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第十三話 鵜崎唯との新しい決め事

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 一通り掃除も終えて鵜崎唯のチェックも通過したので晩御飯の用意をし始めるのであった。
「ご飯を食べる前にトイレ掃除をするのって何か抵抗あったけどさ、意外と気にならないもんだな」
「ちょっとやめてよね。これからご飯だって言うのにトイレの話題を出すとかデリカシーなさ過ぎでしょ。もう少し考えてから言う癖付けた方が良いと思うわ。いつも思ってるけど、あんたって嫌われるような事をわざと言ってるわけじゃないんだよね?」
「そんなわけないだろ。俺だって別に皆に嫌われたいってわけじゃないし」
「まあまあ、ご飯も出来てるしさ、喧嘩はやめてご飯食べようよ。ほら、ちょうどご飯も炊きあがったみたいだしいいタイミングだよ」
 俺は別に髑髏沼愛華と喧嘩をしていたわけではないのだけれど鵜崎唯が間に割って入って何となく言い合いを続ける雰囲気ではなくなった。ゲームを片付けてテーブルをセットし直して料理を並べていくのだが、一つ気になったことがあった。
「なあ、なんで今頃ご飯が炊きあがってるんだ?」
 ゲームを始める前に下ごしらえが終わっていた煮魚もハンバーグの下準備も終わっていたのであとは仕上げをするだけだったと思うのだ。ハンバーグだって一口サイズなのだから焼きあがるのだって時間はかからないと思うし、手作りのソースだって見た感じ温め直すだけでいいように感じる。
 それなのにご飯が経った今炊きあがったというのはどういうことなのだろうか。俺がいつも晩御飯を食べている時間よりはまだ早いけれど、オカズが出来ていたタイミングを考えるとご飯を炊き始める時間が遅いように思えた。
「ごめんなさい。煮魚とハンバーグの事考えてたらご飯を炊くの忘れちゃってたの」
「私も唯ちゃんに任せっきりだったからタイマーでもセットしてるのかと思ってたんだけどさ、確認しとけばよかったわ。ごめん」
「そうなんだ。でもさ、俺はいつももう少し遅い時間にご飯を食べてるからいいんだけど。二人はお腹空いてるでしょ?」
「私は少しお腹空いてるかな。愛華ちゃんは?」
「私はもう限界だよ。ちょっとだけ味見しちゃったんだけど、凄く美味しくてもっと食べたいなって思ってたもん。唯ちゃんって本当に料理も上手だよね」
「別にそこまで料理上手じゃないよ。このレシピを考えてくれた人のお陰だって」
「でもさ、私はレシピを見ながら作っても失敗するときあるもん。それに比べてさ、唯ちゃんって料理で失敗したこと無さそうだから凄いなって思うよ」
「私だって失敗した時くらいあるって。その時は泣きながら食べてたもん」
 料理に関してはあまり失敗をしない鵜崎唯がはじめて見せた失敗なのだが、これは失敗と言っていいものなのか少し悩んでしまっていた。食べ始めるのが少し遅くなったくらいで問題はないわけだし、時間がたったことで煮魚にも味が染み込んでより美味しくなっているように見えるのだ。
「そう言えば、政虎の家のお風呂って右近君も使ったりするの?」
「右近がうちの風呂を?」
「うん」
「使ったことは無いな。泊まりに来た時も自分の家でシャワー浴びてくるし、俺以外使ってないけど、そんなに汚かった?」
「そう言うわけじゃないんだ。別にそこまで汚いってわけでもなかったしね。ちょっと私が気になっちゃってだけだから。でも、水回りを綺麗にしておくと良いこともあるらしいし悪いことではないと思うな」
「そうだな。俺ももう少しこまめに掃除しようとは思うんだけど、なかなかやり始めるまでは大変なんだよな」
