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3.ピンチのときは〝アラーム〟
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学校が終わって放課後。
いつものように、タマキと帰る。
しかし、今日はただ帰るのではない。
こいつとは、決着をつけなくてはいけないのだ。
「いいのか? 今回はかなり自信あるぞ」
「あたしだって、自信あるよ!」
帰り道のとちゅう、川沿いの道からおりて、人気のない河原でオレたちは向かい合う。
お互い真剣な表情だ。
二人とも、学校指定のカバンに片手を入れた姿勢をとっている。
初夏の生ぬるい風が、オレたちの間を吹き抜け、草たちがざわめく。
これからピストルでも取りだして撃ち合うようなフンイキだが、もちろんそんなことはない。
オレたちの武器は違うものである。
呼吸を合わせて、「「いっせーの、せっ!」」というかけ声ともに、カバンから手を出した。
手に持っているのは、一枚の大きな紙。
お互い、相手に見せつけるように突き出し、書かれている数字を読み上げた。
「オレは九十六点だ!」
「あたしは九十四点……って、えーっ!」
「よっしゃぁあああ!」
「ううっ、自信あったのになぁ……」
オレはガッツポーズを決めてよろこび、タマキがガックリと肩を落とす。
今回はヨユーで勝ったと思ったが、意外と接戦だったようだ。
でも、勝ちは勝ちである。
タマキもがんばったようだが、まだまだだな。
オレは胸をはりながら、タマキの健闘をたたえるように、肩をポンと叩いた。
あ、なにをしていたのかというと、帰りのホームルームで返却された理科のテストを、見せ合っていたのである。
クラスの平均点は七十六点なので、オレたちは得点はクラスでトップレベルだろう。
だけど別に、オレたちは、勉強熱心な優等生というわけではなかった。
「長谷川先生のおかげで、オレたち、理科だけはいい点を取れるようになったな」
「うん、理科のテストは、お母さんに胸をはって見せられるよ」
そう、長谷川先生のおかげなのである。
実験の合間にしてくれる話が、すごく役に立っているのだ。
長谷川先生のしてくれる話は、生き物の話だったり、海や山の話だったり、宇宙の話だったりする。
そのおかげで、オレたちは、潮の満ち引きが、月と太陽の引力によるものだと知った。
他にも、空が青い理由や、魚が水の中で息ができる理由、リンゴが赤い理由……などなど。
日常でちょっとした疑問についてなど、面白おかしく話してくれる。
そしていつのまにか、オレたちは、理科という教科が好きになっていた。
長谷川先生がしてくれる話は、『自然科学』という学問の基礎らしい。
ちなみに、超能力や幽霊のオカルトなどのことは、『超自然科学』と呼ばれている。
長谷川先生は、どちらの分野でも専門家なのである。
「次は負けないから!」
「いくらでもかかってこいよ。次もオレが勝つから」
テスト勝負は終わり、そんなことを言い合いながら、ふたたび歩き始める。
川沿いの道を抜けて、住宅地へと向かう交差点の近くまで来たきだった。
タマキが興奮したように、前方を指をさした。
「あ、あれ! 三組の水瀬カオリさんじゃない?」
オレが目を向けると、若宮中学の制服を着ている女子が歩いている。
ただ、それだけだ。
でもその姿を見ただけで、思わず息をのんてしまった。
(……なんだ、あいつ。すげー、かわいい)
つやのある黒髪を背中までのばし、チラッと見える横顔は、人形のように整っている。
オレたちからそれなりに距離があるのに、とんでもない美少女とわかってしまう。
「水瀬さんって、あんなにかわいいし、お父さんが水瀬コーポレーションの社長をしている『お嬢さま』なんだよね」
水瀬コーポレーションというのは、日用品からロケットの部品まで作っているとても大きな会社である。
美人でお金持ちのお嬢様ってのは、最強すぎるな。
「ああ、すげーな。騒ぐ奴らがいるわけだ」
「タクヤもキョーミあるの?」
「アイドルみたいだなって思うけど、別に……」
中学になってからは、彼女がほしいという男子が増えたが、オレには理解できなかった。
「ふーん。ま、タクヤには早いかもね。まだまだゲームやマンガから卒業できないお子ちゃまだし」
「うるせー!」
「あははははっ」
タマキがからかうように笑った。
いつもよりイジワルなのは、さっきテストの点で負けたせいだろう。
まあ、でも、図星ではある。
彼女がほしいと思ったことはない。
新作のゲームやマンガをもらえる方がうれしい。
タマキは一通り笑って、水瀬に視線をもどすと、あごに手を当てて、うーん、と考えこむ。
「水瀬さん一人みたいだし、声かけてこようかな?」
「……あんまりしつこくすんなよ。迷惑かもしれないし」
「わかってるって」
そう言うと、タマキはまえを歩いている水瀬を、追いかけていった。
おそらく、「いっしょに帰らない?」と誘う気である。
一人で帰っている姿が、どこかさびしげに見えたせいであろう。
あれで、おせっかいな性格をしているのだ。
オレはタマキの後ろ姿を、苦笑しながら眺めていたら。
(ビーーー、ビーーー、ビーーー)
突然、頭の中に、大音量の警報が鳴りひびく。
