかと思えて自然とそう言った行動をとってしまったのだろう。
何となくではあるが、俺はトイレを使った流れでお風呂場も覗いてしまったのだが、お風呂場もトイレ同様まるで新品なんじゃないかと思うくらいに綺麗な状態になっているのだ。換気扇が回っているのに床や壁が少し濡れているのだが、たぶんこれは朝起きてから鵜崎唯がシャワーを浴びた証拠なのだと思う。ほんのりといい匂いがしているような気もしたのだけれど、これ以上詮索すると本当に変態になってしまうのではないかと思って今すぐにでも部屋に戻ろうと思っていた。
だが、俺はお風呂の目の前にある洗濯機の蓋が空いている事に気付いてしまったのだ。いや、最初から気付いてはいたのだけれど、さすがに洗濯機の中を見るのは間違った行動だという事はわかっている。わかってはいるのだけれど、なぜか洗濯機の中が気になって仕方なくなってしまっていた。先程鵜崎唯が言った余計な一言が無ければ洗濯機の中なんて見ようとは思わないのだけれど、思わず覗いてしまいそうになっているのだ。
「そんなにキョロキョロして怪しいな。お前は洗濯機の中を本当に覗こうとしているのか?」
「いや、そう言うわけじゃないけど」
「じゃあなんでトイレを使うだけでそんなに時間がかかってるんだよ。それにさ、チラッと風呂の中も見てたよな。お前ってそういう趣味もあるのか?」
「そう言う趣味もってどういう意味だよ。別にちょっと見たくらいだし。俺の部屋を唯が掃除してくれた時も思ってたんだけどさ、なんでここまで綺麗な状態を保ってられるんだろうって考えてたんだよ。俺だって普通に掃除はしてるけどさ、ここまで綺麗な状態を保つなんて凄いなって感心してたんだよ。この部屋を見るまでは俺の部屋と比べてどうなんだろうなって思うことはあったけどさ、これだけ綺麗な部屋に住んでるんだったら俺の部屋でも気になったりするんだろうなって思っただけだよ」
「私も唯ちゃんの部屋にくるたびに綺麗にしてるなって思うけどさ、あんたらだってわりと綺麗な状態で部屋を使っているとは思うよ。ただ、それ以上に唯ちゃんの部屋が綺麗だってだけだしな」
髑髏沼愛華がぼそっと言った、あんたらの部屋ってのは俺と鬼仏院右近の部屋の事だろう。あまり人を入れたがらない鬼仏院右近の部屋に髑髏沼愛華が入ったことがあるというのは少し意外ではあったけれど、鬼仏院右近と髑髏沼愛華の関係を理解すればソレもおかしいことではないのかもしれないな。
「ん、急に黙ってどうしたんだ。もしかして、私の部屋の事を想像でもしていたのか。言っておくが私の部屋もそれなりに綺麗ではあるからな」
「だろうな。ご飯を食べてる時とか鞄の使い方とかを見ているとやっぱり愛ってきっちりしてる性格だと思うもんな。そんな性格なんだから部屋も綺麗だって思うよ」
「ねえ、洗濯機の中の下着を見たいんだったらさ、バスタオルをどけてくれたら見えると思うよ。洗濯ネットから出して見てもいいけどさ、ちゃんとネットの中に入れておいてね」
「そんな事しないって」
俺は急に鵜崎唯に話しかけられて焦ってしまった。悪いことはしてないしこれからもする予定なんて無いのだけれど、何となく居心地の悪い気がしていた。今の流れだと洗濯機の中を確認した方が良いのではないかと思うのだけれど、さすがにそんな事をしていいわけもないというのはわかっていた。
ただ、鵜崎唯が時々送ってくる優しい視線とは対照的に髑髏沼愛華の鋭い視線の両方は洗濯機の中に関する思いの違いなのだろう。鵜崎唯がそこまでして見せたい理由とは何なのだろうと思っても俺には答えなんてわかるはずも無いし、どちらかと言えば髑髏沼愛華の考えている方がわかるような気もしていた。
当然俺は洗濯機の中を見ることも無く先ほど座っていた位置へと戻って座り直したのだが、いつの間にか俺の座っていた場所に手のひらで隠せそうな大きさのぬいぐるみが置いてあった。
鵜崎唯の部屋でぬいぐるみと言うと、以前見た魔法陣の中心に置いてあったぬいぐるみを思い出すのだけれど、このぬいぐるみはあの時のぬいぐるみと比べてもかなり小さいものだと思う。近くで見たわけではないのでハッキリとはわからないけれど、このぬいぐるみの十倍くらいの大きさはあったような気がしていた。
何となくそのぬいぐるみを持ってみると、今まで触ったことがあるぬいぐるみと手触りが何か違うように感じた。柔らかいことには変わりないのだけれど、何となく弾力もある不思議な握り心地であった。タグなんかも付いていないことから鵜崎唯が趣味で作ったものなのだろうと思って見ていると、何となくではあるが俺に似ているような印象を持ってしまった。髪型も目の色も違ってはいるのだけれど、俺に似ているように思えてしまったのだ。
「そのぬいぐるみが気になるのか?」
「気になるというか、さっきまでここにあったっけ?」
「あったんじゃないか。私も覚えてはいないけど、誰もぬいぐるみなんて移動させてないからあったんだろうな」
髑髏沼愛華はこういう事をするような人間ではないし、鵜崎唯だってずっと料理を作ってくれている。こんな事をしそうなのは鬼仏院右近なのだが、あいつは鵜崎唯の家に来ていないのでそんなことが出来るはずがない。
となると、最初からここに置いてあったことにはなるのだけれど、今まで気付かなかったことなんてありあえるのだろうか。ただ、実際にそんな事が起こってしまっているのだからありえるんだろうなとは思うしかないのだった。
「お昼ご飯できたよ。今日はスープパスタにしてみたんだけど大丈夫かな?」
鵜崎唯の作ってくれたスープパスタの良い匂いに脳を刺激された俺はぬいぐるみの事なんてどうでもいいのではないかと思ってしまった。
それくらい、鵜崎唯の料理は俺の身も心も支配してしまうものである。なぜか、俺は鵜崎唯の料理にはいつどんな時でも抗うことが出来ないのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
萬倶楽部のお話(仮)
きよし
青春
ここは、奇妙なしきたりがある、とある高校。
それは、新入生の中からひとり、生徒会の庶務係を選ばなければならないというものであった。
そこに、春から通うことになるさる新入生は、ひょんなことからそのひとりに選ばれてしまった。
そして、少年の学園生活が、淡々と始まる。はずであった、のだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる