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プロローグ

第一話 孤独な陰キャと優しい陽キャ

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 学校内でも流行り出した病気は私達のクラスにも少しずつ広まっていっていた。
 いつもは三人組で行動しているのだが、友達は二人とも病気にかかってしまって安静にしていなければならなくなってしまった。一人で給食を食べるのは小学生の時以来だと思って私は机の向きを外が見えるように移動させたのだ。
 友達がいないわけではないのだが、私はたまたま一人であるという事をアピールする事にしたのだ。けれど、そんな私の事なんて見ている人はこのクラスにはいないと思うので何の意味もないことではあったと思う。もうすでにある程度のグループは固まっているのだから他のグループに興味を持つ人なんているはずが無いのだ。
「ねえ、鈴木さん一人で給食食べるんだったらウチラと一緒に食べようよ。今日はリオンちゃんがいなくてさ、私達っていっつも三人で食べてるのにリオンちゃんの席空いてるの気になっちゃってね。鈴木さんも今日は伊藤さんと石原さんが休みで一人みたいだし。ね、一緒に食べようよ」
 ふいに話しかけられて何の返事も出来なかった私は振り向いたまま固まってしまったのだ。そんな私の事なんて気にせずに松本さんは私の席に並んでいた給食を泉さんの席へと勝手に移動させていた。
「鈴木さんの返事も待たないで移動させちゃダメでしょ。イチカってそうやってなんでも勝手に物事を進めるの良くないと思うよ。鈴木さんは一人で食べたかったのかもしれないでしょ」
「ええ、そうかな。一人で食べるよりもみんなで食べた方がご飯は美味しいと思うんだけどな。ね、鈴木さんもそう思うよね?」
「え、いや、ああ、そう、かも」
「ほら、鈴木さんもそうだって言ってるじゃない。ミオは考え過ぎなんだって」
「あたしが考え過ぎなんじゃなくてイチカが考える前に行動してるだけでしょ」
 私のせいで松本さんと石川さんが喧嘩しちゃってるよ。ハッキリと何も言えない私が悪いとは思うんだけど、私なんかの事で喧嘩なんてしても意味ないのに。でも、この状況を作り出したのは私なんだし止めないとダメだよね。二人を泊めないとダメだとは思うんだけどどうしたらいいんだろう。
「ちょっと、鈴木さんが本気で困ってるじゃない。ミオは謝った方が良いと思うよ」
「いやいや、あたしよりもイチカが謝るべきだと思うよ」
「そうかな。じゃあ、二人で謝ろうか。鈴木さんごめんね」
「ちょっと困らせちゃってみたいでごめんね。イチカも悪気があるわけじゃないからね」
「もう、ミオの言い方だと私が悪いみたいじゃない」
「イチカが悪いんだって。素直に認めなよ」
「いや、別に、謝ってもらうような事してないし、私の方がハッキリ言わないから悪いんであって」
 私が何かを言うたびに二人が笑ってるんだけど、私って何かおかしいことでもしてるのかな。でも、二人から悪意みたいなのは感じられないんだよね。たぶん、この二人は私の事を悪く思ってはいないんだろうな。
 私は二人の邪魔をなるべくしないように聞かれたこと以外は自分から答えないようにして給食を食べていた。陽キャの人ってこんな何でもないような事でも楽しそうに話すんだなって思って見ていたんだけど、どうしてあんなに話をしているのに給食をどんどん食べることが出来るんだろう。いつの間にか私よりも先に食べ終わってるんだけど、食べ方が汚いとかだらしないって感じは一切しなかったのが不思議でしょうがない。

