(超)自然科学部にようこそ!

稲葉海三

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8.あ・り・が・と・う

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 次の瞬間には、オレたちは理科準備室ではなく、畑の真ん中に立っていた。
 足もとはフカフカの土の地面になっていて、あたりにはキャベツやじゃがいもやトマトなどの作物が、たくさん植えてある。

「ここらにいるみたいだから、手わけしてさがそう」

 オレは野菜を踏みつぶさないように気をつけながら、コマをさがそうとした。
 畑に勝手に入ると、持ち主のおじいさんに怒られてしまうのだが、今はそんなことをいっていられない。

「でも、結構広いから、さがすの大変だよね」

 タマキは畑をぐるりと見わたして、困ったような顔をした。
 この畑はサッカーができそうなくらい広いし、野菜の葉の影などかくれる場所がいくらでもある。
 適当にさがして見つけるのはむずかしい。

「大きな声で呼んでみる?」
「それだと、あいつ怖がっちまうだろ」
「そうなんだよね……」

 コマは怖がっているときに大きな音を聞くと、パニックになってしまう。
 オレの声だというのは、わかってくれないだろう。

 外の世界が見たくてたまらない。
 でも、外の世界が怖くてたまらない。

 猫ってのは、同時に二つの強い気持ちを持っているのである。 

「あ、それなら、いい方法があるかも」
「マジで? どんなのだ?」

 水瀬の言葉に、オレは全力で食いつく。

「あのね。朝丘くんがテレパシーでコマちゃんに呼びかけてみればいいと思う。言葉じゃなくて、コマちゃんがよろこぶ映像を、送ってみるといいよ。きっと伝わるから」
「……なるほど」

 オレは自分でテレパシーを使ったことはないが、サイキックストーンの力を借りているいまなら、使える気がする。
 水瀬の提案は、名前を呼ぶよりもいい考えのようだ。

「テレパシーのコツは、相手の顔を正確に思い浮かべること。コマちゃんの顔なら大丈夫だよね?」
「もちろん!」

 オレは力強くうなずいた。
 子猫のときから、ずっといっしょにいたのである。
 コマの顔を正確に思い浮かべるなんて、かんたんなことだ。

「コマのよろこぶことか……」

 皿いっぱいのキャットフード。
 タマキの持ってくる焼きたての魚。
 山盛りのかつおぶし。

 オレは頭の中に、コマの好きな食べものを次々と思い浮かべる。
 コマがよろこんでいるのは、やっぱり食べているときである。
 特に今は、お腹がペコペコだろうし。

「さあ、出てきたら、腹いっぱい食べさせてやるぞ」

 オレはつぶやくようにいいながら、テレパシーを使う。
 コマが受けとっているかは、わからない。
 でもオレは、水瀬の言葉を信じて、テレパシーに集中しつづけた。

「お願い……」

 オレのそばで、タマキは手を合わせて祈る。
 そんなタマキの様子を見ていると、オレはひらめいた。

「タマキ! 頭の中に、コマのことを思い浮かべろ!」
「えっ!」
「おまえの『思い』も受けとって、コマに伝えてやる」

 そう言って、タマキの手をギュッとにぎった。
 無意識だったが、その方が、テレパシーが伝わりやすい気がした。

「う、うん、わかった」

 タマキは目を閉じて、集中する。
 すると、オレの頭の中に、タマキのコマへの思いが流れてきた。


 はじめてコマを見つけた日。
 ダンボールの中のコマは、オレたちにおびえていた。
 そこでオレたちは、お小遣いを出しあって猫用のミルクを買って、コマにあげた。
 コマはずっと警戒していたけど、やがて、一口なめた。
 オレたちはその光景に、手をとりあってよろこんだ。
 そこからは、オレの家で飼うことになり、いっしょに遊んだり、風呂に入れたり、新鮮な魚を持ってきたり……。

 タマキの流れこんでくる思いが、オレは「あたたかい」と感じた。
 そしてそのまま、コマに向かってテレパシーで送りつづける。
 
(オレたちは、こんなにも、おまえのことが大好きなんだ! だから、帰ってきてくれよ!)
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