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たくさん眠る、なのです

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 珍しく昼過ぎまで眠ることが出来たプリン姫であったのだが、目が覚めて一番最初に見たのが血だらけで体の左半分が無いの百合ちゃんだったのだ。あまりの驚きように悲鳴すら上げることが出来ずにいたのだが、そんな事は関係ないとばかりに百合ちゃんはプリン姫が目覚めたのを確認するとゆっくり近付いていった。
 ここでプリン姫は初めて絶叫にも近い悲鳴をあげたのだが、プリン姫の寝室は外の音が完璧に遮断されているくらい防音がしっかりしているのだ。ベッドから転がり落ちながらも逃げ出すプリン姫であったが、完全に腰が抜けているようで立って逃げることも出来ない。ドアまで何とか這ったまま移動することは出来たのだが、腰が抜けた状態では鍵を開けることが出来ないのだった。今日は邪魔が入らないようにゆっくりと寝ようと思って鍵をかけていたのだが、その事が完全に裏目に出てしまったという事にプリン姫はまだ気づいていなかった。寝起きに血だらけの百合ちゃんを見たプリン姫は自分が鍵をかけたという事をすっかり忘れてしまっていた。

「おはようございます。プリン姫が鍵をかけたまま寝ていたので起こさないでいたのですが、そんなに慌ててお手洗いに行きたいのですか?」

 プリン姫は今にも泣きそうな顔で小刻みに震えているのだが、百合ちゃんはそんなプリン姫の様子を見ても構わずに朝の支度をしようとしていた。プリン姫は今にも泣きだしそうになっているのだが、百合ちゃんがあまりにも冷静な様子なのでこれは何かあるなと感じて少しだけ冷静さを取り戻していた。

「おはようなの。百合ちゃんは今日もお元気なのかしら?」
「プリン姫に比べたら私は元気じゃないかもしれないですね。だって、体が半分無いんですからね」

 百合ちゃんはそう言いながら体を左側に傾けると、ガタガタに切られた切断面をプリン姫に見せつけていた。「ヒィ」と小さな悲鳴をあげてしまったプリン姫であったのだが、傷口を触ろうと手を伸ばしたところ、その手は見えない何かに払いのけられてしまった。

「ちょっと、傷口をなでようとしただけなのに何をするのです。プリンは心配してるだけなのに、何者かに手をひっぱたかれたのです。これはあってはならないことだと思うの」
「プリン姫の手をひっぱたくなんてとんでもないやつがいたもんですね」
「もう、プリンは何度も同じ手で騙されたりはしないんだからね。どうせ魔法か何かで体を隠しているだけなのでしょ。その切断面が本物だとしてそんなに動けるなんておかしいもん。隠している部分をプリンに触らせないとだめなのよ」

 プリン姫は再び百合ちゃんの傷口に手を伸ばすのだが、そこには隠れている物は何もなく、傷口に触れたプリン姫の手のひらにはべっとりと血がついてしまった。傷口を触った感触もそうだったのだが、偶然触れた内臓は温かく小刻みに動いていたのだ。

「プリン姫、傷口を触られると痛いです」
「え????」

 百合ちゃんの切断面が魔法でカモフラージュされているものではなく、本当に左半身が無いという事を知ってしまったプリン姫はそのまま意識を失ってしまった。
 ちょっとやりすぎてしまったなと思った百合ちゃんではあったのだが、その目は申し訳ないといったものではなく、上手いこと言ったなと思っているような目であった。



 プリン姫は珍しく誰にも起こされることも無いまま夕方になって目覚めた。朝日ではなく夕日を眺めながら起きることに罪悪感を覚えながらも、プリン姫は夢の中で見た百合ちゃんが真っ二つになっている様子を思い出して軽く震えてしまった。

「おはようございます。プリン姫は今日はずいぶんとお休みになられてますね。もう一日も終わろうかと言うのですが、今日は何かいたしますか?」
「おはよう百合ちゃん。プリンはちょっと怖い夢を見たのです。でも、やけにリアルな夢だったのですが、あんまり思い出せないのです」
「まあ、恐い夢なんて忘れて顔を洗ってきてくださいね。今日は何時にプリン姫が起きるのかわからなかったのでお食事の用意がまだですが、何か食べたいものはありますか?」
「プリンはあんまり食欲が無いからあっさりしたものがいいの」
「あっさりしたものですね。それでしたら焼肉にいたしましょうか。ポン酢と大根おろしでさっぱりとした感じで良いと思いますよ」
「さっぱりしたもののリクエストで焼き肉を出してくるなんて百合ちゃんらしいの。プリンはちょっと安心したの」
「焼肉でしたらすぐに準備できますからね。さあ、可愛いお顔を洗ってお着換え済ませてくださいね」

