恋愛アプリを使ってみたら幼馴染と両想いになれました

釧路太郎

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恋愛コミュニケーション

第九話

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 奥谷君とのメッセージのやり取りはそれっきりだったのだけれど、私は何となく嬉しい気持ちで学校へ向かうことが出来た。いつもよりも足取りは軽く感じたし、朝ごはんも美味しく食べることが出来たと思う。それに、昨日までとは打って変わって天気も良くなってきていたから気分は明るかったのだ。
 しかし、そんな私の気持ちとは裏腹に教室内の雰囲気は悪く完全にクラスが山口に敵対している感じになっていた。私はいつもよりも早く教室に入ったのだけれど、私からそれほど間を空けずに入ってきた山口を見た皆は私に挨拶を返してくれずに無言で山口を睨んでいたのだった。

「ねえ、泉ちゃんって山口と一緒に登校してきたわけじゃないよね?」
「え、一緒じゃないけど。どうして?」
「いや、教室に入ってきたタイミングが一緒だったから気になっただけなんだよね。それとさ、奥谷君と何か話したりした?」
「奥谷君とは何も話してないけど、今日はまだ来てないみたいだね」
「そうなんだ。奥谷君に恋愛アプリのフレンドのやつって承認されちゃったのかな?」
「うん。お風呂から上がったら私宛にメッセージ着てたよ。でもさ、その一通だけで何のやり取りも無かったんだよね。奥谷君ってあんまりやり取りする感じじゃないのかもね」
「それは良かった。ちょっとこっちに来てもらってもいいかな?」

 私は自分の席に鞄を置くと亜梨沙ちゃんに連れられて非常階段の前に移動した。玄関から一番離れている非常階段脇を通る生徒はほとんどいなかったので私と亜梨沙ちゃんだけがこの場所にいるのだけれど、亜梨沙ちゃんは私と触れそうな距離まで近づいてとても小さな声で話しかけてきた。

「私はあの後帰ってから考えてみたんだけどさ、奥谷君って山口と仲いいじゃん。うん、ただの幼馴染だっていうのはわかっているよ。でもね、あの時もこの前も奥谷君って山口の事を庇っているんだよね。それってさ、奥谷君は山口の味方だってことだと思うんだよね。奥谷君が弱い者やいじめられている人を守るってのは泉ちゃんからも聞いていたし実際にそういう人なんだろうなってのもわかるよ。わかるんだけどさ、あの状況で山口の味方をするのって、ちょっとおかしいんじゃないかなって思うんだよね。おかしいっていうか、なんか引っかかるって言った方がいいかな。泉ちゃんが弱い者いじめが嫌いだってのは知ってるから言いにくかったんだけど、歩ちゃんたちと決めたことを泉ちゃんには教えておくね。私達は皆亜紀ちゃんが好きなんだよ。今の亜紀ちゃんも好きなんだけど、前みたいに元気で明るい亜紀ちゃんが好きなんだよね。歩ちゃんも茜ちゃんも梓ちゃんも前の亜紀ちゃんに戻ってほしいなって思ってるんだけどさ、それって今の状況じゃ亜紀ちゃんも戻れないと思うんだ。だからね、私達は山口が亜紀ちゃんに対して心から謝罪するように心を入れ替えてもらう事にしたんだよ。吉原君とか瀬口君がまとめてくれたおかげで男子たちもみんな同じ気持ちだと思うんだけどね。あ、奥谷君たちは別かもしれないけど、そういう事なんでクラスのみんなは山口に心を入れ替えてもらうために一つになることにしたんだよ。もちろん、暴力とかは使わないんだけどちょっと嫌な事をしちゃうかもしれないんだよね。それでさ、泉ちゃんがそういうのが好きじゃないって知ってるからこそ言うんだけど、山口の味方をしないでもらいたいんだよね。泉ちゃんが山口の味方じゃないってのは私も亜紀ちゃんたちも知ってるんだけど、泉ちゃんの本当の気持ちを知らない男子たちは泉ちゃんの事を弱いものを守る側の人だと思ってるっぽいんだよ。それってさ、泉ちゃんがとてもいい人だし、今までもいじめられている人たちの味方をしてたからってのがあると思うんだよね。でもさ、今までいじめられてた人っていじめられる正当な理由ってなかったと思うんだけど、山口って亜紀ちゃんに対して酷いことをしたしそれなりの報いを受ける必要があると思うんだ。これは私だけの考えじゃなくてクラス皆の考えなんだよ。泉ちゃんがそういうクラス全員で一人をいじめるみたいなことが嫌いなのは知っているんだけど、今回は山口が悪いんだし黙ってみててくれないかな。泉ちゃんが山口に何かしろってわけじゃなくて、ただ黙っていてくれればそれでいいんだよ。それさえしてくれたら私達は泉ちゃんに何もしないからさ。泉ちゃんは良い人だしずっと友達でいたいって思ってるんだけど、それって私だけが思ってることじゃないよね。泉ちゃんも私の事を大切な友達だと思っているんだったら、山口の事で私達に何かしようとしないで欲しいな。これは友達としてのお願いだよ」
「亜梨沙ちゃんが思ってるほど私は正義の味方ってわけでもないし、山口さんの事は亜梨沙ちゃんたちの隙にしたらいいって思うよ。でもさ、そんな事をして先生はおかしい事が起きてるって思わないのかな?」
「それなら大丈夫だよ。歩ちゃんと茜ちゃんが早坂先生に相談してあるからね。山口があの事件があってからずっと亜紀ちゃんを精神的に追い詰めてて亜紀ちゃんが悩んでるって相談してあるし、先生たちの間でも山口は少しおかしいって話になっているみたいだからね。早坂先生も寺田先生も他の教育指導の先生たちも亜紀ちゃんの事件以来山口と何度か面談したことがあるみたいなんだけど、その時も先生が理解できないような変な事を言ってたみたいなんだよね。早坂先生は山口がどんなことを言ってたか教えてくれなかったけど、亜紀ちゃんを責めるようなことを言わずに憐れんでいたってさ。亜紀ちゃんは可愛そうだけど、そうなる原因を作ったのは山口なのにね。あ、もうすぐホームルームが始まりそうだから教室に戻ろうか」
「うん、一言言っておくけど、私は山口さんの味方になるつもりは無いからね」
「それは知ってたけど泉ちゃんの口から聞けて良かったよ。私達は親友だもんね」

 外は相変わらずいい天気ではあるのだけれど、なんとなく心の中に黒いものが立ち込めているような気がしていた。私は山口の事が嫌いなんだけど、クラス全員の敵意が山口に向けられている状況は何となく落ち着かない。山口が可哀そうだとかそういう感情ではなく、私はクラス全員が一つの方向に悪意を向けている状況が何となく落ち着かないのだった。

「ねえ、亜紀ちゃんは山口さんの事をどう思っているの?」
「どうなんだろうね。でもさ、あんなことされたんだから嫌いに決まってるよ」
「亜紀ちゃん本人からは聞いてないの?」
「やだな。私達がそんな事を亜紀ちゃんに聞かなくったって結果はわかってるんだから問題無いと思うよ」
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