(超)自然科学部にようこそ!

稲葉海三

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2.ヒミツの実験

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 長谷川先生に超能力のヒミツがバレて、二ヶ月ほど経過した。

「それじゃ、いくか」
「うん」

 授業が終わって放課後になると、オレとタマキは、理科準備室に向かった。

 ここで、オレとタマキの関係を説明しておこう。
 オレたちは親同士が仲がよく、家が近所なので、小さな頃から毎日のようにいっしょに遊んでいた幼なじみだ。
 今でも、いっしょに登下校をしている。
 小学生のときはクラスがバラバラのことが多かったが、中学になって、久々に同じクラスになったのだ。
 タマキに言わせると、「腐れ縁」というやつらしい。
 そこらの男子よりも話しやすい、兄妹みたいな関係である。
 
 よし、説明終わり。


「こんにちは」「こんにちは~」
「やあ、よくきてくれたね」

 理科準備室に到着すると、長谷川先生が歓迎してくれる。
 そして、オレたちが部屋に入ると、入り口のカギをすぐに閉めた。

 この部屋には、オレとタマキと長谷川先生の三人しかいない。
 つまり、オレのヒミツを知っている人間だけだ。
 これからするのはヒミツの実験なので、だれも部屋の中に入ってこられないようにしたのである。

 長谷川先生は、いつもこの理科準備室で仕事をしていた。
 授業のない時間は常にいるし、休日であっても、この部屋であやしげな実験をしているらしい。
 生徒たちには、「この部屋に住んでいるのでは?」とまで言われることもあった。

「先生って、意外と部屋の中をきれいにしてるよね。マンガの中の科学者って、本と書類に埋もれながら実験してるイメージなのに」

 タマキが室内をぐるっと見わたして、そんな感想をのべた。
 理科準備室の中は、教師用の机と薬品棚、冷蔵庫、実験器具などが置いてあるので、物が非常に多い。
 しかし、机の上も棚の中もきちんと整理してあるので、部屋の中は広く感じられた。

「はははっ、効率よく作業するためには、部屋の中をきちんと整理した方がいいんだよ。どこになにがあるのか、一目でわかるようにしとかないとね……それと、汚なくしてると教頭が怖いんだ」

 きっと、教頭先生が怖いってのが理由なんだろうなと思ったが、オレはツッコまないでおくことにした。
 
 教頭先生は超がつくほどマジメで怖い先生だ。
 廊下で走って怒られている生徒をよく見かける。
 オレも正直ちょっと怖い。

「なるほどー。教頭先生が怖いからだったんだね。先生なのに、教頭先生が怖いんだ」
「……あ、いや、あははははっ」

 せっかくオレがスルーしたのに、タマキがツッコんでしまう。
 まったく、空気の読めない奴である。
 先生は困ったように頭をかいていた。

「それで、今日はどんな実験をするんですか?」

 オレが助け船を出してあげることにする。
 これぞ、気づかいのできる男って奴だ。

「うん、まずは二人とも、そこのイスに座って」 

 オレたちはすすめられるままに、長谷川先生の机のそばにあるイスに座った。
 机の上には、一辺が十センチほどの立方体のガラス容器が置いてある。この容器の中には、小さなサイコロが三つ入っていた。

「今日は、この容器に入っているサイコロを動かしてもらえるかな?」
「はい、わかりました」 

 似たような実験はなんどもやったので、なにをすればいいのかはすぐに理解する。

 長谷川先生との実験は、サイコキネシスを使うものばかりだ。サイコキネシスがどんな力であるのかを、科学的に解明したいらしい。

 オレはガラス容器に入っているサイコロに、サイコキネシスを使った。

(動け……動け)

 オレが念じると、手をふれていないのに、サイコロがピクピクッとふるえながら、動き出す。

「おおっ!」

 長谷川先生は転がるサイコロを見て、うわずった声を出した。
 サイコキネシスはなんども見ているのに、長谷川先生は毎回、興奮して顔を真っ赤にする。
 ちょっといい気分だ。

(よし、今日は調子がいいから、サービスしよう)

 オレはサイコキネシスを慎重に操り、サイコロを転がしていく。

 やがて、三つのサイコロは、すべて一の目を上にしてとまった。

「よっしゃ、うまくいった! こんなもので、どうですか?」

 オレは得意気に言った。
 サイコロを持ち上げるのではなく、転がして思い通りの目を出すのは、ビミョーな力加減をしなくてはいけないので、テクニックが必要なのである。

「いいね。すばらしい!」

 長谷川先生がほめてくれたので、がんばったかいがあったようだ。

「手品みたいだよね。ま、こんなの、なんの役にも立たないけど。フツーに、手を使って転がした方が早いし」
「うるせーよ!」

 タマキの余計な一言に、少しだけむかつく。
 こんな能力なんて、大して役に立たないってのは、オレが一番わかっていた。

「いやいや佐倉さん。朝丘くんの能力は、まだ解明されていない、未知なるすばらしい力なのだよ。この力が解明されるとき、人類のエネルギー問題を解決する第一歩に――」
「あーはいはい。わかりました、わかりましたって!」

 長谷川先生の長い解説がはじまりそうだったので、タマキがあわててさえぎった。
 とめないと、日が暮れるまでしゃべり続けてしまう先生なのである。

「……先生、タクヤが調子にのらないよう、あんまり、おだてないでよ。タクヤったら、すぐに外で使っちゃうんだから」
「大丈夫だって。オレはもう、外では絶対に使わねーから」
「まえもそういってたのに、長谷川先生に見られたんじゃない!」
「う……それは……」

 こないだのことで、オレの信用はゼロである。
 約束を破ってしまったので、しょうがないのだが……。

「まあまあ、佐倉さん。朝丘くんも、今後は気をつけるだろう。それよりも、冷蔵庫には、いつものおやつが入っているよ。佐倉さんの分もあるから、遠慮なく食べて」
「やった! 先生、ありがとー!」

 おやつという言葉を聞いたとたん、タマキのお説教が一瞬で終わる。

(……やっぱ食い意地が張ってるよな)

 タマキは甘い物が大好きなのである。
 ま、オレもおやつがすぐに必要だけど……。

「……オレの分も持ってきてくれ」

 オレはぐったりと机に頭をのせながら、タマキに頼む。
 今のオレには、立ち上がって歩いていく元気がない。

「はいはい、りょーかい」

 タマキは苦笑すると、部屋のすみにある大きな冷蔵庫のところへいった。
 薬品やサンプルなどを保管するための冷蔵庫なのだが、長谷川先生はいつもここに、おやつを入れておくのである。

 タマキは冷蔵庫から目当てのものを取りだしてくると、オレのまえに置く。
 駅前にあるドーナツ店の、カラフルな箱だ。

「はい、持ってきたよ」
「おう、サンキュー」

 オレは「よいしょっ!」と顔を上げて箱を開けると、中にはチョコレートや粉砂糖のトッピングでいろどられたドーナツが、三つ入っていた。

「どれがいいんだ?」
「あたし、このチョコがかかってるのがほしい。いいかな?」
「オッケー、じゃあそれを持ってっていいよ。残りはオレのな」
「うん。ありがと」

 タマキとドーナツの交渉を終える。
 もっとも、オレに好き嫌いはほとんどないので、どれでもいい。
 だからいつも、タマキに好きなのを選ばせていた。

「先生。いただきます」「いただきまーす」
「はい、どうぞ」

 長谷川先生は、甘いものが苦手らしい。
 いつも、アルコールランプとフラスコでいれたコーヒー――サイフォン式を、ミルクも砂糖も入れずに飲んでいる。
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