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エピローグ 満天の星の下で

エピローグ 満天の星の下で

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 テストが終わった翌日。
 時刻は午前六時。

 オレとタマキとカオリの三人は、吾朗おじさんの漁船にのせてもらった。
 十人以上はのれる船なので、甲板は広々としている。

「よーし、出発するぞ! しっかりつかまってろよ!」

 と、吾朗おじさんは威勢のいい声とともに、船が出発する。
 ディーゼルエンジンの音がうるさいので、かなりの大声だ。

「きゃっ!」

 発進のゆれで、カオリが体勢をくずす。

「あぶね!」

 オレはとっさにカオリの肩をつかんで、ささえる。

「船の発進ってゆれるから、手すりにつかまってないとあぶないぞ」
「……ビックリした。ありがとう」

 カオリはちょっとだけ顔を赤くして、お礼を言った。

「カオリちゃーん、仕掛けの作り方教えてあげるね」
「あ、はーい」

  釣り竿の準備をしていたタマキが、カオリを呼ぶ。
 カオリは、今度は手すりにつかまりながら、気をつけてタマキのもとへと向かった。
 二人で仲よく準備をはじめている。

 オレは、海を眺めていた。
 目の前にはどこまでも青い水平線が広がっていて、港が遠ざかっていく。
 沖に出ると、船のそばに、一羽のウミネコがよってきた。
 オレはエサであるオキアミを一匹取りだすと、放り投げてやる。
 オキアミが海に落ちると、ウミネコがとびこんでくちばしで拾い上げる。
 お礼を言うように、「ミャアミャア」と鳴くと飛び去っていった。

 まったくもって、平和である。


 吾郎おじさんのヒミツのポイントに着いて釣りを開始してから、一時間が経過した。

「あ、釣れたっぽい」

 タマキにまたアタリがあったようだ。
 慣れた手つきで、スルスルとリールを巻いていく。
 しばらくすると、平べったい魚が海面から出てくる。
 とぼけた顔をしていて、ゆるキャラみたいな顔だ。

「お! カワハギじゃん。こいつはうまいんだよな!」
「へへー。すごいでしょ」
「うん、よくやった」

 タマキはもう五匹目と、絶好調である。

「う~、いいな、タマちゃん。ぜんぜん、釣れないよ」

 今日が釣りをはじめてやるカオリは、まだ釣れてないようだ。

「大丈夫。カオリちゃんにも、そのうちくるって」

 なんだか、この二人は仲のよい姉妹のようになっていた。
 見ているオレまで、楽しくなってくる。
 カオリが、タマキに甘えるようになったのが面白い。

「オレも、気合を入れないとな」

 まだ、二匹しか釣っていない。
 タマキに追いつくには、そろそろ次を釣りたいところである。
 そんなとき、「きゃあっ!」とカオリの大きな悲鳴が、甲板にひびいた。

「とっても……重い……」

 カオリが釣り竿を持ちながら、落とさないよう、必死にたえている。
 竿が大きくしなっているので、よっぽど重いのだろう。

「おい、タマキ。こいつは一人じゃムリだ。手伝うぞ!」
「うん、わかったよ」

 自分の釣り竿を置くと、あわててカオリを手伝う。
 三人で持っているのに、釣り竿はものすごい力で、引っぱられた。

「かなりの大物だね」
「大物ってマグロみたいな?」
「いや、こんなところにマグロはいないよ」

 タマキが苦笑した。

「すげーな、こいつ! 切れそうだから、少しゆるめるぞ」

 オレは、魚の呼吸にあわせて、糸をゆるめたり巻いたりをくりかえした。
 ムリをすると、すぐに糸が切れてしまうのである。

「こいつ、まだ、あきらめねーな」

 驚いたことに、十分以上たっても、魚の勢いはおとろえない。

「ここまできたら、絶対にあげたいよね」
「もちろん!」
「がんばるよ!」

 いいかげん、腕がつかれてきたところで、ようやく魚の姿が見えてきた。

「でけー! タマキ、たもだ! すぐに用意しろ!」
「りょーかい!」

 タマキが魚を回収するための、たも網を用意する。

「カオリ、最後はおまえが巻いて、釣りあげろ!」
「うん!」

 オレが釣り竿をささえながら、カオリが最後の巻きあげをし、水面から顔を出した魚を、タマキがたも網ですくいあげる。
 たも網の中に、大きな魚がおさまったが、タマキは持ち上げられないでいる。

「ちょっ、おもっ! みんな手伝って!」
「よし、まかせろ!」
「タマちゃん、待ってて!」
「はやくっ! はやくっ!」

 オレたちは釣り竿を置いて、すぐにタマキを手伝う。
 三人でいっしょに網の柄を持ち、いっきに持ち上げた。
 船にあげると、一メートル近くありそうな、巨大な魚がビチビチとはねている。

「でっけー、タマキ、こいつはなんだ?」
「すごいよ! これ、ヒラマサだ! 超大物だよ!」
「マジか! ヒラマサの刺身って、すっげーうまいよな。カオリ、今日の一等賞はおまえだ!」
「うん。文句なしだよ!」

 カオリはオレたちの言葉に、照れたように笑った。
 
「わたしだけじゃ絶対に釣れなかったし、みんなで釣った魚だよ!」

 オレたちは魚を持ち上げながら写真をとったりしたせいで、びしょぬれなってしまった。
 
 でも、最高の気分だった!



 夕食はすごく豪華なものになった。
 ヒラマサの刺身がメインで、他にも釣った魚を煮たり焼いたりして、みんなで食べた。
 どれも新鮮なので、すごくおいしいのである。
 カオリも自分で釣った魚を食べて、あまりのおいしさに感動していた。


 そして、夕食が終わったあと。
 オレたちは吾朗おじさんにお願いして、もう一度、船を出してもらった。

 
 雲ひとつない夜。
 風もほとんどないので、波もしずかだ。
 吾郎おじさんも気をつかって、船を沖まで動かしたあとは、エンジンを切ってくれた。
 オレたちは静かな海の上から、星空を眺めていた。

「うっわー、きれいだね!」
「うん……夢みたい。この町で、こんなにはっきりと天の川が見えるなんて!」

 タマキとカオリがはしゃいでいる。
 町のあかりから遠ざかっているので、いつもと見える星の数が、ぜんぜんちがう。
 これが、カオリに見せたかったものだ。

「あれが北斗七星だから、あそこが北極星か……」

 空を見上げながら、プラネタリウムで習ったことを、オレはぽつりとつぶやく。

「あ、覚えていてくれたんだ」
「そりゃ、あのときは楽しかったからな」
「うれしいな」

 カオリはオレの方を向いて、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。

【……大好きだよ、タクヤくん】

 かすかな声が、頭の中にひびいてくる。
 心臓がトクンとはねる。
 顔が熱くなる。

「えー、どこ、どこ?」

 タマキの声で、ハッと我に返る。

「あー、あそこに見える、ひしゃくの形をした七つの星が、北斗七星だから……」

 オレはあわてて、空を指さしながら、タマキに教えていく。
 カオリの方をチラッと見ると、イタズラっぽく笑っていた。
 
『テレパシー』は〝ウソ〟をつけない。
 
 満天の星の下で。
 オレは胸のドキドキをおさえるのに、必死だった。
                                   (了)
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みんなの感想(1件)

あさのりんご

タクヤ、いいですね。長谷川先生が、気になります。どんな研究をするのか予想出来ません。更新を楽しみにしてます。

稲葉海三
2022.12.02 稲葉海三

感想ありがとうございます!
今後のタクヤと長谷川先生の活躍を楽しんでいただけるとうれしいです!

解除

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