恋愛アプリを使ってみたら幼馴染と両想いになれました

釧路太郎

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恋愛インスピレーション

第五話

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 河野が作ってくれた料理はどれも美味しかった。私のお母さんも料理は得意なのだが、それ以上に美味しく感じたのは下拵えにかけた時間が違うからなのかもしれない。私のお母さんはアレンジが上手なのだが、河野は素材を活かした調理が出来ているように思えたのだ。同い年でここまでできるのも凄いと思ったけど、河野は勉強以外は何でも出来る女の子なんではないかと思ってしまった。
 食後に二人で映画を見ることになったのだけれど、河野が選んだ映画は私が普段見ないような恋愛物で、いかにも女の子が好きそうな感じの映画だった。恋愛映画が嫌いなわけではないのだけれど、二人の好みが合うアニメでもいいんではないかなと思ったりもした。ただ、二人共見たいと思ったアニメはすでに見ているし、有名どころの映画なんかは何度も見ているものがあるので河野の選択は正しかったのかもしれない。

「ねえ、愛莉ってさ、この映画みたいな恋愛したいって思ったことある?」
「どうだろ。最近は推しキャラとかもいないしあんまり考えた事ないかも」
「キャラじゃなくてさ、身近な男子とかで想像したりはしないの?」
「うーん、そういう事って考えた事ないかも。身近な男子って言っても、奥谷くらいしかいないからね」
「でもさ、奥谷君って愛莉のこと好きなんじゃないのかな」
「やっぱりそう思うよね。私もうすうす感じてはいたんだけど、私のどこがいいんだろうって思ってたんだ。私だったら私を好きになることは無いと思うんだけどね」
「そんな事ないと思うよ。愛莉は魅力的な女の子だと思うよ」
「どの辺が?」
「愛莉は自分に素直だし、周りに流されない強さがあるからね」
「そうかな。そんな自覚は無いんだけど」
「自覚は無く無意識でやってたのか。ウチが愛莉と仲良くなったのだって友達に愛莉の事を聞いたからだからね。好きなゲームの趣味が合う同年代の子ってなかなかいなかったし、同じゲームやってる子が同じ学校にいるなんて奇跡だと思ったくらいだもん。でもさ、社交的なウチでも最初は愛莉に話しかけるの勇気が必要だったんだよ」
「そう言えば、仲良くなったきっかけってゲームだったよね。そのゲームも一人でやってた時より楽しめてるし、今では話しかけてくれて良かったなって思ってるよ」
「ウチもだよ。何人かゲームで仲良くなった人はいたんだけど、みんな年上だと思うし愛莉みたいになんでも言える関係ではなかったんだよね。それにさ、オフ会とか興味あったけど参加するのは怖いんだよね。愛莉はオフ会に行ってみようと思ったことある?」
「私は興味もないかな。ゲームと現実は別の世界だと思っているし、仲良くなっても会おうなんて思ったことは無いかも。だから、こうして現実で会っているのって不思議な感じなんだけど、二人はゲームで知り合ったわけでもないからそういうのとも違うような気がするんだけどね」
「二人でオフ会に参加したら楽しそうだけど、それだったら二人だけでどこかに行った方が楽しいかもね。でもさ、愛莉って外に出かけるのあんまり好きじゃないでしょ?」
「そうだね。でも、動物園とか水族館は好きだよ。何回かしか行った事無いんだけどさ」
「それだったら、夏休みの間にどこか遊びに行こうよ。自転車かバスで行けるとこならどこでもいいし。あ、でも、さすがに日帰りでね」

 私達は映画を見ながらそんな会話をしていたと思う。正直にってあまり興味のない映画だったので、映画を見ているよりも河野と話している方が楽しく感じていた。ただ、会話が途切れて映画に集中している時に手を握られたのは少し驚いた。えっ、と思って河野の顔を見ると照れながらもはにかんでいたのだった。そう言えば、学校でも女子同士で手を繋いでいる人たちは見かけたこともあるし、仲のいい女子は案外手をつなぐものなんだろうなと思っていた。河野の手は少し冷たかったけれど、それがとても心地よく思えていた。

「ねえ、愛莉ってこの映画みたいなキスしたことある?」
「あんな感じのはしたことないかな」
「あんな感じのはって事は、違う感じのはしたことあるって事?」
「あんまり記憶は無いんだけど、小さいころにキスしてる写真があるんだよね」
「それってさ、相手は奥谷だったりするの?」
「そうなんだよ。私は全然記憶に無いんだけど、奥谷とキスしている写真があるんだよね。なんでそんなの撮ったんだろうって思うんだけど、それが何枚もあるから日常的にしてたりしたのかな」
「へえ、そんなにしてたなんて外国人みたいだね。今でもしてたりするの?」
「いやいや、そんなのは無いでしょ。キスどころか奥谷に触ったことも無いよ」
「そうなのか。じゃあさ、記憶にある中ではキスしてないってことだよね?」
「そうだね。する相手もいないしね」
「そんな事ないよ。する相手ならいるでしょ」

 そう言って河野は私にキスをした。映画のような恋人同士の濃厚なキスではなく、挨拶のような優しいキスだった。私は不思議と嫌な気持ちはしなかったのだけれど、それ以上何かをしようという気持ちは無かった。

「ごめんね。愛莉とキスしてみたくなっちゃって、我慢できなかった」
「別にいいけど、減るものじゃないからね」
「愛莉にとってキスってそんなに軽いものなの?」
「軽いものではないけど、梓ならいいかなって思っただけだよ」
「あ、やっと名前で呼んでくれたね。嬉しい」

 河野はそうって私に抱き着くと、私の方にもたれかかりながら甘く囁いた。

「愛莉がウチの名前を呼んでくれて嬉しいよ。やっと認めてもらえた気がするな」
「認めるってなにさ。私は梓の事はちゃんと知ってるよ」
「そうじゃなくて、夫婦として認められた気がしているの」
「ああ、ゲーム内で結婚してるもんね」
「ねえ、今度お揃いで何か買おうよ。学校で使える目立たないやつで良いからさ」
「消しゴムとか?」
「そういうんじゃなくて、使っても無くならないやつがいいな」
「ペンケースとか?」
「そうだね。そうしよう。色違いにしちゃう?」
「私は色にこだわらないんだけど、せっかくなら自分のキャラの色にする?」
「自分のじゃなくて、お互いのキャラの色にするってどうかな?」
「私がピンクで梓が水色って事?」
「そう、お互いの色を交換するの。その方が何となく良くないかな?」
「私はそれでもいいんだけど、梓ってあんまり水色ってイメージないかも」
「そんなことは無いんだよ。実は、愛莉に気付かれないように水色の物を身に付けてたりするんだよね」

 そう言ってチラッと見せてくれたインナーの色は私の使っているキャラクターのような色だった。
 これは偶然なのだが、私が身に付けているインナーの色はピンクだったりする。

 お互いに、無意識の中で相手を強く意識していると思えた瞬間だった。
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