避難訓練の非常ベルよりも、やかましい音だ。
オレの能力のひとつである『アラーム』が発動したのだ。
いつものように、タマキと帰る。
しかし、今日はただ帰るのではない。
こいつとは、決着をつけなくてはいけないのだ。
「いいのか? 今回はかなり自信あるぞ」
「あたしだって、自信あるよ!」
帰り道のとちゅう、川沿いの道からおりて、人気のない河原でオレたちは向かい合う。
お互い真剣な表情だ。
二人とも、学校指定のカバンに片手を入れた姿勢をとっている。
初夏の生ぬるい風が、オレたちの間を吹き抜け、草たちがざわめく。
これからピストルでも取りだして撃ち合うようなフンイキだが、もちろんそんなことはない。
オレたちの武器は違うものである。
呼吸を合わせて、「「いっせーの、せっ!」」というかけ声ともに、カバンから手を出した。
手に持っているのは、一枚の大きな紙。
お互い、相手に見せつけるように突き出し、書かれている数字を読み上げた。
「オレは九十六点だ!」
「あたしは九十四点……って、えーっ!」
「よっしゃぁあああ!」
「ううっ、自信あったのになぁ……」
オレはガッツポーズを決めてよろこび、タマキがガックリと肩を落とす。
今回はヨユーで勝ったと思ったが、意外と接戦だったようだ。
でも、勝ちは勝ちである。
タマキもがんばったようだが、まだまだだな。
オレは胸をはりながら、タマキの健闘をたたえるように、肩をポンと叩いた。
あ、なにをしていたのかというと、帰りのホームルームで返却された理科のテストを、見せ合っていたのである。
クラスの平均点は七十六点なので、オレたちは得点はクラスでトップレベルだろう。
だけど別に、オレたちは、勉強熱心な優等生というわけではなかった。
「長谷川先生のおかげで、オレたち、理科だけはいい点を取れるようになったな」
「うん、理科のテストは、お母さんに胸をはって見せられるよ」
そう、長谷川先生のおかげなのである。
実験の合間にしてくれる話が、すごく役に立っているのだ。
長谷川先生のしてくれる話は、生き物の話だったり、海や山の話だったり、宇宙の話だったりする。
そのおかげで、オレたちは、潮の満ち引きが、月と太陽の引力によるものだと知った。
他にも、空が青い理由や、魚が水の中で息ができる理由、リンゴが赤い理由……などなど。
日常でちょっとした疑問についてなど、面白おかしく話してくれる。
そしていつのまにか、オレたちは、理科という教科が好きになっていた。
長谷川先生がしてくれる話は、『自然科学』という学問の基礎らしい。
ちなみに、超能力や幽霊のオカルトなどのことは、『超自然科学』と呼ばれている。
長谷川先生は、どちらの分野でも専門家なのである。
「次は負けないから!」
「いくらでもかかってこいよ。次もオレが勝つから」
テスト勝負は終わり、そんなことを言い合いながら、ふたたび歩き始める。
川沿いの道を抜けて、住宅地へと向かう交差点の近くまで来たきだった。
タマキが興奮したように、前方を指をさした。
「あ、あれ! 三組の水瀬カオリさんじゃない?」
オレが目を向けると、若宮中学の制服を着ている女子が歩いている。
ただ、それだけだ。
でもその姿を見ただけで、思わず息をのんてしまった。
(……なんだ、あいつ。すげー、かわいい)
つやのある黒髪を背中までのばし、チラッと見える横顔は、人形のように整っている。
オレたちからそれなりに距離があるのに、とんでもない美少女とわかってしまう。
「水瀬さんって、あんなにかわいいし、お父さんが水瀬コーポレーションの社長をしている『お嬢さま』なんだよね」
水瀬コーポレーションというのは、日用品からロケットの部品まで作っているとても大きな会社である。
美人でお金持ちのお嬢様ってのは、最強すぎるな。
「ああ、すげーな。騒ぐ奴らがいるわけだ」
「タクヤもキョーミあるの?」
「アイドルみたいだなって思うけど、別に……」
中学になってからは、彼女がほしいという男子が増えたが、オレには理解できなかった。
「ふーん。ま、タクヤには早いかもね。まだまだゲームやマンガから卒業できないお子ちゃまだし」
「うるせー!」
「あははははっ」
タマキがからかうように笑った。
いつもよりイジワルなのは、さっきテストの点で負けたせいだろう。
まあ、でも、図星ではある。
彼女がほしいと思ったことはない。
新作のゲームやマンガをもらえる方がうれしい。
タマキは一通り笑って、水瀬に視線をもどすと、あごに手を当てて、うーん、と考えこむ。
「水瀬さん一人みたいだし、声かけてこようかな?」
「……あんまりしつこくすんなよ。迷惑かもしれないし」
「わかってるって」
そう言うと、タマキはまえを歩いている水瀬を、追いかけていった。
おそらく、「いっしょに帰らない?」と誘う気である。
一人で帰っている姿が、どこかさびしげに見えたせいであろう。
あれで、おせっかいな性格をしているのだ。
オレはタマキの後ろ姿を、苦笑しながら眺めていたら。
(ビーーー、ビーーー、ビーーー)
突然、頭の中に、大音量の警報が鳴りひびく。
避難訓練の非常ベルよりも、やかましい音だ。
オレの能力のひとつである『アラーム』が発動したのだ。
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