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序章
面接を始めようか
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栗宮院うまなの緊張を解くのが目的で始めた雑談ではあったが、話し始めた瞬間に彼女は緊張なんてしていないという事には気付いていた。気付いてはいたけれど、始めてしまった話を途中でどうやって止めればいいのかわからなくなってしまい、最終的には少しだけ仕事内容にも触れてしまったな。彼女はその事に気付いてなんていないけれど、働くようになった際には思い出すかもしれないな。
「面接とは言ってみたものの、こちらとしては落とすつもりはないんだ。君のご両親から頼まれたというのもあるけれど、君自身に興味があるんだよ。おっと、誤解しないでほしいんだけど、君個人にという意味ではなく君が生まれ持った才能と境遇に興味があるという事だけどね。うちで働いているカメラマンも君の事に興味があるみたいで、君が働きたいというのであればそのカメラマンの助手として一緒に働いてもらうことになるんだ。最初に断っておくけれど、そのカメラマンというのは三十歳を少し過ぎた大人の女性だ。人間的にも女性としても君のこれからの人生にとっていい見本になるような人間だとは思うよ。もしも、君が僕のところで働きたくないと言ったとしても、そのカメラマンの事を紹介して仲良くなってもらいたいと思えるくらいに君との相性がいいと思っている。もちろん、君のご両親にもその事は伝えてあるし、カメラマンとご両親もすでに面談済みだ。こんなことをいきなり言われても信じられないとは思うけれど、いい経験を積めると思う」
「わかりました。よろしくお願いします」
何の疑いもない真っすぐな目で見つめられているとは思っていたけれど、即答されるとは思ってもみなかった。勧められるがままになんでも受け入れてしまう人がこの世に入ると思うけれど、彼女は決してそんなタイプではないだろう。彼女なりに考えた末に即答したのだとは思うが、恐ろしいほど決断力のある女の子だ。
もしかしたら、彼女も僕と一緒で話をする前から答えが決まっていたのかもしれない。そう思ってしまうくらいに早い決断だった。
さて、面接はこの一瞬で終わってしまったわけだが、あまりにも早く終わり過ぎてしまったのでこれからどうしたらいいのか困ってしまった。お互いに答えが決まっていたとしてももう少し何か話を膨らませた方が良かったのではないかと思うけれど、そんな事をしても結論が変わることが無いのであればこれで良かったのかもしれない。
「何か質問とかあれば答えるけど。もちろん、本格的に働くようになって疑問が出てきたらその時にも質問してもらって構わないけれど、働く前に気になっている事とかがあれば聞いてくれて構わないよ。例えば、仕事内容だったり勤務時間だったりと気になることはあるでしょ?」
彼女は自分の部屋にいるにもかかわらず何かを探すかのように顔を動かしていろんな場所を見ていた。この部屋には何もおかしなところなんて無いと思うのだが、この部屋でずっと暮らしている彼女にしかわからない違和感でもあるのだろうか。そんなモノがあるとは思えないのだが、僕も彼女のようにキョロキョロと何かを探すかのように顔を動かしていた。
「仕事内容ってのも気になるんですけど、そのカメラマンさんってどんな人なのか教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。彼女の名前は鈴木愛華。年齢は三十と少しだったかな。独身で子供もいないそうだ。うちのスタジオ唯一の専属カメラマンであって、証明写真から七五三に成人式、他にも様々な記念写真なんかも撮ってもらっているけれど、君に手伝ってもらうのはそういった普通の写真じゃないんだ。詳しいことは鈴木君に会った時に聞いてもらえばいいと思うんだけど、君のご両親にも関係のあるモノを撮影するという事だけ理解してもらえればいいかな。それと、あそこに貼ってあるポスターは有名な作品だと記憶しているんだけど、君はその作品が好きなのかな?」
「はい、シリーズも派生作品も好きです。でも一番好きなのはコレなんですよ」
「そうなんだ。それなら君はきっと鈴木君と仲良くなれると思うよ。彼女もこの作品が大好きだって言ってたからね。放送日は絶対に残業もしないし、劇場版が公開された時にも有休をとって一週間通い詰めたって言ってたからね。一つだけ確認させてもらいたいのだけど、君はポスターの彼らのどちらが好きなのかな。髪が長い方なのか短い方なのか、どっちなのかな?」
「長い方です。伊勢雪之丞君っていうんですけど、本当に彼ってかっこいいんですよ。見た目ももちろんかっこいいんですけど、その中身も凄くかっこいいんです。自分を犠牲にしても仲間を守ろうとする姿が凄い良いんですよ。雪之丞君は凄く強いんですけどその力を使うのに時間がかかっちゃってピンチになったりもするんですよ。でも、そんな時に柩秀吉君が助けにきてくれたりするんです。ライバル同士なのにお互いのピンチの時は助けに来るのって凄く尊いですよね」
「鈴木君も似たようなことを言っていたような気がするな。自分のピンチの時には雪之丞君のように助けに来てくれって言ってたな。あれ、君と鈴木君は好きなキャラが違うって事か?」
