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大西楓の章

最終話

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 今日も沙弥は楽しそうにお絵かきをしているのだけれど、その絵には今まで見たことも無いような禍々しい色をした人の姿があった。沙弥は楽しそうにその人の絵を描いているのだけれど、僕はそれを見ていてなんだか背筋に冷たいものが走ったような感触を覚えた。ちょうどそのタイミングで、大西さんがやってきたのだ。

「ねえ、聞いてよ。鵜崎さんのお陰で私は郁美の夢を見なくなったんだよ。夢で会えたのは嬉しいんだけどさ、なんか怖かったから会えなくなってもいいかなって思ってたりもするんだよね。鵜崎さんの話では、私の夢に出てきたのは本当の郁美じゃないらしいんだよね。私の中にいる郁美を映しだしたものって言ってたんだけどさ、そんなのを言われても私にはどうしたらいいのかもわかんないしさ。小野君は理解出来る?」
「まあ、何となくはね。言葉にするのは難しいけど、大西さんの夢に出てきたのは大西さんが知ってる姿の高田さんって事だもんね?」
「そうなるね。夢の中では私も高校生の時だったと思うんだけど、郁美もあの時の姿のままだったよ。でもさ、不思議な事に私と郁美以外は知らない人ばっかりだったんだよね。小野君も出てくることは無かったし、美緒も雪乃も鵜崎さんも夢には出てこなかったな。鵜崎さんは一緒のグループじゃなかったから出てこなくても変じゃないけどさ、美緒と雪乃はいっつも一緒に居たから出てきてもいいのにね。なんで出てこなかったんだろう」
「それは僕もわからないけど、きっと高田さんともっといろんなことがしたかったって大西さんが思ってたからじゃないかな」
「あ、それは鵜崎さんにも言われたよ。私の中で後悔していることがあるみたいで、それをずっと思い悩んでいたのが今になって抱えきれなくなってしまって、それが夢になって出てきたんじゃないかってさ。私ってこう見えて悩みを抱え込むタイプだからさ、鵜崎さんの人を見る目の良さには驚いちゃうよね。別に私は弱みを見せたくないわけじゃないんだけどさ、あんまり人からそう思われてなかったってのも夢に出てきた原因なのかもね」
「なんにせよさ、大西さんが悩んでたことが解決できてよかったね」
「うん、それは凄く良かったって思うよ。小野君にもお礼をしたいって思ってるんだけどさ、今はちょっと余裕が無いから気持ちだけ伝えさせてもらうね。私の事も助けてくれてありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして。私の事もって、他に誰か助けたっけ?」
「やだな、美緒と雪乃の悩みを解決したって噂になってるよ。二人に聞いても何も答えてくれなかったんだけど、おばさんネットワークから美緒と雪乃が悪霊に憑りつかれていたのをここの住職さんが助けてくれたって聞いてるもん。美緒ってさ、私が知ってた事よりもヤバいことになってたらしいよね。それこそ、初めのうちは夢に出てくる程度だったみたいだけど、その後は家族全員が祟られて大変なことになったってさ。それを解決するなんて本当に凄いよね。でもさ、住職さんは今は千葉県にいるんだもんね。私もちょっとでいいから助けてもらいたかったな」
「お義父さんも妻もそっちの世界では有名みたいだからね。僕は最近まで全然知らなかったんだけど、今参加しているのも関東にいる悪霊を鎮めるためだとかなんとかって言ってたかも。肝心の部分は聞き取れなかったんだけど、日本中から能力者が集まって悪霊を鎮めようとしているなんて凄いことだよね」
「まあ、凄いんじゃないかな。でも、それって失敗する可能性があったりするの?」
「何をやっているのかがわからないんで何とも言えないけど、必ず成功するとは限らないけどなるべくならそうなるように頑張ってるんじゃないかな」
「それだけどね、失敗することは無いって鵜崎さんが言ってたよ」
「なんで鵜崎さんが?」
「私も聞いただけなんでちゃんと理解をしているかって言われたら微妙なんだけどさ、鵜崎さんの親戚の人がその集まりを仕切ってるんだって。その人は日本で一番凄い霊能力者で、世界を見渡してもその人より強い人って見つからない可能性もあるんだってさ。小野君の奥さんもお義父さんもその人をサポートするために行ってるみたいだよ」
「それを鵜崎さんから聞いたの?」
「まあね。私に向かって言ってたわけじゃないと思うんだけど、電話でそんな事を言ってたのは間違いないよ」
「そうなんだ。僕の妻が帰ってきたらそれとなく聞いてみようかな。大西さんはこれからどうするの?」
「そうだね。今までお世話になってた人達には申し訳ないんだけど、私はこのまま鵜崎さんと一緒にいろんなところを回ろうかなって思ってるよ。私を助けてくれた鵜崎さんの恩に報いるためにも、私に出来ることをしっかりやっていこうとは思ってるんだ」
「鵜崎さんをサポートするのは凄くいいことだと思うけど、今までお世話になった人にもお礼くらい入っておいた方がいいんじゃないかな」
「私もね、お礼は言いに行きたいんだけど、相手の事情とかもあるわけだし、そこで余計なトラブルを招きこんでも良くないと思うんだよね。だからさ、私は鵜崎さんを知っている小野君にだけお礼を言いに来たんだ。他の男の人達には申し訳ないけど、何も言わずに出ていくことにするよ」
「圭司君たちにも何も言わずに旅立っちゃうの?」
「うん、一応手紙は書こうと思ってるんだけど、なんて書けばいいかわからないんだ。小野君だったらそう言うのいっぱい書いてそうだし、何か手本になるようなのを見せてもらえないかな。お願いだよ」

 僕は別に手紙を書くプロなわけではないのだけれど、大西さんの圧力におされて断ることも出来なかった。
 家の方に行って手紙を見ていたりもしたのだけれど、よくよく考えてみると自分で書いた手紙は相手のもとに行っているのでここで何かを探したとしても意味が無いように思えた。

 適当に手紙を持っていくのも申し訳ないので、それっぽいサイトに書かれている例文をいくつかプリントアウトして大西さんの所に持っていくことにした。
 僕は本堂に戻る前に沙弥に挨拶をしていったのだけれど、相変わらず禍々しい色遣いをしている人が中心に描かれたちょっと薄気味悪い絵を描いているのだった。おそらくだが、右端には僕が描かれていて、中央には禍々しい色の女性らしき人が描かれている。左端には顔が白い人の絵が描いていあるのだけれど、それは最近の沙弥の絵にかなり高い頻度で描かれている女性だと思う。
 毎日のように描いている女性の絵ではあるのだが、その絵のモデルがダレなのかは僕も妻もお義父さんも知らない。むしろ、みんなはその絵の謎を解くなと忠告してくれていたりもする。僕はそれとなく沙弥に聞いていたりもするのだけれど、その知らない女性の絵だけは頑なに説明を拒んでいるのだ。こんな小さな子供が秘密にするような絵のモデルがダレなのか僕は気になっているのだけれど、その答えを教えてくれる日は当分こなそうな感じがしていた。

 僕が本堂に戻ると大西さんは背筋を伸ばした綺麗な姿勢で正座をしていた。この前とは違って慌てることも無く落ち着いているのだった。
 ちょうどそこへ絵を描き終えた沙弥が入ってきたのだが、沙弥は自分で描いた絵を僕と大西さんに見せてきた。
 大西さんは一言ぼそりと言ったのだが、僕の聞き間違いでなければ小さな声で高田さんの名前を呼んでいたと思う。沙弥は高田さんの姿を見たことは無いと思うのだけれど、親の目で見てもそれぞれが人なのかも怪しいような絵ではあるのだが、どうして大西さんは高田さんの名前を呼ぶことになったのだろうか。
 今度鵜崎さんに会う機会があったら聞いてみようと僕は思っていた。
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