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水瀬美緒の章
第二話
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僕たちの視線は自然とお義父さんと嫁に向いていた。誰も口を開かない状態がしばらく続いていたのだけれど、その嫌な空気を打開しようとしてなのか水瀬さんは少しずつ何が起こっているのか説明してくれていた。
「私は今まで何度も郁美と夢で逢っていました。もちろん、郁美が生きていた時も夢で逢っていたし、郁美が亡くなった後も何度か覚えていないくらい夢で逢っていました。でも、最近はちょっと今までとは違うような感じがするんです。うまく説明できないけど、私が見ている夢なんじゃなくて、私に見せている夢なんじゃないかなって思うところがあるんです。こんな事を言ってもわかりにくいとは思うんですが、私が見ている夢なのに私の意思なんて関係ないかのようにただそこにいるだけなんです。最初に今までと違う郁美を見たのは半年くらい前だったと思います。ただ、夢の中では私も郁美も何もしないでそこにいるだけなんです。いつも同じ場所で同じ距離でただただ見つめ合っている、そんな夢を毎日見ているんです」
僕は水瀬さんが言っていることがよくわからなかったのだが、周りの反応を見る限りでは皆僕と同じように感じているようだった。
お義父さんは僕と違って水瀬さんの言っていることを理解しているようにも見えるのだけれど、その姿は何か言いたいことを心の中で噛みしめているようにも見えていた。
「何となくですが、言いたいことはわかるような気がしています。ですが、一つはっきりさせておきたいことがあるのですが、その夢の中に出てくる高田さんは五体満足な状態なのでしょうか?」
「たぶん、そうだと思います。服装とかは全然思い出せないんですが、ずっと顔を見ていても怖いとか気持ち悪いって感情は無いんですよ。夢の中で見る郁美は以前と変わらない姿で私の知っている郁美のままだったと思います」
「その言い方ですと、夢の中以外でも会われたことがあるという事でしょうか?」
お義父さんの言葉を聞いて水瀬さんは高田さんを見た状況を思い出そうとしているようだった。水瀬さんの視線が斜め上を向いて左右に動いているのだけれど、お義父さん曰く高田さんは水瀬さんの後ろにいるらしいので後ろを振り向いた方がいいのではないかと思ったりもしていた。僕の隣に座っている大塚君も水瀬さんの背中をじっと見ているので僕と同じことを考えているのかもしれない。
「ハッキリと見たわけではないのですけど、私が娘に呼ばれて振り向いた時に視界の端に郁美らしき人影が見えたりするんです。もう一度しっかり確認しようと思ってみてみても、そこには郁美もいないし郁美と見間違えるようなものも無いんです。それでも、私はそこにいるのは郁美なんじゃないかなって思うんですよ」
「実際のところはどうなのかわかりませんが、仮にその人影が郁美さんではなかったとしたらどう思いますか?」
「そんな事を考えたことも無かったですけど、もしもその視界の端に見える人影が郁美ではなかったとしたら、私は怖くて悲鳴をあげて気絶してしまうかもしれないです。だって、一瞬しか見えていないはずなのに全身の皮膚がただれていて私をじっと睨んでいるように感じてしまっているんです。全く知らない人にそんな事をされるよりも、知っている人にされた方がいいような気もするんですよね。でも、郁美はそんな風に私を見るはずがないとは思うんですけどね」
「私達も郁美さんが水瀬さんに会いに来ているんだろうなとは感じているのですが、その目的が何なのかさっぱりわからないのです。私か娘のどちらかでも郁美さんと対話することが出来ればよいのですが、私達は姿をぼんやりと見られる程度でして、何を望んでいらっしゃるのかもまだ掴みきれていないのが現状ですね。ですが、こんなに明るいうちから姿が見えるという事は、何か厄介な事ではなく良い事が待っているのかもしれませんね」
「そうだといいんですけど、私は今のままで良いのでしょうか?」
