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恋愛コミュニケーション

第十一話

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 高校三年生にもなるとほとんどの人は進路が決まっていたので自分の将来を棒に振ってまで山口をいじめることには消極的な人ばかりだったのだけれど、亜梨沙ちゃんは誰よりも積極的に行動を起こしていた。そうは言っても、さすがに目立つようなことはしなかったのだけれど、聞こえるように陰口を言って見たり掃除当番をサボってみたりといったいじめなのかと本当に疑いたくなるような事ばかりしていたのだった。亜梨沙ちゃんはもう少し派手に何かをやろうと考えていたらしいのだけれど、歩ちゃんも茜ちゃんも大学の入試が控えているのであまり目立つことはしようとしなかったのだ。亜梨沙ちゃんは調理系の学校に行きたいと言っていたけれど進路はまだ明確には決まっていないようで、私と話していて大学にも行ってみたいと思うようになっていたようだ。ちなみに、私はとある大学から駅伝の選手として声がかかって推薦の打診をいただいたのだが、今の時点では大学生になってまで走ることを続けるか迷っているのだった。一応、部活に参加しなくても実績を考慮して推薦は貰えるようなのだが、その状態で駅伝の選手にならないというのはどうなんだろうと思っていた。関係ない話ではあるが、その大学は体育の寺田先生の母校らしいので、寺田先生の後輩になるというのは何となく避けたい気持ちもあるのだった。

 小耳にはさんだ情報では奥谷君は大学には進学せずに専門学校を受けるそうなのだが、そこはあまり興味が無い分野なので同じ学校に通うというのはあまり選択肢には入れていないのだが、その近くにある大学なら私の学力でもなんとかなりそうなところはいくつかあるのだった。ただ、そこに入ったところで奥谷君と一緒に遊んだりできるかと言われると、そのようになる自信はないのであった。

 結局のところ、山口をいじめようとしているのはクラスでも亜梨沙ちゃんと歩ちゃんと茜ちゃんと吉原と瀬口の五人だったのだが、奥谷君たち以外は誰も止めようとしなかったので共犯と言っても言い過ぎではないと思う。ただ、梓ちゃんはそれとなく亜梨沙ちゃんを止めようとはしているのだけれど、何度言ってもいじめは止まることも無かった。だが、そのいじめのほとんどがいじめだとは認識しなければイタズラと言える程度のものだったので、山口も気にしていないようだったしその現場を目撃した早坂先生もいじめなのか遊んでいるだけなのか判断に迷っているようではあった。

「泉ちゃんってさ、山口が嫌がるような事って何か知ってる?」
「何だろうね。今までそんなこと考えてこなかったからわからないかも。でもさ、案外そういうのって男子の方が詳しかったりするんじゃないかな」
「男子ねぇ、奥谷君に聞けたら一番いいんだけど、奥谷君ってどう見ても山口の味方なんだよね。幼馴染ってだけであんなに助けるのかなって思うところはあるんだけど、本当は奥谷君って山口の事を好きだったりするのかな」
「それは無いでしょ。って言いたいところだけど、ここ一年くらいの行動を見ているとそれも否定しにくいんだよね。恋愛アプリで奥谷君が誰を登録しているのかは謎だけど、あの感じだったら山口さんの事を登録しててもおかしくないよね。そうだったとしたら、私はショックかも」
「そうだよね。私も奥谷君が山口の事を登録してたらショックだわ。本当に寝込んじゃうかもしれないよ。てかさ、山口が登録している人が誰なのか見てさ、それを奥谷君に教えるのってどうかな?」
「さすがにそれはマズいんじゃないかな。やるにしてもロックとか解除しないといけないでしょ」
「その辺は大丈夫じゃない。勝手に見るのがまずいんだったら、吉原たちを使って山口が自分で見せるようにしちゃえばいいんじゃないかな。あいつらはバカだけどそれくらいなら出来るんじゃない」
「それこそマズいって。そんなことして怪我でもしたら大変なことになっちゃうよ」
「大丈夫だって、あいつらだってそれくらいはわきまえているでしょ。怪我するようなことはさすがにさせないと思うけど、山口ってちょっと頭おかしいところあるし、吉原たちを怒らせるようなことはするかもしれないよね」
「でもさ、亜紀ってもう気にしてないような感じだけど、そこまで亜梨沙が山口にこだわるのって何か理由でもあるの?」
「梓ちゃんってさ、亜紀ちゃんから山口の事はもういいよって聞いたのかな?」
「いや、聞いてないけど」
「聞いてないのに何でわかるのかな?」
「なんでって、山口に何かしてくれって言われてないからだけど。亜梨沙は山口に何かされたわけ?」
「ねえ、もしかしてだけどさ、梓ちゃんって奥谷君たちみたいに山口の味方なのかな?」
「いや、味方ってわけじゃないけど、亜梨沙がそこまで山口にこだわっている理由が知りたいなって思っただけだよ」
「理由なら梓ちゃんも知ってるじゃん。山口がみんなの前で亜紀ちゃんを傷付けたからだよ。それ以上の理由っているのかな?」
「それは理解しているけどさ、亜梨沙がこだわるのも変じゃないかなって思うんだけど」
「それってさ、私が亜紀ちゃんのためにしていることが間違っているって言いたいわけなのかな?」
「そこまでは言ってないけど、あんまりやりすぎるのは良くないんじゃないかなって思うんだよね。ウチラってさ、今年は受験や就職に向けて真面目に頑張らないといけないときだと思うんだ。だからさ、わざわざ自分の評価を下げるような事はしない方がいいんじゃないかなって思うんだよね。山口がどうとかじゃなくて、何かあった時に亜梨沙が傷付くのは見たくないんだよ」
「そうね、そう言われるとちょっと考えちゃうけど、私はそれでも亜紀ちゃんのために何か出来ることをしたいって思うな。友達ってそう言うもんだと思うんだけど、梓ちゃんは亜紀ちゃんと友達じゃないってことなのかな」
「そんな事は言ってないって。ウチは亜紀とはずっと友達だし、亜梨沙や泉だって友達だと思ってるよ。ただ、今の時期にあんまり目立つようなことはしない方がいいんじゃないかなって思うだけなんだよね。亜梨沙だってやりたいこととかあったりするだろ」
「それはあるけどさ、今は亜紀ちゃんのために出来ることをしたいって思うよ。泉ちゃんも私が間違っているって思うのかな?」
「うーん、私はどっちも間違ってないと思うかな。亜梨沙ちゃんが亜紀ちゃんの事を思っているのと同じくらい梓ちゃんも亜梨沙ちゃんの事を思って言ってるんだと思うし、どっちも正しくてどっちの考えも理解出来るよ。でもね、私はどちらかと言えば亜梨沙ちゃんの考えに近いかもしれないな。私も山口が間違っているって思っているからね」
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