僕が言ったと思われる余計な一言のせいで面接が終わってから部屋を出た時にはすでに外は真っ暗になっていた。面接が長引いて心配して様子を見に来た栗宮院奈緒美さんが彼女の姿を見て一瞬ですべてを悟っていたことで僕もすべてを察してしまった。
鈴木君と気が合いそうだとは思っていたのだけれど、このままでは僕が完全に蚊帳の外になってしまう予感しかしていなかった。
「面接とは言ってみたものの、こちらとしては落とすつもりはないんだ。君のご両親から頼まれたというのもあるけれど、君自身に興味があるんだよ。おっと、誤解しないでほしいんだけど、君個人にという意味ではなく君が生まれ持った才能と境遇に興味があるという事だけどね。うちで働いているカメラマンも君の事に興味があるみたいで、君が働きたいというのであればそのカメラマンの助手として一緒に働いてもらうことになるんだ。最初に断っておくけれど、そのカメラマンというのは三十歳を少し過ぎた大人の女性だ。人間的にも女性としても君のこれからの人生にとっていい見本になるような人間だとは思うよ。もしも、君が僕のところで働きたくないと言ったとしても、そのカメラマンの事を紹介して仲良くなってもらいたいと思えるくらいに君との相性がいいと思っている。もちろん、君のご両親にもその事は伝えてあるし、カメラマンとご両親もすでに面談済みだ。こんなことをいきなり言われても信じられないとは思うけれど、いい経験を積めると思う」
「わかりました。よろしくお願いします」
何の疑いもない真っすぐな目で見つめられているとは思っていたけれど、即答されるとは思ってもみなかった。勧められるがままになんでも受け入れてしまう人がこの世に入ると思うけれど、彼女は決してそんなタイプではないだろう。彼女なりに考えた末に即答したのだとは思うが、恐ろしいほど決断力のある女の子だ。
もしかしたら、彼女も僕と一緒で話をする前から答えが決まっていたのかもしれない。そう思ってしまうくらいに早い決断だった。
さて、面接はこの一瞬で終わってしまったわけだが、あまりにも早く終わり過ぎてしまったのでこれからどうしたらいいのか困ってしまった。お互いに答えが決まっていたとしてももう少し何か話を膨らませた方が良かったのではないかと思うけれど、そんな事をしても結論が変わることが無いのであればこれで良かったのかもしれない。
「何か質問とかあれば答えるけど。もちろん、本格的に働くようになって疑問が出てきたらその時にも質問してもらって構わないけれど、働く前に気になっている事とかがあれば聞いてくれて構わないよ。例えば、仕事内容だったり勤務時間だったりと気になることはあるでしょ?」
彼女は自分の部屋にいるにもかかわらず何かを探すかのように顔を動かしていろんな場所を見ていた。この部屋には何もおかしなところなんて無いと思うのだが、この部屋でずっと暮らしている彼女にしかわからない違和感でもあるのだろうか。そんなモノがあるとは思えないのだが、僕も彼女のようにキョロキョロと何かを探すかのように顔を動かしていた。
「仕事内容ってのも気になるんですけど、そのカメラマンさんってどんな人なのか教えてもらってもいいですか?」
「もちろん。彼女の名前は鈴木愛華。年齢は三十と少しだったかな。独身で子供もいないそうだ。うちのスタジオ唯一の専属カメラマンであって、証明写真から七五三に成人式、他にも様々な記念写真なんかも撮ってもらっているけれど、君に手伝ってもらうのはそういった普通の写真じゃないんだ。詳しいことは鈴木君に会った時に聞いてもらえばいいと思うんだけど、君のご両親にも関係のあるモノを撮影するという事だけ理解してもらえればいいかな。それと、あそこに貼ってあるポスターは有名な作品だと記憶しているんだけど、君はその作品が好きなのかな?」
「はい、シリーズも派生作品も好きです。でも一番好きなのはコレなんですよ」
「そうなんだ。それなら君はきっと鈴木君と仲良くなれると思うよ。彼女もこの作品が大好きだって言ってたからね。放送日は絶対に残業もしないし、劇場版が公開された時にも有休をとって一週間通い詰めたって言ってたからね。一つだけ確認させてもらいたいのだけど、君はポスターの彼らのどちらが好きなのかな。髪が長い方なのか短い方なのか、どっちなのかな?」
「長い方です。伊勢雪之丞君っていうんですけど、本当に彼ってかっこいいんですよ。見た目ももちろんかっこいいんですけど、その中身も凄くかっこいいんです。自分を犠牲にしても仲間を守ろうとする姿が凄い良いんですよ。雪之丞君は凄く強いんですけどその力を使うのに時間がかかっちゃってピンチになったりもするんですよ。でも、そんな時に柩秀吉君が助けにきてくれたりするんです。ライバル同士なのにお互いのピンチの時は助けに来るのって凄く尊いですよね」
「鈴木君も似たようなことを言っていたような気がするな。自分のピンチの時には雪之丞君のように助けに来てくれって言ってたな。あれ、君と鈴木君は好きなキャラが違うって事か?」
僕が言ったと思われる余計な一言のせいで面接が終わってから部屋を出た時にはすでに外は真っ暗になっていた。面接が長引いて心配して様子を見に来た栗宮院奈緒美さんが彼女の姿を見て一瞬ですべてを悟っていたことで僕もすべてを察してしまった。
鈴木君と気が合いそうだとは思っていたのだけれど、このままでは僕が完全に蚊帳の外になってしまう予感しかしていなかった。
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