僕には高田さんの姿が見えない以上は口を挟むことが出来ないのだけれど、夢の中で水瀬さんが高田さんに会っているのに悪いことが現実で起こっていないのならば恨み事なんて何も無いのではないだろうか。
高田さんの二十三回忌法要が終わった後に桑原さんから聞いた祟りという言葉にかなりネガティブな印象を抱いていたのだけれど、お義父さんの言う通りで祟りとは逆に高田さんは水瀬さんの事を守って身代わりになっているのではないかと感じていた。姿が見えないので話を聞いてそう思っただけなのだが、案外それは間違いではないのだろうと思うようになっていた。
「今のままでも問題無いと思いますよ。仮に、問題が何か起こるというのでしたら、もうすでに異変は出ていると思うのです。もしかしたら、何か別の悪い存在から水瀬さんを守ろうとしてくれているのかもしれないですね。例えばですが、その代償として郁美さんが水瀬さんの代わりに怪我をしているという可能性もあるのではないでしょうか。これは全くの希望的観測からくる仮説でしかないのですが、水瀬さんは少し精神的な疲労が蓄積している以外は怪我なども無いようですし、水瀬さんの親友である郁美さんが守ってくれていると思っていた方がお互いにとっても良いのではないでしょうかね」
「そうですよね。そうだと思います。ご住職のおっしゃる通りですよね。夢の中で郁美に会えることが嬉しいはずなのに、いつの間にか私は怪我をしている郁美に会う事が恐怖に変わっていたんだと思います。でも、その怪我も私の身代わりになってくれていると思うと悲しいという気持ちと守ってくれて嬉しいという気持ちでごちゃ混ぜになってしまっています。そうとは知らずに今日の法要に参加しなかったことが悔やまれます。もっと早くに相談しておけば良かったなと後悔してますよ」
「人間誰でも失敗はするものですからね。その失敗を教訓に新たに前に進むことが出来れば郁美さんも嫌な気持ちはしないんじゃないでしょうかね。これからは夢で郁美さんに会っても恐れずに感謝の気持ちをもって接してみるのもいいのではないでしょうかね」
「そうしてみます。いや、絶対にそうします。私の娘にも夢に出てくる人を怖がらなくてもいいんだよって教えてあげますね。娘もそう聞いたら安心して過ごせると思いますから」
「私は今まで何度も郁美と夢で逢っていました。もちろん、郁美が生きていた時も夢で逢っていたし、郁美が亡くなった後も何度か覚えていないくらい夢で逢っていました。でも、最近はちょっと今までとは違うような感じがするんです。うまく説明できないけど、私が見ている夢なんじゃなくて、私に見せている夢なんじゃないかなって思うところがあるんです。こんな事を言ってもわかりにくいとは思うんですが、私が見ている夢なのに私の意思なんて関係ないかのようにただそこにいるだけなんです。最初に今までと違う郁美を見たのは半年くらい前だったと思います。ただ、夢の中では私も郁美も何もしないでそこにいるだけなんです。いつも同じ場所で同じ距離でただただ見つめ合っている、そんな夢を毎日見ているんです」
僕は水瀬さんが言っていることがよくわからなかったのだが、周りの反応を見る限りでは皆僕と同じように感じているようだった。
お義父さんは僕と違って水瀬さんの言っていることを理解しているようにも見えるのだけれど、その姿は何か言いたいことを心の中で噛みしめているようにも見えていた。
「何となくですが、言いたいことはわかるような気がしています。ですが、一つはっきりさせておきたいことがあるのですが、その夢の中に出てくる高田さんは五体満足な状態なのでしょうか?」
「たぶん、そうだと思います。服装とかは全然思い出せないんですが、ずっと顔を見ていても怖いとか気持ち悪いって感情は無いんですよ。夢の中で見る郁美は以前と変わらない姿で私の知っている郁美のままだったと思います」
「その言い方ですと、夢の中以外でも会われたことがあるという事でしょうか?」
お義父さんの言葉を聞いて水瀬さんは高田さんを見た状況を思い出そうとしているようだった。水瀬さんの視線が斜め上を向いて左右に動いているのだけれど、お義父さん曰く高田さんは水瀬さんの後ろにいるらしいので後ろを振り向いた方がいいのではないかと思ったりもしていた。僕の隣に座っている大塚君も水瀬さんの背中をじっと見ているので僕と同じことを考えているのかもしれない。
