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恋愛コミュニケーション

第二十四話

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 受験生も多くいるという事も考えて、学祭の出し物が各自で調べた日本の文化の発表というのに決まった。メイド喫茶や執事カフェという提案やお化け屋敷をやりたいという意見もあったのだけれど、メイドや執事をやりたいという人もいなかったし、お化け屋敷を作るにしても使えるのが教室だけなのとそれほど準備に時間をとれないという事もあってその意見は却下された。その代わり、メイド喫茶や執事カフェやお化け屋敷の歴史や成り立ちを調べることが出来るようになったのは意義のあることだと私は思った。
 私は亜梨沙ちゃんと梓ちゃんと亜紀ちゃんと歩ちゃんと茜ちゃんと一緒に流行りのスイーツについて調べることにした。みんな甘いものが好きだし、調べるついでに色々なものを食べることが出来ると思ったからだ。
 奥谷君たちが何を調べるのかなと思っていたのだけれど、奥谷君は白岩君と田中君と三人でゲームについて調べることにしたらしい。あの三人がゲームをやっている姿は想像できないけれど、男の子が集まってやることと言えばゲームくらいしかないのかなと勝手に思ってみたりもした。

「じゃあ、それぞれグループ分けも出来たみたいだし、ある程度決まったら張り出す場所を割り振らないとね。それと、奥谷君から皆に報告があるみたいなので聞いてもらえるかな」

 早坂先生はクラスの中で自由にグループを作っていた私達に向かってそう言うと、クラスのみんなは自然と教卓の方へ視線を送った。早坂先生の横に立っている奥谷君は少し緊張したような顔で教室の後ろの方を真っすぐに見つめていた。

「じゃあ、奥谷君からお知らせがあるのでみんなちゃんと聞いてね」
「えっと、俺はこのクラスでみんなと一緒に過ごせて嬉しいと思う。そんなみんなと最後の学祭なのに俺はほとんど準備に参加出来ないと思うんだ。運動部だった皆は夏の大会で引退したやつがほとんどだと思うし、冬の大会で引退するってやつもいるのは知っている。ただ、俺は演劇部に入っていて大会とかコンクールとかは参加したことが無いので部活を引退するっていうのがどのタイミングなのかずっと迷ってたんだ。それで、俺は学祭で披露する劇を最後に引退することに決めました。俺と同じタイミングで引退する奴もいれば卒業間近まで演劇部に残るやつもいます。ただ、俺は大学に進学することに決めたのでこの学祭がちょうどいい区切りになると思いました。ちょっと前に山口と西森の事でギクシャクすることもあったけど、今ではその誤解も解けて前よりも仲良くなったこのクラスが俺は好きです。でも、同じくらい部活も好きで三年間やってきた最後にちゃんと集中して練習したいって思ってます。俺の他にも部活で何かやるやつがいるのも知っていますが、俺は皆と違ってあまり器用じゃないので多くの事を同時にこなすことが出来ないんです。そこで、申し訳ないとは思うのですが、俺は皆と一緒にクラスでやる準備にあまり関われないと思います。こんなのってただのわがままだとは思うのですが、俺が部活を優先することを許してもらえないでしょうか」
「俺は別にいいと思うよ。奥谷ってさ、いつもクラスのために何かやってくれてたの知ってるし、最後の学祭で一緒に思い出を作れないのはちょっと悲しいけどさ、奥谷と一緒のチームの白岩と田中がそれでいいって言うんなら文句はないけどな」
「そうだよ。私も奥谷君がやりたいことをやってくれたらいいと思うよ。亜紀ちゃんと山口さんの事で私達の方が奥谷君たちに迷惑をかけちゃったし、私は演劇やってるカッコイイ奥谷君の事見てみたいと思うよ」
「私も奥谷君の最後の劇を見たい。クラスの事なら問題無いから部活に集中してくれていいよ」
「そうだよな。俺も西森が山口に酷い事されたって勝手に思い込んで信寛には迷惑かけちゃったしな。気にしないで部活に集中しろよ。それにさ、信寛の事をクラスに引き留めて演劇部の活動を邪魔しちゃったらさ、学校中の女子から俺達が嫌われちゃうかもしれないもんな」
「だな。俺も信寛がやりたいことをやっていいと思うぜ。白岩たちが困ったときは俺達が信寛の分も手伝うからな」
「お前たちに手伝ってもらったら俺らのテーマが格闘技に変わっちゃいそうだから遠慮しとくよ。それにさ、みんなもこう言ってるんだから信寛は気にしないで部活に全力を注いじゃえよ」
「みんな、ありがとうな。揉めることはあったりしたけど、俺はやっぱりこのクラスで良かったって思うよ。それとな、もう一つお知らせがあるんだ。これはきっといい知らせだと思うんで心して聞いてくれ」
「もう一つって何だよ。もったいぶらないで言ってくれよ」
「奥谷君のお知らせで悪い知らせなんて無いと思うんだけど、今度はいったいどんなことなの?」
「それはな。実は、俺は恋愛アプリを使って貯めたポイントがあるんだけど、その貯まったポイントを学祭の打ち上げで使おうと思ってます。もちろん、貯まってるポイントで全員分出せるわけじゃないんだけど、みんなの負担はそんなに多くならないようになると思う」
「え、ちょっと待って。奥谷君が恋愛アプリを使ってるのって知ってるけど、相手って誰なの?」
「マジかよ。信寛が恋愛アプリでポイント貯めてるって知らなかった。友達なんだからそれくらい教えてくれよ」
「そうよ。いったい相手は誰なの?」
「このクラスの人?」
「後輩?」
「他の学校?」
「まさか、白岩君?」
「おいおい、ちょっと落ち着けって。ちゃんと説明するからさ。みんなも恋愛アプリを使ってるからわかると思うけど、このアプリって両想いにならなくてもポイントを貰える条件ってあるじゃん」
「何それ。そんなの知らないんだけど」
「私は知ってるけど、そんなに貯まるもんなの?」
「さあ、恋人同士のやり取りよりも貯まりやすいってのは聞いたことあるけど、みんなの分を出せるくらい貯まるのかは知らないかも」
「あのさ、俺の話を最後まで聞いてくれよ。聞いてくれないなら全額自腹にしてもらってもいいんだぜ」

 今の今まで奥谷君の相手が誰なのか騒いでいたクラスメイト達は、奥谷君の全額自腹という言葉に反応して全員が口を閉じた。どんなに怖い先生が怒っていたとしてもここまで一瞬で静寂に包まれることは無かっただろう。高校生なんだし自腹で打ち上げは厳しいという事なのだろう。

「なんだよ。みんなして黙っちゃってさ。別にいいけど。それでな、俺は宮崎からポイントが貯まるってことを教えてもらってだな」
「え、奥谷君と泉ちゃんってお似合いじゃん」
「悔しいけど、宮崎の相手が奥谷なら俺には何も文句は言えないな」
「なんだよ。俺も泉ちゃんが好きだったのに」
「でもさ、この二人なら奥谷君のファンの後輩たちも納得するよね」
「今年一番のビッグニュースかもしれないぞ」
「へえ、奥谷と宮崎がそんな仲なんて私は聞いてなかったけどな」

 奥谷君の言葉を最後まで聞かないクラスメイト達は私と奥谷君が両想いだと勘違いをして盛り上がってしまった。こうなってしまっては奥谷君が自腹で打ち上げをするぞと言ってもおさまることは無い。ただ、山口が少しだけイラっとした口調で言っていた言葉だけが私の耳に深く突き刺さっていたのだった。
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