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稲葉海三

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10.キミを助けたい

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「あ、それなんだけど、カオリちゃんのいる倉庫って、侍浜さむらいはまあたりかもしれない」
「侍浜か……ここからだと車で三十分くらいだね。でも、どうしてそう思うんだい?」
「倉庫にたくさんつんであった箱って、イカ釣り用の集魚灯の予備ランプだったし、ロープの結び方なんかも、侍浜っぽいかも」
「ロープの結び方って、場所によってちがうのかい?」
「うん、結構ちがうよ。絶対じゃないけど、まえに見た気がするんだよね」

 タマキの言葉に、長谷川先生が感心したようにうなずいた。 

「なるほど、あそこはイカ釣り漁が盛んだし、ありえそうだね。さすがは漁師の娘さんだ」
「えへへー、大したことじゃないよ。お父さんが見れば、一発でわかるんだけどね」

 タマキが照れたように笑った。

「では、侍浜周辺をダウジングで調べてみよう。朝丘くんも準備して」
「はい!」

 長谷川先生がタブレットで侍浜周辺の地図を表示させ、オレがダウジングで調べていく。
 こないだコマをさがしたときと同じだ。
 地図の上にペンダントをかざしながら「水瀬がいるか?」とたずねて、ペンダントが〈イエス〉の合図をするまでくりかえす。
 その作業を数十回くりかえすと……、

「……ここ、みたいですね」
「そうだね。ついに場所をつかんだ!」

 ダウジングが示した場所は、侍浜の港付近にある倉庫街。
 航空写真を最大まで拡大して、倉庫の場所まで特定することができた。 

「ここ、知ってるよ!」

 タマキの話だと、平日は人がほとんど来ない、さびしい場所のようである。

「先生、早く助けにいきましょう!」

 ようやく、水瀬の場所がわかった。
 一秒でも早く、あんな場所から水瀬を助けたい。

「いやいや、待ちたまえ。犯人は武器を持っているし、むやみにいくのは危険だ」
「なら先生! どうすればいいんですか?」
「じっくりと作戦を考えていこう」

 そこからは、水瀬を救出する作戦を全員で考えた。
 ほとんどは長谷川先生が考えたが、オレもタマキも、テストなんかよりも、よっぽど頭をフル回転させた。


 ☆水瀬救出作戦。

 ①夜中に侍浜まで車でいき、倉庫から少しはなれた場所に、車をとめる。
 ②テレポーテーションで倉庫のすぐ近くまでいき、水瀬の捕まっている場所を確認する。
 ③水瀬とテレパシーで連絡して「トイレにいきたい」と騒がせて、倉庫の外に呼びだす。
 ③見張りに付いてきた誘拐犯を倒して、水瀬を解放する。
 ④長谷川先生の車まで、テレポーテーションで移動する。
 ⑤長谷川先生の車で逃走して、作戦完了。

 単純な作戦だが、長谷川先生は、作戦は単純なほど失敗しにくいと説明した。
 誘拐犯と対決する場面では、オレはサイコキネシスで石をぶつけて、敵をひるませたり、敵をおさえつけたりする役目である。
 オレが注意をそらしている間に、先生が気絶させる流れだ。
 ためしに、サイコキネシスで石を飛ばす実験をしたら、普通に石を投げるよりも、はるかに速くて威力があった。
 頭にでも当てたら、大ケガさせてしまう可能性があるので、長谷川先生には十分に気をつけるよう注意されたのだが……。

(水瀬を誘拐したやつらだ、手加減する気なんてねえぜ!)

  いざとなったら、誘拐犯に石を思いっきりぶつけてやるつもりだ。

 作戦は決まったので、集合時間まで解散となった。
 オレとタマキは先生と別れて、いつもの川沿いの道を、二人で歩く。
 
「一番星か……」
「えっ?」
「あそこに見える星だ。あれって〝金星〟らしいぞ」

 オレは空に向かって指をさす。
 すでに日は傾き、空は赤く染まりかけている。
 西の空には、星がひとつだけかがやいていた。

「へー、そうなんだ。よく知っているね」
「水瀬に教えてもらった。あいつ、星が大好きなんだ」
「そっか、知らなかった。……カオリちゃんのこと、もっと知りたいな。もっと仲よくなりたいな」

 タマキの声が、さびしげにしずむ。

「これから、いくらでも仲よくできるだろ。誘拐事件は今夜で解決するし」
「……頼んだよ、タクヤ。ホントはあたしもついてきたいけど……」
「まかせとけって! オレたちが水瀬をサクッと助けてくるから、おまえは大人しく待ってろよ」

  銃を持った誘拐犯が相手なので、タマキは留守番ということになっている。

「じゃあさ。終わったら、わたしの部屋に来てよ。今夜は寝ない……というか寝られないから。どうなったか教えて! ずっと待ってるから!」
「ああ、わかった」

 オレは大きくうなずく。

「そうだ、吾郎おじさんの船に、水瀬も誘ってみようぜ?」
「あ、う、うん。それはいいけど……」

 まだ気が早いけど、オレは楽しい話題をすることにした。

「水瀬は、漁船で釣りなんてやったことはないだろうな」
「そりゃ、お嬢さま育ちだろうからねー」

 タマキもようやく、小さく笑った。

「なら、あのお嬢さまに、釣りを教えてやろう! 夜は沖に船を出してもらって、海の上からみんなで星を見ようぜ!」

 そう言うと、タマキの顔がパッと明るくなる。

「それいい! すっごく、いいよ! お父さんをけっとばしてでも、一日中、船を出してもらうよ!」

(……まあ、吾朗おじさんなら、そこまでしなくても、タマキの頼みを聞いてくれるだろう)

 吾郎おじさんは、体がごつくて顔は怖いけど、タマキに対しては甘々なのだ。

「楽しそうだよな」
「うん、絶対にしようね」

 水瀬を助けてからの遊びの予定について、オレたちはいろいろと話して盛り上がった。


 家に帰ると、母さんにねだって、早めの夕飯を食べた。
 テレパシーで、水瀬には今夜の作戦について伝えておく。
 すべての準備が終わると、母さんに「昨日、夜更かししたせいで、眠くてしかたがない」といって、寝ることにする。
 フトンに入ると、いつものように、コマがもぐりこんできた。
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