上 下
53 / 71
恋愛アプリケーション

第一話

しおりを挟む
 僕の両親はあまり世間体を気にしないのかもしれない。僕が就職もしないで家に引きこもっているのにもかかわらず、口うるさく何かを言ってくることが無いのだ。姉さんは僕に働けと言ってくることはあるけれど、あまり僕の事に関心が無いようで本気で説得してくるような感じではない。確か、姉さんは高校の先生になったと言っていたけれど、生徒に対しては僕に対する態度ではなくもう少し真剣に向き合ってあげていたらいいなと思うくらい、僕に対する態度は無関心に近いものがあった。
 だが、僕の両親があまり口うるさく仕事をしろと言ってこないのには訳があって、僕は外で働いていない代わりに歩い程度の収入をネット広告などで安定して稼ぐことが出来ているのだ。両親に危ない仕事をしていると思われていたりもしたのだが、インターネット関係の仕事をやっていると言っても理解してもらえず、編集した動画をいくつかみせたところテレビ関係の仕事なら安心だと妙に納得してもらえたのだった。ただ、僕が編集している動画は別に有名な人ではないのでそこまでの報酬はいただけていない。
 実は、動画編集や僕が個人的に投稿している動画以外にここ一年くらいで一気に成長したコンテンツが僕の主な収入源となっているのだ。学生時代に遊びで作って放置していたアプリが中高生の間で爆発的に流行しているらしく、いつからか知らないお金が口座に入金されるようになっていたのだ。今ではいくつかのサーバをレンタルで借りている状況になっているのだけれど、そのレンタル料を払っても毎月結構な額の広告収入が入ってくるようになっていた。
 アプリを作った時には広告収入で生活出来るといいなと思っていたのだけれど、そんなに甘いものではなかったようで、本当のことを言うと、口座に入金されてからもしばらくは何のお金が振り込まれたのかわからずに怯えていたりもしたのだ。
 ただ、アプリを使って何か犯罪行為が行われても困るし、変な利用者がいないといいなと思ったのだけれど、アプリをちゃんと利用するためには自分の本名と生年月日と血液型を登録しなければいけないので、そういった情報を晒すことが出来ない犯罪者予備軍たちはきっと登録することも無いだろうと思っていた。本当はもう少し細かい情報も入れたかったのだけれど、そうなるとお互いが両想いだったとしてもマッチングする確率が下がってしまいそうで、それは避けることにしていた。

 なぜこんなに急に恋愛アプリが流行り出したのかはわからないが、どこかのカップル配信者がこのアプリを紹介してポイントでファミレスに行ったことがきっかけの一つのようだった。そう言えば、両想いの人同士がアプリで連絡を取り合うとポイントが貯まって電子マネーと交換することが出来るようにしていたのを思い出した。って事は、ある程度は利用者にポイント還元されているにもかかわらず、僕のもとにはそれ以上に入ってきているということになるのではないだろうか。彼らがインフルエンサーなのかどうかは知らないが、少なくとも僕の作ったアプリを中高生に広めてくれた功労者であることは間違いない。
 ただ、アプリの性質上動画などは送ることが出来ないのだが、それは利用者の事を守ろうとしている運営側のポリシーなのだと説明されていたのは少し違うのだ。正確に言うと、アプリ内で動画を送りあうこともビデオ通話をすることもかのなのだが、それをするには回線やサーバを圧迫し過ぎるうえに、利用料も上がりそうな予感がしたので動画は不可にしただけなのだ。結果的には子供を犯罪行為から守ることになるとして多くの大人たちもそれはいい事なのだろうと納得していたみたいだった。

 さらに、それから半年も経つと、一部のテレビ局も恋愛アプリを取り扱うようになっていき、僕の住んでいる街でもそれなりに利用者が増えているようになっていた。ただ、ほとんどの人は好きな人を登録しただけで終わっており、片思いの人が積極的にアプリを使う機会はほとんどないようなものだった。それでも、両想いになっている人たちはポイントを貯めるためにたくさんのやり取りを続けてくれていたし、その分だけ広告が表示されているので僕にも収入が多く入ってくるようになっていた。
 本当は自前のサーバを設置した方がレンタルよりも費用は安く済むのだが、このアプリがいつまで持つのか見通しが不透明なため、いつでも減らせるようにと保険をかける意味でもレンタルにこだわったのだ。結果的に、僕はこの決断は間違っていなかったと確信することになるのだが、それはまだしばらく先の話である。

 そして、僕が作った恋愛アプリは姉さんが受け持っているクラスの生徒の間でも爆発的に流行ることになってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

アオハルレシピは嘘をつく

七尾ネコ
青春
「料理しか取り柄のないクズ」と周りから距離を置かれている男子高校生【小鳥遊 夜接(たかなし よつぎ)】は、高校一年生にして全国制覇を達成した。 高校生活二度目の春。夜接は、数少ない彼の理解者である女子高校生【星宮 つゆり(ほしみや つゆり)】とともに料理部を結成することに。 結成直後にもかかわらず廃部寸前まで追い込まれた料理部は、さらにクセの強いメンバーを仲間にしていくことで、なんとか廃部を回避する。 次々と引き起こされる困難に立ち向かい、時にはダッシュで逃げまくりながらも、少しずつ成長していく夜接たち。 変人ばかりの料理部で巻き起こる青春は、ただの青い春では終わらない!

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

雪と桜のその間

楠富 つかさ
青春
 地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。 主人公、佐伯雪絵は美術部の部長を務める高校3年生。恋をするにはもう遅い、そんなことを考えつつ来る文化祭や受験に向けて日々を過ごしていた。そんな彼女に、思いを寄せる後輩の姿が……?  真面目な先輩と無邪気な後輩が織りなす美術部ガールズラブストーリー、開幕です! 第12回恋愛小説大賞にエントリーしました。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

処理中です...