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恋愛アプリケーション

第六話

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 テレビでは今日も宮崎さんの自殺の件を取り上げていた。どこからかで回った宮崎さんの写真を見た一部の人達がインターネット上で熱弁を振るっているのと同じように、テレビに出ているコメンテーターの人が自殺の原因を熱く語っているのだが、それは全くの想像であり妄想でしかない。
 宮崎さんが発見されたその日の夕方になって、部屋の中から遺書とも取れるようなメモが発見されたのだ。そこにはただ一言『もう耐えられない』とだけ書かれていたそうだ。

 それだけを読み取ると、宮崎さんはいじめに遭っていたのではないかと思ってしまいがちなのだが、宮崎さんをいじめるような生徒はあの高校にも町内にも存在しない。ただ、それを知っているのは同じ学校に通っている生徒であったり、幼少期から宮崎さんの事を知る町内の人間しかいないのだ。
 それでも、テレビに出ている評論家やコメンテーターはいじめの線を疑うことは無いし、インターネット上でも美少女に嫉妬した女子がいじめをしていたと決めつけていた。日に日にそのような声は大きくなっていったのだが、学校側もいじめがない事は明白に分かってはいてもそれを世間に公表する材料もなく、結局のところ第三者委員会に調査を依頼することになったのだ。
 第三者委員会の調査が入ることはいじめがあったからだと思う人が多かったようなのだが。これは全くの別件ではあるのだが、ほぼ時を同じくして、校長が心労で倒れ入院する事態に陥ったのも学校サイドがいじめを隠蔽しようとしていると思われているようだった。何度も根強く聞き込みなどをした結果、宮崎さんに対するいじめは確認されることは無かった。いじめなど存在しないのだから当然の結果ではあるのだが、事情をちゃんと認識できていない者達はそれに対して公正な立場の者がもう一度調査すべきだと熱くなっていたのだった。

 写真で見る宮崎さんは熱狂的になる人が多くいるのも分かる気がするくらい美人であり可愛らしくもあったのだが、それゆえに宮崎さんが自殺するに至った経緯を歪曲し、嫉妬に狂った他の女子がいじめていたせいだと根も葉もないうわさを流すものが後を絶たなかったのだ。
 何故かインターネット上では担任である姉さんの情報も流れており、校長や生徒指導の教師に混ざって誹謗中傷されているのだった。もちろん、姉さんも校長もいじめは隠しているわけではないし、そもそもいじめられていたのは別人なのである。
 自殺した宮崎さんが好きな奥谷君の好きな山口さんがいじめられていたのだ。そして、山口さんをいじめていた生徒を操っていたのが宮崎さんで、それを悔やんで自殺したのではないかと噂をする生徒が多くいたのは意外だった。恋愛アプリは今では恋人との甘い会話よりも宮崎さんの死の真相を噂する物へと変化していた。それは、宮崎さんが通っていた高校の生徒だけではなく、他の学校の生徒も、報道されたことで初めてこのアプリの存在を知った者も宮崎さんの死について議論することが多くなっていた。
 なぜそうなったのかもわからないし、宮崎さんが山口さんをいじめるように仕向けたのを悔やんでいたというのは理解出来なかった。宮崎さんが奥谷君の好きな人を知っているようだったし、その相手がいなくなれば自分に好意が向くのではないかと考えた末、自分ではない誰かを使って山口さんをいじめていたのではないかと思っている人もいたようだ。つまり、宮崎さんの好きな人も奥谷君の好きな人も周りにはバレバレだったという事になるのだ。
 それでも、僕は宮崎さんが山口さんをいじめたいと思っているとは思えないし、宮崎さんと山口さんの行動を見てもいじめたいくらい憎い相手にするような行動とは思えないことが多くあった。何より、そんなに憎い相手と休日にわざわざ喫茶店で会ったりはしないだろう。

 事情を何も知らないテレビの中の人やインターネットの住人は相変わらずいじめを苦にした自殺だと思っているようだが、正しい情報を伝えてもそれを理解しようとするものは誰一人として存在しなかった。美少女がいじめを苦に自殺した事件。世間ではそう思いたい人が大半を占めているようだった。

 宮崎さんの話題が出ると同時に恋愛アプリのイメージ映像が流されているおかげなのか、宮崎さんの自殺の前後では利用者の数が三桁は変わっていた。利用者が多くなったことで広告収入も増えていたのだが、それに伴ってサーバを増設することになったり、悪意あるメッセージを送る者も出てきたりと、収入は増えたとしても、今まで以上にかかる費用も増えていたので純粋に利益が出ているというわけではなかった。

 毎晩遅くまで帰ってこなかった姉さんと珍しく一緒に夕食をとる機会があったのだが、久しぶりに見た姉さんは少しやつれて白髪も増えているように見えた。

「天ってさ、宮崎さんの事知ってるよね?」
「うん、知っているけど、誰にも言ってないよ」
「それはいいんだけどさ、あんたって宮崎さんと直接やり取りをしてたのよね?」
「うん、それなりにしてたと思うけど。どうかした?」
「それならわかると思うんだけどさ、どうしたら宮崎さんがいじめられていなかったって信じてもらえるのかな?」
「どうしたらって、第三者委員会の出した結論で十分じゃないのかな」
「そうなんだけどさ、毎日毎日暇な奴らが学校に電話をしてくるんだよね。それで、校長とか私の事を名指しで批判してくるやつがいるんだけど、どうやったらそいつらを納得させることが出来るんだろうね」
「そういう人たちってさ、自分がこうだって思ったらどんなことでもそうだって信じちゃうんじゃないかな。そんな人達は相手にするだけ時間の無駄だと思うけど」
「そうなんだけどさ、一人や二人だけって話じゃないのよ。何十人何百人って多くの人が迷惑な電話をかけてくるのよ。他の先生たちも困ってるし、なぜか警察もずっと相手にしてくれていなかったんだけど、今日からなぜか警察が対応してくれることになったのよ。なんで急にそうなったんだろうね」
「だから今日は早く帰ってこれたんだね。良かったじゃない」
「そうなんだけどさ、なんで急にそうなったのかって気になるのよね」
「それはさ、何か警察が動くようなことがあったって事じゃないかな。例えば、殺害予告があったとか」
「中にはそういう人もいるんだけどさ、ずっとそれを訴えても警察は受け止めてくれなかったんだよね。もしかしたら、警察の中にも私達が宮崎さんに対するいじめを見て見ぬふりしてたんじゃないかって思っている人がいたのかもしれないのよね」
「そんな事で相手にしない警察はいないと思うけど。他には何か変わったことってなかった?」
「そう言えば、奥谷君が久々に学校に来たわね。宮崎さんが亡くなった日からずっと学校に来ていなかったんだけど、仲の良かったクラスメイトが亡くなったショックから立ち直れたのかもしれないわね」
「奥谷君が休んでたって、宮崎さんが亡くなってからずっと?」
「そうよ。最近じゃ二人で出かけることもあったみたいだし、本当に気の毒よね。あんなにお似合いの二人って世界中探してもそんなにいないと思うんだけどな」
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