「ハッキリと見たわけではないのですけど、私が娘に呼ばれて振り向いた時に視界の端に郁美らしき人影が見えたりするんです。もう一度しっかり確認しようと思ってみてみても、そこには郁美もいないし郁美と見間違えるようなものも無いんです。それでも、私はそこにいるのは郁美なんじゃないかなって思うんですよ」
「実際のところはどうなのかわかりませんが、仮にその人影が郁美さんではなかったとしたらどう思いますか?」
「そんな事を考えたことも無かったですけど、もしもその視界の端に見える人影が郁美ではなかったとしたら、私は怖くて悲鳴をあげて気絶してしまうかもしれないです。だって、一瞬しか見えていないはずなのに全身の皮膚がただれていて私をじっと睨んでいるように感じてしまっているんです。全く知らない人にそんな事をされるよりも、知っている人にされた方がいいような気もするんですよね。でも、郁美はそんな風に私を見るはずがないとは思うんですけどね」
「私達も郁美さんが水瀬さんに会いに来ているんだろうなとは感じているのですが、その目的が何なのかさっぱりわからないのです。私か娘のどちらかでも郁美さんと対話することが出来ればよいのですが、私達は姿をぼんやりと見られる程度でして、何を望んでいらっしゃるのかもまだ掴みきれていないのが現状ですね。ですが、こんなに明るいうちから姿が見えるという事は、何か厄介な事ではなく良い事が待っているのかもしれませんね」
「そうだといいんですけど、私は今のままで良いのでしょうか?」
僕には高田さんの姿が見えない以上は口を挟むことが出来ないのだけれど、夢の中で水瀬さんが高田さんに会っているのに悪いことが現実で起こっていないのならば恨み事なんて何も無いのではないだろうか。
高田さんの二十三回忌法要が終わった後に桑原さんから聞いた祟りという言葉にかなりネガティブな印象を抱いていたのだけれど、お義父さんの言う通りで祟りとは逆に高田さんは水瀬さんの事を守って身代わりになっているのではないかと感じていた。姿が見えないので話を聞いてそう思っただけなのだが、案外それは間違いではないのだろうと思うようになっていた。
「今のままでも問題無いと思いますよ。仮に、問題が何か起こるというのでしたら、もうすでに異変は出ていると思うのです。もしかしたら、何か別の悪い存在から水瀬さんを守ろうとしてくれているのかもしれないですね。例えばですが、その代償として郁美さんが水瀬さんの代わりに怪我をしているという可能性もあるのではないでしょうか。これは全くの希望的観測からくる仮説でしかないのですが、水瀬さんは少し精神的な疲労が蓄積している以外は怪我なども無いようですし、水瀬さんの親友である郁美さんが守ってくれていると思っていた方がお互いにとっても良いのではないでしょうかね」
「そうですよね。そうだと思います。ご住職のおっしゃる通りですよね。夢の中で郁美に会えることが嬉しいはずなのに、いつの間にか私は怪我をしている郁美に会う事が恐怖に変わっていたんだと思います。でも、その怪我も私の身代わりになってくれていると思うと悲しいという気持ちと守ってくれて嬉しいという気持ちでごちゃ混ぜになってしまっています。そうとは知らずに今日の法要に参加しなかったことが悔やまれます。もっと早くに相談しておけば良かったなと後悔してますよ」
「人間誰でも失敗はするものですからね。その失敗を教訓に新たに前に進むことが出来れば郁美さんも嫌な気持ちはしないんじゃないでしょうかね。これからは夢で郁美さんに会っても恐れずに感謝の気持ちをもって接してみるのもいいのではないでしょうかね」
「そうしてみます。いや、絶対にそうします。私の娘にも夢に出てくる人を怖がらなくてもいいんだよって教えてあげますね。娘もそう聞いたら安心して過ごせると思いますから」
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