「その気持ちはわかるよ。私もやり始めたらあっという間に感じてるんだけど、やり始めるまでに色々とやっちゃってやらない事とかもあるもん。それでも、水回りは綺麗にしておいた方が良いと思う」
「鵜崎もそうなのか。てっきり毎日綺麗にしてるのかと思ってたよ」
「さすがに毎日は出来ないよ。でも、出来るだけ綺麗にしときたいから三日に一回くらいはちゃんと掃除してるよ。そうだ、そんなに面倒だって思うんだったらさ、私が政虎のお風呂の掃除を毎週してあげるよ。今のところずっと予定も無いし」
「いや、さすがにそれは悪いよ。俺もこまめに掃除しとくから」
「良いの良いの。私もお風呂の横を通るたびに気になるし、気になるくらいだったら掃除したいし。邪魔にならないようにするからいいでしょ?」
「邪魔なことなんてないけど。でも、本当に大丈夫だって。俺だってちゃんと掃除くらいすることが出来るし」
「でも、そんな事言って前にお風呂掃除したのはいつなのかな。ちゃんと掃除してないからシャンプーの裏とか少しぬるぬるしてたんだよ。そんな感じなのに自分で出来るって言えるのかな?」
 確かに最後に掃除をしたのがいつだったか覚えていない位前だったような気がする。でも、それなりに綺麗には使っているのだ。普通にしてたら文句も言われないと思うくらいには綺麗にしているはずだし、お風呂を使うのも俺一人なんだから問題はないはずなんだけどな。鵜崎ってやっぱり潔癖症なのかな。
「ほら、言えない位前なんでしょ。私はただお風呂掃除をしたいってだけなんだし、政虎にとって悪い話じゃないと思うんだけどな。ね、愛華ちゃんもそう思うでしょ?」
「私はここのお風呂使うつもりないからどっちでもいいと思うけど、唯ちゃんに掃除してもらった方があんたも楽で来て良いんじゃないの。毎週綺麗に掃除してくれたら気持ちイイだろうし。あんたは唯ちゃんに申し訳ないって思ってるのかもしれないけどさ、唯ちゃんがやりたいって言うんだからやってもらえばいいでしょ。やめたくなった時はそれまでって事にすればいいと思うし」
「ね、政虎にとっても悪い話じゃないと思うんだ。私も掃除できてうれしいし、政虎だって綺麗なお風呂が使えて嬉しいでしょ。だから、私の事を気にする必要はないんだよ」
 確かに、俺にとって悪い話は一つもないのだ。でも、だからと言って鵜崎の好意に甘えていいのだろうか。俺は鵜崎の気持ちに応えるつもりなんて無いのだけど、このまま甘えっぱなしで良いのか葛藤してしまう。
 今日の晩御飯だってご馳走になってしまうわけだし、これ以上俺に尽くしてもらうのは良くないと思うのだ。でも、本音を言えば掃除をしてもらって楽をしていたいという思いもある。俺はどうすればいいのだろうか。
「大丈夫。政虎が心配してるような事はしないから。私は政虎の家のお風呂を綺麗にするだけで使ったりしないからね。安心していいよ」
「いや、その心配はしてないって」
 俺は別に誰かがお風呂を使うことを嫌がっているわけではない。別に誰が使おうが気にしたりなんてしないのだ。何か根本的な部分でズレが生じているように思えるのだけど、そんな事は気にしないでおいていいのかもしれないな。
 結局のところ、俺の家の風呂掃除は毎週鵜崎にしてもらうことになったのだった。
「これで唯ちゃんは毎週ここに遊びに来れるようになったね。私も予定が無かったら付き合うよ」
「うん、毎週綺麗に出来るの嬉しいな。ご飯もみんなで食べたら美味しいしね」
 そう言うことか。掃除をしたいのは本音だと思うのだけど、俺に毎週会いに来たいというのも狙いの一つだったのかもしれないな。
 と言っても、今も週に何回か一緒に遊んでいるような気がするのだけど、ちゃんとした約束をするとしないとでは鵜崎唯の気持ち的に違いがあるのかもしれなってことなのかもしれないな。
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