「前から気になってたんで聞いちゃうんだけど、鈴木さん達っていつも何か作ってるって話をしてるよね。アレってさ、一体何を作ってるの?」
「あ、それってあたしも気になってた。鈴木さん達って何か面白そうなことやってるなって思って見てたんだよね。何やってるの?」
 私達は三人でオリジナルのアニメを作っているんだけど、あくまで趣味で作っている物なのだがからとてもじゃないけど人に見せられるようなクオリティのものではないので教えていいのか迷ってしまった。私一人で作っているんだったら思い切って見てもらって反応を知りたいという気持ちもあるにはあるんだけど、二人の同意を貰ってないのに勝手に見せたりしたらダメだよね。私も自分がいないところでそう言うことされたらちょっと困っちゃうと思うし。
「あ、またイチカが困らせちゃってごめんね。この子ってホント思ったことをすぐ言っちゃうんでさ」
「ちょっと、私だけ悪いみたいないい方良くないよ。ミオだって鈴木さん達が何作ってるのか気になるって言ってたじゃない」
「そりゃ、あたしも気にはなるけどさ、無理矢理ってのは良くないと思うよ。あたしみたいにイチカのワガママになれてるわけじゃないんだからね」
「ええ、私ってそんなにワガママじゃないと思うんだけどな。ね、鈴木さんもそう思うよね?」
「あ、えっと、うん。そう思います」
「ほら、鈴木さんもこう言ってるじゃない。逆にミオがワガママな可能性も出てきたって事なんじゃないかな。無理矢理とか良くないと思うよ」
 私達の創作活動がバレているという事に驚いてしまったけど、無理矢理見せろって言ってくるような人じゃなくて良かった。ここで強引にノートを取られたらどうしようかなって思っちゃったもんね。簡単にネタをまとめているだけなんで見られても意味が分からないと思うんだけど、それでも見られるのは少し恥ずかしいって思いはあるんだよな。
 でも、三人でやってることじゃなくて私一人が趣味でやってることだったら教えてみてもいいのかな。二人もきっと私が一人でやってる方の趣味だったら教えても大丈夫だよね。
「あ、あの、そのですね、えっと」
「なになに、見せてくれる気になったの?」
「ちょっとがっつき過ぎだって。イチカがそんなんだと鈴木さんもひいちゃってるじゃない。落ち着きなって」
「だって、私は鈴木さん達が何作ってるのか気になっちゃって。私は何かを作ったりすることが出来ないから憧れちゃうんだよね」
「イチカは歌も下手だし絵も壊滅的だもんね。でも、なんでも楽しそうにやってるところを見るのは好きだよ」
「ちょっと、褒めてるのか貶してるのかわからないでしょ。褒めるなら素直に褒めなさいよ。で、どうしたのかな?」
 どうしよう。私が何か一言おうとするたびに十倍以上の返答が返ってくるよ。でも、こんなに言ってくれるんだったら私の作った小説を見て感想とか言ってもらえるかもしれないな。何か感想とかもらえると良いんだけど。
「あのですね。ちょっと趣味で小説を書いてまして」
「ええ、小説とか凄いじゃない。三人で小説を書いてるって事なの?」
「いや、三人ではないです。私一人の趣味でして」
「そうなんだ。凄いね。今までどれくらい書いてるの?」
「そんなに多くないです。中途半端に止まってるのばっかりなんで書いてるって言っていいのかわからないですけど。構想としては結構最終段階まで考えていたりもするんですよ。でも、そこまでに至る道が遠いと言いますか、上手くまとめたり物事を勧めたりできなくなってまして。いや、書けないってわけじゃないんですけど、書いているうちに想定していた感じと違う方向に進んでいってしまって、このまま書き続けても最初に考えていた終着点にたどり着けないんじゃないか、たどり着けないんだったら違う結末にした方が良いのかもしれないな。でも、それだと今まで考えていた伏線が台無しになってしまうんじゃないか。なんて考えてみたりすると、中途半端な感じで泊まっちゃうんですよね。あれ?」
 私が変なこと言っちゃったから松本さんと石川さんが困って固まっちゃってるよ。さっきまで無口だったのに自分の趣味の事になると一気に饒舌になってしまうのって気持ち悪いって思われてしまったかも。
 せっかくお昼を一緒に食べてくれたって言うのに、こんな感じになってしまって申し訳ない。でも、好きな事で熱くなってしまうのは仕方ないよね。きっと、伊藤さんも石原さんも私の立場だったらそうなってるよね。二人ならわかってくれるよね。
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