 まだ完全に頭が起きていない状態のプリン姫であったのだが、顔を洗おうと鏡を見てみると、自分の顔にべっとりと血がついていた。やや乾きかけではあったが、その血に触れると指先にハッキリと血がついてしまっていた。
 これはマズいと思って振り返ると、そこには左半身のない夢で見た百合ちゃんの姿があったのだった。
 プリン姫は悲鳴をあげることも出来ずにその場に崩れ落ちたのだが、逃げようとしても上手く体が動かなかった。ようやく手の力で体を動かすことが出来たのだが、すぐに壁につかえてしまい洗面所から逃げ出すことが出来ずにいた。
 そんなプリン姫を心配そうな顔で見つめる百合ちゃんではあったが、右半身だけしかないことに本人は気付いていない様子であったのだ。

「ゆ、百合ちゃん。体が半分無いのですが、どうしたのです?」
「あれ、私の体が無くなっちゃってますね。さっきまであったんですけど、どっか行っちゃったんですかね?」
「どどどど、どっかってどこ?」
「でも、この体になったのってプリン姫のせいですからね」
「そんなこと言ったって、プリンは何もしてないの。百合ちゃんに何かしたりしてないの」
「いいえ、こうなったのはプリン姫のせいですよ。寝る前に何をしたか覚えてないんですか?」
「寝る前。寝る……前、寝る前に何かしたっけ?」
「プリン姫は忘れているかもしれないですが、この部屋に鍵をかけて寝ましたよね?」
「鍵。そうだっけ?」
「そうですよ。朝になって起こそうと思って部屋に来てみたら、しっかりと鍵がかかってましたからね。それでこうなったんですよ」
「ちょっと待ってほしいの。鍵をかけて寝ただけでどうして百合ちゃんの体が真っ二つにならなきゃいけないの?」
「だって、この部屋に入るためには仕方ないじゃないですか」
「仕方ないって、意味が分からないの。普通にノックして入ればいいだけなの」
「プリン姫はノック程度じゃ起きないでしょ。だから、体を半分に切ったんですよ」
「ますます意味が分からないの。体を半分に切ったって部屋に入れるわけじゃないの。意味不明なの」
「この部屋の窓ってはめ殺しなんで開かないですし、天窓だって開かないじゃないですか。となると、換気口から入るしかないじゃないですか」
「ちょっと待ってほしいのだけど、換気口から入るために体を真っ二つにしたっていう事なの?」
「そうですよ。それ以外に方法が無いですからね」
「百合ちゃんは魔法つかえるんだからいくらでも方法はあったでしょ。なんで魔法で鍵を開けようとか壁をすり抜けようとは思わなかったの?」
「だって、プリン姫が閉めた鍵を開けるのって良くないじゃないですか。壁をすり抜けるのも犯罪だと思いますし。その点、換気口なら常に解放されているから出入りしても問題ないってことですよね」
「その理屈は全く理解出来ないの」
「でも、こうしてプリン姫を驚かすことが出来て良かったと思いますよ。この時ばかりは不死身で良かったなって思いますもん」
「寝起きですっかり忘れていたけど、百合ちゃんは不死身だから体が真っ二つでも心配する必要はなかったの。……あ」
「ああ、やっちゃいましたね」

 百合ちゃんは大魔王の戦いに先駆けて不死身の体を手に入れていたのだが、あまりにも強すぎる肉体を持っているためか死ぬような怪我を負うことは一度も無かったのだ。大魔王との戦いでも終始余裕を見せていた百合ちゃんだったので、プリン姫は百合ちゃんがそもそも怪我をするとは思っていなかったのだった。
 真っ二つになったと思っていた百合ちゃんが不死身なので元に戻れると思った安心感からなのか、床に出来た大きな水たまりを見たプリン姫は昨日の晩から一度もトイレに行っていなかったことを思い出していた。

「お着換えの前に一緒にお風呂に入りましょうか」
「うん。でも、百合ちゃんの傷口にいっぱい消毒液を塗ってあげるの」

 今度から寝る時に鍵をかけるのはやめておこうと思ったプリン姫であった。
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